実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
では、どうぞ。
「まさか……見破られてない、わよね……?」
「南の行動で見破られとは考えにくい。だが、正直自信はない」
グループIの試験終了のメールを受け取った。Dクラス以外の誰かが裏切ったということになる。
「……あなたまさか」
「……前科があるから疑われるのは仕方ないけどな。俺じゃないとだけ言っておくぞ」
優待者の情報を敵に漏らしたりはしない。前回のように優待者入れ替えも通用しない。綾小路や一之瀬が取ったのと同じ方法で優待者を誤認させることもできたが、グループIではそれも行われなかった。
なら、だれがやったのか。そして俺が裏切っていたとしたら、どこのクラスにDクラスを売ったのか。堀北の頭の中はそれでいっぱいだろう。自分は再び失敗してしまったのか、と自責の念に駆られているのかもしれない。
「おう堀北。どうしたんだ?浮かない顔してんな」
そのなんともバッドなタイミングで現れたのは、ここ最近姿を見かけていなかった須藤だ。
「何?」
「いや、どこ行くのかと思ってよ」
「あなたが行く必要はない場所よ。消えてくれるかしら?」
いつもより言葉が鋭利なのは、あの裏切りメールのせいだろう。
だが、堀北に対し熱い恋心を燃やす須藤はそれを飲みくだし、あまつさえついて行くようだった。堀北は諦めに近いため息をつき、足を進める。
時刻は午後11時5分前。俺と堀北、そして途中から合流した須藤の3人は、外にあるカフェにきた。そこにはすでに綾小路、平田、軽井沢の3人が腰を下ろしている。
「……この集まりを見ると、少しため息が出るわね」
「やっと来たな。てか、どうしたんだ?」
「気にしたら負けよ。背後霊というか、私の影みたいなものよ」
「そりゃないぜ堀北。試験中はピリピリしてるだろうからって気にして話しかけなかったんだぞ?」
残念ながら須藤、今の方がピリピリしてるぞ。
「もう一度言うけれど、邪魔だから消えて」
「そう言うなって。俺なりに全力で試験に取り組んだんだからよ」
「で、成果は残せたの?」
「……あと少しまで行ったんだけどよ。一足先に誰かがメール送っちまったらしくてな」
誰でもわかる嘘をつく須藤に呆れ、堀北は須藤の相手を諦めたようだ。俺としてももう少しまともな言い訳を考えてほしかったものだ。
俺も椅子を引っ張って腰を下ろし、須藤も隣のテーブルから椅子を調達してそれに腰掛けた。どうやら話を聞くつもりらしかった。
「ねえ、さっきの立て続けのメール……」
「うん、僕もそれが引っかかってるんだ」
先程きた、延べ5通ものメールは全て、試験終了を告げるものだった。裏切りを受けたのは、それぞれグループE、G、H、I、M。グループIの通知だけ少し先走っていたが、ほぼ同時だった。
「グループGは吉野、グループIは南が優待者だったよな」
「ええ。もしかしたら見破られてしまったのかもしれないわ……もし私たちのクラスの結果が芳しくなければ、私にも責任の一端があるわ。ごめんなさい」
そう言って、素直に謝る堀北。以前は考えられない光景だが、以前、中間テストの際に須藤に謝ってから、堀北の中で何かが変わってきているんだろう。
「そんなに自分を責めないで堀北さん。もし結果が悪くても誰のせいでもない」
平田らしく、堀北に優しい声をかける。
「なあ平田。残りの3つのメール、Dクラスの誰かが送ったって可能性は?」
「僕もそれを危惧してみんなに連絡を取ったんだ。でも、男子の中からメールを送ったと思われる人は出てこなかったよ」
まあ、ある程度信用していいだろう。
「山内は大丈夫だったのか」
「あ、うん。山内くんはグループEだったんだけど、メールを送ろうとはしてたみたいなんだ。でも、最後まで悩んで、最終的に送らなかったようだよ」
「どこの誰だかは知らないけれど、先に裏切ってくれたのは好都合ね」
