ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様)   作:dayz

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乖離剣炸裂!ギルガメッシュがやらねば誰がやる!

 セイバーが生み出した次元の亀裂から喚び出された異形の軍団。征服王イスカンダルはひと目でその正体を看破した。

 生前、幾度も刃を交えた宿敵にして、勇猛な古代ペルシア王を忘れるはずもない。

 

「あれはダレイオス三世……!? では周りの兵士達は奴の近衛兵団『不死隊(アタナトイ)』か!?」

 

「ほう? あれは貴様の知り合いか? では俺が切り裂いた次元は貴様の因果へとつながっていたようだな」

 

 セイバーは楽しげに答え合わせをする。彼の怒りを形とした真紅の大鎌は、次元を切り裂き、様々な可能性を引き寄せる。それは時として別の世界の自分自身であり、或いは敵の因果線を辿り、相手にとって因縁深い敵を呼び寄せる。その効果は一定ではなく、実際に次元の裂け目から何が出てくるかはセイバー自身にもわからないのだ。

 ウェイバーと同じく戦車の御者台に乗っていた時臣は、それが意味することに気が付き震えた。

 

「そんな馬鹿な……。これではまるで根源に干渉しているようなものではないか……!」

 

 これは形こそ変則的だが英霊の召喚に近い。ましてや次元を突き破って、直接英霊をサーヴァントとして引き寄せてくるなど聖杯でもない限り不可能なはずだった。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 再び狂気を帯びた咆哮が上がる。ダレイオス三世だけでなく、彼が従える兵士達も実体化を開始したのだ。

 その姿は王の軍勢のような生身のそれではない。肉を持たない無数の骸骨兵士の集団―――これこそはダレイオス三世の宝具『不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)』だ。実体を得た彼らは血に飢えた獣の如く、この地に展開していた王の軍勢の兵士達に襲いかかっていく。

 突如として始まった大混戦に征服王は慌てて、彼らの王たるダレイオス三世に声をかける。

 

「おいっ! よさんかっダレイオス三世! 今は我らが相争っている時ではない! まずは協力してあのセイバーを……!」

 

「■イ■■ス■カ■■ン、■ダ■ル―――!」

 

 しかしダレイオス三世からの返答は戦斧の投擲だった。

 イスカンダルは戦車を操って何とかそれを回避する。

 

「いかん! あやつよりにもよってバーサーカーで顕現しとる! こっちの話が通じん!」

 

「どうすんだこれ!? 敵が更に増えたぞ! 収拾がつくのかこれ?!」

 

 御者台でウェイバーが頭を抱えて、悲鳴を上げる。今回ばかりはイスカンダルといえど全く同じ気持だった。

 地上の戦いは王の軍勢が優勢だ。今は混乱し、押されているとはいえ、何しろ相手の総数は最大で一万に対して、こちらはまだ数万は残っている。加えて軍勢の兵士たちは英雄王の宝具で強化されている。時間さえあれば殲滅することはできるだろう。

 だがこれはそんな話ではない。

 ダレイオス三世がいる限り、王の軍勢の大半はあちらにかかりきりになり、まともに運用できなくなる。そしてこのセイバーがダレイオス三世を倒すまで大人しくしてくれるわけがない。

 

「貴様の死に様を見るために観客も集まったようだ。派手に散らしてやろう!」

 

 予想通りセイバーが楽しげに笑いながら、大鎌を手に突っ込んでくる。自らの王を支援するために地上から弓兵隊が矢を射掛けるが、統率が取れてなく、散発的だ。

 当然そんなものがセイバーに通用するはずもない。そのままセイバーは一気に征服王を戦車ごと破壊せんと腕を振りかぶり―――

 

「天の鎖よ―――!」

 

 ―――背後から射出された鎖にその腕を絡めとられた。

 

「貴様……まだ前菜の分際で生きていたのか」

 

 鎖に絡まれた腕はそのままに、ゆっくりとセイバーは後ろを振り返る。果たしてそこに居たのは、セイバーの腕に絡まった鎖の端を持つ黄金の英雄王の姿であった。黄金の飛行船はまだ使えないようで、代わりに浮遊する絨毯の上に佇んでいる。その鎧は大きく凹み、かつて程の輝きはない。そしてその顔は血と砂に塗れていたが、かえってそれが彼の壮絶なまでの美しさを彩っていた。

