ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様)   作:dayz

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試しにランサーと戦ってみた

「よくぞ来た。街を練り歩いて見たものの誰も彼も正面から俺に挑むこともできない腰抜けばかり。ようやく骨のある英霊が現れたようだな」

 

「なあに。すぐに後悔することになる。大人しく家に引き篭もっていればよかったとな。この私と戦うということはそういうことだ」

 

 夜の倉庫街で2人の英霊が対峙していた。

 1人はその手に赤と黄色の二振りの槍を両手に持ち、涼し気な顔立ちの美貌を持った伊達男。ランサーのサーヴァント。

 そしてもう一人は漆黒の道着に身を包み、格闘家のような出で立ちをした黒髪黒目の男。セイバーのサーヴァントだ。

 既にお互いのクラスはどちらも理解している。ランサーは獲物を見れば一目瞭然だし、セイバーはクラス名で同行者から呼ばれているのをランサーは聞いていた。

 

 セイバーの傍らには芸術品のような美しさを持つ、銀髪の美女がいる。彼女の名前はアイリスフィール。衛宮切嗣の妻であり、セイバーの護衛対象だ。

 衛宮切嗣は彼女を偽りのマスターとして囮にしてサーヴァントをおびき寄せ、その隙にマスターを狙撃で始末するという作戦を立てた。場合によってはサーヴァントの挟持を傷つけるような作戦だったが、何やら一方的に切嗣に友情か或いは共感を抱いたセイバーはそれに心良く賛成した。生前において手強い敵だった破壊神を、界王神を殺すことで消滅させた経験があるからかもしれない。

 

「不意打ち、奇襲。結構なことだ。お前達のような弱者は弱者なりに工夫をしなければ生きる余地すらないからな」

 

 あくまで他人を見下すような態度を一切改めないセイバーに、もはや切嗣も言うことを無くしたのか何も言わずに淡々と作業にかかった。

 もっともセイバーと組まされるアイリスフィールのほうは気が気でない。このセイバーはマスターである切嗣以外の人間をゴミのように見ているのだ。それは切嗣の妻子であるアイリスフィールやイリヤスフィールに対しても例外ではない。

 

 人の良いアイリスフィールは最初なんとかセイバーとコミュニケーションを取ろうと、何度か話しかけてみたが大抵は無視された挙句、最後にはドスの効いた重低音の声色で「黙れ」と言われてしまった。その時感じた恐怖は今でも胸の中に残っている。

 

 恨むわよ、切嗣……。

 

 思わず愛するべき夫にそんなことを胸中で呟いてしまったほどだ。

 だが、このセイバーが圧倒的な強者なのは間違いないのだ。高いステータスに反則的なスキルの数々。

 未だに宝具と正体は不明だが、スキルに神性まであった所をみると神霊の分霊というのも本当だろう。

 だが、聖杯戦争においてスペック上の強さがそのまま勝敗を決するということはありえない。様々な宝具や相性によっては絶対的な強者も足元をすくわれることもある。

 この囮作戦はセイバーを早めに戦わせて、彼の性能を確認するためのものでもあるのだ。

 そんなことを考えていたアイリスフィールを尻目に2騎の英霊は舌戦を終わらせ、戦闘に移ろうとしていた。

 

「随分と腕に自信があるようだな。いいだろう、最優と言われたセイバーに俺の槍が届くかどうか試してやる」

 

「英霊といえど所詮は人間か。その思い上がりをへし折り、その自慢の槍で貴様の墓標を作ってやろう」

 

「ほざけ!」

 

 その言葉と共にランサーが一陣の風となって襲いかかる。

 対するセイバーは無手―――剣道三倍段どころではない。剣どころか素手で槍を相手にするなどまともな勝負になるはずもない。

 それが常人の戦いならばの話だが。

 そしてここに居るのは常軌を逸脱した英霊達。常人の常識など当てにはならない。

 