綾小路がなぜ山内の名前を出したのかは知らないが、送っていたらほぼ間違いなく外していただろうな。
「女子の方も私が確認した。誰も送ってない」
軽井沢はそう力強く言い切る。
「……そう」
こういったクラスのまとめ役は堀北にはできない。軽井沢の長所、そして自分の短所を自覚しているところだろう。
「それにしても今回の試験、あのアルファベットの意味はなんだったんだろう」
平田は、まだ解けていない謎に疑問を呈する。
「結局、特殊グループがどこなのかも分からないままだね」
「あのアルファベットはかなり徹底されていたようだし、意味のないブラフという線もなさそうだけれど……分からないわ」
堀北にも解読は不可能だったらしい。綾小路にも目配せするが、首を振られた。こいつにも解けていない。この分だと、誰かが解いて公開するまで真実は闇の中だな。
「それよりも気になるのは、あの5通のメールがほぼ同時に届いたってことだね」
「そうね。最後に裏切る時間が30分しかないとしても、あの短時間に集中するのは不自然よ」
「ただの偶然じゃねえのか?」
須藤はそう思っているらしい。
「高円寺くんが裏切りのメールを送ったとき、送受信の間の時間がほぼなかった。ってことは……」
「1つのクラスが示し合わせて送ったのかもしれないわね。自分たちが送ったと誇示するために」
平田、堀北の華麗な言葉のパス回し。
「そして、そんなことをわざわざするのは1人だけ……」
堀北がシュートを放つ。
「やっぱりここにいたのか」
そして7人目の来訪者、龍園が現れた。
「龍園……!!」
須藤が威嚇するようにそう叫ぶが、龍園は見向きもせず、堀北の隣に椅子を引っ張って座った。
「裏切りを食らったお前と結果を楽しもうと思ってな」
「何を白々しいことを。あなたの指示でしょう?」
「はっ、にしても鈴音、お前にしちゃ大所帯だな。どういう風の吹きまわしだ?」
「そうね。あなたにしつこく付きまとわれて困っている、と相談していたところよ」
「堀北につきまとってんじゃねえぞ!」
「あなたは黙ってて」
「お……おう」
吠える須藤を堀北が制止する。
こんな大所帯となったのは恐らく、綾小路の策略。人数を多くして龍園の目を誤魔化すためのものだろう。
「あなたの方は随分と余裕そうね。手応えはあったのかしら」
「クク、そうでなきゃわざわざ出向いたりなんかしねえよ。ちょうど前回と同じ連中もいる。一匹虫もついてるがな」
その虫ってのは俺のことか。
「はっ、そういや前回、あんだけ自信満々だったくせに負けてたよなお前。今思い出してもわらけてくるぜ」
須藤は前回のことを思い出しながら龍園を笑い飛ばす。堀北もそれが分かっているからか、どこか龍園を見下したような態度を取る。ただ、絶対の自信はなさそうだった。
「おいおい虚勢張るなよ鈴音。あとで後悔するのはお前だぜ?俺は自分のグループの優待者も、お前らのグループの優待者も分かってたんだからな」
「そう。それは良かったわね」
「だが安心しろ。俺の慈悲深さを知れば、感動で股を濡らすだろうな」
なんとも下品な言葉を使い、堀北を挑発する龍園。
「……なら聞かせてもらおうじゃない。あなたが見抜いた優待者」
当然、堀北は答えられるはずがないと思って聞いたはずだ。だが龍園は、堀北のその言葉を待っていたかのように不気味に笑う。
そして射抜くような視線でこちらを見て、言った。
「櫛田。そして南」
「……え?」
この場にいる者全員に衝撃が走った。
「ど、どうして……?それを見抜いていたのなら、あなたはグループKの試験も終わらせていたはずよ。試験終了までそれをしなかったってことは、少なくともグループKの優待者は、試験が終わってから知った。違う?」
「悪いが俺は最終日の始めのディスカッションの時点で気づいてたぜ。こいつが必死にバレないようにしてんのが面白くってよ。俺に見抜かれてるとも気づかずにな」
龍園は平田を見て嘲笑するように言う。
