ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様)   作:dayz

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究極のフュージョン!ギルガメッシュとイスカンダル! ※しません

 まず最初にセイバーに向かって放たれたのは、横殴りの雨の如き勢いで投擲された無数の宝具の投げ槍だった。無論その程度、セイバーにとって高速移動で躱すことなど造作もない。だがこの行動によって、魔力を練り上げて、かめはめ波のような一軍を壊滅させる大規模魔力砲撃を放つタイミングを失った。

 続いて無数の槍を構えた騎乗兵の集団が突撃してくる。

 

 普段のセイバーなら力任せに蹴散らしていただろうが、騎乗兵が構える色とりどりの宝具の切っ先がそれを躊躇わせた。

 つい先日格下と侮ったランサーの宝具に思わぬ痛手を負ったばかりなのだ。単に投げつけてくるだけのアーチャーのそれと違って、使い手のいる宝具には存分に警戒する必要がある。

 

 とは言え、警戒するべきはあくまで宝具の刃のみ。敵兵の大半は自分の敵ではないとセイバーは魔力探知と経験則から、王の軍勢のサーヴァント達の平均な戦闘力を既に見切っていた。

 故に奇襲も策もせず正面から騎兵のランスチャージを迎え撃つ。

 迫り来る槍衾が閉じきるよりも先に、常人どころかサーヴァントにすら視認すら出来ない高速移動で槍の内側へと飛び込むと、敵を見失い方向転換に手間取る騎兵達の後ろに喰らいつき、そのまま当たるを幸いに光剣で英霊達を片っ端から紙切れのように切り裂いていく。

 光剣で馬ごと兵士が両断される、蹴りで数人を巻き込んでなぎ倒される、エネルギー波で騎兵の集団が纏めて吹き飛ぶ。同じ英霊同士とは思えない程の一方的な差がそこにあった。

 だがそれを座して見ている征服王ではない。

 

「矢を放てぃ!」

 

 その一喝と共に後方に控えていた弓兵達が一斉に宝具の弓を引き、無数の矢を放つ。

 放たれた矢は文字通り矢雨となって、セイバーがいる地点に向かって降り注いだ。

 通常の軍勢の行為ならば、セイバーの付近にいる味方を巻き込むことも厭わない非情な攻撃と見るだろうが、彼らは王の軍勢。弓兵にしても一人一人が超常の達人だ。

 まるで矢に意思があるかのように、落下する無数の鏃は王の軍勢には当たらず、逆にセイバーと、彼の逃げ道になりうる空間に降り注ぐ。

 流石にうっとおしさを感じたのか、セイバーは気合とともに全身から全方位に向かって爆発的な魔力放出を行った。

 彼を中心に半径数十メートルが爆発し、圏内にいた騎兵達や飛んできた矢の雨が、纏めて薙ぎ払われて吹き飛んだ。

 

「ふむ。仕切り直しか……」

 

 その様子を見た征服王は慌てた様子もなく顎を撫ぜる。まだまだ兵士はいる。この攻撃は序の口に過ぎない。

 だが、

 

「いいや。これで終わりだ!」

 

 セイバーに取ってはこれは単なる仕切り直し以上の意味があった。周りを薙ぎ払ったのは雑魚を一掃するだけでなく、自分の攻撃の射線を通すためでもあったのだ。

 手から生えた光剣を振るとそのまま光剣は刃として射出されて、一気に征服王達のいる本陣へと向かう。

 

「―――たわけ。我を忘れるとはいい度胸だ」

 

 しかし、それは数十の盾によって遮られた。英雄王の展開した防御宝具だ。

 セイバーの光刃は英雄王の張った十数枚の防御宝具を突き破ったものの、そこでエネルギーを使い果たして減衰し消滅する。

 

「いいタイミングだ! 金ピカ!」

 

「我に守りなどと地味な事をさせるのだ。これで負けたら承知せんぞ?」

 

