遊戯王OCG’s─変態デュエリスト「古霊 真由美」の1日─ 作:レモンの人
※今回はデュエルしません。
「セバス…」
「はい……分かっていますとも」
高級車の中で、オレとセバスはバックミラーに映る1人のライダーを一瞥した。あれはパパラッチだ。それも、オレが社交界に顔をよく出すようになってからずっと追ってきている。何を握らされたか知らないが………〆るか。
「セバス、人気の無い場所に移動しろ」
「畏まりました」
そう言いつつ、運転しながら胸元からデリンジャーを抜き出したセバスから銃をもぎ取った。
「日本で撃つな」
「………はい」
「何ガッカリしてんだよ!?撃ったら立場悪くなるだろうが!」
ツッコミを入れつつ、オレはパパラッチを再起不能にしようと企んでいた……そして、人気の無い道路に入ったところで停車させオレは車から降りた。
「よぉ!あんたか!ネズミみてぇにこそこそ嗅ぎ回ってる奴は!」
「ッ」
ずっと写真を撮り続けるパパラッチに対し、オレは全速力でダッシュした。それに気付くより早く渾身のヤクザキックが決まり、バランスを崩したパパラッチが転倒した。
「オレに文句付けるタァいい度胸してるじゃねぇか……ん?」
「ひぃっ!?」
胸倉を掴み、ヘルメットを剥ぎ取ると……そこには妖艶な白人の女の顔が出てきた。
「女…?」
「ご…ごめんなさい……」
『自分、ハニートラップ得意です』といったスタイルをぴっちりとしたラバースーツで覆う女の顔は何処か情けない。てっきり色仕掛けで時間稼ぎをするのかと思ったら、仔鹿のように足を震わせている。
「取り敢えず、車で話しようや」
「ひっ……ごめんなさい!お願いします!命だけは!お腹を空かせた娘が待ってるんです!お願いします!どうか無事におうちへ帰してください!」
が、オレの拘束を振りほどくとバイクを動かそうとし…さっきのヤクザキックで故障したのだと悟った瞬間の行動は凄かった。水溜りで泥濘んだ土の上で一切躊躇いの無い土下座が炸裂。顔を泥塗れにしながら謝罪と命乞いの言葉を繰り返し始めたのだ。
「(なんなんだこいつ……?)」
********************
「……って事で連れてきた」
「…よ……よろしく…お願いします」
いや、という事じゃないわよ!?なにパパラッチ連れて来てんのよ!?しかも体のあちこち泥だらけじゃない…。
「じゃあ…罰ゲームすっから、まず自己紹介しろや」
「はい……オレゴン州出身のレイチェル…です。家が貧しく、ある富豪の方の命令で遊斗さんをパパラッチしていました。両親は喧嘩の末に離婚し、母に引き取られた私達は虐待を受けて育ちました。最近結婚して3つになる娘を育てているのですが、夫がDVの末に離婚してしまいお金が無く……今の職業に就きました」
「はい、説明ありがとう」
なんか…可哀想な気もするけど、彼女が選んだ道だからなぁ…オマケに遊斗君を嵌めようとした事実も変わらないし。
「よし、じゃあ罰ゲームするからそこ座って。セバス!例のカードは集めたか?」
「はい。店長…謝礼です。無言でお受け取りください」
セバスティアンさんが店長に何か渡しつつ持ってきたのは20枚の通常モンスターと20枚の魔法・罠カードだった。
「今からワンショットデュエルを行う。互いのライフはこれで決まる」
そういって遊斗君がアタッシュケースから取り出したのはなんとドル札の束!その束をレイチェルさんの場に積み上げていく。対する遊斗君も同じ数積み上げた。
「今、互いの手元には1万ドル分の束が20…つまり20万ドルがある。妹を学校に通わせ、ゆとりのある生活が出来る額だ。これがあんたの命となる。100ダメージにつき1万ドル分の束が抜き取られ、0になった時点でTHE ENDだ。だが、オレのライフを先に削り切れたなら、残っている額をやる上に助けてやる。その代わり、2度とオレの前に顔を出すな。OK?」
え…何その初期遊戯王みたいな闇のゲーム。
「は…はい……あの…もし先にライフが0になったら………」
「分かってるよな?」
「はい…」
「よし、セバス!モンスターと魔法・罠で分けた20枚ずつをシャッフルした後、それぞれ10枚ずつ
「畏まりました」
セバスティアンさんが手早くシャッフルしてカードを混ぜた後、分配した。
「ここでルールを説明する」
●ライフは2000点
●まず互いにモンスターデッキの一番上のモンスターを攻撃表示で出すか守備表示で出すかを決め、決めた形式で出す。
●同時に魔法・罠カードデッキのトップのカードを強制発動した後、ダメージ計算処理を行う。ただし、2回目以降守備表示で出す場合はペナルティとして500点を失う。戦闘後、互いのモンスターと発動した魔法・罠カードを除外する。
●デッキが0になるかライフが0になった時点でゲーム終了。
「分かったか?」
「はい……」
なんかそれ面白そう。まぁ、セバスティアンさんの事だし…似たような攻撃力・守備力を持つモンスターを用意してそう。すごい駆け引きになりそうね!翔太君が居ないのが残念だけど…