「鈴音がその場にいたらどんな顔すんのか想像してたら、時間が過ぎちまったってわけだ」
嘘か本当か分からない龍園の言葉。だが、現に龍園は優待者を的中させている。全員の表情に動揺が走っていた。
「どうやって……あなた、何をしたの……?」
「クク、そいつはすぐに分かるさ。まあ安心しろ。一番悲惨なのはAクラスだろうからな」
そして午後11時を回り、生徒全員にメールで結果が通知される。
グループA…結果4とする
グループB…結果2とする
グループC…結果2とする
グループD…結果3とする
グループE…結果3とする
グループF…結果2とする
グループG…結果3とする
グループH…結果3とする
グループI…結果3とする
グループJ…結果2とする
グループK…結果1とする
グループL…結果4とする
グループM…結果3とする
各クラスポイント増減
Aクラス…マイナス150cl プラス300万pr
Bクラス…マイナス50cl プラス250万pr
Cクラス…プラス100cl プラス550万pr
Dクラス…プラス100cl プラス400万pr
「……は?」
「……どういうことだ?」
Aクラスが最下位。そして、CクラスとDクラスが同率トップとなる、龍園含め、誰もが予想できなかった結果となった。なぜDクラスがCクラスと並ぶことができたのか。
そんな時、龍園の携帯が鳴った。どうやらメールらしい。
「……クク、面白え」
そう呟き、不気味に笑う。
そして携帯を閉じ、堀北の方向を見て言った。
「……何をした鈴音?」
「それはこっちのセリフよ……一体何が起こってるの?」
Dクラスサイドはこの結果に驚きを隠せない様子だ。
「……相変わらずムカつかせてくれるじゃねえか」
龍園としてもこの結果は予定外だったかもしれないが、先ほどとは違うタイプの強い視線を送ってくる。どこか好戦的ですらあった。
「だが、よかったなあ。俺に情報が漏れたグループKはみんな仲良く結果1だ」
だがもちろん、挑発も忘れていない。正直、俺にとって一番の謎はそこだった。
この試験、しかも龍園のグループで、この結果に導くことが可能なのか。
「俺は今回、厳正なる調節、優待者の法則を見つけ出し、全ての優待者を把握した上でAクラスだけを狙い撃ちしたのさ。だが、もう容赦しねえ。次の標的はお前だ、鈴音。身も心もズタズタに引き裂き、絶望を味わわせてやるよ。2学期を楽しみにしとくことだな」
そう吐き捨て、龍園は立ち去った。
無人島のこともあり、今の龍園は相当フラストレーションが溜まっているだろう。
「龍園くんが情報を集めて優待者を見破ったまでは理解できる。でも、グループKの結果はどういうことなんだろう?」
平田もやはりそこが気になるようだ。だが、その言葉に続く者は誰もいない。正解が思い浮かばないのだ。
可能性があるとすれば、龍園が試験終了間際に櫛田が優待者であることを伝えたって線だ。龍園の発言なんて誰も信用しないから、裏切りの時間では投票できないが、マイナスがなくなる正規の投票時間になれば、ノーリスクで実行できる。
だが、全員が全員そういう発想になるだろうか。
「堀北。……もしかしたら俺たちはこれから、窮地に立たされるのかもしれないな」
「窮地って、龍園くんにかしら?彼が上手く立ち回ったのは事実だけれど、これからも苦戦するかしら。それに、事実あなたのグループは勝っているわ。違う?」
「……そうだな。俺の考え過ぎかもしれない。気にしないでくれ」
綾小路はこの試験結果に、特にグループKが出した結果1という戦果に、何か危ういものを感じているようだ。
火のないところに煙は立たないというが、やっぱりそうだ。俺も危うい何かを感じていないといえば嘘になる。
この流れは一体どこから来ているのか。まあ、それはいずれ明らかになることだろう。
まだ、打てる手はある。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これで大丈夫なんだよね……?」
