ストライク・ザ・ブラッド~史上最強の吸血鬼~   作:悩める地上絵

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申し訳ありません。前回、一週間以内に投稿すると言いながら、かなりギリギリになってしまいました。

今回戦闘を少し書きましたが、かなり難しいですね。みなさんどうやって書いているんでしょう。マンガは一コマ一コマに情報を詰めなければ間の抜けたような感じになってしまうでしょうし、文章にしようとするとかなり細かくかつ短く描写して読者が文章を目で追うのに飽きたりしないようにしなければならない。

世に出てきちんと売り上げを出している作家の方々の偉大さを思い知りました。




 彩海学園は中高一貫教育の共学校だ。生徒数は全部で千二百人弱といったところ。都市の性質上若い世代の多い絃神島では、ありふれた規模の学校と言える。

 しかし絃神島は所詮人工島。慢性的な土地不足に悩む宿命にあり、学園の敷地も広々としているとは言い難い。体育館やプール、学食などの多くの施設は中等部と高等部の共用だ。

 そのため、高等部の敷地内で中等部の生徒を見かけることはざらにあるが、高等部の生徒は中等部を訪れる必要がないのでそちらで見かけることはあまりない。

 

 おかげで古城はどことなく懐かしいような、居心地の悪いような気分を味わいながら、久々に訪れた中等部の職員室に立っている。

 古城の手の中には、昨日ショッピングモールで拾ったあの少女の財布が握られている。彼女の着ていた制服と財布に入っていた学生証から彩海学園・中等部の生徒らしいので、警察より担任の教師から本人に返してもらった方が手っ取り早いと考えたのが、夏休み中なのに登校した理由である。しかし、

 

 「すまんな、暁。笹崎先生は今日は来てないそうだ」

「あ、そうでしたか......ありがとうございました」

 

 顔見知りの老教師にそう言われて、古城の計画はいきなり頓挫した。

 老教師に礼を言い、職員室を後にする。どうやら夏休み終了間際ということで笹崎岬も残り少ない休暇を満喫中らしい。

 

 しばしぼーっとしたまま歩くこと数分。古城は渡り廊下の柱にもたれて、ぼんやりと校庭を眺めていた。

 

 面倒なことになった、と古城は思う。

出来ることなら、この財布はさっさと持ち主に返してしまいたかった。あの短気な中学生に誤解を受けて、変な槍で突き殺されたくはないし、現金が入った財布なんていつまでも持ち歩いていたくはない。しかし現金の入った財布を担任でもない教師に預ける気にもなれなかった。プライバシーを考慮してあまり取りたくなかった手段だが、せめて連絡先の判るものでも見つかればと考え、財布の中身を探ってみる。梁山泊を出る際に逆鬼たちが書いてくれた紹介状を片手に地下闘技場で組み手代わりに頻繁に行った試合のファイトマネーのおかげで、実は古城には高校生らしからぬ金額の秘密の貯金があるのだが、そんな古城から見ても、財布の中には中学生には不釣り合いなそれなりの枚数のお札が女の子の財布らしくよく整理されて入っていた。

 

 他に何かないかと古城が財布の中身を探っていると、間の悪いことに誰かが歩いてくる気配があった。男物と思えない財布を探っている光景を傍から見れば、手癖の悪い生徒がやらかした場面にも映るだろう。古城の焦りは激しくなる。

 気付かれる前に財布を隠そうとしたが、やってきた人物の顔を見て、思わず呆けた表情をさらしてしまった。なぜなら、

 

「中等部で何をしているんですか、暁先輩(、、)?」

「昨日の......誤爆娘!?なんでこんなところに?」

 

 昨日槍を振り回していた少女、姫柊雪菜だったからだ。

 ファーストコンタクトがあまりにも悪かったのと、彼女の昨日の行為もあって半ば無意識に奇妙な呼び方をしてしまう。

 一方、古城のあんまりな呼び名に雪菜は一瞬眉をひそめるも、思い当たるフシがあったのか、なんとか冷静さを装い言葉を返す。

 

「それはこちらのセリフですが、高等部の先輩が何をしているんですか?」

「いや、俺はお前の財布を届けに来たんだ。けど今日は笹崎教諭は休みだって言われて」

 

 そう言って古城は雪菜に財布を見せる。彼女は財布に手を伸ばそうとするが、古城は彼女の手が届く前に財布を持つ手をすこし後ろに引く。

 