 

「生憎だが、貴様に用意した馳走はまだまだ残っている。貴様の腹が弾けるまで胃袋に詰め込んでやろう!」

 

 その言葉と共にセイバーの周りの四方の空間が揺らめき、全方向から宝具の雨が発射される。

 だが、セイバーは動じずに自由なほうの腕で大鎌を一振りし、真紅の衝撃波をまき散らして、その全てを迎撃、吹き飛ばした。

 

「また馬鹿の一つ覚えか! いい加減その芸にも飽きてきたぞ、アーチャーぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 一言吠えるとセイバーは腕の鎖を力任せに引きちぎり、英雄王へと突進する。

 

「ならばこの様な趣向はどうだ!? 『王の号砲(メラム・ディンギル)』!!」

 

 その真名開放により、射出され、セイバーに蹴散らされた宝具の群れが次々と爆発しセイバーを飲み込んだ。

 ―――『壊れた幻想』。ギルガメッシュは自らの唯一無二の宝具の原典を自爆させて、投射するだけでは決して実現できない火力を生み出したのだ。

 この戦法は財宝のコレクターでもあるギルガメッシュにとって、まさしく最後の手段であった。自爆した宝具は修復にも手間取り、下手したらそのまま永遠に失われてしまう場合もあるのだから。

 だがそれ故にその破壊力は絶大だ。宝具を文字通り、全て火力として消費し尽くしてしまう為、概念兵装としての効果は望めなくなるが、どのみち神霊と化したセイバーには生半可な概念など通用しない。

 ならば最初から爆弾として使い切るべきだという合理的な判断だった。

 

 しかしそれでもセイバーには倒し切るには及ばない。

 爆炎の中から狂笑を浮かべながら飛び出してくるセイバーを見て、英雄王は悔しげに舌打ちした。相変わらず尋常ではない耐久の高さだ。これでも倒せなければ、残された方法は彼の最強の武器を使うしかない。

 しかしその最後の手段でもセイバーを倒せるかどうか疑問であり、外せば二重の意味で自分達が危機に陥る。なんとかしてその切り札を切る為のチャンスを見極めなければならないのだ。

 

「涙ぐましい努力、ご苦労! せいぜい絶望に足掻いて俺を楽しませてみせるがいい!」

 

 セイバーは鎌を消滅させると、武装をより小回りのきく真紅の光刃に切り替えて、接近する宝具の群れを爆発するよりも先に次々と両断しつつ、英雄王の首を狙う。

 英雄王のほうも黙って見ているわけはなく、更に広範囲に爆弾と化した宝具をばら撒きながらセイバーの間合いから逃れるべく空飛ぶ絨毯を操り、遅滞戦闘を開始した。

 

 戦いの場が一旦、自分達から離れたことによって征服王は一息ついた。だがどの道英雄王一人では長くは持つまい。早々に軍勢をまとめ上げて、自分も援軍として加わる必要がある。しかしその前に彼にはやるべきことがあった。

 

 彼は一旦戦車を地上へと降下させた。王の軍勢からも、ダレイオスの軍勢からも離れた場所だ。そして腰から剣を抜いて一振りし、空間を切り裂いて自らの愛馬を呼び寄せた。

 アレクサンダー大王の愛馬、伝説に名を残す人喰い馬ブケファラスである。

 乗り手と同じく規格外に巨大なその駿馬は不満げに唸ってみせた。

 

「おお、すまんすまん。折角お前を時空の果てより呼び寄せたのに、放置してしまったわ。余もお前と共に戦場を駆け巡りたかったのだが、今回はそんな贅沢すら許されぬ大敵なのだ。許せ」

 

 そう自らの愛馬に釈明する征服王。それに対してブケファラスは仕方ないな、と言わんばかりに鼻息をついた。どうやら許してもらえたようだ。

 それにホッとした征服王は彼女が更に不機嫌になると知りつつ、本題に入る。

 

「で、だ。ブケファラスよ。悪いがもう一つ頼みがある。お前にはその俊足で今から我がマスターと我が戦友である英雄王のマスターをこの戦場の外に送り届けて貰いたい」

 

 その言葉に驚いたのは、ウェイバーと時臣だ。

 

