世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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第44話 世界への出演

 夜の闇に世界が染まる頃。

 ペロロンチーノとデミウルゴス率いるナザリックのメンバーは王国王都での拠点である館に一度集まると、改めて作戦の説明と摺り合わせをメンバー全員で行い、その後早速役目を果たすために各自行動を開始した。

 そして今。夜の闇は深まり、空の星々も薄くかかる雲によって光を鈍らせる頃。

 まるでその闇に溶けるかのように一つの細身の漆黒が宙にポツリと浮かんでいた。

 影が身に纏っているのは漆黒のローブ。フードを目深にかぶり、風にたなびく裾や後ろ部分は途中から闇の粒子となって闇に染まった空間に溶けるかのように消えていく。フードから覗くはずの顔には銀色のペストマスク。しかしその仮面には眉間部分にある大きな単眼以外の装飾は一切なく、何とも不気味な見た目をしていた。

 その様はまるで不気味な死神のよう。

 しかし明確な正体は一切分からず、人間ではなく異形のモノだということしか分からない見た目をしていた。

 

(……はぁ~、やっぱり不可知化を解いていた方が清々しく感じるな~。………早くモモンガさんやウルベルトさんと自由に外を出歩けるようになりたいなぁ~。)

 

 不気味な死神……のような姿に様変わりしたペロロンチーノが、呑気に宙に浮かびながらのんびりと物思いにふけっている。

 現在、ペロロンチーノは普段とは全く違う装備を身に纏っており、そのためいつもとは全く違う見た目となっていた。

 普段ペロロンチーノが身に纏っている金色の主武装は弓兵としてのもの。しかし今身に纏っている装備は野伏(レンジャー)やアサシンといった探索能力や隠密能力を向上させる仕様のものだった。

 今も探索能力が向上したおかげで、至る所から聞こえてくる物音や生き物の気配に、無意識に感覚を研ぎ澄ませる。

 時折繋がってくるナザリックのシモベたちからの〈伝言(メッセージ)〉に短く答えてやりながら、ペロロンチーノは今のところ上手くいっている様子に内心で安堵の息をついていた。

 思えば、人間の世界で大々的に行動を起こすのは今回が初めてのことだった。しかも、自分たちギルドメンバーが誰一人として前面に出ないでの行動は、思い返してみれば今回が初めてなのではないだろうか。確かにコキュートスたちによる蜥蜴人(リザードマン)たちへの進軍も、最初は自分たちは前面に出はしなかったが、それでもあの時の場合は自分たちのシナリオ通りに事が進んでしまった特殊なケースでもあった。

 しかし今回はシナリオも自分たちが作ったわけでもなければ、実行もナザリックのシモベたちが中心に動いている。自分たちが一切手を加えていないという事実に、ペロロンチーノはだんだん不安になってきて柄にもなく『上手くいきますように……』と誰にともなく祈りを捧げた。

 しかし、やはり異形の願いなど聞き届けられないものなのだろうか……。

 何とはなしに街の夜景をぼんやりと眺めて物思いにふける中、不意に乱れた振動の様なものがペロロンチーノの感覚に引っかかった。

 目の前の光景から視線を外し、振動のようなものが感じ取れた方向へと視線を向ける。まるで戦闘音のような振動に、ペロロンチーノは思わず仮面の奥で顔を顰めさせた。

 計画では、デミウルゴスたちが大々的に外で暴れるタイミングはもう少し後のはずだ。ならばこの振動は別の何かか、はたまたこちらの存在が誰かに気取られたのか……。

 どうするべきかと迷う中、不意にキラッと小さな光が煌めいて、一拍後には小さな破壊音と共に土煙が夜の闇にぼんやりと浮かんできた。

 少なくとも、誰かが戦っているのは間違いないようだ。

 加えて、土煙が上がった場所が現在自分たちが襲撃している拠点の一つの場所とひどく重なっているような気がして、一気に嫌な予感が湧き上がってくる。ペロロンチーノは意を決すると、〈鷹の目(ホーク・アイ)〉を使って土煙が上がった場所に目を凝らした。

 瞬間、目に飛び込んできた光景に思わず鋭く息を呑む。ペロロンチーノは武器を用意するのも忘れて、ローブに隠れている四枚二対の翼を大きく羽ばたかせた。必死に翼を動かしながら『急げ! 急げ!』と自身を急かす。

 ペロロンチーノの視線の先にはプレアデスの一人であるエントマが地に伏しており、見知らぬ三つの人影に取り囲まれている状況だった。

 どうして今まで気が付かなかったのか……と自分自身に舌打ちする。力なく地をかき、キィィ……と弱々しく鳴くエントマの声が聞こえた瞬間、一気にペロロンチーノの頭に血が上った。カッと視界が赤く染まり、凶暴なまでの激情が一気に理性を食い破って思考を支配する。

 小さい人影が短剣のような短い得物を片手にエントマに歩み寄るのを視界に捉えると、ペロロンチーノは更に飛翔速度を上げた。全身を一直線に伸ばし、まるで弾丸のように空を切り裂く。