「じゃあ、まず1回目だ。召喚!」
遊斗:ランプの魔精 ラ・ジーン 星4 ATK1800
レイチェル:ジェネティック・ワーウルフ 星4 ATK2000
「やった…!」
レイチェルさん…結構引き運いいじゃない。
「甘いな。魔法・罠カードオープン!」
遊斗:突進 速攻魔法 エンドフェイズまで攻撃力を700ポイントアップ
ランプの魔精 ラ・ジーン ATK1800→2500
レイチェル:ファイティング・スピリッツ 装備魔法 装備モンスターの攻撃力を相手モンスターの数×300アップ
ジェネティック・ワーウルフ ATK2000→2300
「そんな……!?」
レイチェル LP2000→1800
「じゃあ2万ドル没収」
「あぁっ!!!」
遊斗君…引き強過ぎよ。
「さーってと……次行くぞ〜」
「は、ひぃっ!?」
「オープン!」
遊斗:ミノタウルス 星4 ATK1700
レイチェル:レッド・サイクロプス 星4 DEF1700
あー…酷い。レッド・サイクロプスの攻撃力は1800もあるのに!なんで守備表示で出すの!?まぁ…運なんだけど、セバスティアンさんの事だから攻撃力より守備力の方が高いモンスターは採用していない筈なのに!
「魔法・罠カードオープン!」
遊斗:ビッグバン・シュート 装備魔法 装備モンスターの攻撃力を400アップ+守備貫通効果付与
ミノタウルス ATK1700→2100
レイチェル:デーモンの斧 装備魔法 装備モンスターの攻撃力を1000アップ
レッド・サイクロプス ATK1800→2800(守備表示の為、無意味)
「400ポイントの貫通ダメージを受けろ!」
レイチェル LP1800→1400
勿体無い……もし攻撃表示で出していたら攻撃力2800のモンスターで700ダメージを与えられたのに…!レイチェルさん…めそめそ泣いてるし……なんか可哀想になってきたわね。
「ごめんなさい……マリア…ダメなママでごめんなさい……」
「レイチェルさん!」
我慢出来ずに私はレイチェルさんの背中をバシンと叩いた。
「痛っ」
「レイチェルさん!前を向いて!負ける事を考えちゃダメ!臆せず攻めるの!そうすればきっと勝機が見えるわ…」
「ありがとうございます…」
ムッとする遊斗君に私はウインクした。だって、戦いはフェアじゃないとね♪
「そう……私には食べさせていかないといけない娘がいる…負けるわけには…いかない!!!」
「フン…勝敗は既にオレの方に傾いてる。覚悟するんだな!オープン!」
遊斗:闇魔界の戦士ダーク・ソード 星4 ATK1800
レイチェル:セイレーン 星5 ATK1600
「まだ諦めないわ!魔法・罠カードオープン!」
遊斗:蝶の短剣─エルマ 装備魔法 モンスターの攻撃力を300アップする。
闇魔界の戦士ダーク・ソード ATK1800→2100
レイチェル:巨大化 装備魔法 自分のライフが相手より上なら装備モンスターの攻撃力を半分にし、下なら攻撃力を倍にする。
セイレーン ATK1600→3200
「何ッ!?ぐわっ!!!」
遊斗 LP2000→900
「やった……やりました!!!」
「おい、セバス!なんかあいつにばっか良いカードが偏ってねぇか!?」
「はて、何のことやら」
「お前わざとだろ!?」
運も実力の内…レイチェルさんに勝機が見えてきたわね。
「チッ……だが、ここで負けたら古霊さんに顔向け出来ないんでな!オープン!」
復讐のソード・ストーカー 星5 ATK2000
磁石の戦士γ 星4 ATK1600
「魔法・罠カードオープン!」
遊斗:破天荒な風 魔法 相手ターン終了時まで攻守1000アップ
復讐のソード・ストーカー ATK2000→3000
レイチェル:極星宝ブリージンガ・メン 罠 相手モンスター1体と同じ攻撃力になる。
磁石の戦士γ ATK1600→3000
「相打ち……!?」
「まだ諦めないわ!」
デュエルは5巡目…ここまでで遊斗君のライフは900。レイチェルさんは1400。レイチェルさんがリードしているように見えるけど……さっきの巨大化や破天荒な風みたいにゲームエンド級の火力のあるカードも混ぜているみたいだから何が起きるか分からない…緊張感あるわねぇ。
「行くぞ…!」
「はい!」
「モンスター、オープン!」
遊斗:星杯に誘われし者 星4 ATK1800
レイチェル:Xセイバーアナペレラ 星4 ATK1800
「互角か!面白い!」
「遊斗さん…私、こんなにスリルを感じるゲームは初めて…!」
「そりゃどーも!!!」
遊斗:愚鈍の斧 装備魔法 装備モンスターの攻撃力を1000アップし効果を無効にする。
星杯に誘われし者 ATK1800→2800
レイチェル:幸運の鉄斧 装備魔法 装備モンスターの攻撃力を500アップ
Xセイバーアナペレラ ATK1800→2300
「全然幸運じゃないじゃないの…!!!」
レイチェル LP1400→900
ライフポイントが並んだ…!
