ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様) 作:dayz
「信じられないな……。君があの孫悟空だなんて……」
切嗣は紅茶を飲みながら自らが呼び出したサーヴァントに疑問を投げかけた。
召喚の儀式が終わった後、2人は自己紹介の為アインツベルンの城の客室へと場所を移していた。
アーサー王を召喚出来なかったことに対して、アインツベルンからの叱責が来ると思ったが、今となっては簡単に壊れてしまった聖剣の鞘が本物かどうか怪しいものだ。
それを向こうも理解していたせいか、特に咎めることもなくアインツベルンの当主は無言で部屋に引きこもってしまった。
むしろこうなると切嗣も自分の好きなように動けるので都合がいい。どの道聖杯戦争に挑むのには変わりないので今は自分が喚び出したサーヴァントの性能を確認するのが大事だ。
そこで切嗣は改めて最初のセイバーの発言に疑問をぶつけたのだ。
もっともその疑問をぶつけた相手はそのことを気にした様子もなく、紅茶の味を楽しんでいる。
黒い道着を着こなしたまるで格闘家のようなその外見はとてもではないが、セイバー(剣士)には見えない。だが一見粗野にも見える外見とは裏腹に、その所作は随分と洗練されていた。この部屋の主のはずの切嗣のほうが客人に見えるぐらいだ。
「そう呼ばれたこともあるということだ。お前の知る孫悟空と私の言う孫悟空が同じとは限らんぞ?」
ひと通り紅茶の味を楽しむとセイバーはゆっくりと答えた。どうということもない返事だが、いちいち声に迫力があるため、切嗣は返答一つ返すにも気を張らなければならなかった。
「では、お前は何者なんだ? 真名はなんだ」
「二度も言わせるな。この私の高貴な名前は下等な人間の歴史などには入ってはいまい……。お前達にもわかりやすく言うならば神の現身といえばわかるか?」
その返答に切嗣は体を震えさせた。
「馬鹿な……、聖杯戦争で神霊など呼べるはずが―――」
「無論、そのものではない。この地の貧弱な聖杯ではこの私の圧倒的な力を再現することなど不可能……。今の私はこの地の行われる戦争の規模に合わせてオリジナルの何千万、いや何億分の一というレベルまで徹底的に力を削ぎ、霊基を縮小させた存在だ。出がらしのような力しか振るえず、地を這う虫けらと同じ視点になるというのは屈辱的だが、なかなか斬新な体験だ。もっともこの地のゴミを掃除するにはこれでも充分だがな」
―――これで出がらしだと? 冗談もいい加減にしろ。
切嗣は喉元まで出たその言葉をなんとか飲み込んだ。サーヴァントなど早々何度も見る機会はないが、それでも切嗣は断言できる。
このセイバーは間違いなくトップクラスのサーヴァントだと言うことを。
試しにステータスを覗いてみた所、そのどれもが高レベルで纏まっていて隙がなかった。スキルにしても反則じみたものばかりだ。
あらゆる状況であらゆる敵と互角以上に戦える、まさに最優のセイバーに相応しいステータスだった。
「私のことはセイバーとだけ認識していればそれでいい。ふむ、最優と呼ばれるクラス、セイバー。気高さと強さを兼ね備えるこの私にはピッタリのクラスではないか」
そう言ってセイバーは笑いながら、紅茶のカップを持ち上げた。
その様子をみて切嗣は内心でため息をついた。どうもこのセイバーは自己を恐ろしく高く見積もり、他人を下等だと見下しているところがある。そしてそれを隠そうともしていない。
とんでもないナルシストのようだが、同時にその自己愛に見合った実力を持っているのは間違いないのだ。
流石の切嗣でも相棒にお前気持ちが悪いぞ、とは言えはしない。それどころか下手にその辺りに言及したら命に関わることになるかもしれない。それは真名に関しても同じことだ。こいつに洗いざらい自分を喋らそうと思ったら、令呪を3画使っても足りるかどうか。
