実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。実は中間テストや模試が重なって時間が取れませんでした。ちょくちょくそういうことがあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

4.5巻分は、原作をがっつり書くつもりはないです。
では、どうぞ。


第4.5巻
ep.36


 一癖も二癖もあった、高度育成高等学校一学年におけるバカンス。という名目の特別試験。

 無人島試験も船上試験も、ほどほどに楽しみつつ過ごすことができた。

 もちろん、俺以上に満喫したやつがほとんどだろう。豪華客船なんて、目一杯楽しもうと思えばあの滞在期間で手に負えるようなものじゃない。

 だが、旅行から帰ってきた後の虚無感や喪失感は、程度の大小はあれど生徒全員に訪れる。寮に戻ってきて、ベッドにダイブした瞬間のあのなんとも言えない空気。どうせならあの映画とか観ときゃよかったなーとか思っていた。だが、後悔先に立たず。航海だけに。フヘッ。

 結局その夜は猛烈な疲労感から、電気を消すのも忘れて眠ってしまった。

 俺が起きたのは翌日の午後3時。おやつの時間。

 だが、四月に藤野のアドバイスによって食費をゼロに押さえつけて以降、俺はお菓子を買っていない。もちろん糖分は必要なので、どうしても食いたくなった時は自分で作っている。

 作っているといってもそんな大げさなものではない。無料コーナーで作ることの出来る範囲だ。ホットケーキミックスにはお世話になっている。

 少し前にケーキを作ったこともある。美味いことは美味いんだが、手間の割にはって感じの上、保存も効かないので一度作ったきりだ。

 クッキーはいい。保存も効くし、ケーキと同じで少し手間はかかるがいい糖分摂取になる。ここで紅茶でもあったら最高なんだが、あいにく紅茶の茶葉は無料コーナーに売っていない。

 俺はDクラスの中では大量のポイントを所持している。実際もう無料のもので我慢する必要はほぼない。だが、金銭感覚を狂わせてはいけないし、せっかく今まで抑えてきたんだ。ここで投げ出したら負けだ。

 ちなみに余談だが、投げ出すのが得意な人は柔道の世界に入るといい。投げるが勝ち。柔道家に怒られそうなのでこれ以上はやめておこう……

 

 俺はこのバカンスで、大きく分けて3つのものを手に入れた。

 まずは大量のポイント。

 Aクラスのやつから35万。船上試験で、優待者を2人的中させたことでまず100万。藤野への協力の報酬として150万の、合計285万ポイント。星之宮先生に5万譲渡したので、俺がバカンスで手に入れたポイントは合わせて280万ポイントだ。これはかなりでかい。

 次に、平田の信頼と、それを介してのクラスとのパイプ。

 クラスの情報は出来る限り握っておきたい。もちろん俺がいってるのは個人情報とかではなく、ポイント変動が考えられる試験での重要事項。先の船上試験での優待者なんて、その最たる例だ。

 船上試験での2日目の朝、俺は2件のメールを受け取った。そのうち一つは堀北から。

 そしてもう一つは、平田からのものだった。

 平田のメールの内容は、優待者に関する情報。俺はあの時に初めて、軽井沢が優待者であることを知った。

 そして3つ目が、藤野との協力関係だ。

 これでAクラスの現状をいち早く正確に知ることができる。もちろん安易にクラスに情報を共有したりはしないが、一之瀬とは別の他クラスとの協力は大きいだろう。

 

 これからどう動いていくか。龍園は。綾小路は。堀北は。櫛田は。平田は。藤野は。俺は。

 

 まあ、今それを考えたところで答えなんて出るはずないか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 入学直後に気にしていた「凡ミス」のクセだが、治ったかと思っていたらそうでもないらしかった。

 生徒会長のありがたいご指摘を受けてから、出来るだけ無くそうと努力はしているが、まだまだ足りなかったようである。

 もしも治っていたら、教室に忘れてきた参考書を取りにわざわざ制服に着替えて校舎内を歩く必要もなかったかもしれないのに。

 外出は暑いし非常にめんどくさい。空調が効いている校舎内はいいが、そこから寮までの道のりは地獄だ。やっぱ自宅とエアコン最高。金さえあれば引きニートでいいわ俺。嘘です。

 すでに時刻は4時半を回っているが、外の気温はまだまだ高い。校舎を出て、寮まで歩いていかなければならないことを考えると少し憂鬱になるが、そうも言っていられない。

 用が済んだのならさっさと帰るのだ。あのパラダイス(自宅)に……っ!!