 エントマを追い詰めていた三人組も漸くこちらの存在に気が付いたのか、不意に頭上を振り仰いできてペロロンチーノと視線がかち合った。

 瞬間、後ろに飛び退く小さな人影と、地面に激突するように着地するペロロンチーノ。

 ペロロンチーノが地面に着地した衝撃で地面が大きく抉れ、大量の土煙が上がってペロロンチーノとエントマを包み込んだ。恐らくそれが良い具合に目隠しになったのだろう、人間の三人組は様子を窺っているのか攻撃をしかけてこない。ペロロンチーノはその隙にエントマへと素早く歩み寄ると、未だ地に伏している小さな身体をそっと両手で抱き上げた。

 

「………ペロ…チー……さ、ま……」

「……何も喋らなくていい。もう大丈夫だ」

 

 抱き上げられたことでこちらの存在に気が付いたのか、エントマが腕の中で弱々しく身じろいで声を上げてくる。苦しげなその様子に、ペロロンチーノは仮面の奥で更に顔を大きく顰めさせた。憤怒と殺意が湧き上がって胸の中で荒れ狂い、大きな気迫(プレッシャー)となってペロロンチーノの全身から放出される。

 ペロロンチーノは少しでもエントマに負担がかからないように抱き直すと、そのままゆっくりと背後にいるのであろう三人組を顔だけで振り返った。

 まるでペロロンチーノの動きに合わせるかのように、朦々と立ち込めて宙を漂っていた土煙が柔らかな風に流れて消えていく。

 武器を構えたままこちらの様子を窺っている三人組に、ペロロンチーノは仮面の奥で鋭く目を細めさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イビルアイは仮面の奥で荒い呼吸を繰り返していた。全身からは大量の冷や汗が流れ、極度の緊張と本能的な恐怖から小刻みに震えが走る。目の前に現れた急展開と強敵の存在に、イビルアイはかつてないほどの大きな絶望を感じていた。

 イビルアイは今まで、同じ“蒼の薔薇”の仲間であるガガーランとティアと共に蟲のメイドと死闘を繰り広げていた。蟲のメイドは強敵であり、恐らく仲間たちがいなければ苦戦を強いられていたことだろう。しかしそれでも、イビルアイたちは蟲のメイドに勝っていたのだ。蟲のメイドはもはや身じろぎ一つできないほどに弱まり、後は止めを刺して終わるはずだった。

 しかし、気が付いてみればどうだ……。

 ティアが蟲のメイドに止めを刺そうと歩み寄ったその時、突然頭上から気配を感じ、何かと目が合ったと思った瞬間に大きな衝撃がティアが立っていた場所を襲った。

 地震かと思うほどの衝撃と騒音。勢いよく立ち昇る土煙。

 こちらに戻ってきたティアと武器を構えるガガーランと共に何が起こったのかと様子を窺う中、晴れてきた土煙の中から現れた“それ”にイビルアイは仮面の奥で大きく息を呑んだ。

 そこに立っていたのは不気味な死神のような男だった。

 死の気配も大鎌も持ってはいないけれど、“それ”はそう思えわせるほどの存在感と威圧感を放っていた。

 

「……なんだ、イビルアイの親戚か?」

 

 隣からガガーランの声が聞こえてくる。しかしイビルアイは否定の言葉を紡ぐこともできなかった。際限なく湧き上がってくる絶望と恐怖に支配され、声も喉の奥で潰れて消えてしまう。このような存在を目の前にして軽口を叩けるガガーランに、イビルアイは場違いながらも感心すらしていた。

 しかし幸か不幸か、変化はこれだけでは終わらなかった。

 

 

「……御方様……」

 

「「「っ!!?」」」

 

 不意に柔らかな声が聞こえてきたかと思った瞬間、いつの間にか見知らぬ細身の男が死神のような男の傍らに跪いて頭を下げていた。

 男は青い仮面をかぶっており、その身に纏うのは漆黒の高級そうなコート。一見ただの人間の男のように見えるものの、しかし左こめかみには大きな角があり、腰部分からは銀色の長い尾が生えてゆっくりと宙に揺らめいていた。その身から溢れ出る巨大な存在感も相俟って、この男も人外であるのだと周りに知らしめている。

 男は一切こちらに意識を向ける様子もなく、ただひたすらに死神のような男に向けて頭を垂れていた。

 

「御方様、この場は私にお任せを……。どうか御方様は彼女と共にお戻りください」

 

 男の言葉に、死神のような男はじっと無言のまま男を見下ろす。それでいて徐にこちらに目を向けたかと思うと、不意に死神のような男の動きがピタッと止まった。鋭い視線が深く突き刺さり、自分を凝視しているのだと気が付いた瞬間、ゾクッと背筋に冷たい衝撃が走り抜ける。