 音を置き去りにして放たれたランサーの砲弾じみた刺突を、セイバーは槍の柄を叩いて軌道を逸らす。続く横殴りの一撃をこれもまた脚で蹴りあげて、上空へと跳ね上げた。

 ランサーが舌打ちをしながら、弾かれた長槍を回転させて石づきでセイバーのこめかみを狙う。

 それをセイバーは態勢を低くして回避すると、更に踏み込んでランサーの槍の間合いの内側へと入り込んだ。

 

 槍を振り回すこともできない、顔が触れ合う程の超至近距離。焦るランサーと嗤うセイバーの視線がぶつかり合う―――怯んだのはランサーの方だった。

 彼は理解してしまったのだ。セイバーの黒い瞳の中にある底なしの禍々しさを。このセイバーが真っ当な英霊ではないことを。

 

 ほんの一瞬の隙だがそれを見逃すセイバーではない。彼は掌をランサーの腹部に押し当てた。次の瞬間、セイバーの掌から光弾が放たれて、ランサーは光弾を腹にめり込ませたまま凄まじい勢いで吹き飛ばされ、背後のコンテナ群に突っ込んだ。続いて撃ち込んだ光弾が爆発してコンテナが数個纏めて上空へと吹き飛ぶ。

 

「おいおい。どうした?準備運動で死なれて貰っても困るんだぞ」

 

 爆発跡を見て、嘲笑うセイバー。一方アイリスフィールはサーヴァント同士の戦闘に―――というよりはセイバーの圧倒的な強さに思わず言葉を失っていた。

 素手で武器を捌く、その技量。

 そしてランサーを一撃で吹き飛ばしたAランク魔術にも匹敵するあの光弾。

 あの正体はアイリスフィールもセイバーのスキルとして切嗣に教えられていたので、既に理解している。

 だが知っているのと実際に見るのとでは天と地程の差がある。まさかこれほどまでに強力なスキルだったとは。

 

 この光弾を生み出した魔力放出(気)と呼ばれるセイバーのスキルは、彼が使っていた気功術がサーヴァント化するにあたって変質したスキルだ。

 彼の言うところの気功術はこちらの気功術とは全くの別物で、気をジェットのように噴出して空を飛んだり、エネルギー弾として射出したり、刃を形成したりバリア等としても使えるらしい。

 その技術の持ち主が魔力を燃料とするサーヴァントになった事により、魔力を気に見立てて自由自在にコントロールできるようになった。それがこのスキルだった。

 

 今ランサーに向けて放った光弾もこの魔力放出(気)によって生み出された圧縮された魔力弾だったのだ。もっとも今の威力もセイバーからすれば挨拶代わりのジャブのようなものでしかない。セイバーがフルパワーでエネルギー波を放てば対城宝具にも匹敵する威力を叩き出せるということだ。

 

 煙を上げ続けるコンテナの残骸を見て、まさかこれで終わってしまったのか―――。そう思うアイリスフィールだったが、流石にそれは楽観的な推測だった。

 炎上するコンテナが下側からはじけ飛び、コンテナの下から槍兵が飛び出す。ボロボロに汚れているが、不思議な事にその体は傷ひとつなかった。

 それを見たセイバーは眉をひそめた。

 

「流石は虫けら。生命力だけは無駄にあるようだ」

 

「……この身は主からの恩寵を賜った。この程度の手傷など手傷にすらならん」

 

 その言葉を聞いてアイリスフィールは槍兵が無傷な理由を理解した。

 

「セイバー! ランサーはマスターから治癒魔術を受けているわ! 生半可なダメージは回復してしまう!」

 

 セイバーは警告するアイリスフィールに一瞥を向けると再びランサーに向き直った。

 

「なるほど、害虫らしい生き汚さはそれが理由か。メインディッシュの前の前菜としては丁度いい。その悲鳴で私を楽しませてみせろ!」

 

 そう叫ぶとセイバーは跳躍し数十メートル上空の高さに来ると、全身から魔力を放出して空中で静止する。魔力放出(気)による舞空術だ。

 そして掲げた手の中に再び光球が生み出される。

 その光景にランサーが顔を引きつらせた。

 

