ハイスクール・コスモフリート ~宇宙駆逐艦ハレカゼ奮闘記~ 作:天鶴
今回から早速オリキャラの登場です。
西暦2202年4月5日 横須賀市 地球連邦防衛軍横須賀高等航宙学校
地球連邦防衛軍横須賀高等航宙学校は、自衛隊横須賀総合基地の跡地に建設された、地球連邦防衛軍横須賀基地の一画に所在する、防衛軍航宙艦隊の未来を担う若い世代の教育を目的として、今年設立された地球連邦防衛軍直轄の高等教育機関である。
その、開設されたばかりの横須賀高等航宙学校の講堂前で、抱き合って再開を喜ぶ二人の少女の姿があった。
「久しぶりだね」
「同じ学校になるのは小学校以来だもんね」
成長して15歳となり、この春に横須賀高等航宙学校の第一期生として一緒に入学する、岬明野と知名もえかの二人である。
「配属発表は式の一番最後みたいだよ」
「もかちゃんと一緒の艦になるといいなあー」
「そうだといいね」
明乃の言葉にもえかが微笑みながら同意し、明乃が再び口を開こうとした時、アナウンスが入学式の開始まであと僅かであることを告げ、それを聞いた二人は慌てて行動の中へと駆け込んでいった。
――――
横須賀高等航宙学校 講堂
入場、整列、国歌斉唱、新入生氏名読み上げ、といった至極一般的な順番で入学式は進行していき、校長のあいさつの順番となる。
「続きましては、本校校長、宗谷真雪准将による式辞です。」
アナウンスとともに、壇上に航宙艦隊の制服を着た中年の女性―宗谷真雪准将が登壇してくる。
「皆さん、入学おめでとうございます。校長の宗谷真雪です。皆さんは、座学・実技といった各種の試験において優秀な成績を修めて、この横須賀高等航宙学校の第一期生として晴れて入学することとなりました。すぐに実践的なカリキュラムが開始されます。皆さんは高校生としての通常の学問に加えて、船乗りとして、宇宙戦士としての訓練や教育も同時にこなしていかなければなりません。大変なこともあるでしょうが、あらゆる困難を乗り越えて、立派な船乗りになってください」
式辞が終わって、真雪が壇上から降り、アナウンスが次の式辞を読む人物の名を読み上げる。
「続きまして、地球連邦防衛軍統括司令副長、芹沢虎徹宙将からご挨拶をいただきます」
続いて登壇してきた人物は、いかにも軍人然とした壮年の男性だった。
「ご紹介にあずかりました芹沢です。諸君、入学おめでとう。諸君らはこの横須賀高等航宙学校の創立されてから入学する初めての生徒、栄えある第一期生であり、尚且つ、今この瞬間をもって地球連邦防衛軍の一員となったのであります。諸君らは地球艦隊再建のための要の一つであり、防衛軍の将来を担う大切な役割があります。このことをしっかりと胸に刻んで修練に励んでいただきたい。以上をもって、私からの式辞とさせていただきます」
芹沢があいさつを終えて式辞を書いた紙を懐にしまう。が、先ほどあいさつした真雪とは違って降壇する素振りを見せようとせず、アナウンス席の方へと視線を送る。
「式辞に続いて、このまま芹沢統括司令副長より、生徒の皆さんに重大な発表があります。芹沢統括司令副長、お願いします」
芹沢が咳払いをしてから、講堂全体を見まわして再び口を開いた。
「さて、自分は先ほど諸君らは地球連邦航宙艦隊の再建と将来を担う大切な役割があると申し上げた。諸君らも知っての通り、7年間続いたガミラスとの戦争で、地球防衛軍の前身である国連統合軍は壊滅的な被害を受け、地球人類は滅亡寸前まで追い詰められた。しかし、イスカンダルが我等に差し伸べてくれたコスモリバースの供与という救いの手と、それを受領するために往復33万6千光年という途方もない長旅を単艦で成し遂げた英雄たちのお陰で地球はかつての青い姿を取り戻し、敵であったガミラスとも手を取り合うことが出来た。けれども、残念ながら未だに地球は復興の途上であるとともに、ガトランティスという新たな脅威も出現している今、航宙艦隊の再建は急務であり、最も優先されねばならないことであります。」