 意外と息のあったそのコンビネーションにセイバーは舌打ちした。本陣を直接叩こうにも英雄王が本陣の守りを固めているのでは、生半可な攻撃は通らず、一気に決着をつけるのは難しい。

 だが、自身に取って明らかに不利な状況にも関わらず、セイバーは楽しげな笑みを浮かべた。その顔に不快感を感じたのか、英雄王が反応する。

 

「何がおかしい。セイバー」

 

「笑っているのはこの孫悟空の肉体だ。戦う相手が手強ければ手強いほど歓びを感じる。度し難い戦闘民族のサガというやつだな。だが……私自身も悪くはない気分だ。強者を気取った屑どもを踏み潰すのは嫌いではない。屑は、いくら集まろうと所詮屑なのだ……!」

 

「大概に救えん輩よ。最早貴様は、ただの狂った神だ」

 

「神の思考を人間風情が理解できぬのも、無理なきこと。死んで悔い改めろ!」

 

 そう言って本陣に突撃しようとしたセイバーだが、その時ようやく気がついた。

 英雄王との会話の間に、いつの間にか彼らの背後に控えていた王の軍勢が陣形を広げ、自分を半球形状に包囲しつつあるということに。

 英雄王がこちらに話しかけてきたのは、この陣形が完了させるための注意を引くためだったのだ。

 

「突貫せよ!」

 

 征服王が吠える。その言葉とともに再び兵士達が武器を構えて突撃を開始する。

 先ほど騎兵が蹴散らされた事もあってか、彼らの先陣を切るのは歩兵部隊だった。

 セイバーが格闘も含めた超近接戦をも得意としていることを理解したのか、彼らの大半は内側に入られると脆い槍の宝具ではなく、剣の宝具を手にしている。

 

 セイバーは空を飛ぶことを意識するが、空に逃げれば再び先ほどの弓兵の一斉射撃が来るだろう。

 そこであえてセイバーは王の軍勢に押されるように後ろに後退し始めた。無論、後退速度と前進速度では後者のほうが早い。敵が臆したと見た歩兵部隊は更に気勢を上げて追いすがってくる。

 そして彼らの両翼からは騎兵部隊が更にこの包囲網をそのものを包むように、大きく広がっていた。先回りしてセイバーの背後の退路も断つつもりだろう。

 

 なんともいじましい努力ではないか―――。

 

 セイバーは蟻も通さぬと言わんばかりの陣形に僅かばかりの感心と、嘲りを持ってこれを賞賛した。

 元よりセイバーは王の軍勢の数をさほど脅威には思っていない。この宝具も征服王の采配も軍と軍とのぶつかり合いに真価を発揮するものだ。

 たった一人のセイバーに挑むには余りにも無駄が多い。

 例え数万の英霊軍団を呼びだそうと、実際にセイバーと刃を交える事ができるのはその中の極一部―――、精々が数十から数百といったところか。

 

 そしてそれ以外の戦力は唯の予備戦力にしかならず役立たずとなる。通常の軍隊相手ならこれ程の兵士の数は視覚的にも相当なプレッシャーになるだろうし、倒しても倒しても尽きることのない兵力は確実に敵の士気を削ぐ。が、そんな繊細な神経をこのセイバーが持っているわけもなかった。

 それにこれだけの大魔術いつまでも維持できるはずもなし。数を徹底的に減らしていけばいずれ瓦解するだろうとセイバーは当たりをつけていた。

 

 セイバーはそんな事を考えつつ、後退をやめて歩兵部隊に向かって襲いかかる。

 歩兵部隊の先頭に立つ兵士たちは、手にした剣を射程外にも関わらずこちらに向かって振りぬいてきた。次の瞬間、振り下ろされた剣から炎の渦や、不可視の斬撃、魔力の雷など、様々なエネルギーが飛び出してきてセイバーに襲いかかる。宝具の特殊効果だ。