 死神のような男は暫く無言のままイビルアイを見つめると、不意に視線を外して仮面の男に目を戻した。ちょいっちょいっと小さく手招くのに、仮面の男は傅いていた状態から立ち上がると、何の迷いもなく招かれるままに死神のような男へと歩み寄っていく。突き刺さっていた視線が外れたことでイビルアイが一気に脱力する中、死神のような男は身を寄せてくる仮面の男の耳の部分に顔を寄せていた。内緒話でもしているのか、仮面の男が時折小さく頷くような素振りを見せている。それでいて仮面の男は死神のような男から身を離すと、次には再び深々と頭を垂れた。

 

「畏まりました。全ては御方様の御意のままに」

 

 淀みなく紡がれる男の言葉に、死神のような男は一つ大きく頷いて返す。続いて未だ腕に抱き上げている蟲のメイドを大切そうに抱き直すと、一瞬後にはふわりと宙へと浮き上がった。そのまま遥か上空へと舞い上がって夜の暗闇に消えていくのに、仮面の男は暫く頭を垂れたままそれを見送る。

 イビルアイたちも飛び去っていった死神のような男と蟲のメイドを呆然と見送る中、漸く仮面の男がこちらを振り返って意識を向けてきた。

 

「……さて、お待たせしました。少々計画が狂いましたが、これも全て御方様のご意思です。……一つ取引をいたしましょう」

「っ!? ……何だと?」

 

 仮面の男の言っている意味が分からず、ガガーランが訝しげな表情を浮かべて疑問の声を上げる。イビルアイもガガーランと全く同じであり、仮面の奥で訝しげな表情を浮かべながらも油断なく仮面の男を睨むように見つめた。ティアは無言を貫いてはいたがひどく警戒しているのだろう、イビルアイと同じように鋭い瞳で仮面の男を睨み据えている。

 しかし、そんなイビルアイたちの様子など仮面の男はどこ吹く風。一切気にする様子も見せず、まるで友好的であるかのように両腕を軽く広げてみせた。

 

「我が主はそこの仮面の人間をお望みです。大人しく従えば、残りのあなた方に関しては楽に死なせてあげましょう」

「「「っ!!?」」」

 

 仮面の男からの言葉に、イビルアイたちは思わず驚愕の表情を浮かべて大きく息を呑んだ。

 仮面の男の言う“我が主”とは先ほどの死神のような男のことであり、“仮面の人間”とはイビルアイ自身で、“残り”とはガガーランとティアのことだろう。

 つまり、あの死神のような男がイビルアイを望んでいる、と……。

 仮面の男の言葉を正確に理解した瞬間、イビルアイはゾクッと背筋に悪寒が走って思わず身を震わせた。

 『絶対に行きたくない!』と心の中で叫ぶ。あんな異形の元に行くなど冗談ではない。

 断固拒否しようと口を開きかけ、しかしその前にガガーランたちが口を開く方が早かった。

 

「大切な仲間を売れってぇのか……? 冗談じゃねぇ!」

「……お前を倒せば全て万事解決する」

 

 それぞれ得物を構えながらガガーランとティアが仮面の男を睨み付ける。

 頼もしい仲間たちからの言葉に、しかしイビルアイは今回ばかりは頼もしさよりも焦りを感じていた。

 イビルアイとて最後まで諦めるつもりは微塵もない。あの死神のような男の元に行くくらいなら死んだ方がましだという考えも変わってはいない。

 しかし大切な仲間たちの命がかかっている以上、軽率な行動はとれなかった。相手を挑発することもマズい。

 悔しくはあるが、今自分にできることは、出来るだけ彼女たちが逃げられる時間を稼ぐことだけだった。

 

「まったく、いと尊き至高の御方に望まれること自体、下等生物には身に余る栄誉そのものだというのに……」

 

 やれやれとばかりに緩く頭を振って嘆いて見せる仮面の男に、その素振りが癪に障って仕方がない。“下等生物”という言葉にも苛立ちが募り、イビルアイは思わず仮面の奥で顔を歪ませた。

 しかしここで感情のままに動いては相手の思う壺である。

 イビルアイはグッと感情を抑え込むと、意識して冷静さを保ちながら小声でガガーランとティアへと声をかけた。

 

「……おい、こっちを見ずに聞け。……奴は圧倒的に強い。化け物の中の化け物だ。……お前たちは後ろを振り返らずに全力で逃げろ」

「……冗談だろ、あいつはお前を狙ってるんだぜ? お前を置いて逃げられるわけねぇだろうが……!」

「むしろこの場合、相手の狙いであるイビルアイを逃がせられたらこちらの勝ちとも言える……」

「だな。……おい、イビルアイ、お前が全力で逃げろ。数秒くらいなら時間を稼いで見せるからよ!」

「!? おいっ、待てっ!!」

 

 イビルアイが咄嗟に声を上げるのと、ガガーランとティアが一斉に仮面の男に突撃したのはほぼ同時。

 ガガーランは真正面から、ティアは一拍遅れて斜め横から突撃していくのに、仮面の男は小さく首を傾げさせた。

 