 「財布を返す前に話を聞かせてもらいたいな。お前いったい何者なんだ?なんで俺を尾け回してた?」

 「っ!?まさか、私の尾行に気づいていたなんて!」

 「気付かれてないと思ってたのか、あれで?」

 

 古城は雪菜のあまりの言葉に驚いて、今度こそ全く何の他意もなく言葉を返してしまう。彼女の尾行が追っかけの類にしか見えないレベルのものだったからだ。

 

「......わかりました。それは、力ずくで取り返せという意味でいいんですね?」

 

 そう呟きながら、自分をにらんで背中のギグケースに手を回す雪菜を見て、古城は気だるげに息を吐き、本人としては一応純粋な親切心から

 

「やめとけ。その槍があっても、今のお前じゃ俺には勝てないよ」

 

忠告した(もしくは地雷の上で震脚をかました。)。

 

「......っ!」

 

 たちまちのうちに、雪菜は柳眉を逆立てた。そして今度こそギターケースから槍を抜き放ち、主刃と副刃を展開させて古城に向かって真っすぐに突き出す。

 一方古城は雪菜が槍を引き抜いた時点で、構えを取った。両手の指を何本か曲げ、右の掌は相手に向けながら肩の高さに、左掌を上に向けて腰のあたりに構える。古城本来の構えとは違うが、様子見と相手への印象操作も兼ねた手刀構えだ。

 

 心臓の辺りに突き込まれる銀色の槍の穂先を冷静に見つめ、わずかに前進しながら右手で鍔を払う。雪菜の突きはまっすぐで、鋭く速いものだった。まだ中学生だというのにその動きは、以前しぐれに連れて行かれた死合い場で戦うことになった大人の槍使いに匹敵するレベルだ。

 だが、今の古城を相手にするにはまだ甘い。

 とりあえず武器を奪おうと柄に手を伸ばすと、払いのけたはずの槍に動きがあった。

 雪菜はあらかじめ古城に槍を弾かれることを予測していたらしく、後ろに退がりながら槍を右から左へと薙ぐ。古城も槍を薙いでくる直前に“観の目”でその動きを先読みし、とっさに後ろに跳んで槍の有効範囲から逃れる。だがそれも読まれていたらしく、今度は着地点めがけて突きを入れてくる。

 既に制空圏を発動していた古城が槍を足刀で弾くと、その動作に雪菜は驚きながらも納得したかのような表情を浮かべる。どうやら古城の制空圏に驚いているようだ。何に納得したかまでは今の古城には分からないが。

 

「(それにしてもどうなってる?この子は“開展”の殻を破りきれずにまだ“緊湊”にも至っていない段階だ。それなのに、ここまで俺の動きを読んで対応できるのはおかしいだろ)」

 

 そんな彼女の様子を捉えながら、古城は一連の攻防に対して疑問を抱く。

現在の古城は雪菜と同じ“弟子級”だが、その位階は“緊湊”。それも数年前に“緊湊”に至り、今では“妙手”が見えてきている段階だ。本来ならば、古城がケガをさせないようかなり手加減していても、最初の交錯で片が付くだけの実力差が両者の間にはある。

 そうなると、単純に古城が目の前の少女の実力を見誤っていたか、古城の動きを読めるほど彼女が“観の目”を鍛えているのか、のどちらかになる。だが、古城が考察を続けながらも攻撃を続ける彼女の動きは、年齢の割にかなり鍛えていることを窺わせるがやはり“開展”のレベルを大きく逸脱するものではない。

 では“観の目”を鍛えているかというと、それならば先ほどのこちらの制空圏を把握できていなかった様子が腑に落ちない。

 

 武術の腕に対して、あまりに鋭すぎる先読み。そのことから、古城は武術以外の何らかの技能の可能性に思い当たる。昨日使っていた技から古城は彼女の異能を、母・深森のような超能力、過適応(ハイパーアダプター)よりも、古城や妹の凪沙のような霊能力に近いもので、それも自分のように常人とは異なるものを視る幻視系の能力ではないか、と見当をつける。

 

 そしてその推測は実は的を射ていた。霊視能力、獅子王機関に所属する霊能力者の多くが差異はあれど有する、未来の先読みを可能にする異能である。

 

