ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様)   作:dayz

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ゴクウブラックが邪悪過ぎて英雄王が賢王モードになってみた

 吹き飛んだ冬木の住宅地だった土地を見て、セイバーは頬を緩めた。

 やはり、破壊はいい。

 増えすぎた人間どもを圧倒的な力で街ごと吹き飛ばすのは、得も言われぬ爽快感をもたらすものだ。

 

 とりあえず一歩踏みだそうとして、彼は自分が予想以上に疲労していることに気がついた。

 この体であれほどの出力のかめはめ波を放ったのはやはり堪えたようだ。魂食いで得た魔力の大半を失ってしまった。

 全盛期ならば、惑星の一つや二つ潰しても疲れすら感じなかっただろうに。

 自分の弱体ぶりに苛立ちを感じながらも、彼は魔力補給の準備に入った。

 その対象はマスターからではない。彼からは先ほどかめはめ波を撃つ際に魔力をごっそり頂いた。これ以上搾り取ると衰弱死してしまうだろう。

 幸いにも魔力の供給源は今現在、そこら中にある。

 セイバーは両手を空に上げて精神集中を始める。それは孫悟空が使っていた元気玉という技の構えにそっくり―――いやそのものだった。

 

「悪いが元気をいただくぞ……。おっとこの場合、魂をと言うべきかな?」

 

 そんなセイバーの呟きと共に、辺り一帯から次々と魔力の塊が飛んでくる。それは通常の人間は勿論、魔術師ですら特殊な魔術を使わねば認識することも難しいエネルギー。即ちこの場で死んだばかりの人間達の魂だった。

 通常のサーヴァントが魂食いをする場合、大抵は対象を直接殺害して魂を摂取する形になる。

 

 しかしこのセイバーは違う。

 彼の体の持ち主である孫悟空はあらゆるものからエネルギーを集めて、球状に収束させて敵に放つ元気玉という技を習得していた。もっとも彼の体を乗っ取ったザマスはその技を見たことがない為、元気玉を完全に習得してるわけではない。

 しかし孫悟空の体は覚えているのだ。効率的に付近からエネルギーを集める時、どうすればいいのかを。

 ザマスは孫悟空の肉体の本能に従うことによって、歪んだ形の元気玉を習得しつつあった。もっともそれは、元気を分けてもらうのではなく、彼が殺した人間たちの魂を強制的に集めて自身のエネルギーとする、元気玉とサーヴァントとしての特性が混ざり合った事でできた余りにもおぞましい技だった。

 冬木ハイアットホテルの倒壊によって死亡した犠牲者達の魂も、彼はこうやって短時間で捕食したのだ。

 

 一分ほどの時間をかけて、セイバーは付近の魂の全ての収集を終えた。圧倒的な魔力が体に満ちていくのを感じる。

 この一件で死んだ犠牲者の数は恐らく一万人を超えるだろう。もはや召喚時とは比較にならないほどの魔力を手に入れ、彼の戦闘力は増大した魔力に呼応して飛躍的に高まっていく。

 こうして大量の魂を全て吸収したセイバーは、かめはめ波を撃つ前以上に充実した力を得た。

 

 今ならば、あの姿になることも可能かもしれない。神域に到達したあの美しき姿に。

 

 セイバーが自身の状態に満足していると、彼の背後から声がかけられた。

 

「雑種共の魂は美味いか?セイバーよ」

 

 その声に対してセイバーは振り向かずに笑みを深めて答えた。

 

「悪くはない。この体は食事に対しては質よりも量を求める傾向にあるからな」

 

 そしてセイバーはゆっくりと振り向く。

 彼の視線の先には黄金のアーチャーが立っていた。

 

 

◆      ◆ 

 

 

 深山町の住宅地の大半を吹き飛ばしたその一撃は衛宮切嗣の網膜へと焼き付いた。

 全てを焼きつくす黒い極光。

 死の象徴の如く、深山町を覆うきのこ雲。

 様々な地獄を渡り歩いた自分だが、これほどの地獄は見たことがない。

 ましてやこれを作り出したのは自らのサーヴァントなのだ。

 

 一体自分は何をしているのだ?

 

 確かにキャスターが操る大海魔を倒して欲しいとセイバーに頼んだのは自分自身だ。キャスターを狩ることで令呪を手に入れる為だけではない。あのまま放置すれば尋常ではない被害が出るとわかっていたからだ。

 だが、結果はどうだ?