「おや、そう来ましたか。……ふむ、ではまずは逃げられないように転移を阻止させて頂きましょうか。〈次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)〉」

 

 ガガーランとティアが迫ってきているというのに、仮面の男は少しも動じることなくガガーランたちではなくイビルアイの方に対処の手を伸ばしてくる。一部の超上位悪魔や天使しか使えない特殊技術(スキル)を発動させてイビルアイの転移を阻止してきた。

 この特殊技術(スキル)を使ってきたということは、恐らくこの仮面の男の正体は悪魔なのだろう。

 仮面の悪魔は特殊技術(スキル)を発動した後、そこで漸くガガーランとティアへの対処へと移った。既にガガーランが懐に飛び込んで肉薄していたが、しかし仮面の悪魔の態度はどこまでも優雅で余裕があった。

 

「これでもくら……ぐはっ……!?」

「っ!?」

 

 ガガーランが巨大な刺突戦鎚(ウォーピック)を大きく振り上げて仮面の悪魔に振り下ろそうとし、ティアが苦無を構えて斜め上から切りかかっていく。

 しかし彼女たちの刃が仮面の悪魔に襲いかかろうとした瞬間、長い銀色の何かが素早く動いて彼女たちの胴を襲った。ガガーランの言葉は途中で呻き声に変わり、二人の身体はくの字に曲がって後ろへと吹き飛ばされる。

 何が起こったのかと目を凝らせば、悪魔の長い銀色の尾がしゅるりと優雅に揺らめいていた。

 恐らく二人はあの長い尾によって胴体を薙ぎ払われたのだろう。

 仮面の悪魔自身は一歩もその場を動いておらず、イビルアイは思わず仮面の奥で唇を噛み締めた。口内に鉄の味が広がり、覚悟を決めるように強く拳を握りしめる。

 二人は自分に逃げろと言ったが、イビルアイはそれに従うつもりは毛頭ない。どれだけ実力差があろうと、万が一この悪魔を倒せる可能性があるとすれば、それは自分以外にいないのだ。

 イビルアイは湧き上がってくる恐怖と絶望感を意志の力で捻じ伏せると、ガガーランとティアに加勢しようと強く地を蹴った。自身に〈飛行(フライ)〉の魔法をかけ、まずは地面に倒れ込んだ二人が立ち上がれるだけの時間を稼ごうと低空飛行で突き進む。

 しかしいざ魔法を唱えようとした、その時……。

 

「〈獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)〉」

「っ!!?」

 

 突如目の前に出現した熱波に、イビルアイは咄嗟に急ブレーキをかけてその場に停止した。一体何が起こったのかと目の前を凝視するイビルアイの視界に、大きな黒い炎が映り込む。

 自然ではありえない黒炎が熱風を撒き散らし、まるで壁のように頭上高く燃え盛っていた。

 その炎の中にはガガーランとティアが未だおり、ピクリとも動かずに地に倒れ伏している。

 どう考えても事切れているその様子に、思わず悲鳴を上げそうになった。しかし咄嗟に悲鳴を噛み殺すと、イビルアイは湧き上がってくる激情に拳をブルブルと震わせた。突然の仲間二人の死に、怒りと憎しみが恐怖心を塗り潰していく。

 

「おや、死んでしまいましたか? ギリギリのラインで止める予定だったのですが、この程度の炎で死んでしまうとは……。想定よりも弱かったのですね」

 

 炎の奥から聞こえてくる悪魔の声に、カッと頭に血が上る。冷静になれと頭のどこかで小さな声が聞こえてくるが、もはやその声だけではイビルアイを落ち着かせることはできなかった。

 黒炎が目の前で徐々に弱まり、次には跡形もなく消えていく。

 再び視界に捉えた悪魔の姿に、イビルアイの感情が一気に爆発した。

 

「手加減するというのは想像以上に難しいですね……。何故実力差があるのにチームを組まれているのですか? それさえなければもう少し丁度いいところを探れたのですが」

「おまぇがああぁ! いうなぁああぁぁあぁぁぁああぁっっ!!!」

 

 再び自身に〈飛行(フライ)〉の魔法をかけ、勢い良く仮面の悪魔へと襲い掛かる。

 悪魔は少しの間イビルアイを観察するように見つめていたが、次にはほんの少しだけ首を傾げさせるような素振りを見せた。

 

「……ふむ……、『その場に停止し、跪け』」

 

 瞬間、今まで以上に深みのある魅惑的な声が発せられ、こちらに服従を命じてくる。

 イビルアイの背筋がゾクッと震え、しかしそれ以外の異変は起こらなかった。頭の片隅で『何か仕掛けられたのかもしれない』という警告の声が響いてくるが、しかし今のイビルアイの行動は止まらない。

 至近距離にまで近づくと、イビルアイは一つの魔法を発動させるのと同時に拳を悪魔へと突き出した。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)結晶散弾(シャード・バックショット)〉!!」

 

 唱えたのはイビルアイのお気に入りの魔法。

 突き出した拳の前方に現れた水晶が、散弾のように撒き散らされて仮面の悪魔へと襲い掛かる。

 しかし先端が尖った水晶の欠片がその身体に触れようとした直後、まるで何事も起こっていないかのように我先にと水晶の欠片は空気に溶けるように消えていった。

 

(魔法の無効化能力!? それほど実力が開いているというのか!!)