 だが、セイバーに対しては余りにも貧弱だった。

 セイバーは手の光刃の出力を上げるとその全てを一薙ぎで打ち払い、続く返す刀で光刃を数十メートルにまで伸ばして歩兵部隊の先頭を纏めて薙ぎ払った。

 

「ハッ!英雄王よ! この期に及んで随分とけち臭いことをするな! 雑兵共には低級宝具しか恵んでやらんつもりか!?」

 

 セイバーの指摘通り、この歩兵部隊が使っていた宝具の剣は大半がランクの低い宝具だった。今の魔力と戦闘力が増大したセイバーの光剣なら、一合と持たずにへし折られる程度の物だ。

 事実先ほど薙ぎ払われた歩兵達は手にした宝剣もろとも四散している。

 

「ふん。図に乗るな下郎。貴様如きそれで充分ということよ」

 

「左様! どうしても神造クラスの宝具が欲しいというのなら、貴様の最後に腹一杯馳走してやるゆえ待っておけ!」

 

 征服王の言葉を合図にして、一度は蹴散らされた歩兵部隊が態勢を立て直して再び挑んでくる。

 だが今度は彼らの突撃に先じて、再び後方から弓兵の支援射撃が行われる。

 舌打ち一つと同時に光剣を発生させてない方の腕を一振りして、無数の光球を生み出し、迫り来る矢の雨を迎撃する。

 数百の鏃が数百の光弾に撃ち落とされて、蒼穹の空に連続的に派手な花火を咲かせた。

 その光景に口の端を緩めたセイバーだが―――すぐにその表情が驚愕に取って変わる。

 

「なんだと?!」

 

 放たれた矢の五月雨は確かにセイバーの魔力弾で大半が迎撃されていた。

 だがその内の4割程は迎撃されたのにも関わらず、威力を落とすこともなくセイバーに向かって飛んできたのだ。

 反射的に跳躍して回避するセイバー。そしてそれは正解だった。彼が先ほど居た所に突き刺さった矢は、爆弾でも炸裂したかのような大爆発を起こしたのだ。

 それを見たセイバーはカラクリに気がついた。

 

「低ランクの宝具の中に高ランクの宝具を混ぜているのか!おのれ、くだらん小細工を!」

 

「小細工結構! 戦場においては奇手、絡め手は相手を強敵と認めているからこその戦術よ! 喜べ、貴様は余がなりふり構わず全力で打ち倒すべき相手と認めているのだ!」

 

 セイバーの怒りの声に征服王が笑って答える。先ほどまで低ランクの宝具を装備していた兵士達は、セイバーの油断を誘う為のものだったのだ。

 

「下等生物の賞賛なんぞ嬉しくともなんともないわ!」

 

 最早、こんな無礼な連中の戦争ごっこに付き合うのはやめだ。とセイバーは考えた。どの道セイバーには必勝の戦術が残されている。

 再び襲いかかってきた兵士の群れを、視認すらできない超高速で掻い潜り、ついでに進路上にいる者をすべて切り捨てながら、一旦包囲網の外に脱出する。

 その結果、征服王と英雄王がいる本陣からは更に距離が離れてしまったが、問題ない。

 自分には距離というものは関係ないのだから。

 

 一旦軍勢から距離を取ったセイバーはその人差し指と中指を額に当てる。気を―――いや、魔力を改めて探る必要もない。目的のそれは自分の知覚にずっと引っかかっていたのだから。

 セイバーは瞬間移動を発動させてその場から消えた。

 

 

 

 

 次にセイバーが現れたのは征服王と英雄王、そして征服王の宝具たるチャリオットに乗ったマスター達が一箇所に集まる本陣の真後ろだった。

 無数の防御宝具も虚空を渡って現れるこの瞬間移動には為す術なし。

 後は無防備にその背を晒している彼らに、ありったけの魔力弾を叩き込めばそれでゲームセットだ。

 そう思った瞬間、セイバーの体は不可視の力によって、大きく上空に弾き飛ばされていた。

 

「ば、馬鹿な! 瞬間移動が弾かれただと!?」

 