最初は落ち着いていた芹沢の演説は、後半に行くにつれて段々と熱い感情のこもったものとなり、身振りも交えて話し始めるようになる。芹沢は5分近く演説を続けたのち、水を飲んでから話を再開した。
「さて、前振りが長くなってしまいましたが、諸君らは地上での訓練の後には実際に艦艇を運用してのより実戦的な教育が行われることとなっていることは知っていることと思うが、諸君らに与えられる艦は金剛改型や村雨改型、磯風改型などといった旧式艦の改良型などではなく、新たな戦略構想に基づいて完全に新規に設計・建造された全く新しい世代の艦であります」
芹沢の言葉に会場内の学生たちのみならず、保護者やマスコミから驚愕の声が漏れる。なにしろ、これまで秘密のヴェールに包まれて一切の情報が出てこなかった地球の新世代艦が始めて公表されたのだ。サプライズが成功したことに対する満足感からか、芹沢は満足そうな表情を浮かべ、場内のどよめきが収まるのを待ってから言葉をつづけた。
「これが、諸君らが乗り組むこととなる新鋭艦群だ!」
芹沢が両手を広げるとともに壇上に設置されていた大型スクリーンに、ドック内に係留された、明らかにこれまでの地球艦艇とは一線を画した姿の大小様々な真新しい艦艇が映し出され、会場内に再びどよめきが広がる。
「生徒諸君の一層の成長を期待する。以上」
芹沢がそう締めくくって降壇し、拍手が沸き起こる。その光景を見ながら明乃は自分がどの艦に配属されるのかということと、そこで出会うことになるであろう新たな仲間たちのことに思いを馳せていた。
――――
横須賀高等航宙学校内 地下艦艇ドック
「すごいすごーい!もかちゃん、ムツだよ!最新鋭の宇宙戦艦だよ!しかも艦長!すっごーい!」
入学式が終わってから、学校地下の艦艇ドックへと移動して行われた配属先発表の終わった後に宗谷校長の言った、「艦内に入る前にまず、これから自分たちが乗ることになる艦を外からじっくり見ておくといいでしょう」との鶴の一声で、新入生たちは各々が自由にドック内に係留されている艦を外から眺めていた。
もえかが艦長を拝命した、長門型超弩級宇宙戦艦2番艦BBS-118「ムツ」の前で、明乃はもえかの周りをくるくると回って、幼馴染の親友が学年首席で最新鋭の宇宙戦艦の艦長に任じられたことへの喜びを全身で表現していた。
そんな幼馴染の親友の姿に、もえかは微笑みながら口を開く。
「ミケちゃんだって艦長さんになったじゃない、ハレカゼの」
もえかがそう言った途端、明乃はその表情をその表情を不安そうなものへと変える。
「でも私が艦長で大丈夫かなぁ...艦長の仕事なんて受験勉強でやっただけだし...」
「大丈夫。ミケちゃんはきっといい艦長さんになると思うよ。ほら、あれがハレカゼだよ」
そう言ってもえかが、ムツの隣のバースに係留されている駆逐艦を指さした。
「あそこが、うちになるんだなぁ」
明乃が目を輝かせてハレカゼを眺めるが、もえかはその表情を曇らせる。
「やっと会えたのに、また離れ離れだね」
そう言って寂しげな表情をしたもえかの手に、明乃が自分の手を重ねて握りしめる。
「大丈夫だよ、艦は別々だけど、同じ
「ミケちゃん...」
「私にはハレカゼの、もかちゃんにはムツの新しい仲間が出来るし」
「そうだね、艦の仲間は家族だもんね」
「頑張って卒業しようね!」
「うん!」
そうして二人は取り留めのない会話を続け、その話題は次第に自分たちが乗り込むことになる艦の話へと移っていく。
「そういえば、巡洋艦と護衛艦は1艦種なのに戦艦と駆逐艦は艦種が2つあるんだね。」