 

 相手との実力差があればあるほど、魔法は無効化されやすい。

 ここで漸く少なからず冷静さを取り戻したイビルアイだったが、しかし仮面の悪魔が至近距離にいることに気が付いて思わずひくっと喉を引き攣らせた。自身の軽率な行動に内心で舌打ちを零す。

 しかしここで諦めることはせず、ダメもとで後方に強く地を蹴って退避行動をとった。どんな攻撃が来ても対処できるように警戒しながら後方へと飛び退くのに、しかし仮面の悪魔は一切攻撃してこない。ただ興味深げに見つめてくるのに、イビルアイは五メートルほどの位置まで下がりながら、仮面の奥で訝しげに顔を顰めさせた。

 

「……ほう、まさか〈支配の呪言〉が効かないとは。なるほど、御方が興味を持たれる程度の価値はあるということですか……」

 

 未だ何が何やら分からないイビルアイの目の前で、仮面の悪魔が一人納得したような言葉を呟いてくる。まるで自身の考えに満足するように一つ頷いてくるのに、再び苛立ちが湧き上がってきた。

 何が興味だ。

 何が価値だ……。

 そんな訳の分からない理屈で好き勝手にされて堪るものか……!!

 

(……いざとなれば、自らこの命を捨ててやる!!)

 

 悪魔たちの思惑通りにならぬよう、最悪の手段も覚悟する。それでいて再び抗うべく魔法を唱えようとしたその時、不意に頭上に気配を感じたと同時に何かがイビルアイと悪魔の間の地面に勢いよく落下してきた。

 大きな衝撃と、激しく立ち上る土煙。

 つい先ほど死神のような男が落下してきた時の状況と今の光景が重なり、イビルアイは思わず緊張と恐怖に身体を硬直させた。

 しかし土煙の奥から姿を現したのは、悪魔などではなく威風堂々とした漆黒の戦士。

 着地して屈み込んでいた体勢からゆっくりと立ち上がる戦士に、その威容にイビルアイは思わずゴクッと生唾を呑み込んでいた。

 

「………それで、私の敵はどちらなのかな……?」

 

 立ち上がった漆黒の戦士が、仮面の悪魔とイビルアイを交互に見やってポツリと疑問を零してくる。どうして分からないのか……と思わないでもなかったが、しかしすぐに仮面の悪魔が一見人間に見えなくもないことや自身も怪しい仮面をかぶっていることに思い至り、すぐに思考を切り替えた。目の前の戦士の姿から彼の正体を思い至り、イビルアイは迷うことなく声を張り上げた。

 

「漆黒の英雄! 私は“蒼の薔薇”のイビルアイ! 同じアダマンタイト級冒険者として要請する! 協力してくれ!!」

 

 目の前の漆黒の戦士は間違いなく、最近アダマンタイト級冒険者となった“漆黒の英雄”モモンだろう。伝え聞く噂が全て本当ならば、力強い助っ人になってくれることは間違いない。

 しかしそう思う一方で、果たしてこれで本当に良かったのかという不安と後悔が湧き上がってきた。

 同じアダマンタイト級冒険者とはいえ、イビルアイですら実力差が大きい相手に対して、この戦士がどこまで渡り合えるか分からない。自分が彼にかけなければならなかった言葉は助力の要請などではなく、むしろ警告であるべきだったのではないのか。

 思わず自責の念にかられるイビルアイに、しかしそれに応えたのは力強い男の声だった。

 

「承知した」

 

 声の主は間違いなく漆黒の戦士。

 彼は徐に歩を進めると、まるで悪魔から自分を守るかのようにこちらに背を向けるように立ってきた。目の前に広がる深紅のマントに覆われた大きな背に、途端に言いようのない安堵が湧き上がってくる。まるで絶対に崩れることのない壁に守られているかのような安心感に、イビルアイは思わず強張っていた身体から力を抜いた。

 

「……これはこれは、よくぞいらっしゃいました。まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか? 私はヤルダバオトと申します」

「ヤルダバオト……? ……ふむ、そうか……。私はモモン。彼女が言ったようにアダマンタイト級冒険者だ」

 

 仮面の悪魔が発する強者の気迫(プレッシャー)に怯む様子もなく、モモンは淡々と悪魔と言葉を交わしていく。

 どこまでも落ち着き払ったその様子に、イビルアイは仮面の奥で小さく感嘆の息を吐き出していた。

 確かに相手の正体や実力や能力などが不明な場合、情報戦も非常に重要になってくる。仮面の悪魔もモモンを警戒しているのか、二人は互いに探り合うように情報戦を繰り広げていた。

 