 あのセイバーにキャスターの討伐を頼んだことで得られた結果。それはあの怪物を野放しにしてたほうが良かったのではないかと思うほどの惨状だった。

 あのセイバーの嘲笑う声が今にも聞こえてきそうだった。

 

 驕り高ぶった愚かな人間の魔術師風情が。貴様ら如き矮小で貧弱な劣等種が、この私を、いや、我ら英霊という超常の存在を、本当に僅かなりとも御する余地があったとでも思ったのか?

 

 それは単なる幻聴に過ぎないが、英霊―――その中でも規格外の怪物を、殺人しか取り柄のない魔術使いでしかない自分如きが喚び出し、使役するなどとんだ思い上がりにすぎなかったのではないだろうか?という疑念は彼の頭の中から離れることはなかった。

 

 もはや謝っても謝りきれない。償っても償いきれない。

 衛宮切嗣に残された道はただ一つ。聖杯を手に入れて世界平和を実現し、あの神を名乗る男に人の正義と善性を認めさせること。それしかなかった。

 だが、その前に彼には一つやるべきことがある。その為に切嗣は助手である舞弥にある指示を出した。

 

 

◆     ◆

 

 

 凄まじい地響きの音で新都のビルの上で目を覚ました間桐雁夜は、事態を把握しふらつく体を引きずってようやく家へと帰ってきた。そして間桐家の前で……正確に言えば間桐家があった場所の前で呆然としていた。

 住宅地にあった間桐家は幸いな事に大海魔の進軍コースからは外れていたが、セイバーの放った極大の魔力砲撃に巻き込まれて、跡形もなく吹き飛んでいた。

 いや、吹き飛んでいたというのはむしろ優しい表現だ。

 セイバーの砲撃は着弾地点を中心に直径1キロ近いクレーターを生み出しており、間桐家はそのクレーターの圏内に含まれていたのだ。

 

 雁夜はもしかしたら桜は、間桐家の地下のあの忌々しい蟲倉が地下シェルター代わりになって生きているかもしれないという希望を持っていたが、それも現地に着くと消えた。

 間桐家があった場所は地下十メートルを越える深さまで、すり鉢状にえぐられて完全に地上から消滅していたからだ。

 この有り様では如何にあの間桐臓硯―――数百年に渡って生きながらえてきた妖怪爺とて生きてはいまい。ましてや魔道の素質があるとはいえ唯の少女に過ぎない間桐桜なら尚更だ。

 戦う理由も、恨むべき肉親も、縛り付けてきた家も、守るべき少女も、全てを失った間桐雁夜はその場に跪いて子供のように泣いた。

 

 

 

◆    ◆

 

 

 

 言峰綺礼は膨大な後処理に忙殺されていた。

 今回の一件であらゆる勢力―――魔術協会、聖堂教会は勿論、大概の事は金を積めば黙っている日本政府すら怒り狂って凄まじい抗議をしてきたのだ。

 その防波堤になるべき聖堂教会も、余りの被害に彼らと一緒になって怒鳴り散らしてくる始末だ。本来これに対するのは監督役である言峰璃正の仕事なのだが、余りにも手が足りず形式上脱落したマスターであり、彼の後継者である言峰綺礼も引っ張りだされることになったのだ。

 

 ちなみに彼に仕事の手伝いを頼んだ当の言峰璃正は、過労と心労の為に倒れて一足先に病院送りになっている。

 ―――このままでは自分も父親の後を追うかもしれないな。と思いつつも彼は関係各所に送る書類を作成しつつ、肩で電話の受話器を挟んで器用に電話のやりとりをしていた。

 一方的に送りつけられる罵声にひたすら謝りつづけるのを、やりとりと言えるのか疑問だが。

 ようやく抗議の電話が終わり、一旦受話器を置く。が間をおかず再び電話機が鳴り響く。溜息を付きながら、受話器を取ろうとした時、机の上にあった一枚のマスターの写真が目に入った。

 

 ―――衛宮切嗣。貴様は一体何を考えてこの聖杯戦争に参加しているのだ?