「なんだと……!」

 

「精々逃げ惑え。這いずりまわる隙もない絶望を味わうがいい!」

 

 次の瞬間、無数の光弾が上空から降り注ぎ、倉庫街を蹂躙した。

 セイバーの両手から機関砲のような勢いで光弾が連射され、ランサー目掛けて放たれているのだ。

 幸いにもランサーはランサークラス特有の脚の早さでもって何とか光弾による爆撃を回避し続けているが、もし1発でも着弾して態勢を崩せば、続く何十発という光弾の雨を喰らうことになる。

 そうなれば如何に回復の魔術があろうと関係ない。この聖杯戦争のアサシンに続く脱落者はランサーになるだろう。

 

「おのれっ! 貴様本当にセイバーなのか!」

 

 逃げまわりながらランサーが、空中に陣取り光弾を連射するセイバーに向かって毒づく。

 思わずアイリスフィールも敵の言葉ながら心の中で同意した。

 確かに空中から光弾を乱射するという戦闘スタイルはセイバーというよりもアーチャーのようだ。

 

「爆殺よりも切り刻まれる最後がお望みかな? いいだろう、望み通りの死に方をさせてやる!」

 

 その言葉と共にセイバーは光弾の乱射をやめて右手を横に突き出す。そして同時に全身から黒い魔力炎をまき散らした。セイバーの全身を覆う魔力炎は瞬く間に右手に収束して魔力炎で形成された黒いエネルギーの剣となった。これがセイバーの『剣』なのだ。

 

「死ねいっ!」

 

 咆哮と共に空中にあったセイバーが弾丸のような速度で、地上のランサー目掛けて突っ込んでいく。

 

 疾い!

 

 ランサーは予想外の速度で空から突っ込んでくるセイバーに、反射的に長槍の刺突を見舞った。だが槍の穂先がセイバーの顔面を貫くよりも早く、セイバーがランサーの視界から掻き消える。

 それが舞空術によりランサーの死角である上空へと飛び上がり、槍を回避して後ろに回り込んだのだと気がついた時はもう遅かった。

 防御も迎撃も諦めてランサーは全力で前に飛び込む。後ろから放たれた斬撃によって背中を大きく切り裂かれたが、この判断は正解だった。

 もし振り向こうとしていればランサーは恐らく上下二つに切り分けられていたに違いない。

 

「どうだ? 望み通り、剣で戦ってやったぞ?」

 

 セイバーはランサーを深追いせずに空中に浮かんだまま彼を嘲笑う。

 

「まさかこれほどの強者だったとはな……」

 

 ランサーは背中の傷がマスターの魔術で回復していくのを意識しながら、改めてセイバーを見やった。

 素手で自分の槍を捌く技量。並みのアーチャーの矢雨やキャスターの攻撃魔術をも上回る強力な遠距離攻撃。そして空を高速で飛行可能という下手なライダー以上の機動力を持ち、更に飛行術を応用した変幻自在な動きに加えて、腕から魔力の剣を生み出すことにより近距離戦でも絶大な強さを誇るのだ。

 あらゆる状況において隙がない。これ程の強者は神話の英雄達の中にもそうはいまい。

 

 だからこそ挑みがいがある。とランサーは獣の笑みを浮かべた。

 既に彼のマスターは撤退しろ、とがなりたてているがこのセイバーは背中を向けても逃してくれるとはとても思えない。逃げるにしても一撃を加えて、相手の虚を外さなければ逃げる事すらできないだろう。

 むしろ自分が先に逃げては現場に潜んでいるマスターの方が危険になる。

 

(申し訳ありませんマスター。勝手な判断ですが宝具を開放させて頂きます。こいつには宝具無しで渡り合うには余りにも危険……!)

 

 そう思い宝具封じの封印を解こうとした瞬間、凄まじい落雷音が戦場に響き渡った。

 




 空飛んでビーム撃てるとかそれだけでもうずるい。

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