「――……それで、そちらの目的はなんだ?」

 

 不意にモモンが核心に迫った質問を繰り出す。

 瞬間、仮面の悪魔の纏う空気が変わった。

 

「……我が至高の御方が所有する至宝の一つが、この都市のどこかにあるのです。それを取り戻すために参りました」

「なるほど。……ならば、それをこちらが提供すれば、問題はそれで終わるのか?」

「いいえ、無理ですね。そもそも至宝がこの都市にあるのは、人間のコソ泥が保管場所から盗み出したためです。御方の至宝に手を出した以上、報いを受けて頂きます」

「しかし、その至宝とやらに手を出したのは、あくまでもそのコソ泥なのだろう? ならば他の者たちに罪はないはずだ」

 

 悪魔に対して説得を始めたモモンに、イビルアイは彼の背に隠れるように立ちながらも内心で疑問に首を傾げていた。

 相手は悪魔なのだから、そんな説得に応じる筈がない。

 しかしそう思う一方で、例え可能性が低くても被害を少なくするために尽力するモモンの姿に、イビルアイは心底感心させられた。

 これこそが正にアダマンタイト級冒険者たる姿なのだろう。

 無意識にキラキラとした視線を向けるイビルアイの視線の先で、モモンは尚も悪魔に言葉を尽くしていた。

 しかし悪魔は断固として首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「残念ながら、私一人の一存でこの都市から手を引く訳には参りません」

「何故そこまで拘る必要があるんだ」

「……ふむ、そうですね。主に理由は三つあります。一つ目は、私の配下のメイドが一人、彼女たちに害されたため。二つ目は、そこの仮面の人間を御方様が望んでいらっしゃるため。そして最後の三つ目は、コソ泥を野放しにしていたこの都市に対して御方様が処罰を望まれたからです」

「………なに……?」

 

 悪魔の言葉に、モモンの声に鋭さが宿る。

 瞬間、漆黒の大きな体躯から威圧感が溢れ出し、イビルアイは思わず仮面の奥で目を大きく見開かせた。ヒシヒシと感じられる威圧感に激しい怒気が宿っているような気がして、それに疑問と困惑が胸に湧き上がってくる。

 しかしイビルアイはすぐに思い直すと、フルフルと強く頭を振った。

 彼がこんなにも激しい威圧感を出しているのは、恐らくどう言葉を尽くしても悪魔が首を縦に振ることがないと理解したからだろう。避けられない戦闘に対して闘志を燃やしているからに違いない。怒気が宿っていると感じたのは、恐らくその威圧感があまりにも圧倒的で、激しいからだろう。

 イビルアイは内心でそう納得すると、次の行動をどうするべきか思考を巡らせた。

 モモンは純粋な戦士であり、つまりは完全な前衛ポジションである。であれば、こちらはモモンの戦闘を邪魔しないように補助に回った方が良いだろう。

 ならばどう戦うか……と頭を悩ませる中、不意に目の前にあった深紅が大きく動いたことに気が付いて、イビルアイは思わずつられるようにして視線を動かした。

 瞬間、ガキンッという鋭い大きな音が響き渡る。

 気が付けば、自身のすぐ目の前にいた筈のモモンが一気に距離を詰めてヤルダバオトと刃を交わしていた。

 モモンは二振りの漆黒のグレートソードを振るい、ヤルダバオトは銀色のアーマーリングを装備した鋭い爪で応戦している。二人は何度も刃を交わし、その度に圧倒されるほどの攻撃の余波がイビルアイのところにまで響いてきた。

 あまりにも常識離れした戦闘に、イビルアイは補助をすることも忘れて完全に目を奪われる。

 正に歴史に刻まれるような……、吟遊詩人(バード)によって永久に語り継がれるような戦いが、目の前で繰り広げられている。

 しかし幸か不幸か、それは長くは続かなかった。

 モモンがグレートソードを大きく横に振り抜いた瞬間、ヤルダバオトは頭上高く跳躍してその背から大きな翼を出現させた。そのまま宙に浮かびながら、モモンやイビルアイを見下ろしてくる。

 

「残念ですが時間切れのようです。そこの仮面の人間は少々惜しいですが、仕方がありませんね。……これより王都の一部を炎で包ませて頂きます。もし侵入してくるというのであれば、煉獄の炎があなた方をあの世に送ることを約束しましょう」

 

 一方的にそう言うと、ヤルダバオトはこちらの反応も待たずに大きく翼を羽ばたかせた。

 瞬間激しい突風がイビルアイとモモンを襲い、思わず顔を背けて飛ばされないように強く地面を踏み締める。

 流れた時間はほんの数秒。

 しかし風が止んで再び顔を上げた時には、既に仮面の悪魔の姿はどこにも見つけることが出来なかった。

 どうやらヤルダバオトはこの場を去ったようで、思わず大きく息を吐き出す。

 しかしあの悪魔がこの都市を去ったわけでは決してないことを思い出し、イビルアイは思わず少し離れた場所に佇む漆黒へと走り寄った。

 