 予期せぬ理不尽に珍しくセイバーが驚愕の悲鳴を上げる。

 だが彼に取って本当に最悪なのはここからだった。周りの空間が歪み、四方八方から無数の鎖が射出され、セイバーの体に絡みつき締め上げる。その力たるや、並の英霊ならそれだけで四肢がちぎれ飛ぶほどだ。

 

「ふん……。ようやく本命の罠にかかったか。我にここまでの手間を掛けさせるとは流石は狂っていても神といった所か。褒めてやる」

 

「おのれ英雄王……、これが貴様の切り札か!」

 

 締め付ける鎖の圧迫に顔を歪めながら、セイバーは叫ぶ。英雄王は捕らえた獣を見物する王侯貴族のような風情で楽しげに答えた。

 

「然り。貴様の瞬間移動はランサーの一件で既に我の知る所にある。知ってさえいれば対策するのも不可能ではない。我の宝物庫の中には、多次元からの干渉や空間移動を封じる宝具もあるのでな」

 

 彼らの背後に瞬間移動した瞬間、吹き飛ばされたのはそれが理由か。だが何よりも厄介なのは瞬間移動を無効化されたことよりも、セイバーを縛り付けるこの無数の鎖だった。

 

「その天の鎖は神獣たる天の雄牛すら捕らえた対神兵器よ。相手の神性が高ければ高いほど、より強固に相手を縛る。貴様が神だったことが災いしたなぁ?」

 

 楽しげに英雄王は解説を続けた。

 

「巫山戯るなよ、人間……! この私をたかが獣風情と同列に扱うか……!」

 

 怒り狂ったセイバーは更に全身から魔力炎を噴出させるが、それでも鎖はびくともしない。それどころか魔力が抑えられる始末だ。瞬間移動もできない。

 まるで蜘蛛の巣にかかった哀れな獲物のような、セイバーの姿に溜飲を下げたのか英雄王は機嫌を良くした。

 だが、隣にいる征服王はそうでもなかったようだ。

 

「なんじゃ、英雄王よ。あれは余が直々に我が勇者達と共に打ち倒すつもりだったというのに、こんな罠を用意しておったのか。貴様、余と余の軍勢を最初から囮にするつもりだったな?」

 

 不満そうに愚痴ってくる征服王に英雄王は楽しげに肩をすくめた。

 

「なに、許せ。征服王。此度の戦は失敗は許されぬ。確実に仕留めるにはこれが一番だと判断したまでよ。―――代わりと言ってはなんだが止めは貴様に譲ってやろう。存分に蜂の巣にでもしてやるがいい」

 

 その言葉に道理を感じ取ったのか征服王は一つ溜息をつくと、配下の弓兵に号令を飛ばして弓を構えさせた。宝具の弓を携えた兵士達が次々と弓矢を引き絞る。

 当然その狙いの先は鎖に縛り付けられたセイバーだ。如何に奴が頑丈であろうと数百、数千の宝具の矢で撃ち抜かれれば滅びるしかあるまい。

 征服王は今や単なる射的の的に成り下がったセイバーを見て独りごちた。

 

「……幕切れは、呆気なかったな」

 

 無論セイバーも唯で撃ち殺される気などさらさらなかった。動きを封じられても出来ることはある。

 彼は念話を自らのマスターである切嗣に繋ぎ、令呪によって自らの脱出を命じていた。本来通話先の相手が固有結界の向こう側では、如何に念話といえどそう簡単には繋がらない。しかし元界王でもあるセイバーにとって、別の世界との念話はお手のもの。さほど苦労することもなく念話のラインはマスターへと繋がった。

 切嗣のほうは令呪を切ることに何故か異常に躊躇っていたようだが、セイバーの、ここで敗北すればこの戦いの犠牲者が全て無駄死になる、という説得にしぶしぶにだが応じた。

 

『……令呪を持ってここに命ずる。我がサーヴァントを離脱させよ』

 