目の前の少女は不安そうに呟く。
「ああ。俺らが結びついてるってことはバレない」
そう答えた。
すでに日付は変わっている。2時間ほど前まで、ここにはDクラスの面々がいた。
今は俺と藤野の2人だけ。最初からここで落ち合う予定だった。
「じゃあ、私たちは150万ポイント速野くんに譲渡すればいいんだよね?」
「ああ。頼む」
この試験中、すでに俺と藤野の協力関係は動いていた。
龍園は優待者の法則を見つけ出したらしいが、それを解き明かしたのはあいつだけではない。俺も法則の解読に挑み、2日目終了時点でほぼほぼ確信を得ていた。
「Dクラスはあんな結果で良かったの?もし全部を共有してたら、Dクラスは今頃大躍進だったのに……」
目の前のポイントを追い求めるなら、確かに藤野の言う選択肢を取るべきだった。
「少し上から目線みたいになるけどな……まだDクラスは、追われる立場になるのは早すぎると思ったからだ。それに今ポイントが増えたら、気が抜けて、堕落していく可能性もある。勝負をかけるなら、もう少し雰囲気が変わってからにしたほうがいい」
そういう意味で、今回の特別試験でDクラスが得たクラスポイント325ポイントは、ラインギリギリだったと言える。これなら、まだ上を目指すモチベーションは維持されるだろう。
今むやみにポイントを増やして気が抜け、クラスがマイナス査定を受けるくらいなら、この結果を別の方向から利用するのが最も有効だ。
「ねえ……その、出来れば教えてくれないかな?優待者の法則」
「……やっぱ気になるか」
「うん。すっごく」
俺は藤野の裏切りの可能性も危惧し、その法則の詳細までは伝えていなかった。あくまでも伝えるべきことだけを伝えた。
「今回の特別試験、優待者の法則に辿り着くために学校側が出したヒントは大きく分けて3つある。1つは、お前も多分気づいたと思うが、特別試験の説明の時に渡された紙に印刷された、不自然なアルファベットの鏡文字だ」
「あ、私はAqだったよ」
やっぱり、そこら辺の洞察力は備えているか。
「そして2つ目は、グループの構成。13グループのうち、1グループだけ性質が違う、つまり仲間はずれがあるってことだ」
「13ってことは数字はちょっと不思議だったんだよねえ……12の方が分けやすいのに、って」
そこは恐らく誰もが思ったことだろう。だがそれは学校側からのヒントだった。
「そして3つ目は、グループ内での連絡先交換とプロフィール記入の強制だ」
「あ、あれもヒントだったの?」
少し驚いた表情をしながら言う藤野の言葉に頷く。
「俺がまず考えたのは、13のうちの1つが仲間はずれっていうところからだった」
言いながら、俺は胸ポケットからメモを取り出す。
13、そして1つの仲間ハズレという条件だけで思いついたのは4つ。まず最初に、レオナルド・ダ・ヴィンチの不朽の名作、『最後の晩餐』。作品には、イエス・キリスト、そして12人の弟子の合計13人が描かれている。そして12人の弟子の中には、有名な裏切り者であるユダもいる。
イエス・キリストは全員を率いていた。それをこの試験に当てはめると、クラスのリーダー格が揃っていたグループKだ。そして裏切り者のユダのポジションは、13個のグループの中で唯一性質が違う特殊グループ。ここまでの辻褄は合っていて、行けるか、と思ったが、アルファベットをどのように当てはめても、作品の中の13人には結びつかなかった。俺はこの時点で『最後の晩餐』説を捨てた。
次に思いついたのがトランプ。特殊グループがジョーカーだと仮定できるかと思ったが、ジョーカーを入れてしまうとトランプは14種類になってしまう。『トランプ』説もない。
そして次が干支。もちろん、干支は12個だ。だが、絵本の『十二支のおはなし』という作品を知っているだろうか。あれに書かれているエピソードの中に、猫は鼠に騙され、十二支の仲間入りを果たすことができなかったとある。つまり、このエピソードの猫にあたるのが、特殊グループ。ここまでは良かったんだが、これだとやはりアルファベットの意味は解読できなかった。十二支の動物全てを英語にした頭文字でもなかったし、ローマ字読みの頭文字でもなかった。