 しかし、世の中そう上手くいかないのが常である。

 

「久しぶりだな」

 

 声のする方に顔を向けると、夏用の制服を着けた我が校の生徒会長、堀北学と、よく行動を共にしている橘書記が立っていた。

 

「はあ……どうも」

「うわ、失礼な反応ですね」

 

 いけね、無意識のうちにため息が。

 

「態度には気をつけた方がいいですよ?ここにいるお方をどなただと考えてます?」

 

 そりゃ、この学校で恐ろしく強い権力を持つ生徒会長様だろ。

 そして俺が、その生徒会長様に無謀にも喧嘩を売った馬鹿な1年坊主。ただの噛ませ役だろこれ。

 

「速野。今から時間があれば、付き合ってもらいたいんだがな」

「か、会長?」

「なんですか急に。無理だって言ったらどうするんですか」

「えぇ、その反応!?」

 

 俺に話をしようとした会長と、二つ返事で承諾しなかった俺のダブルで驚いている橘書記。

 

「お前が暇な時で構わん。学校が始まってからでもな」

 

 意外な返事が返ってきた。そこまでして俺に話さないといけないことなんだろうか。

 

「……まあ、忘れ物とりにきてるだけで、暇なんで今でいいですけど。どうしたんですか?そこまでして俺に通したい話があるなんて思えないんですけど」

「立ち話でいいのか。嫌ならば空き教室を用意しても構わない」

「いいですよ別に立ち話で」

 

 わざわざ移動する方が面倒だ。会長はそうか、と答えると、話を始める。

 

「生徒会に特別試験の結果の報告が上がってきた。大変だったか」

「……前から思ってましたけど、なんでそう簡単に結果の報告が上がってくるんですか」

「決まってるじゃないですか。会長だからこそですよ!」

 

 言いながら橘書記は、尊敬の目で会長を見る。

 

「安心しろ。個人の具体的な活躍までは不明だ。だが、情報とは時に漏れるもの。無人島試験では鳴りを潜めていたようだが、船上試験でお前のグループが奇妙な結果を残したことは聞いている」

 

 いやいや、ダダ漏れじゃん。

 

「奇妙な結果、ですか?俺は結果3だとしか聞いてないですけど。それにもしそれが奇妙な結果なら、妹さんが何かやったんじゃないですかね。俺と同じグループだったし」

「無人島試験に関しても、なぜか堀北鈴音の名前が上がっていた。他クラスを出し抜いた、とな。だが無人島にしろ船上にしろ、あいつはそんなことをする奴でも、出来る奴でもない。俺はその件、お前が関わっていたと見ている。特に船上試験の方はな。あの結果は、特殊グループがどれか、そして優待者が誰かを全て見抜いた上で自クラスのクラスポイントのために動かず、他クラスとつながっていたという事実がなければ成り立たない」

 

 結果の詳細バレバレだ。だがバレていたのなら俺が疑われても仕方ないかもしれない。

 堀北なら、優待者を把握した瞬間にタイミングを見計らって全てのグループで裏切らせるだろう。俺のようなことは絶対にしない。もちろんそうするのが普通だし、正解だ。

 

「でも、綾小路も関わってそうじゃないですか?堀北とは協力関係みたいですし」

 

 自分でも白々しいとは思うが、この生徒会長は綾小路のことをどう捉えているのか単純に気になった。

 

「無人島試験の最後にDクラスのリーダーの名前が綾小路に変わっていたことも、あいつが所属していたグループKで優待者当てのミスを誘ったことも把握している。だがお前のやったことにあいつは関わっていないだろう」

 

 その読みまで完璧か。今回俺が何をしたかを知っているのは、藤野とその派閥の一部の奴ら、そしてこの会長と、隣で話を聞いている橘書記だけ。Dクラスは誰1人として把握していないはずだ。

 