 念話越しのその言葉と共に、全身に増幅された魔力が満ちる。それを持ってセイバーは一気に空間転移をしようとして―――失敗した。

 

「何だと!?」

 

 状況を把握していたのだろう、英雄王が未だ無数の鎖に捕らえられたセイバーを嘲笑う。

 

「愚か者。天の鎖(エルキドゥ)で縛り付けたのだ。令呪による逃亡などこの我とエルキドゥが許すものかよ。貴様はそこで何もなすこともできずに死ね。これは王命である」

 

 王者と勝者の風格を持って、絶対の死を英雄王が囚われの神に命ずる。

 だが、もはや絶対絶命―――風前の灯火にあると思われたセイバーが笑い始めた。

 

「何がおかしい。死を前に気でも狂ったか?」

 

「いいや、私は正常だ。アーチャー。私はお前達を哀れんでいたのだよ。実際この私をここまで追い詰めることができるとは人間にしては見事なものだ。褒めてやる。

 ……だがその半端な実力故に貴様らは真の恐怖を目撃することになるのだ。人間風情では決して届かない神の領域というものをな!」

 

 そのセイバーの言葉に対しては、英霊2人よりも征服王のチャリオットに乗るウェイバーが反応した。このセイバーが引き起こした惨状と、それに伴う恐怖を何度も体感しているが故に。

 

「お、おい。ライダー、あいつまだ何か隠し持ってるようだし、早い所止めを刺したほうがいいんじゃないのか?!」

 

「……確かにな。よし、弓兵隊。撃てぃ!!」

 

 ウェイバーのその言葉は一理あった。

 征服王は頷くと腕を上げ、射撃準備を完了させていた弓兵達に一斉射撃の号令を発した。

 無数の宝具の矢が弓兵隊から放たれる。その全てがセイバーへの直撃コースに乗っていた。

 だがそれは僅かに遅かった。

 

 

 

 

 セイバーは令呪による空間転移をも封じられた時点で、動揺したふりをして英雄王達と会話をし、時間を稼ぎつつも、切嗣に新たな指示を出していたのだ。

 その内容は、再び令呪を切れという命令だった。ただし今回の令呪による命令は先のそれとは全く違う。この意味不明な指示に彼は一瞬戸惑ったが、すぐにその指示は実行に移された。

 

『令呪を持って命ずる。我がサーヴァントよ。超サイヤ人ロゼとなれ!』

 

 それはまさしくギリギリのタイミングだった。

 放たれた矢はセイバーの目前まで迫る。だがそれがセイバーの体に突き刺さるより先に、セイバーから膨大な量の魔力の炎が膨れ上がった。

 炎は嵐となって迫り来る宝具の矢すらも薙ぎ払い、粉砕していく。セイバーを縛る天の鎖はかろうじて魔力炎に耐え切れたが、彼を狙った宝具の矢の群れは全て粉々に消し飛んでしまった。

 

「……なんだと?」

 

 想像を絶するその力に英雄王ですら目を見開く。

 そして更に信じがたいことにセイバーから放たれる黒い魔力炎は更にその規模を巨大にさせつつある。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

 セイバーの咆哮は続く。そしてその咆哮と共にセイバー自身にも変化が起こり始めていた。

 そして世界が悲鳴を上げる。

 

「なんだこれは……セイバーの髪の色と魔力の色が……!」

 

「変わっていく……?!」

 

 時臣とウェイバーがその変化を見て驚愕に打ち震えた。

 もはや真紅と化したセイバーの魔力炎は空中にあるにも関わらず、地に突き刺さり、天をも貫くほど程の高さへと成長していた。それに伴ってセイバーの髪の毛が逆立ち、薄紅色へと変化する。

 蒼天のはずの固有結界内部にも関わらず、薄暗い雲が頭上を塞ぎ、稲光をまき散らす。

 立っていられないほどの地震が大地を揺らした。

 セイバーの圧倒的な魔力が固有結界にすら干渉をしているのだ。

 まさしく神の起こした天変地異が如き現象だった。

 