 

 思わずそういられずにはいられない。

 彼の目的は不明だが、あの男が介入した紛争や内戦は最小の犠牲で終わらせることはあっても、被害を無駄に拡大させたことはない。だが今回はその真逆だ。彼のサーヴァントが戦場に現れる度に尋常ではない被害が出る。

 

 ……私は奴の在り方を全くの思い違いをしていたのではないだろうか。

 

 今更になってそんな考えが浮かぶが、どのみちもうそれを確認する機会はしばらく訪れそうにない。というか最早そんな個人的な事に構っていられる時間がない。

 アーチャーが暇を持て余していれば、言峰綺礼は彼の蛇の如き誘惑を受けて、別の道を走っていたかもしれない。だがセイバーの尋常ならざる暴れっぷりに、言峰綺礼は自分の中の空虚を見つめなおす暇もなく、只々自分の役割を消化するだけで精一杯だった。

 言峰綺礼の聖杯戦争は、関係各所への膨大な調整と交渉という形でこれから始まるのだ。

 

 ふと窓ガラスから音がすることに気がついた。よく見ると窓に使い魔と思わしき蝙蝠が張り付いている。

 聖杯戦争の隠蔽工作担当者からの使い魔だろうか。電話回線がここの所パンクしているから、使い魔を使って連絡をする羽目になったのだろう。

 できればもうこれ以上嫌な情報は聞きたくもないのだが、そうも行かない。彼は鳴り響く電話をそのままに窓を開けに行った。電話も大事だが使い魔からの鮮度の高い情報も大事だ。

 分裂できるアサシンを使い潰したことが本当に悔やまれる。自分も彼らのように体を分裂させることが出来れば―――というか諜報活動に特化した彼らがいれば、この監督役としての隠蔽工作も遥かに楽になるだろうに。

 もはやそんな本末転倒なことを考えるほど彼は疲れきっていた。

 

 

◆    ◆

 

 

 かめはめ波の爆心地から離れ、余波で瓦礫の山となった住宅地でセイバーとアーチャーは向かい合った。

 既に魂食いで魔力を先ほど以上に充実させたセイバーは、疲れも見せずに余裕の態度を崩さない。

 

「フフフ……。随分と厳しい顔をしているぞ、アーチャー。いつものあの余裕ぶった態度はどうしたのだ?」

 

「我の前で我の物である土地を焼き、我の民を殺す様な輩に寛容な顔を見せるほど、我が優しく見えるのか?」

 

「おやおや。あのキャスターが喚び出した肉塊を放置していた男が、今更正義面か?」

 

「ほざけ。単なる獣風情にいちいち腹を立てるなど王の名折れよ。だがな―――明確な大罪人に怒りを覚えぬというのなら、それは王ではない」

 

 アーチャーが皮肉に応じない事を知るやいなや、セイバーはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「ふん。人間ごときに神の行いを図る資格などない。私によってもたらされた死は、それ即ち天誅であり、天命だったと知れ。ここで死んだ人間どもは死ぬべくして死んだのだ。……ところで後ろにいるのはお前のマスターだな?随分と顔色が悪いぞ。大丈夫かね?」

 

 セイバーは突然アーチャーの後ろにいた、くたびれ果てた顔をした人間―――遠坂時臣に話を振った。アーチャーがこの近くに砲撃の余波でダメージを受けたヴィマーナを不時着させた為、成り行き上ついて行くことになったのだ。最もその先にこの惨状を引き起こしたセイバーがいると知れば、優雅さをかなぐり捨ててでもついて来なかったかもしれない。

 自分の管理する土地を更地にされたセカンドオーナーは、それを実行した相手に表面上とはいえ気を使われて、怒りよりもむしろ恐怖を感じた。

 それでも遠坂の誇りにかけて何とか言葉を紡ぎだす。

 

「お、お前は……」

 

「うん?」

 

 時臣がようやく吐き出した言葉は震えかけていた。だがなんとか先祖の家訓と僅かに残っていた彼自身の挟持をかき集めて恐怖を抑え、かねてからの疑問を口に出す。

 

「お前は一体なんなのだ?何を目的としてこのような真似をする?お前のマスターはお前の行動を認めているのか?」

 

 それを聞いたセイバーは、そんなことかと言わんばかりに腕を組んで楽しげにそれに答えた。

 

「私は神であり、目的は世界平和だ。そして私のマスターの目的も同じ。お前達と違って我々は強い信頼関係で結ばれているのだ。今回の一件も私のマスターの頼みによってしたことだ」

 