「もう俺が何かやったのは確定なんですね……でも、なんで俺や綾小路をそこまで気にかけるんですか?学力の高さなら幸村も、それこそ堀北も優秀じゃないですか。Bクラスの一之瀬やAクラスの葛城だって」

「一つ勘違いをしているようだが、俺はDクラスの人間を愚かだと思ったことはない。この学校は優秀な人間から順にAクラスから振り分けているというわけではないからな」

「あ、あの会長……余計なお世話かもしれませんが、少し話しすぎでは?」

「問題ない。こいつは当然それを理解している」

 

 生徒の振り分け方に関しては、前々から疑問に思っていたことだ。Aクラスにいるには明らかに実力不足だろうという人間もいれば、なんでこいつがAクラスじゃないんだ、という人間もいる。

 だが、全体的な実力の傾向としてAクラスからDクラスにかけてどんどん下がっていくのは確かだ。それは初めてのポイント発表の時にすでに明らかになっている。

 いくつか振り分け方の可能性も考えた。だが、現時点では確定的な要素は皆無だ。

 

「……何はともあれ、平穏に学生生活を送りたいってやつもいますし、ほどほどにしてやってくれますか」

 

 今の俺のセリフを聞いたら、綾小路は喜びのあまり泣き出すだろう。アニメみたいに涙で虹ができるレベル。

 その意図を知ってか知らずか、会長はまたとんでもないことを言い出した。

 

「速野。以前にも言ったが、生徒会に入る気はないか?」

 

 今の思いつきの発言ではない。恐らく、俺を呼び止めたのはこれを言うためだろう。

 

「……まだ埋まってない席があるんですか?」

「か、会長、1年生からは先日1人取りましたし、2年生からも新しく受け入れました。それで終わりでは?」

「知っているだろう橘。まだ埋まっていない役職があることを」

「か、会長!?」

 

 驚愕の表情を見せる橘書記。どの席が埋まっていないというのだろう。

 

「副会長、そして会計。お前が望むのなら、俺の権限で好きな席に就けてやる」

「え、えぇ!?」

「いやです。そんな重責負いたくないですし」

「しかも断ってるしぃ!?」

 

 この橘という生徒はいわゆる天然という人種なんだろうか。反応がいちいち大げさというか。

 まあそれはいいとして、これは少し変だ。

 一般的に生徒会というのは、自分で学校を引っ張っていきたいという意思と自信、そしてその実力を兼ね備えた人間が集まる場所。入会の形式は、自分で志願する自己推薦の場合がほとんどだ。しかも、それでも落ちることがある。そういえば、Aクラスの葛城は落ちたと聞いた。

 だが、俺が今やられているのはスカウト。ましてや、俺はその誘いを一度断っている。そんな人間にわざわざ頼み込む理由があるのか。

 

「来年以降、この学校の制度は大きく変わるだろう。それも望まない方向に。その時のストッパーとしての派閥を作っておかなければならない。すでに遅すぎるくらいだがな」

「あの、それって南雲くんが生徒会長になった場合の話ですよね?……彼が悪い学校づくりをするとは思えませんが……」

 

 南雲。初めて聞く名前だ。上級生か。来年生徒会長になる有力候補なら、高2である可能性が高い。

 そして今、俺はどうして綾小路があの特別試験で大胆に動いたのか、その疑問の答えの一つの可能性にたどり着いた。

 

「さっきも言った通りそんな重責を負うつもりはないんで。生徒会に入ってどんなメリットがあるかは知りませんけど、俺が生徒会の人間なら、俺みたいな生徒を相手にしたくないです」

 

 これは本当に心からの本音だ。

 俺は人を引っ張っていくことや、この学校をよくしていくことには微塵の興味もない。だから判断材料はリスクリターンだが、仕事内容やメリットデメリットが明らかになっていない以上、現時点で判断を下すことはできない。だが、俺は綾小路とは違って事なかれ主義ってわけでもない。これに関しては状況に応じて手を打っていく必要があるな。

 

「ふっ、その気持ちは分からなくもないな」

「だったら交渉やめろよ……」

「ああ、もう無理には誘わない。だが気が変わったら、いつでも生徒会室に来るといい」

 

 そんな言葉を残して、生徒会の2人は立ち去っていった。橘書記は不満顔だったが、特に何もいうことなく歩いていく。

 