「私の乗るムツが長門型で、あっちのヒエイがドレッドノート級。ミケちゃんのハレカゼが島風型で、その隣のスズナミがジャーヴィス級だっけ」
「そうそう、全部1艦種だけの方が効率がいいのに。どうして2種類もあるのかなって」
と、二人が首をかしげているところに、後ろから疑問に答える声が投げ掛けられた。
「長門型と島風型はどっちも、極東管区が波動砲艦隊計画の戦艦と駆逐艦のコンペに提出した試案の一つなんだ。残念ながら欧州管区のドレッドノート級とジャーヴィス級に負けて、主力量産艦にはなれなかったけどね」
二人が声の方を振り向くと、そこには横須賀高等航宙学校の男子制服を着た、自分達と同い年くらいの年齢の、眼鏡をかけたボサボサ髪の男子が立っていた。
「随分と詳しいんですね」
「俺の叔父さんが軍の技術士官だからその影響で、門前の小僧ってやつかな。」
「へぇー!じゃあ艦には結構詳しいんだ!」
「まあぼちぼちとは」
「じゃあもう少し、艦のことについて教えてよ!自分の乗る艦の事はちゃんと知っておきたいから!」
「もちろん構わないけど」
いきなり話しかけてきた知らない少年に対して、若干の隔意をもって放たれたもえかの問いに対して、少年は何でもないような様子で答える。それに対して、明乃は興味津々といった様子で続きを促し、少年はそれを了承して話を続ける。
「それで、どうしてコンペで負けた設計案の1つの艦が実際に建造されてここにあるの?普通だったらそのまま建造されずに終わりだと思うんだけど」
「確かにその通りなんだけど、長門型も島風型も性能自体は各プランの中で一番高かったから、そのまま没にするのはもったいないって判断されたらしくて、管区の独自建造枠を使って少量だけど建造して配備しようってことになったってこと」
「なるほど。って、一番性能が高かったのにコンペで負けたっていうのはおかしくない?」
「そこらへんはまあ、量産性とかのコストパフォーマンスだったり、政治的な事情だったりとかの色々があって...」
こうして、明乃やもえかの疑問に少年が答えるという風にして、次第に三人の会話は白熱していき、しばらく時間が経過したところで、明乃が思い出したように自己紹介をし、ようやく三人はそれぞれの名前と役職を教え合うこととなった。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私、岬明乃。ハレカゼの艦長だよ!あなたの名前と配属先は?」
「
「同じ艦なんだ~!これからよろしくね!コウ君!」
「コウ君?」
「真田公誠君だからコウ君、この方が親しみやすいでしょ?私の呼び方もミケでいいからね」
(いきなりあだ名をつけてきたうえに、自分のこともあだ名で呼べとは、中々に押しの強い娘だなぁ。)
「ミケちゃんは同年代の子に対しては大体こういう感じだから、気にしないで。あ、私はムツの艦長の知名もえかです。これからよろしくお願いしますね?」
(それはまた随分と距離の詰め方が早いことで。こういうタイプの人って初めてだな)「ああ、うん。よろしく知名さん。それから改めて、これからよろしく、ミケ艦長」
「うん!よろしくね!コウ君!」
もえかの言葉に公誠は明乃の押しの強さに内心で舌を巻きつつ、これから自分の艦長になる明乃に手を差し伸べ、明乃が笑顔で勢いよく公誠の手を握り返す。
これが、今後も長い付き合いになる、岬明野と知名もえかの、真田公誠との出会いだった。
ヤマト世界においてムサシの艦名はそうホイホイ使えないのでもかちゃんの乗艦はムツに変更です。
それでもってオリキャラの真田公誠君は、苗字と「叔父さんが軍の技術士官」の台詞で察した方もいると思いますが、真田さんの甥(姉の息子)です。
2199だと真田さんに姉がいるのかどうかは一切描写がなかったんで分かりませんが、この世界線ではいるということで。