「ちょっと待てよ! 僕達に逃げろってのか!」

 

「そうだ。これより余は残る軍勢をまとめあげ、英雄王と共に奴に突貫する。それで倒せればいいのだが―――もしそれでも倒せなかった時の為に手を打っておく必要がある」

 

 遠坂時臣がその征服王の言葉の意味に気がついた。

 

「なるほど。征服王よ。貴方は我々にセイバーのマスターを抑えろと、そう言いたいのですね?」

 

「その通り。はっきり言って今のセイバーには真正面からではどんな英霊も勝てんだろう。だがサーヴァントであることには代わりはない。セイバーのマスターを探し出し、なんとか奴を説得するか、令呪を奪うのだ。これは余の勘なのだが、恐らくはセイバーのマスターもセイバーに振り回されている形になっているはずだ。そこに説得の余地なり、つけ込む余地があるはずだ」

 

 時臣は初めてセイバーと接触した時に、セイバーが自分のマスターについて語っていた時の様子を思い起こした。彼は一見マスターを重んじていたようにも見えたが、口先とは裏腹にその態度は余りにも邪悪かつ不遜だった。とてもではないが、両者の間に敬意も信頼関係もあるとは思えない。

 アインツベルン……いや、衛宮切嗣の目的は不明だが、ここでもし征服王と英雄王の二騎がかりでセイバーが倒せなかったら、恐らくこの世にセイバーを倒せるものはいなくなるだろう。

 奴は聖杯を手に入れ受肉し、その圧倒的な力で宣言通り人類を滅ぼしにかかるはずだ。

 もはやそうなれば聖杯だの遠坂だのアインツベルンだのと言った問題ではなくなる。一人の人間としてこの世界を守るために動かなければならない。

 

「わかりました。セイバーのマスターを抑える役、我が主、英雄王の為にも賜りましょう」

 

「うむ。ついでにバーサーカーとそのマスターの方も抑えておいてくれ。我らが負けた後では並みの英霊一騎では大した戦力にならんかもしれんが、戦力は大いにこしたことはない」

 

 その言葉を聞いて時臣は、渋面になったがすぐに頷いた。今は個人的なしこりは置いておくべきだ。

 

「バーサーカーのマスターが私の言葉を聞くかどうかわかりませんが……、できるだけのことは致しましょう」 

 

「ちょ、ちょっと待てよ! 僕はまだ納得してないぞ!」

 

「安心しろ坊主……いや我がマスターよ。お前にはお前で頼みたいことがある。ほれこれを持て」

 

 そう言って征服王は戦車の荷台から巨大な包みを取り出して、ウェイバーに持たせる。

 

「うわっなんだこれ、重いぞ!?」

 

「ハハハ、それは英雄王めに頼んで余が所有権ごと譲り受けた宝具の一つよ。極めて強力だが使い捨ての宝具故に、微力な魔力さえ込めればお前の様な未熟な魔術師でも発動する。お前にはそれでいざと言う時、聖杯を破壊してもらいたい」

 

「せ、聖杯を? どういうこと?」

 

 その意図に気がついたのは正当な魔術師として優れた遠坂時臣のほうだった。

 

「なるほど。最悪、我ら全員が敗北しても聖杯さえ破壊すれば奴の受肉だけは防げると、そういうことですね?征服王殿」

 

「その通り、出来れば聖杯そのものよりもこの聖杯戦争の根幹となる術式を破壊したほうが効果的だろう。奴もあくまで聖杯の力で具現化しているに過ぎないのだからな。」

 

「術式ですか……。心当たりがないわけではありませんが……」

 

 そう言って時臣は顔を曇らせた。確かにそれには心当りがある。というか御三家の当主である彼は、そのものを知っている。同時にそれを破壊すれば自分達の長年の努力が水泡に帰すことも。

 どう答えるか、時臣が迷ったその時、一際大きな爆発音が固有結界内に響き渡る。

 セイバーと英雄王の死闘が一層激しくなったのだ。

 もはや時間がないと見た征服王はマスター二人をブケファラスの背に乗せる。轡に脚も届かないため、二人は無様にしがみつくような形になり、ブケファラスは不満げに首ををふるも彼らを拒絶することはなかった。

 