 もし会長が特別試験で俺のやったことを分かっているのなら、俺の考え方も大体理解しているはずだ。その上で俺に頼み込むってことは、会長もああ見えて切羽詰まってるってことなんだろう。

 あと8ヶ月ほどで、あの人もこの学校からいなくなる。実力至上主義の学校の生徒の長にまで上り詰めた男は、果たして、進学先、就職先、自らの将来に何を選択するんだろうか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 堀北会長と話し込んでいたせいで、寮に戻るのは5時を回った頃になってしまった。

 寮のロビーにたどり着き、そのままエレベーターホールに向かう……予定だったのだが、横から声をかけられる。

 

「速野」

 

 声のする方を見ると、そこにはロビーに設置されているソファに腰掛けている綾小路、そして葛城がいた。

 

「なんだ。ってか随分と珍しい組み合わせだな」

 

 綾小路と葛城の接点といえば、船上試験のときくらいだ。綾小路は数度平田のグループに行っていたようだから、その時に顔を合わせたんだろう。

 

「少し知恵を貸してくれ」

「知恵?お前に?」

「それもそうだが、今回は葛城にだな」

 

 聞き返した意図は少し違っていたが、まあ葛城の前だし仕方ないか。

 

「なんだ。話は聞く」

 

 そう答えて、葛城が座っているソファまで向かった。

 

「いいのか?つまらないことだぞ」

「別にいいさ。無人島でのトウモロコシのお礼とでも思ってくれ」

「……感謝する」

 

 俺と協力関係にある藤野が失脚させようとしている人間に手を貸すのもおかしなことだとは思うが。まあ別にいいだろう。藤野もこの状況なら確実に手伝っていたはずだ。葛城のことを憎んでいるわけじゃないだろうしな。

 話を聞いてみると、この学校の敷地外にいる双子の妹に誕生日プレゼントを渡してやりたいとのこと。そのため生徒会に相談したが、やはりダメだったらしい。

 

「じゃあ2人とも制服なのは生徒会に立ち寄ったからか?」

「そうだ。そういえばお前も制服だな」

「俺は忘れ物を取りに行っただけだ」

 

 答えながら、教室から取ってきた参考書を指し示す。こいつらも校舎にいたのか。どこかで入れ違いになったんだな。

 

「ふーん……校則で禁止されてることはポイントでも無理、か」

「ああ。そう言って突っぱねられてしまった」

「だったら会長本人に賄賂払うのが手っ取り早かったんじゃないか?生徒会の権限は計り知れないし、プレゼント送るのも簡単にできそうだ」

 

 俺の発言に、葛城は少し驚いた様子を見せた。

 

「……なんかまずいこと言ったか?」

「いや、そうじゃない。新たな視点の意見を聞かせてもらった」

 

 単に予想外だっただけか。

 とはいえ、もし今の方法を思いついたとしても、葛城が上級生をポイントで雇うみたいなことをするかといえば、それは少し考えづらかった。だが、常に冷静沈着で慎重な葛城が危険を冒してまで送ろうとしているところをみると、何か特別な思い入れがあるんだろう。もしかしたらその方法を取っていたかもしれない。当然綾小路はその可能性に気づいていたはず。なのに言わなかったのは、葛城に無用な警戒をさせるのを避けるためか。

 だが協力すると言った以上、一応真剣に考えてみる。今言った以外の方法を。

 十数秒たった頃、綾小路が言った。

 

「とりあえず、俺の部屋に来るか?何か思いついたとしても、ここで話せる内容じゃないだろ」

「……それもそうだな。お邪魔する」

 

 葛城も立ち上がり、続いて俺も立って、エレベーターに乗り込んだ。

 綾小路の部屋に入り、地べたに座り込む。俺と同じくほぼ何もない、入寮したての頃のような部屋だ。

 

「何か思いついたか」

 

 部屋に入って数分が経った頃、綾小路が話しかけて来る。お前は多分思いついてるだろうに、性格の悪いやつだ。

 

「さあ……でも、肝は敷地外にプレゼントを運び出すことだろ」

「それはそうだが、それが出来たら苦労はしていない」

 

 そりゃそうだ。

 

