烏丸と別れたエクス達は、散発的に現れる天狗を次々と蹴散らして、バゼットの居るであろう御座所を目指して突き進む。
だがその最後の最後、御座所を目前にした中庭で、一人の女が雨に濡れながら二人を待ち構えていた。
「あらあら、うふふ……来てくれると思っていましたわ」
先を急ぐ足を止め、身構えるエクスとマキナ。
風華は強まった雨脚など気にもせず、雨に濡れた髪をかいて愉快そうに口の端を歪める。
「出ましたね」
「ああ、居るとは思っていたがな」
「うふふ、良かったですわ。マキナさんがちゃんと来てくれて……。うふふ、ここなら私も容赦なく本気を出せますもの」
風華が腰につけた鉄の筒からシュゥゥゥと蒸気が漏れ出し、風華が独楽のように自らの身をよじらせる──直後、風華の姿が消えた。
「──!!」
危機を察知してと咄嗟に身構えるマキナ。
直後、マキナの衣服の袖口が切り刻まれ、その白い柔肌が露出する。
「うふふ、驚きましたかしら?」
振り返るマキナ。
その遥か後方で、パシャパシャと言う水音と共に、風華が余韻を刻むように小さく跳ねていた。
「加速装置……ですか」
マキナは不機嫌そうな顔で風華の方へと振り返る。
「ええ、その通り。この筒は
言い終わると同時、風華の姿が蒸気音と共に再び消える。
「っう!」
マキナは身構えるが、またしても衣服が切り刻まれ、スカートの丈が半分になった。
「っ、嬲るつもりですか」
「勿論、貴方の身に着けた衣服が一枚一枚剥ぎ取られ、その美しい柔肌が露になる度、私は至福に包まれますの」
腰につけた筒の束をこれ見よがしにじゃらりと鳴らし、風華はぺろりと唇をなめ回す。
「……病的ですね。パブリックエネミーもほどほどにして欲しいです」
「まあ、睨みつけてかわいいですわぁ……。貴方の私に対する辱め、忘れていませんわよ。ですから……貴方は私以上に辱めて差し上げますわっ!!」
冷たい視線を浴びせるマキナを見て、恍惚の笑みを浮かべる風華。
そして、次の瞬間、またも風華の姿が消え、風華の匕首がマキナを襲う。
服の胸元が切り取られ、下着と共に露出したマキナの胸が柔らかく揺れた。
「むぅっ……!」
「うふふ、一度に剥いでしまっても情緒がありませんものね。ゆっくり、ゆーっくりと脱がせてあげますわ」
「変態ですね。更生すらも生ぬるいです」
興奮気味に頬を赤らめてトントンと小さく跳ねる風華。
マキナは静かなる怒気を宿してそれを見据えた。
「マキナ、手に負えそうか? お前の公開ストリップショーは、俺としても自分の身包みを剥がされているようで正直きつい」
苦戦するマキナを見かねて、横で静観していたエクスが堪らず声をかける。
「エクスはそこで見ていてください。エクスが割って入ったら、即座にそのまま切り刻まれます」
「なるほど、ならば仕方あるまい。俺は大人しくしているから任せたぞ」
エクスは濡れないように軒下に移動すると、瞑想するように目を閉じて腕組みをはじめる。
「あらあら、流石はマキナさん、ちゃんと分かっていますわね。うふふ、お互いに利のある提案でしたわよ」
「お礼は要りません。貴方を駆除するのに必要な手順ですから」
「あらまあ、言いますわねぇ。なら次は順番を飛ばして、そのお胸に着けた下着をいただいてしまいますわよ」
風華は匕首をぺろりと舐めて蒸気式物体加速装置を起動する。
「っ──!」
風華の姿が消える瞬間、それに合わせてマキナが身を翻す。
「あらあら? まあ!?」
マキナの遥か後方で、雨に濡れた髪を振り乱す風華が驚きの声を上げる。
「多少慣れてきました」
言って、風華から視線を逸らさぬまま、マキナは切り取られた衣服の端と端を結ぶ。
風華の刃は、本来の狙いと別に衣服のへそ辺りを縦に切り裂いていた。
「うふふ、凄いのですわね。謝りますわ、ごめんなさい。正直な所、私は貴方を見くびっていましたわ」
強まる雨脚の中、風華は懐からもう一本の匕首を取り出し、蒸気式物体加速装置を二つ同時に起動する。
「ですから、最大限の敬意をもって辱めて差し上げますわ──!」
「っう!」
腕を交差させて身を守るマキナ。
それを物ともせず縦横無尽に繰り出される刃が、マキナの衣服を細切れにして剥ぎ取っていく。
「あらあら、大胆で扇情的な格好になりましたわね。でも、この雨では寒そうですわ」
雨の中、湯気を立ち上らせて、愉快そうにぺろりと匕首を舐める風華。
マキナの姿は既にほぼ下着だけになっていた。
「外道……本当に外道ですね。エクス、頃合です」
「分かった。着ろ、マキナ」
軒下で静かに目を閉じていたエクスが腕組みを止め、来ていたコートをマキナに投げ渡す。
「感謝します」
「あらあら、ここで衣服を足してしまいますのね。いいですわよ、どっちにしろ次でおしまいですもの」
風華は再び蒸気式物体加速装置を二つ同時に起動する。
加速装置がボシュオォォと音を立て煙を吐き出す。
マキナは風華を睨みつけて、コートの内ポケットに手を伸ばす。
「その後は……押し倒して、その凍える体を温めてさしあげますわよおぉぉぉおぉ! めしべと! めしべが! ぺったんこですわああああああ!!」
「いいえ、これでおしまいです。卑猥で不愉快な外道は……即刻退場、ですっ!」
消える風華の姿。
それに合わせてマキナも動く。
マキナは前に飛び込むように跳躍すると、内ポケットから取り出したエレキテル刀を後ろへ投げ飛ばす。
体勢を低くしたマキナの上を風華の匕首が通り過ぎる。
「っな……よけっ──」
勝利を確信した剣閃に動きを合わされ、驚きの表情をする風華。
風華は匕首の軌道を調整しようとするが、その加速が仇となり、調整する前にそのままマキナの居た場所を突っ切っていく。
それを追うように刃の顕現したエレキテル刀が濡れた地面を転がっていく。
加速を終えた風華は振り返り、再度加速装置を起動しようとする。
だが、それよりも早く、風華を追うように雨に濡れた地面をエレキテルの刃が走り、風華の全身に牙を剥いた。
「ひゃっ!? ぴゃっううああああああああ!?」
風華は叫び声を上げると、金縛りにでもあったかのように全身をピンと伸ばしてその場に倒れ伏す。
「ふん、マキナを嬲るのに熱くなり過ぎだ。変態が仇になったな」
エクスは風華の敗北を見届けると、倒れた風華を一瞥して御座所の方に歩いていく。
マキナは余程気分が害されたのか、倒れた風華を見ることもせずに無言で先を歩いていた。
「っう……で、でもいいですわ……。マキナさんの下着の色、分かりましたもの……」
「本当に筋金入りだな、貴様」
足元で満足そうにそういう風華を見て、エクスは心底呆れたと言う風に肩をすくめる。
マキナは御座所の方を向いたまま、両手で自らの体を抱きしめて身震いするのだった。