 そして膨れ上がった魔力がピークに達したその瞬間、余りの魔力量に耐え切れず、甲高い音を立てて、セイバーを縛り付ける天の鎖が木っ端微塵に砕け散った。

 神秘はより強い神秘によって打ち破られる。

 神をも縛る鎖が、神に打ち砕かれた瞬間だった。

 

 そして膨れ上がった真紅の魔力炎が収まり、セイバーを包む。

 血を煮詰めたような禍々しい真紅の闘気、逆立った薄紅色の髪、そして灰色の瞳。

 新たな姿へと生まれ変わり、戒めから解き放たれたセイバーはまさしく全てを見下ろす神の様に、傲然と下界の人間たちを見下ろした。

 

「セイバーが……」

 

「変わった……?」

 

 2人のマスターは唖然として、豹変したセイバーを見上げている。姿が変わったというのもそうだが、それ以上にセイバーの魔力の質が全く変質したことが信じられなかったのだ。

 先ほどまでのセイバーはただそこに居るだけで凄まじいまでの威圧感を感じさせるほどの魔力をまき散らしていた。

 

 だが、今のセイバーを見よ。

 

 膨大な魔力を発散しているはずなのに、まるで澄み切った湖のように底が見えず、その質を感じ取る事が出来ない。

 魔術師であるならば魔力を感じ取る技能は最早、基本であり必須だ。だというのに眼前のセイバーは魔力を抑えているわけでもないのに、一切魔力を感じ取れない。それが何よりも恐ろしかった。

 人は理解できない未知なるものにこそ恐怖するがゆえに。

 

 そして同じサーヴァントである征服王と英雄王は、2人のマスター以上にこのセイバーの変化の本質を見抜いていた。

 

「英雄王よ。まさかあやつは……」

 

「……ああ、英霊でもサーヴァントでもない。正真正銘の神霊へと変化したな」

 

 古代メソポタミアにおいては、神と人の距離は現在よりも近く、度々神々と接触し場合によっては戦ってきたギルガメッシュはいち早くセイバーの正体を理解する。

 あれほどの神威、神格を持った神霊は、過去に神々とも競いあったギルガメッシュをしても尚、未知の存在だ。

 あの姿になったことによって、セイバーの神性は更に高まっている。にも関わらず神性が高ければ高いほどその硬度を増す天の鎖を、奴は力任せで引きちぎったのだ。その力、最早計測すらできない。

 

「フフフ……光栄に思うがいい、ライダー、そしてアーチャー。この俺の神なる姿を拝謁できたことに。そして喜ぶがいい人間ども。この地で死んだ大量の人間どもの魂を喰らっていなければ、例え令呪の後押しがあろうとも、俺はこの姿に成ることは出来なかっただろう。

 貴様ら人間どもの命と絶望を喰らい、俺は更なる美しさの極みへと至るのだ!」

 

 その霊基を神霊のそれへと変えたセイバーが声高らかに叫ぶ。

 変身したことにより極度の興奮状態にあるのか、セイバーは一人称まで変化していた。

 

「この姿の名は……、ロゼ。超サイヤ人ロゼ。フフフ……フハハハ! 美しい名前だろう? 地獄で獄卒共に我が神威の姿を目撃できたことを自慢してやるがいい!」

 

 一人悦に入って高笑いを続けるセイバー。

 英雄王はそれを隙と取って、即座に攻撃態勢に入る。彼の背後で無数の宝具がその姿を表し、撃ちだされた。

 

「ふん、姿を変えたせいか、髪の色以上に頭の中身もめでたくなったようだな! 斯様な台詞は我らを殺して、屍に向かってほざくがいい!」

 

「ではそうさせてもらおう」

 

 セイバーは高笑いをやめ、そのテンションを一瞬で平時のそれに戻す。

 そして瞬間移動でその姿を消して宝具の群れを回避する。

 

 ―――何処に行った!?