 古城が冷静に分析をする一方、雪菜は焦り始めていた。古城の動きは霊視で先読みできている。だがそれでも雪菜の槍は古城を捉えることはできない。攻撃の尽くが古城の制空圏を侵した瞬間に弾かれるか避けられる。

 

 そして古城は大体の推察も終わり、稽古をつけれるような実力や余裕があるわけでもないので、少し大人げないが一気に終わらせることにする。

 

 観の目で雪菜が突きを放つ瞬間と大体の軌道を洞察し紙一重でかわしながら一息に踏み込み、彼女の空間を占拠する。そして脇から腰へ右手を回し、左手で槍を持つ腕をつかみ、さらに踏み込んで自身の腰を深く入れて投げる。

 

“大腰”

 

いくら先読みが出来ても躱す動作をとれない状態に追い込まれれば対処はできない。そう踏まえての一連の動きだった。

 

「きゃっ!?」

 

 投げられた際に意外とかわいらしい悲鳴を上げる雪菜だが、古城はそんなことはお構いなしに投げた瞬間に次の動作に移る。

 左腕はそのままに、勝負をつけるべく素早く右手を首に回す。それで、おしまい。

 

「さて、これでもういいだろ、姫柊?俺はお前よりも強い。それでこの話は終わりだ」

 

 未だ抵抗の意思を見せる彼女の目を見据えて、古城は言葉を吐く。はっきり言って余人がこの光景を見て槍に気付かなかった場合、高等部の学生が女子中学生を押し倒しているようにしか映らないだろう。古城の方もその自覚があるため、この状態を少しでも早く解くべく、通牒を出す。

 

 グルグルグル......という低い音が、廊下に響き渡ったのは、その直後のことだった。

 古城は無言で眉を寄せる。

 古城の目の前にある雪菜の目からは反抗的な光は消え、彼女の頬は羞恥で赤く染まっていった。

 その低いうなりの正体に気付いて、古城は、何となく気まずい表情を浮かべた。

 

「えーと......もしかして、姫柊、腹が減ってる?財布を落として、昨日から何も食べてないとか?」

「だ、だったらなんだっていうんですか!?」

 

 冷静に答えようとする雪菜だったが、さすがに声が上擦っている。

 先ほどまでの緊張感はどこへやら。古城は内心で、なんだかなあ、とため息を吐くと、彼女の上から身体を動かし、彼女に向かって手を差し出す。

 な、なんですか、と動揺しながらも警戒を崩さない雪菜。

 古城はそんな彼女の手を強引に取って立たせた後、財布を差し出して、

 

「昼飯、おごってくれ。財布の拾い主にはそれぐらいの謝礼を要求する権利があるだろ」

 

 雪菜は何度か瞬きを繰り返して、緊張感の乏しい口調でされた、古城の提案の真意を測りかねていた。まあ、実際に古城はおごってもらう必要はなかったとはいえ、話をする機会ときっかけがほしかったというだけなのだが。

そして、彼女のお腹がもう一度空腹を訴え、結局古城の提案をのむことにした。




初めての戦闘描写(というには短いですが)はどうだったでしょうか。

古城の実力は叶翔以上。大体、ボリスとの最終決戦~ボルックス戦の間のケンイチと同等の強さという設定にしています。それとまた武術の位階に関しては、あくまで武術家としての腕のみを見て言っているつもりです。ようは呪術や種族特性で強化されている分は無視していると思ってください。

今回戦闘描写を書くにあたって、自分は最初に突き技を出すところを書いている最中に『るろうに剣心』のVS斎藤のシーンが頭によぎってしまいました。突き技を使うキャラは作品を超えればいくらでもいますし、そもそも彼が使っているのは槍ですらないのに、なぜだったんでしょうか。
ちなみに「それで避けたつもりか」みたいなセリフも言わせようかと思いましたが、あれはマンガ家の腕と分かりやすく二人の因縁を描いた部分があったから生きるのだと思ってさすがに書きませんでした(とはいえ、やはりキャラの問題が一番にありますが)。

また、実は今回は一日の終わりまで書くつもりだったのですが、諸事情により雪菜から話を聞く前でいったん切らせてもらいました。やろうとすると倍以上の文章になるだろうことに気付いてしまったので。

あとがきを書いている最中に日付が変わってしまいました。
ではいつになるか分かりませんが、また次回お会いしましょう。

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