「恐らく、あと3ターン以内に決着が付くだろう。行くぞ!」
「オープン…!」
遊斗:千眼の邪教神 星1 ATK0
レイチェル:青眼の白龍 星8 ATK3000
「………は?」
「えっ」
ちょっwwwwなんで最高攻撃力と最低攻撃力のカードが入ってんの!?
「面白いと思いまして1枚ずつ入れました」
「確信犯かよ!?」
「やった……勝ったわ!マリアにいい生活をさせられるわ!」
「まだだ……魔法・罠カード!オープン!」
「オープン!」
遊斗:シールド・バッシュ 装備魔法 自分フィールドのモンスターの攻撃力を1000アップ+自分への戦闘ダメージ0
千眼の邪教神 ATK0→1000
レイチェル:魔界の足枷 装備魔法 装備魔法の攻撃力を100にする+攻撃宣言出来ない
青眼の白龍 ATK3000→100
「は………?」
「えっ?」
レイチェル LP900→0
急転直下。セバスティアンさんが混ぜた罠の所為でレイチェルは敗北を喫したのだった。にしても絵面が酷い………
******************
「じゃ、罰ゲームだな」
「ごめんなさい…私やっぱりダメな子でした……マリア…どうか幸せに───」
遊斗君が最高に悪い顔をしながらレイチェルさんの肩を摩っている。レイチェルさんの方はというとメソメソと泣きながら辞世の句を詠もうとしている。
「ちょっと流石にやりすぎじゃ───」
思わず止めようとした時、遊斗君はレイチェルさんの目の前に5万ドルをドサっと置いた。
「えっ…?」
「お前への罰だ。雇い主のスキャンダルをスッパ抜いて来い。それが出来ればもう5万ドルくれてやる。この5万ドルは前金だ…いいな?オレを嵌めようとした奴の立場が揺らぐくらいヤバイスクープを取って来い」
「は…ひぃ……でも、雇い主さんの方がお金多──」
「コンクリートに埋められて東京湾に沈む選択肢をくれてやろうか?」
「ひぃっ!嘘です!遊斗さんの方が多いです!遊斗さんばんざーい…」
ポロポロと涙を流しながら、レイチェルさんは必死に笑顔を作った。
「ついでにカメラのデータからオレに関するデータは全部消しておいた」
「私がやりました」
「セバスはあとでお仕置きだ……それはさておき、いいかレイチェル。お前をこうまでして助けてやったのは古霊真由美というこの美しい女性が居たからだ。いいか、この仕事が終わったらお前は自由の身だ。パパラッチなんて仕事は辞めて司書の仕事にでも就け。いいな?」
「はい……ありがとうございます…」
遊斗君、なんだかんだですごくいい人じゃない。ただ、与えた任務は下手すると死に直結する。だから決していい人という訳ではない。
「今日はありがとうございました…」
「バイクも修復が終わっております。どうぞお気を付けて」
セバスティアンさんのおかげで修復したらしいバイクに乗ったレイチェルさんは私達に一礼してからどこかへ去っていった…。
「さてと、そろそろ翔太君が来る時間だ。今の事は忘れて楽しくやろうぜ!」
「そうね…!」
いつの間にかお金は無くなっていた。セバスティアンさんの方を見るとケースにしっかりと詰めていたようで少し膨らんでいた。
ワンショットデュエルのライフ計算は20万ドルが無くても100円玉20枚でやると緊張感が出ます。賭け事をしてるような気分が出てスリルが増しますが…遊斗君みたいな事はくれぐれもしないように。
真由美「今回はデュエル出来なくて申し訳ありませんでした。ネタを捻り出せなかった非力な私を許してくれ…」