そして最後が、星座。これは、無意識のうちに一之瀬がくれたヒントが答えにつながった。
星座といえば有名なのは、黄道十二星座。だが、国際宇宙ステーションの公式発表では、黄道上にある星座は13個ある。十二星座に弾かれてしまったのは『蛇遣い座』という星座だ。これで、13と1つの仲間はずれはクリア。あの時一之瀬が言った「龍園はまるで『蛇』だ」という言葉でピンときたのだ。
星座関連でいうと、よく聞くのは星座占い。自分の誕生日で運勢を占うというものだ。ここで思い出すのは、グループ内で連絡先を交換する際にはプロフィールの記入が義務付けられていたこと。プロフィールには、学籍番号、性別、生年月日、クラス、血液型が載っている。これで、連絡先交換とプロフィール記入の強制はクリアだ。
最後にアルファベット。これらは全て星座の頭文字だった。例えばグループCの紙に印刷されていたGeは、双子座を表すGeminiの頭文字。グループLのAqは、水瓶座を表すAquarius。こんな感じで当てはめていくと、全て成立した。しかも、グループ名のアルファベット順に4月生まれの誕生日から並んでいたことから、グループDのCaは蟹座のCancer、グループKのCaは山羊座にCapricornだということがわかる。グループの優待者に指定されているのは、それぞれのグループの星座と、その人の誕生日の星座が一致している人だ。ただし、ここでいう誕生日の星座は黄道十三星座に対応させたものであることが鍵だ。
特殊グループは、『蛇遣い座』にあたるグループ。蛇遣い座のスペリングは、Ophiuchus。頭文字はOp。
そう。特殊グループに指定されていたのはOpと紙に書かれていたグループI、つまり俺たちだったのだ。
ここまで完璧に辻褄が合い、俺は優待者の法則を看破した。事実、櫛田、南、吉野はそれに完璧に合致した。あとで優待者であることが分かった軽井沢もしっかり合致。
ひとまずここまでを説明し終わる。
「すごい……完璧に解いてたんだね……でも、なんでそこまで分かってて行動に移さなかったの?」
「100パーセントの確信を持つためには、あともう2人か3人の材料が欲しかったんだ。ここまでは俺の勝手な予測なわけだし、外れてるってこともあり得るからな。そうなると取り返しがつかないほどの大ダメージになる」
「じゃあ、あの時に確認したのは、速野くんが答えに自信を持つためでもあったんだね」
「ああ」
俺は3日目の夜にも藤野と会い、話をした。そこで俺は、俺が予測していた法則に則って求めたAクラス所属の優待者を全て藤野に伝えた。そこで全て合致していたことで、俺は確信を持って行動することができたのだ。
ちなみに、藤野たちが派閥を作っていることは、その派閥に所属している人間以外、もちろん、葛城も坂柳も誰も知らないとのことだった。つまり、藤野も藤野で秘密裏に行動する必要がある。
このバカンスでの藤野の目的は、Aクラスの緩やかなポイント減少による葛城派の失脚だった。つまり俺らの勝利は、AクラスとDクラスが最大のクラスポイントを得ることではない。俺の場合は、目立たない程度にDクラスのポイントを伸ばすこと、藤野の場合は不自然じゃない程度にAクラスの勢いを落とし、葛城派を失脚させること。
その両方を満たすためには、ただ各クラスの優待者を当てて回っていくだけでは絶対に無理だ。そこで俺は、自分が特殊グループに属していることを利用した。
綾小路の作戦は成功すると読んでいた。この時点でDクラスは50ポイント。それから、これは予定外だったのだが、高円寺が優待者を的中させるとは思っておらず、俺はここでマイナス50ポイントだと踏んでいた。もう一つ予定外だったのが、吉野が属するグループGも、Cクラスの裏切りにあってマイナス50となった部分だ。そして、俺が属する特殊グループでDクラスは50ポイントを稼ぐつもりだった。当初の予定ではDクラスはプラス50ポイントだったが、予定が狂ってプラス100ポイントになり、龍園の関心を引いてしまった。正直、これはミスだ。