「分かっとると思うが、この一戦は聖杯戦争の枠組みを超えた人類の危機だ。聖杯が勿体ないからとかそのような理由で躊躇うでないぞ! では頼んだぞ! ブケファラス! そしてマスター達よ! 幸運を祈る!」

 

 そう言って自分は再び戦車の手綱を握り、戦場へ舞い戻ろうとする。

 その征服王にウェイバーが声をかけた。

 

「ま、待てよライダー!」

 

「なんだ、坊主?手短に頼むぞ」

 

 動きを止めた征服王に向けてウェイバーは掌の令呪をかざしてみせた。

 

「我がサーヴァント、ライダーよ。オマエのマスターたるウェイバー・ベルベットが令呪を持って命じる―――必ず勝利しろ!」

 

 その言葉と共にウェイバーの令呪の一角が光とともに消える。

 

「更に重ねて令呪を持って命じる。必ず生き残れ!」

 

 再び令呪が光って二画目が消える。

 

「最後に令呪を持って命じる。あのくそったれのセイバーをあの世までぶっ飛ばしてこい、ライダー!」

 

 そして三画目の令呪が光輝き、ウェイバー・ベルベットの手から令呪が完全に消え去った。

 それを見た時、彼は自分はなんて馬鹿な事をしたのかとほんの少し後悔が湧き出た。すぐ側にいる遠坂時臣の唖然とした視線がそれに拍車をかけた。

 

 そりゃそうだ。まともな魔術師なら―――同じ令呪を使うにしてももっと賢く使うもんだ。

 

 が、そんなネガティブな感情も自らのライダーに頭を撫でられた瞬間、完全に消え去った。

 ライダーは楽しげに笑っていた。

 

「余としたことが少々悲観的になり過ぎていたようだな。よかろう。必ずやあの忌々しいセイバーを地平線の彼方まで跳ね飛ばして、この聖杯戦争の勝者になってみせよう! そして勝利の暁には再び我がマスターと大空を駆け巡ろうではないか! ではまたな!」

 

 そう言うとライダーはウェイバーの返答を待たずに、戦車を駆り上空へと駆け上がって行った。別れの挨拶にしては余りにもあっさりしているが、そもそもライダーにとっては今生の別れではない。この戦いに勝利した後はまた会うつもりなのだから、これぐらいで丁度いいのだ。

 

「あ……」

 

 ウェイバーが空に駆け上がっていくライダーを見て何か言いかけた。しかしそれより早く、主の命を受けたブケファラスも彼と遠坂時臣を乗せて、また走りだす。伝説の英霊馬は瞬く間に固有結界を抜けだして冬木市へと舞い戻った。

 

 

◆      ◆

 

 

「待たせたな! 英雄王!」

 

「遅いぞ、征服王! 昼寝でもしていたか!」

 

 セイバーと空中戦を繰り広げる英雄王の側に征服王がついたのは、マスター達を送り出してから数分後のことだった。

 

「ははっ! なあに、軍団の編成に手こずってな! ともあれ我らがマスター達は外に送り出しておいた! 残った戦力もかき集めてきた! 第二幕の始まりだ!」

 

「笑わせる。第二幕だと? これで終幕だ! 貴様らがな!」

 

 征服王の言葉を聞いたセイバーが鼻で笑う。もはや英雄王は消耗しきっており、風前の灯火だ。そして英雄王が消滅すれば、彼が王の軍勢に貸し与えた宝具も消えて、征服王達など雑兵の集団と化す。

 

「あまり人間を侮るなよセイバー! 皆の者、撃てい!」

 

 征服王の号令と共に地上から統率された一斉射撃が行われる。矢、投槍、魔術、更に宝具による遠距離攻撃だ。

 流石にこれを完全に無視するわけにはいかず、驚きながらもセイバーは大きな回避行動を取る。

 先ほどまでの地上からの攻撃はあくまで散発的なものだった。何しろ彼らの敵はセイバーだけでなく、次元の裂け目からやって来たダレイオス三世とその配下の兵士達もいたのだから。

 疑問に思ったセイバーが地上を見やると戦況は一変していた。王の軍勢はいつのまにか二手に分かれていた。片方の部隊がダレイオス三世達を完全に抑えこみ、そしてもう片方の部隊がセイバーに向けて刃を向けている。

 征服王はこの僅か数分で対ダレイオス三世用と対セイバー用に部隊を分けて、再編成し直したのだ。

 