 

 ギルガメッシュは周りを見渡す。

 彼の首には豪華な宝石が誂えられた首飾りがある。自身の至近への空間転移を封じる宝具であり、先ほどセイバーの瞬間移動を弾き飛ばしたのもこれだ。

 故に今の瞬間移動は攻撃を回避するためのものであり、距離を取るためのものだろうと推測したのだ。

 だがその予測は覆される。

 

 ビシリという不吉な音と共に転移封じの首飾りの宝石がひび割れたのだ。それが意図することを反射的に理解した英雄王は咄嗟に宝物庫から神剣を引き抜きつつ、背後へとそれを振るった。

 

「遅い」

 

 果たしてセイバーはギルガメッシュの予測通りそこにいた。その神気だけで、転移封じの宝具を破壊して強制的に英雄王の背後に現れたのだ。だがそこから先の展開はさしものの、英雄王の彗眼でも見切ることは出来なかった。

 なんとセイバーはギルガメッシュの振るった一撃―――彼の宝物庫の中でも最上級の神殺しの神剣を、事もあろうに指先で摘んで止めていた。ギルガメッシュの目が驚愕に見開かれる。

 そしてお返しとばかりにセイバーの廻し蹴りが、英雄王の胸に叩き込まれる。上級宝具の一撃すら耐えられる黄金の鎧を大きく凹ませた英雄王は、付近の兵士を巻き込みながら悲鳴すら上げずに数十メートルの距離を吹き飛ばされた。

 

「英雄王!おのれっ!皆の者、かかれっ!」

 

 征服王の声と共にセイバーの神気にあてられて硬直していた王の軍勢の兵士たちが、我を取り戻し、一斉に襲いかかる。

 無数の槍と剣が殺到し、セイバーを串刺した。

 

 いや、串刺したように見えた。

 

 軍勢の兵士達が持つのは、単なる武具ではない。共同戦線に当たって英雄王から貸与された、古今東西にその名を轟かせる伝説の武具の原典である。

 しかしそれらの刃は唯の一つとて、セイバーには届くことはなかった。

 セイバーの纏う真紅の神気に阻まれて、その全てがへし折られ、弾き飛ばされたのだ。

 

「虫けらどもが……煩わしいぞ!」

 

 セイバーの咆哮と共に彼の纏う神気が一気に膨れ上がる。それに爆発の前兆を見て取った征服王は、自ら戦車の綱を引きながらその場を離れつつ、部下へも離脱を命じた。

 

「いかんっ! 引けっ! 引けー!」

 

 臨界点に達したセイバーの神気が炸裂すると同時、凄まじい大爆発が発生し、辺り一帯を吹き飛ばしたのだ。

 セイバーの付近に居た者で避難できたのは機動力に優れた僅かな騎兵と、神牛の駆る戦車に乗った征服王とそのマスター達だけであった。

 

「ぬうっ。よもやこれ程とは……かつて星の海の神々すらをも滅ぼしたというのは、大言壮語ではなかったか!」

 

 空中に戦車ごと逃れた征服王は苦々しい顔をして、爆発跡を見下ろす。今の一撃で数千人の兵士たちが消し飛ばされて、座に戻された。

 巨大なクレーターの中心部には涼し気な顔をしたセイバーがこちらを見上げている。

 まだまだ兵士達の数には余裕があるが、このままでは本当に正面から皆殺しにされてもおかしくはない。

 しかも英雄王の姿も見えない。まさかとは思うが、今の一撃でやられてしまったのだろうか。彼から与えられた兵士達の宝具がまだ消えていないため、何らかの方法で生き延びていると思いたいが。

 

「フッフッフッ……流石にここまで生き残っただけあって、逃げ足の早さだけは中々のものだ。もっとも今の一撃は挨拶がわりだ。こんなことなら英霊にだってできる」

 

 クレーターの中で腕を組んだセイバーが余裕の表情で語りかけてくる。

 彼はゆっくりと舞空術で空中に浮かび上がると征服王のチャリオットと相対した。

 