そしてAクラスだが、まず大前提として、俺はCクラスがAクラスだけを狙い撃ちすることを知っていた。放っておいてもAクラスは大量のマイナスを計上する。
だが、ここは俺が藤野に譲歩を求めた部分だ。Dクラスがプラス50ポイントとなり、俺が藤野からの見返りを含めたプライベートポイントを最大量獲得するためには、特殊グループにおいてAクラスにもプラス50ポイントになってもらう必要があった。
具体的にどのようなプランか。
特殊グループの説明の際、俺らは3個以上の回答を得られない限り通知されず、試験も終了しない、との説明を受けた。このポイントをうまく使うのだ。
3人以上で通知、ということは、2人までなら通知されず、試験も終了しないということだ。
俺はまず最初に、自分の端末でAクラスとBクラスの優待者を学校側にメールで送った。そしてグループIに属していて、かつ藤野の派閥である和田に、CクラスとDクラスの優待者の情報を流して最後のディスカッション終了直後にそれをメールで送るように藤野に話を通してもらった。グループIを裏切ったのはCクラスではない。AとDの共謀によるものだったのだ。
こうすることで、グループIにおいてはA、Dクラスがプラス50、B、Cクラスがマイナス50となり、A、D両方とも合計100万プライベートポイントを得る。
藤野はグループKで50万ポイントを手にしている。
俺が望む見返りは、優待者を全て把握した時点で全グループにおいて裏切り行為を働き、俺が卒業までに獲得していたであろうポイントと、現実に手に入れているポイントの損益分の相殺だった。
もしも全てのグループを裏切っていたら、Dクラスの獲得ポイントは、先に裏切りが発生していた二つのグループを除いて計算する地合計500ポイント。卒業までには155万ポイント。そして、俺自身が手に入れるポイントが150万ポイントだ。合わせて305万ポイント。
しかし、実際に俺が卒業までに獲得するポイントは、31万+100万で131万。
損益は174万ポイントだ。この額を求めるんでもいいんだが、俺が確信を持てたのは藤野の優待者のリークがあってこそだ。それに配慮して、24万ポイントは恩賞として返還。俺が得るのは150万ポイントだ。
ポイントを譲渡し終わり、これで、俺の特別試験は完全終了だ。
「ふう……お疲れ様。やっぱり速野くん、すごすぎるよ。これは、私も頑張らないとなー」
「そうだな。流石にこんなのが毎回続くと、ちょっと体力が持たないかもしれない」
「あはは。それはちょっと困っちゃうかも」
微笑みながらそういう藤野。
すると、俺に手を差し出してきた。
「……ん?」
「ありがとね、速野くん。それから、これからもよろしく。仲間として、ライバルとして……友達として」
仲間と友達のカテゴリを分けたあたりに、藤野のこだわりというか、想いを感じた。
「……ああ。まあ、よろしく」
以前にもこうして握手したっけな。三ヶ月ほど前のことなのに、なぜか懐かしく感じてしまった。
俺のやっていることはDクラスへの裏切り行為なのか、そうでないのかはわからない。
だが、俺としてもこれは良かれと思ってやったことだ。
これからのDクラスの行く末。その鍵を握る人物は、果たして誰なんだろうか。
堀北を移動させた理由は、櫛田と堀北の誕生日的に、どう調節しても星座が同じになってしまうからでした。設定変更が気に食わなかった方、申し訳ございません。
これにて原作4巻分は終了となります。引き続き4.5巻分も執筆して公開しますので、しばしお待ちを。
ご愛読ありがとうございます。そして、これからもお読みいただけると幸いです。
感想、評価お待ちしております。