「ま、マズいぞ、モモン様! 早く奴を追って討たなければ!!」

「いや、それは無理だろうな。奴は計画を遂行させるために撤退を選んだ。追えば、奴は本気になって戦闘を始めるだろう。そうなれば……」

 

 モモンが途中で言葉を途切らせて黙り込む。しかしイビルアイはそこから続く言葉を理解していた。

 つまり、そうなればイビルアイ自身は死ぬか、或いはヤルダバオトの手に落ちると言いたいのだろう。

 死ぬのであればまだ良いが、その手に落ちてしまえばあちらの思う壺。そうなってしまえばどんな運命が待ち受けているのかは分からないが、少なくともモモンたちの足を引っ張ってしまうことは間違いないだろう。

 自分の不甲斐なさに気分が沈む中、ふと先ほどの自分自身が言った言葉を思い出してイビルアイは思考を停止させた。

 そういえば、自分は先ほど何と言った?

 いや、自分は先ほどモモンを何と呼んだ……?

 自分自身の先ほどの言葉を思い返した瞬間、イビルアイは仮面の奥で一気に顔を紅潮させた。カアァッと血が沸騰し、顔だけでなく全身が急激に熱を帯びる。

 

(わ、私はさっき何を!? モモン“様”って……、モモン“様”ってぇぇ!!?)

 

 思わず心の中で絶叫し、これまた心の中で身悶える。熱に浮かされたような自分の思考に、許されるならば頭を抱えて転げまわりたかった。しかしどんなに絶叫したところで、どんなに身悶えたところで、胸の中で高鳴っている鼓動は誤魔化しようがない。

 自分の危機に颯爽と現れて見事な戦いを繰り広げた漆黒の戦士に、イビルアイはすっかり心を奪われてしまっていた。

 

「……ところで一つお伺いしたいことがあるのですが……」

 

 イビルアイの内心を知ってか知らずか、モモンが丁寧な口調で話しかけてくる。

 いつの間に現れたのか、驚くほどに美しい美女を引き連れたモモンの姿にイビルアイは思わず口を開きかけた。しかし次の瞬間、突然視界が紅蓮色に光り輝いて咄嗟に口を閉ざす。

 反射的に視線を巡らせれば、その視界に巨大な紅蓮の炎が映り込んできた。

 

「………なんだ、あれは……?」

 

 信じられない光景に、思わず疑問の言葉が零れ出る。

 そこにあったのは巨大な炎の壁。

 高さはどの建物の屋根よりも高く、恐らく三十メートル以上はあるだろう。横の長さは推測することが出来ないほどに長く遠く続いており、数百メートルでは収まらない。街のど真ん中に突如現れて一区画を丸々包み込んだ炎の壁が、赤々と燃え盛っては街中を紅蓮の光に染め上げていた。

 正に常識では考えられない光景。

 無言のまま静かに炎の壁を見つめる漆黒の戦士と美女の横で、イビルアイは仮面の奥で大きく生唾を呑み込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 王国王都リ・エスティーゼに突如現れた巨大な炎の壁。

 “八本指”が所有する複数の拠点のうち、自身の攻撃目標である拠点を無事に制圧したラキュースは、次の拠点に移動する途中で炎の壁を目撃して急きょ計画を変更して炎の壁へと向かっていた。

 足音高く街中を走りながら、何とも言えない嫌な予感に無意識に顔を顰めさせる。

 実は先ほどラキュースが制圧した拠点は既に何者かに荒らされており、“八本指”のメンバーだと思われる者たちの死体が転がって生きている者は一人もいない状態だった。そして次に起こったのが謎の炎の壁の出現。

 自分たちの知らないところで何かが起こっているのは間違いなく、何とも言えない嫌な予感と不安が胸の中で渦を巻いていた。

 ふと、仲間や協力者たちは全員無事だろうか……という思いが湧き上がってくる。

 しかしラキュースはすぐさま小さく頭を振ると、先ほどの思考を頭の中から追い出して考えないようにした。

 今はそんなことを考えている場合ではない。仲間たちは勿論のこと、協力者たちもそれなりに腕の立つ者が揃っているため、ここで自分が心配する必要もないだろう。今は目の前のことに集中することが第一だ。

 自身にそう言い聞かせ、少しでも早く状況を把握するべく更に足の速度を速める。

 街の中を全速力で駆け抜け、炎の壁が処々に近くなってきた頃に漸く徐々に足の速度を緩めていった。駆け足から歩きへと足の動きを変えていき、目の前まで近くなった炎の壁へと更に歩み寄る。一メートルほどのところで漸く止まり、頭上高く燃え上がる巨大な炎を見上げた。