「空を戦場に選んだのは失敗だったな、セイバー! これならば大半が単なる予備兵力となるだけの地上戦と違って、我が軍勢の火力を存分に発揮できるわ!」

 

「ちっ! 雑魚どもが鬱陶しいわ!」

 

 咆哮と共にセイバーが光弾を地上の軍勢に向けて放つ。対軍宝具もかくやと云わんばかりの爆発が立て続けに起こり、英霊達が消滅していく。

 だがその隙を見て取った英雄王が再び天の鎖を四方から放ち、絡めとらんとする。それを見たセイバーは舌打ち一つと共に瞬間移動で回避。一瞬後、鎖の射線から僅かに離れた所に再出現する。

 それを見た英雄王は愉しげにセイバーに笑いかけた。

 

「どうした、セイバー? 以前の貴様ならそんな『鎖ごとき』避けるまでもなかったであろう?」

 

 その挑発にセイバーは答えない。ただ顔をしかめるのみだ。

 しかし答えがなくとも、その態度が答えとなっていた。

 征服王は得心のいった顔で推論を披露する。

 

「なるほどな。セイバーよ。どうやら貴様のほうも燃料切れが近づいてきたんじゃないのか?よーく見ると今の貴様からは、変身したばかりの時の圧倒的な神気が感じられんぞ?」

 

 征服王の推論は的を得ていた。このセイバーの変身―――宝具『神なる薄紅の闘気(スーパーサイヤ人ロゼ)』はステータスの圧倒的な向上と引き換えに、凄まじい魔力を消耗する。

 変身前の王の軍勢との戦闘、変身後の英雄王による徹底した遅滞戦闘により、セイバーは魂食いによって蓄えた魔力の大半を使い潰しつつあった。

 そしてセイバーの魔力量が減るにつれて、ロゼの戦闘力も落ちてきたのだ。

 ここが通常の空間なら再び市街地を爆撃でもして、魂食いを行えばいいが、生憎とここは征服王の固有結界内部。餌になるべき相手がいないのだ。

 渋々ながらセイバーは征服王の推論を認めた。

 

「確かにお遊びが過ぎたようだ。この姿は少々燃費が悪い。故に―――」

 

 その言葉の途中でセイバーが消えた。

 次に現れたのは英雄王の背後だ。その右腕には真紅の光刃が輝いている。

 

「早々に片付けるとしよう!」

 

「後ろだ! 英雄王!」

 

 征服王の警告に空飛ぶ絨毯に乗った英雄王は振り向きながら、大量の防御宝具を展開させた。

 

「受けてみるがいい!我が刃!」

 

 何重にも展開された防御宝具を無視して、セイバーが英雄王に向かって大きく光刃を一閃させる。次の瞬間、光刃から無数の真紅の光針が撃ちだされ、それらは全て盾の宝具を撃ちぬき、その奥にいる英雄王の黄金の鎧に食らいついた。

 

「貴様―――! よもや、まだこれ程の―――」

 

 英雄王が言えたのはそこまでだった。

 

「ハァッ!」

 

 裂帛の気合と共に光刃を振りきったセイバーが、まるで大陸の剣舞を思わせる残心を決める。

 それを合図にしたかのように、盾の宝具と英雄王の鎧に突き刺さっていた無数の光の針が一斉に紅く輝き、大爆発を巻き起こした。

 これにはさしものの防御宝具の群れも黄金の鎧も耐え切れず、英雄王が乗っていた絨毯諸共、木っ端微塵に砕け散る。

 征服王に見えたのは爆炎の中から鎧を砕かれた英雄王が、ボロ人形の様に地上に落下していく姿だった。

 

 反射的に助けに行く選択肢が頭によぎるが、あえてそれは無視する。あれはセイバーの必殺の術の一つのはず。最大の攻撃の後には最大の好機が生まれるのだ。

 故に―――彼の取る行動はただ一つ。

 

「AAAA―――ALaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!!!」

 

 即ち神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)の真名開放『遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』による渾身の一撃である。

 令呪の後押しもあり、全ての力を開放したゼウスの神牛は全力で空を疾走して上空からセイバーへと突撃する。

 だが、残心を終えていたセイバーは即座に反応し、突撃するチャリオットへと向き直った。

 右腕の光刃が解かれて、真紅の神気となってセイバーの全身を覆う。

 