「ではこの惨状はア、アインツベルンが……いや、衛宮切嗣が起こしたことだというのか!?」

 

 アイリスフィールではなく、衛宮切嗣。自分の真のマスターを言い当てられたセイバーは、ほうと感心しながらも丁寧に答えてやった。

 

「その通り。マスターがどうしてもあのキャスターを始末して欲しいとせがむのでな。奴の願いを叶えてやったのだ。フフフ……私はマスター思いのサーヴァントだからな」

 

 心にも無い事を、邪悪に顔を歪めて嘲笑いながら答えるセイバーに時臣は今度こそ心の底から恐怖し、確信した。

 

 衛宮切嗣はこいつを全く御せていない。いや、どんなマスター、いかなる手練の魔術師であろうとこの邪悪を制御することなど不可能なのだと。

 恐らく衛宮切嗣はキャスターによる被害を抑えるためか、或いは褒章の令呪目的でセイバーにキャスターの討伐を依頼したはずだ。

 だがこのセイバーはその願いを悪意を持って解釈し、より被害を拡大させた。恐らくホテルの一件でも甚大な人的被害が出るように仕向けたのは間違いなくこいつの仕業だ。

 時臣とて裏の世界に生きる魔術師である。神秘の隠蔽さえ行えば多少の犠牲に目を瞑る。だが眼前の存在はそんなレベルの相手ではない。比喩抜きで人類という種そのものを滅ぼしうる存在だということに今更ながら彼は気がついた。

 

 人間として本能的に眼前の存在を恐れた時臣が一歩引いたのを見たセイバーは、組んでた腕を解いた。

 

「どうした? 随分とお疲れのようだな? ……ゆっくりと休むがいい。永遠にな!」

 

 その言葉と共にセイバーの指先から光弾が飛び時臣を狙った。余りの速度に時臣は反応すらできない。

 だが彼のサーヴァントたるアーチャーはその限りではなかった。用意しておいた盾を即座に

時臣の前に展開させてセイバーの奇襲を防ぐ。

 

「フッ、お前にしては随分とお優しいことだ」

 

「何度も言わせるな。我の眼前で我の臣下を傷つけることを、この我が許すと思うか」

 

「お、王よ……」

 

 咄嗟の形とは言え、命を救われた時臣は目の前に立つ自らのサーヴァントに、初めてこの上ない安心感を抱いた。思えば召喚してからこちら、このアーチャーはマスターである自分の事を顧みた事はなかったし、自分もあくまで形式上の臣下を演じることで、彼をコントロールしようとしていた。その為、両者に建前の主従関係はあっても真の信頼関係はなかったのだ。

 だが、暴君ではなく民を守る王として振る舞うこの英雄王を見て、初めて時臣は彼を建前無しに、聖杯戦争の最終的な目的など関係なしに、無条件に信頼するべきかと思い始めた。

 どのみちあのセイバーに対抗できるのはこのアーチャーしかいないのだから。

 

 アーチャーの背後の空間が揺らめき、無数の宝具がその切っ先を出す。

 それに応じるようにセイバーもまた半身をずらして構えを取った。

 

「待て待て待てーい!」

 

 そんな臨戦態勢に入った二人の間に割り込んだのは、雷を纏う戦車だった。ライダーのサーヴァント、征服王イスカンダルである。

 落雷をまき散らしながら現れたチャリオットは、アーチャーのすぐ側に着地する。それを見たアーチャーが面倒げに舌打ちした。

 

「なんだライダー? この期に及んでまた仲裁でもするつもりじゃなかろうな?」

 

「んなわけあるか。流石にこんな惨状を見せられては余の義侠心だって燃えたぎってしまうわい。余がここに来たのは同盟の盟約を果たす為……。つまりは助太刀に来たのよ!」

 

 胸を張って答えるライダーに、アーチャーは一瞬ポカンとしたような表情をしたが、すぐに楽しげに笑った。

 

「とことん阿呆よな、お前は。あんな酒の席の戯言を本気で信じておったのか」

 

「なにっ? 酒の席の戯言って……お前なぁ!」

 

 流石に怒りかけたライダーにアーチャーは小さく微笑んだ。

 

「冗談だ。許せ」

 

 初めて見る英雄王の、童のように純粋な笑みにライダーは芽生えかけた怒りが一瞬にしてしぼんでしまった。

 

「このアーチャーもこんな顔する時があるんだ……」

 