この男の自己愛の高さを見るに、自分に無礼を働いた相手は何を差し置いても殺しにくるというのが容易に想像できた。つまり令呪を使って彼の情報を吐かせようとしたら、自動的に令呪全画を使い尽くすレベルの決裂になるということだ。
喉の奥まで込み上がってきた言葉を飲み込んで切嗣は別の質問を吐いた。
「では真名はいいので宝具と戦い方を教えてくれ。それぐらいならいいだろう?」
「私の戦い方はこの身を用いて相手を殲滅する。宝具は……強いていうならばこの肉体そのものだ。神であるこの私は貧弱な人間のように武器を用いる必要はない」
「セイバーなのに剣は持っていないのか」
「持っているとも。この私の清純な心に生まれた正義の怒りという名の刃をな」
切嗣は頭痛を感じながらもそれでも次の質問をしようとして―――セイバーに遮られた。
「次は私が質問する番だ。我がマスターよ。お前は何を聖杯に求める。しっかり考えて答えろよ。神に虚偽は許されない」
もし嘘を付けば死に繋がる。
言外にそう言いながら、セイバーは鋭く切り込んできた。切嗣は一瞬迷ったが、あえてそのままを答えることにした。
「―――恒久的な世界平和。僕は聖杯を使ってこの世に争いのない真の平和な世界を作り出してみせる」
馬鹿にされるか、笑われるか。
そのどちらかだと思っていた切嗣はセイバーの意外な反応に唖然とした。
いや、唖然としているのはむしろセイバーの方だった。まるで信じられない物を見たと言わんばかりに大口を開けてぽかんとしている。
切嗣からすれば馬鹿にされると思っていただけに、この反応は予想外だった。
しばらくセイバーは切嗣の方を驚きの視線で見ていたが、やがて手にした紅茶のカップをテーブルの上に置き、ゆっくりと切嗣の方へと歩いてきた。
反射的に身の危険を感じ、令呪に意識を向けるがそれよりも早くセイバーの手が切嗣の肩を捕まえていた。
だが、そこからのセイバーの行動は切嗣の予想を超えていた。
なぜならセイバーは―――そのまま切嗣を力強く抱きしめたのだ。
「……素晴らしい」
「え?」
余りの出来事に思考が追い付いていない切嗣に対してセイバーは続ける。相手が自分の言葉を聞いているかどうかなどこのセイバーにとって関係ないのだ。
「お前は確かに嘘は言っていない。神である私にはわかる。間違いなく本心からそれを言っている。実に素晴らしい。貧相だが仮にも万能の願望機を前にして、そのような事を言える者が下等な人間にいようとは! お前は確かに我がマスターに相応しい存在だ! お前のその美しき理想がこの私を喚びよせたに違いあるまい!」
切嗣を抱きしめたままセイバーは感極まったように叫ぶ。だがテンションが上がっているセイバーとは裏腹に切嗣のほうは、彼に抱きしめられても嬉しくもなんともなかった。
自らのサーヴァントが自分の目的を肯定してくれたのだ。本来なら喜ぶべきことだが、何かが違うと切嗣の理性が訴えていた。
こいつの平和の定義と僕の平和の定義は何か決定的な違いがあると。
だがそんな切嗣の迷いなど知ったことではないとばかりにセイバーは切嗣を抱きしめたまま叫び続ける。
「いいだろう我がマスターよ! お前の望みは我が望み! 私はお前の刃となって立ちふさがる愚か者達に裁きを下してやろう! そして共に理想郷を実現しようではないか!」
セイバーの狂気じみた声がアインツベルンの城に響き渡っていった。
その狂気にあてれられた切嗣は、セイバーが何か致命的な勘違いをしていると知りつつも、その間違いを是正することができなかった。
ゴクウブラック「世界平和(人間滅ぼす)」
切嗣「世界平和(なんか聖杯に頼めば何とかしてくれるやろ)」