 そして固有結界の上空で轟音が炸裂する。イスカンダルは驚愕に目を見開いた。

 事もあろうにセイバーは―――全力で突撃する二頭の神の雄牛の頭をそれぞれ片手で掴み、受け止めていたのだ。神牛がその蹄で空中を蹴りだす度に雷撃が放たれるが、それらはセイバーの纏う真紅の神気によって完全にシャットアウトされている。

 しかしそれでも完全に勢いを止めることは出来ず、二頭の神牛は頭部を押さえつけられながらも、そのまま地上へと向かって自由落下じみた全力疾走をやめることはなかった。

 高速で迫る大地。

 如何にセイバーと言えどこのままの勢いで地上に激突し、チャリオットと地面に挟み潰されれば唯ではすまない。

 だがセイバーの底力はこの神獣の力をも上回るものだった。

 

「このくたばり損ないがぁぁぁぁあああ!!」

 

 怒りの雄叫びと共にセイバーが二頭の雄牛の頭部を素手で握りつぶす。

 引き手を失った神威の車輪だが、慣性の法則までは消せはしない。

 そのまま戦車は完全に消滅するよりも先に、その重量を持って乗り手たるライダーとセイバーを巻き込み、地上へと墜落した。

 1トンを軽く越えるであろう重量物が時速数百キロで地面に激突し、クレーターを作り轟音をまき散らす。

 

 そしてそのクレーターの中心、砕けた戦車の破片を吹き飛ばして、セイバーが姿を現した。

 少しずつ光となって形を失いつつある戦車の破片を踏みつけながら、歩いてクレーターの外を目指す。

 

「全く……しぶとい連中だ…‥…これだから人間は……」

 

 大したダメージは負っていないようだが、セイバーの顔には疲労が滲み出ている。あくまで一介のサーヴァントに過ぎない状態で超サイヤ人ロゼになり続けるというのは、彼にとっても予想以上の負担を強いるものだった。

 今のセイバーは当初ロゼになった時の数十分の一の力もない。一刻も早くこの固有結界から出て、休息を取らなければならなかった。

 そこでセイバーは違和感に気がついた。固有結界がまだ解除されていない事に。未だ多数の軍勢が存在しているようだが、主たるライダーが死ねば間違いなく消滅するはずなのに。

 

 ―――まさか!?

 

 その可能性に思い当たったセイバーは珍しく焦りながらクレーターの中心、未だ完全に消滅していない戦車の残骸に向き直ろうとする。

 だが、遅かった。

 それよりも先に彼の足元の戦車の残骸を蹴散らして、満身創痍の征服王イスカンダルが飛び出し、彼を背後から羽交い締めにしたのだ。

 

「ライダーぁぁぁぁぁあ!死に損ないが、まだ生きてたのか!?」

 

「おうともよ!貴様を殺すまでは死ねんわい!」

 

「ほざけ!貴様ごときにこの俺を止められるか!」

 

 そう言ってセイバーは体に力をこめる。魔力炎ならぬ神気を全身から放出すれば征服王は吹き飛ばされるだろう。だが彼は笑って叫んだ。

 

「おお、確かに余一人では無理だろうな!やれい!英雄王!」

 

 その言葉と共に空間を無数の鎖が走った。

 

「なんだと!?」

 

 驚愕するセイバーを無視して、四方から放たれた天の鎖は彼を羽交い締めにする征服王諸共、何重にも縛り付ける。

 

「よくやった。大義であるぞ、征服王」

 

 労いの言葉と共にクレーターの淵から姿を現したのは、ボロボロの姿の英雄王であった。

 彼が身に付けていた美しい黄金の鎧はセイバーの光刃の奥義―――神烈斬によって粉々に砕かれ、上半身はその素肌を晒している。死闘の末、逆立っていた髪の毛は下ろされていて、顔には疲労が見え隠れしていた。それでもその紅い目には未だ戦意の炎が燃えており、その威光と美しさは些かも損なわれてはいない。

 そして彼の手には奇妙な剣が握られていた。それは剣というよりは、柱。3つのパーツが石臼のように互い違いに回転し、奇妙な重低音を響かせている。

 それを見たセイバーは不味いと思った。あれは自分を殺せる数少ない神の道具だと本能が告げている。

 