 御者台にいたウェイバーはあの傲岸不遜なアーチャーがこんな無邪気な顔をすることに驚いていた。

 一方ライダーは少々、気が削がれてしまった為、おっほんと咳をして改めてセイバーに向き直る。

 

「ともかくだ!セイバー、貴様をこれ以上野放しにするわけにはいかん! このまま貴様を放っておいたら、余が征服するべき世界がなくなってしまうわ! 征服王イスカンダルの名において我が戦友、英雄王ギルガメッシュと共に貴様をここで成敗してくれるっ!」

 

「勝手に仕切るんじゃあない、征服王。ここは我の口上で決めるのが筋というものであろうが」

 

「はっはっは! 残念だったな英雄王。こういうのはな、言ったもの勝ちなのだ!」

 

 子供のような事で口論を始めた二人の王の後ろで、ウェイバーも時臣に声をかけていた。

 

「ねえ、あんた? アーチャーのマスターなんだろ? とりあえずこの戦車に乗ったほうがいいよ。地上に1人で生身のままでいるとセイバーに殺されちゃうぜ?」

 

「あ、ああ。君はライダーのマスターのウェイバー・ベルベットか。いいのかね? 私が勝手にそのライダーの宝具に乗ってしまっても」

 

「ライダーのマスターの僕が言うんだ。構わないよ。というかあんたは知らないかもだけど同盟相手のマスターに死なれたら僕も困るんだ」

 

「……では、お言葉に甘えさせてもらおう。今は何よりもあのセイバーを倒すことが先決だからな」

 

 納得した時臣はウェイバーの手を借りてライダーのチャリオットへと乗り込んだ。

 それを見計らっていたように英雄王と征服王は口論をやめて、セイバーへと向き直る。

 セイバーもアーチャーのマスターが、ライダーのチャリオットに乗り込むのを気づいていたにも関わらず、手を出さずに見守っていたが、彼らの戦闘準備が出来たと見るやゆっくりと構えた。

 

「もう茶番は終わりか?死ぬ準備も整ったようだが、これで思い残す事もあるまい。心置きなく死ね」

 

「ほざけ。死ぬのは貴様のほうよ。その慢心、真っ二つにへし折ってくれよう」

 

 アーチャーのその返しには隣のライダーがウケたようで大きく笑う。

 

「はっはっは!英雄王、お前がそれを言うか。ではまず余から先手を打たせてもらおうか!」

 

 その言葉と共に大気の匂いが変わった。

 様々な物が焼け焦げ、悪臭に満ちた大地の匂いが消えていく。代わりにその場に吹いたのは太陽の光で消毒された清潔な砂塵の混じった風だ。

 空はいつの間にか晴れ渡り、眩しく輝く太陽と蒼穹の空が天を塗りつぶしていた。

 

「これは……」

 

 世界が塗り替わっていくその異常事態に、さしもののセイバーも警戒心を強める。

 どこからか吹き込む砂塵の量はますます増えて砂嵐となって辺り一帯を覆い尽くした。

 そしてその場に流れてくるのは砂塵だけではない。砂塵と共に無数の規則正しい足音が響いてくる。その数は1人や2人ではない。何千、いや何万という大軍隊の行進の音だった。

 この現象の正体に一番に気がついたのは、やはり魔術師である遠坂時臣とウェイバー・ベルベットであった。

 

「嘘だろ……これってまさか……」

 

「ありえん……ライダーのサーヴァントがよりにもよって……固有結界を使うなどと……!」

 

 最早そこは瓦礫の街ではなかった。いつしかライダーの力によってその空間は熱砂が吹き荒れる砂漠の荒野へと変貌している。

 

「征服王イスカンダル―――貴方は魔術師だったというのか!?」

 

 時臣のその疑問にライダーは誇らしげに笑いながらも首を振って否定した。

 

「まさか、余は生前から一介の王であり、これからもそうだ。こんなことは余ひとりだけでは出来はしない」

 

 そして腕を広げてこの世界の空気を大きく吸い込んだ。

 

「そう―――余ひとりではな。この世界を作れるのは我ら全員が同じ心象風景を共有しているからよ」

 

 その言葉とともに足音が一層強まった。同時に砂塵が晴れて砂嵐が隠していた物が見えていく。

 そこには屈強な歩兵がいた。大弓を携えた弓兵がいた。自身の身長よりも長い槍を持った槍兵がいた。見事な毛並みをした馬に乗った騎兵がいた。ローブを纏い杖を持った魔術師がいた。