「じゃあ、敷地を出入りできる人物に頼むしかないな」

「出入りできる人物?まさか従業員ではあるまいな。協力するどころか、校則違反をしようとしたこちらを訴えて来るだろう」

 

 従業員、と聞いて、俺はある人を思い出した。

 従業員は普段、生徒のサポートをすると同時に監視の役割も果たしている。もちろん正式ではないだろうが、もしも自分たちが校則違反をしたら、葛城の言う通り学校に報告がいくと見て間違いない。

 だが、時として従業員はとても有利に働く。

 まあ、今回そこまでする必要はないし、関係ない話だ。

 

「まあ従業員もそうだけど、たしかにそれは厳しいだろうな。ほかに誰かいないか?」

 

 従業員ではなくて、敷地内を出入りする機会がある人物。

 

「部活の対外試合、か」

 

 葛城は一つの答えにたどり着いた。

 

「なるほど。従業員よりは可能性があるかもしれないな」

「そうだな」

「だが、学校側もその可能性は想定しているはずだ。荷物検査が行われるだろう。危険が高いことに変わりはない」

「そうかもしれないが、身体検査みたいな真似まではされないと思うぞ」

「それはそうだが……当てはあるのか?」

 

 その質問に、俺は綾小路の方を向く。

 

「ある。だが、説得はあんたが自分でやる必要があるけどな」

「それは承知している」

 

 葛城のその言葉に頷くと、綾小路は何者かに電話をかけた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 綾小路が電話をかけた相手は須藤。そして十分ほどの交渉の結果、須藤は大役を引き受けてくれた。もちろん、葛城からの報酬付きだ。

 少し意外というか、驚いたのは、葛城に病弱な双子の妹がいて、プレゼントを贈る相手はその妹だったと言うこと。須藤もその事実を聞かされて断りにくかったようだ。

 綾小路の部屋を出、エレベーターを使って自室に戻る俺と葛城は並んで歩いていた。

 

「色々世話になってしまったな」

「感謝するなら須藤にしろよ。さっきも言ったが、トウモロコシの礼みたいなものだ」

 

 あの時採集を断念してくれたのには非常に助かった。

 

「一つ聞いてもいいか」

 

 葛城は、少し改まった様子で俺に聞く。

 

「なんだ。答えられる範囲で答える」

「船上試験は覚えているな」

 

 少しギクリとしたが、それを悟られないように振る舞う。

 

「そりゃ、忘れてるやつはいないだろうけど」

「試験が終了した翌朝、俺の部屋のドアにAクラスで優待者に選ばれていた者全員の名前のリストが貼られていた。どうやら、BからDクラスにも同様のことが起こっていたらしい」

 

 そういえば、平田がそんなことを言ってた気がする。

 

「いいのか、そんな情報、違うクラスの俺に共有しても」

「全クラスにやられていたことだ。いずれ明らかになることであれば問題はないだろう。それにただ話したわけじゃない。他クラスがこのことをどう捉えているのか、意見を聞く機会が欲しかったのでな」

 

 意見、といっても、俺がここで本当に思っていることを話すのかどうかは分からないことは、葛城も承知の上のはずだ。葛城の狙いは恐らく、俺がどんな発言をするのかを知ることにある。

 

「……とりあえず、現時点ではラッキーだ、としか言えないな。それってつまり全クラスの優待者を導き出した奴がいるってことだろ?少なくとも龍園は見抜いてた」

 

 龍園の名前を出すと、葛城は少しばつが悪そうな表情を浮かべた。まあ、無人島から船上試験、Aクラスは龍園にしてやられたと言っても過言ではないからな。

 

「もし優待者が全員当てられていたら、って想像するだけで恐ろしいな。そのクラスの躍進は相当なものになるだろうし」

「そうだな。ありがとう。貴重な意見を聞かせてもらった」

「別に」

 

 貴重な意見なんかではない。俺が言ったのは世間一般のありふれた意見。誰が言ってもおかしくないようなことだ。

 

 社会で生きていくためにはああいう社交辞令も必要になるのか、とか色々考えながら、俺は葛城と別れて自室に戻った。




ちょっと終わり方が中途半端になってしまいました。

感想、評価お待ちしております。

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