 視界を埋め尽くす目の前の炎は、それだけで迫力があり圧倒させられる。

 しかしここまで近づけば通常感じる筈の熱を全く感じないことに、ラキュースは思わず訝しげな表情を浮かばせた。

 一体この炎は何で、何故出現したのか。

 熱を感じないことに恐る恐る手を伸ばそうとしたその時、不意に視界の端で動くものを捉えてラキュースは反射的にそちらへと振り返った。

 瞬間、視界に映り込んできた存在に思わず大きく目を見開かせる。自分の目が信じられず、無意識に大きく息を呑んで、そのまま呼吸を止めた。

 ラキュースの視線の先にいたのは、無表情に炎の壁を見上げている一人の男。買い物でもしていたのか、片手に紙袋を抱え持って炎の壁のすぐ目の前でポツリと一人佇んでいる。後ろにかき上げた白い髪も、浅黒い褐色の肌も、一目で高級品だと分かる少し変わったデザインの服も、全てラキュースには見覚えがあった。

 しかし彼がこんなところにいるはずがない。

 何故なら彼は……。

 

 

 

「――………アインドラさん……?」

 

「っ!!?」

 

 不意に何かに気が付いたように男の金色の瞳がこちらに向けられ、ポツリと自身の名を呟かれる。

 瞬間、これは間違いなく現実だと理解したラキュースは、未だ信じられない心境ながらもドクンッと心臓を大きく高鳴らせた。

 こちらの存在に気が付いて歩み寄ってくる姿は、少し前に“ここにいてくれたら……”と願って思い浮かべた姿と一切変わらない。

 目の前まで歩み寄ってきたその男は、バハルス帝国にいる筈のレオナール・グラン・ネーグルその人だった。

 

「こんなところで会うとは奇遇ですね。お久しぶりです、アインドラさん」

 

 柔らかな笑みを浮かべて挨拶をしてくるのに、その優雅な動作も自分が記憶しているものと全く変わらない。

 目の前にレオナールがいるという信じられない光景に途端にドギマギしながら、ラキュースは必死に強張りそうになる口を動かした。

 

「お、お久しぶりです…、ネーグルさん……! で、ですが……、何故、ネーグルさんがこちらに……?」

 

 レオナールはバハルス帝国を拠点としているワーカーであるため、王国の……それも王都にはいないはずである。だというのに何故王国の王都にいるのかと疑問符を浮かべるラキュースに、レオナールはフッと笑みを含んだ息を一つ吐き出すと、次にはラキュースにとっては非常に魅力的な柔らかな笑みを浮かべてきた。

 

「実はカルネ村に少し用があって王国に来ていたのですよ。それで、折角なので王都の方にも足を延ばしてみようかと思い至りまして。丁度欲しい物もありましたしね……。後は、もし会えたらアインドラさんや他の“蒼の薔薇”の方々にも挨拶しようかと思っていたのですが、本当にお会いできるとは思っていませんでした。お会いできて良かった」

「っ!!」

 

 ラキュースの視界で、レオナールの笑顔がキラキラッと眩しいまでに光り輝く。

 あまりの眩しさに思わず目を忙しなく瞬かせながら、ラキュースは自分の顔が熱く火照ってくるのを感じていた。

 

(……私たちに、挨拶しようと……。…そ、それはつまり……、私に会いに……っ!?)

 

 少々飛躍気味な思考で途端に頭の中に花畑を咲かせる。

 目の前ではレオナールが変わらぬ笑みを浮かべたまま小首を傾げており、それによって長めの白い髪が炎の壁の光に彩られてふわりと優雅に揺らめいた。金色の双眸にも朱色の光が差し込み、まるで瞳自体が朱金に輝いているかのようである。

 ひどく整った美貌とも相まって思わず見惚れる中、不意にレオナールの金色に瞳が自分から逸れたことでラキュースは漸くハッと我に返った。

 

「……それにしても、これは一体何事なのですか?」

 

 レオナールの視線の先にあるのは、謎の巨大な炎の壁。

 彼の視線と言葉に今が緊急事態であることを思い出すと、ラキュースは思わず勢いよくレオナールへと身を乗り出していた。

 

「そ、そうです! ネーグルさん、どうか我々に力を貸してください!!」

 

 こちらに戻ってきた金色の瞳を真正面から受け止めながら、ラキュースは必死にこれまでの事情をレオナールに説明していく。

 そのあまりの熱意が思考を鈍らせたのか、はたまた予想外の夢のような再会に無意識に興奮していたのか……。

 レオナールの金色の双眸が一瞬不穏な光に揺らめいたことに、ラキュースは気が付くことはなかった。

 

 




遂にここまで来たぞー!(笑)
前回から日が空いてしまい、申し訳ありませんでした……(土下座)
とはいえ、ここから皆さんの大好きな『デミウルゴス計画(仮)』の始まりです!
原作とどう変わっていくのか、お付き合い頂ければと思います!

そしてイメージイラスト第二弾!
今回は原作とは違い装備を一新したデミウルゴスこと“魔皇・ヤルダバオト”になります。
お目汚しかと思いますが、少しでもご参考にして頂ければと思います。
イメージを壊したくない方はスルーして下さいませ(深々)






魔皇・ヤルダバオト:
【挿絵表示】

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