 ひとりひとり人種も違えば装備も違う。統一された装備をした者たちもいれば、明らかな一品物の輝く装備に身を包んだ者もいた。ただひとつ共通点があるとすれば、彼らは全員が戦士であり、戦う意思をその目に焼き付けているということだ。

 そしてその総数は数え切れない。ライダーの背後。見渡す限りの視界に彼らはいた。

 

「嘘だろ……。」

 

 ウェイバーと時臣が呻いた。

 

「こいつら全員がサーヴァントだ……」

 

「英霊の連続召喚……まさかそんなことが……」

 

「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 肉体が滅びようと、時空を超えて集う我が歴戦の勇者たちを! これこそが我が至高の宝具! 王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なり!」

 

 その言葉と共に実体化した何千何万の戦士達が雄叫びを上げる。

 空間そのものを揺るがす戦士たちの咆哮を前に、しかしセイバーは表情を変えなかった。

 

「皆の者! 此度の敵は人理殲滅を目論む邪神なり! ならばこそ! かつて世界を征した我らが挑むのは必然である! この戦にはこの世の全てがかかっていると知れ!」

 

 そして征服王はバサリとマントを翻して、隣に立つ英雄王を指し示す。

 

「そしてこの世の全てがかかっている戦故に! この一戦はこの世の全てを持つ英雄王が我らが至高の援軍として駆けつけた! ―――英雄王よ! 打ち合わせ通りあれをやるぞ!」

 

「喧しいぞ征服王。その濁声でいちいち我に指図するでないわ―――そら!」

 

 征服王に促された英雄王は指をパチンと鳴らす。それを合図にして固有結界の上空に数えるのも馬鹿馬鹿しい数の空間の歪みが現れた。

 英雄王の宝具、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の発動の前兆だ。

 それを自分への攻撃と判断したセイバーは素早く頭上を警戒するものの、そこからの出来事は彼の想像の埒外だった。

 上空から放たれた無数の宝具の数々は、セイバーではなく。征服王の背後に展開する兵士たちに向かって放たれたのだ。無数の宝具が砂漠に着弾し、砂煙が彼らの姿を覆い隠した。

 それを見たセイバーは思わず鼻で笑う。

 

「おやおや。戦う前から仲間割れか?まったくこれだから下等な人間は―――」

 

「―――ハ。勘違いするでないわ、たわけ。やはり貴様の目は節穴のようだな、何なら我が入れ替えてやろうか?」

 

 嘲るセイバーの言葉を遮ったのは、英霊軍団に宝具の群れを撃ち込んだ英雄王本人だった。そして砂煙の中から征服王が言葉を続ける。

 

「その通り。これは単なる戦闘準備よ。此処から先は余も未知の世界だ。何しろ我が無双の兵士たちが、伝説の武具をその手にしたのだからな!この総戦力、余の目を持っても推測できん!」

 

 砂塵が晴れた時、兵士たちの装備は一変していた。

 先ほどまで彼らが身に付けていたものの大半は、使い込まれ磨き上げられているが、あくまで通常の武具に過ぎなかった。しかし今彼らが握っているのは、本来英雄王の宝物庫に納められているはずの原初の輝きを放つ様々な宝具だったのだ。

 これには流石のセイバーも表情を引き締めた。

 

「ふはははははは! この征服王の無敵の軍勢に、英雄王が持つ至高の武具を持たせる! 無敵に至高を掛けて、究極の軍隊の出来上がりよ! さあ、セイバーよ! 貴様はこの軍勢を打ち破ることができるかな!?」

 

「……ふん。まずは下等生物にしては足りない頭をよく使ったと褒めてやろう。貴様らはメインディッシュ故に量には期待していなかったが、量に加えて質まで備えるとは……嬉しい誤算だ。この孫悟空の体も喜びに打ち震えているぞ!」

 

 究極の軍勢を前にしてセイバーは臆すどころか、唇を舐めるとむしろ楽しげに構える。彼がその手に光剣を作り出すと同時に、究極の軍勢が雄叫びを上げ怒涛と化してセイバーへと突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これが至高の武具だって?一週間待っててください
俺が本当の至高の武具ってやつをお見せしますよ(冬木市在住 士郎さん談)


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