「英雄王! 貴様もかぁぁぁああ!! どいつもこいつも……なぜ神の下す裁きを大人しく受け入れんのだぁああ!」

 

「ふん!貴様のような身勝手な神の裁きなんぞ御免こうむるわい!」

 

「そぉうやって神の正義に背き続けるかぁぁあ! 貴様ら人間はその弱さゆえにぃいい!!」

 

 イスカンダルは最後の力を振り絞って、更にセイバーを押さえつけてくる。

 憤死寸前まで怒り狂いながら、セイバーは全身から神気を放出し、力づくで天の鎖を千切ろうとする。だが千切れない。

 

「なんだと……!?」

 

 その理由は彼の疲労だけではなかった。一緒に縛り付けられている征服王にもあった。彼も神性を有しているため、対象の神性が高ければ高いほど頑丈になる天の鎖の強度が増しているのだ。

 

「ふふふ……逃がさんと言ったろうセイバーよ。貴様はここで余と散りゆく定めよ。……英雄王! まだか…!? こっちはあばらが折れとるんだぞ……!」 

 

「ああ、待たせたな。征くぞエア……! 久方ぶりの神殺しだ……!」

 

 ギルガメッシュがイスカンダルの言葉に応じると同時に、彼が握る剣―――英雄王ギルガメッシュの最強宝具、乖離剣『エア』の発動準備が整った。

 固有結界すら揺るがせる颶風が互い違いに高速回転するパーツから放たれ、天地を切り裂く創世の奇蹟を再現せんとする。

 

「星喰らいの天の神よ―――地の理を思い知れ! 『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

 乖離剣から放たれる暴風が頂点に達する。

 3つの互い違いの巨大な魔力の渦は擬似的な空間切断を引き起こし、征服王の固有結界に巨大な亀裂を入れていく。

 乖離剣はその圧倒的な暴風によって偽りの地を裂き、天を割りながら、セイバーへと振り下ろされた。

 天の鎖に囚われたセイバー達の足元に巨大な亀裂が走り、大地が断裂する。蒼天が砕けて奈落の如く、闇が全てを飲み込む。

 

 破壊の渦はその余波でセイバーを縛りつける天の鎖すら打ち砕いたが、空間すら揺るがす圧倒的な暴風の前にはさしものセイバーも身動きが取れない。それどころか拘束していた鎖が吹き飛んだことによって、征服王と共に乖離剣によって生み出された奈落へと放り込まれることになった。

 

「おのれ―――! おのれっ!! ギルガメッシュっ! イスカンダルぅぅぅぅ! 神たる我がこんな―――こんなところでぇぇぇええええ!!」

 

 セイバーの怨念のこもった叫び声が、崩壊しつつある固有結界内部に響き渡る。が、それもすぐに掻き消え、後には崩壊する固有結界の悲鳴がそれを上書きした。

 無論生き残っていた王の軍勢達も、その崩壊する結界に巻き込まれて消滅していく。だが彼らの目に悔いや恐怖はない。彼らは奈落に落ちながらも、命を賭して神殺しを成し遂げた自分達の偉大なる王と、その戦友に簡易な敬礼をして消えていった。

 

「―――ふん。これほど興じた狩りは天の雄牛の時以来か。痛快であったぞ、征服王よ。」

 

 そうして全ての力を振り絞った英雄王も膝をつき、その場に大の字になって倒れこむ。

 まさしく、乾坤一擲の大博打は今ここに見事に相成った。

 初手からあの乖離剣を放てば、瞬間移動を使えるセイバーは容易く回避する。ロゼになった後は、力づくで相殺してくるだろう。

 更に『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』は対界宝具としての側面も持つため、下手に撃てば折角展開した征服王の固有結界を破壊してしまい、自分達が作り上げた包囲網を自分達で台無しにしてしまうことになる。

 

 故に乖離剣を振るうチャンスは一度のみ。だが征服王は見事にそのチャンスを作ってくれた。自分もそれに応じることが出来た。文句の付けようない勝利である。

 心地よい達成感に身を任せながら、ギルガメッシュは目を閉じた。そんな彼を砕けた大地が飲み込んでいく―――。

 

 

 

 

 

 




もうちょっとだけ続くんじゃ

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