「ここまで俺と渡り合った褒美に良い物を見せてやろう」

 

「良い物だと……?」

 

 征服王の疑問の声に答えること無くセイバーは顔を厳しく引き締めると、その右腕から真紅の光剣を生み出した。

 そしてその光剣を自らの左の掌へと突き立てる。

 

「ぬううううぁあ……!」

 

 突如として始まったセイバーの自傷行為。その意図が読めず、征服王は混乱した。

 それがセイバーにとっても強烈な痛みを与えているのは、彼の表情と顔に流れる脂汗を見れば明白である。

 

「はああああ……!!」

 

 そしてセイバーは光剣を全て左の掌に撃ちこむと、今度は光剣を掌から一気に引きずりだした。

 

「鎌……だと?」

 

 セイバーの掌から引きぬかれた、新しい武器を見て征服王が警戒する。

 それはセイバーの真紅の神気で構成された巨大な大鎌だった。

 

「美しいだろう? これはこの俺が抱える人間共への無限の怒りが形となったものだ……。だからこそ命を刈り取るこの形状が相応しい。この力、とくと味わえっ!」

 

 そう言うと数十メートルの距離があるにも関わらず、セイバーは大鎌を大きく振りかぶり一気に振り下ろす。

 だが、その行動は大ぶり過ぎた。

 予備動作から相手の動きを見切った征服王は戦車の手綱を走らせて、素早く上空へと回避する。次の瞬間、轟音を立てて大鎌の斬撃が波となって戦車の真下を走り抜けていった。

 

「大層な武器のようだが、随分と大雑把だな!そんな攻撃なら早々当たらんぞ!」

 

「フフフ……果たしてそうかな?」

 

 攻撃を回避されたというのにセイバーは余裕の笑みを崩さない。征服王がその事に訝しんだその時、固有結界の内部を振動と爆弾でも炸裂したかのような重低音が襲った。

 

「な、なんだぁ、あれは!?」

 

 戦車の御者台に捕まっていたウェイバーが素っ頓狂な悲鳴を上げた。彼の視線の先には地上付近に禍々しく口を開いた全長数百メートルはあろうかという巨大な空間の亀裂があった。

 自らの固有結界に巨大な亀裂を入れられた征服王は冷や汗をかきながら、セイバーに問いだ出した。

 

「貴様……! 一体何をした!? 何だあれは!?」

 

「さあな、俺にもわからん。あの亀裂の奥に続いているのは別の宇宙か、遥か過去か、未来か……。或いは俺の抱え込んだ底なしの怒りか、この世界から続く貴様の因果か……。ククク……この俺の強さは、もはやこの俺自身の理解すら超えているのだ」

 

「いったい、何をわけのわからんことを―――」

 

 妄言としか言いようのないセイバーの言葉に業を煮やした征服王が更に問い詰めようとしたその時だった。

 空間の亀裂の中から無数の鬨の声が響いたのだ。

 声だけではない。亀裂から無数の煙が飛び出し、それらは人の形と取って実体化していく。

 その数は数百では効かず、王の軍勢にも迫る数だった。更にそれらの中心に一際巨大な影が実体化を果たし、声ともつかぬ咆哮を上げる。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 それを見た征服王は驚愕に目を見開く。何故ならばその影は彼にとってよく見知った存在だったのだ。

 征服王イスカンダルが生前において幾度も覇を競い合った好敵手にして永遠の宿敵。

 勇猛たる古代ペルシア王にして、アケメネス朝最後の王、ダレイオス三世その人であった。

 

 かつて彼らが生身で大地を駆けた時代より2000年以上先の現代の冬木、その中に形成された異界の中で、喚び出された古代の王は古の宿敵を前に歓喜の産声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 鎌で切り裂いた亀裂からゴラクが一杯出てくるのは、余りにも酷い絵面で腹筋が耐えられないので、敵の因縁の相手を呼び寄せる場合もあるというゼノバース2の設定を使いました。

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