ハイスクール・コスモフリート ~宇宙駆逐艦ハレカゼ奮闘記~   作:天鶴

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本編第1部~RATt事件編~
プロローグ


西暦2193年某日夕刻 地球 横須賀宇宙港近く

 

 横須賀市内のとある丘の上で二人の少女―岬明乃と知名もえか―が横須賀港内の一角に存在する航空宇宙自衛隊横須賀基地―今は国連統合軍横須賀基地と名を変えているが―を真剣な眼差しで見つめていた。

 

 

「もうすぐだよ、もかちゃん」

「うん」

 

 不安そうなもえかに明乃が声をかけ、もえかがそれに答えたその時、横須賀基地からサイレンの音が断続的に鳴り響き始めた。

 警報とともに横須賀基地内に設置されている20か所の宇宙艦ドックの発進口の装甲天板が重々しく開き、宇宙戦闘艦を載せたエレベーターがせり上がってくる。

 

 エレベーターが完全に上昇しきって警報が鳴りやむとともに、金剛型宇宙戦艦、村雨型宇宙巡洋艦、磯風型突撃宇宙駆逐艦といった国連宇宙軍日本艦隊の艨艟(もうどう)たちが夕陽の中にその姿を見せた。

 

 そして、発進態勢に入った各艦に対して、地上では艦艇乗員ではない隊員たちが整然と敬礼し、期待に満ちた真摯な、しかしどこか不安の混じった眼差しを艦隊に向かって注いでいた。

 それは離れた丘の上からその光景を見ている明乃ともえかも例外ではない。

 何しろ、彼ら―国連宇宙軍日本艦隊第1艦隊の向かう先の星海(そら)は凪いだ平和な空間ではなく、生きて還ってこられるかどうかもわからない戦場なのだから。

 

 

――――――――

 

 

 2年前の人類初の異星人との遭遇は、異星人側が一方的に戦端を開き、先遣艦として最初に接触した巡洋艦「ムラサメ」が撃沈されるという、当初期待されていた平和的な接触とは程遠いものであり、そこから始まった戦争は、質で圧倒的に勝る異星人を相手に国連宇宙軍は一方的な敗北を重ね、遂に防衛ラインは火星付近にまで後退する羽目になっていた。

 

 無論、国連宇宙軍とてこの状況を甘受していたわけではなく、火星圏を絶対防衛線として設定して必死の抵抗を試みていたが、その最初に行われた反攻作戦であるカ号作戦―地球艦隊が数で勝っていることを生かした物量によるごり押し攻勢作戦―とその結果発生した第一次火星沖会戦において、国連宇宙軍の創設以来、数においてその主力を担っていた北米艦隊が、その総戦力の8割近い艦を喪失して壊滅する大敗を喫してしまい、地球は益々追い詰められていた。

 

 既に異星人の艦隊による地球への直接攻撃は秒読み段階に近づいてきており、これを撃退して地球への直接攻撃を阻止するための作戦―カ2号作戦が実施されることとなった。

 

 前回の第1次火星沖会戦で、これまで主力を担ってきた北米艦隊が壊滅してしまったがために、現在では最も戦力のあるのが日本艦隊である―欧州艦隊とロシア艦隊は序盤の外惑星防衛戦で壊滅している―ということと、新開発の陽電子衝撃砲の搭載改修が実施されている艦が最も多く所属しているとういう2つの理由から、今回の作戦の主力の国連宇宙軍連合艦隊は、日本艦隊を中心として編成されることとなっており、ここ横須賀に居を構えている航宙自衛隊第1航宙艦隊もその中の一部隊として作戦に参加するのである。

 また、連合艦隊の指揮はかつての内惑星戦争で勇名を馳せ、更には第1次火星沖会戦で地球艦隊を壊滅の危機から救った名将、沖田十三宙将が率いる事も決まっており、ここで負ければもう後は無い、という戦況と合わさり、置かれている状況の悪さに反して、地球艦隊の士気は旺盛であった。

 

 

――――――――――

 

 

 艦隊旗艦を務める金剛型宇宙戦艦「ヒュウガ」が機関を始動させ、エンジンノズルが噴射炎でオレンジ色に輝く。

 旗艦に続いて、随伴の村雨型と磯風型も次々に機関を始動させ、辺りはエンジンの騒音に満たされていく。

そして、発進に十分な量のエネルギーが生成され、各艦が発進態勢を整え終える。

 

「全艦発進せよ」

 

 司令官の号令を受け、まず最初に「ヒュウガ」が離床し、次に村雨型8隻がそれに続き、その次に磯風型11隻が順番に離床していく。

 

「頑張れよー」

「必ず還ってくるんだぞー」

「負けんじゃねえぞー」

 

 見送る隊員たちが帽振れをしながら口々に激励の言葉を叫ぶ。

 

「お父さん、頑張ってー」

「ちゃんと還ってきてねー」

 

 明乃ともえかも艦隊に向かって手を振りながら叫ぶ、彼女たちの大切な家族の乗る艦もあの中にいるのだ。

 明乃の両親は共に戦争最序盤の外惑星防衛戦の際に戦死してしまったが、彼女を引き取ってくれた両親の友人の知名夫妻は、妻の邦江が航宙自衛隊の作戦指揮所のオペレーターで、夫の隼人は第1艦隊所属の村雨型宇宙巡洋艦「ハグロ」の艦長であり、今次作戦において、陽電子衝撃砲搭載改修が未完了の「ハグロ」は、旗艦であり、数少ない陽電子衝撃砲搭載艦でもある「ヒュウガ」の直衛として作戦に参加することとなっていた。

 

 僅かな間、名残を惜しむように上空にとどまっていた艦隊はやがて、ゆっくりと上昇をはじめ、しばらくすると完全にその姿は見えなくなってしまった。

 

「みんな、ちゃんと無事に還ってくるよね」

「きっと大丈夫だよ!今回の作戦の指揮を執るのはあの沖田提督なんだよ!必ず勝って、みんな無事に還ってくるよ!」

 

 第1艦隊が消えた夕空を見上げながら、もえかが不安そうに呟き、明乃が明るい声で励ます。

 

「そう、だよね。きっと、そうだよね!」

「うん!きっとそう!」

 

 明乃の明るさに安心したのか、もえかも表情を不安そうなものから期待の表情へと変え、明乃が明るい声で答えた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

 およそ半月の後に発生した第2次火星沖会戦は、デブリに姿を隠した地球艦隊主力が待ち受ける宙域に、囮艦隊を追撃してきた敵艦隊が突入してきたところを、隠れていた戦艦と巡洋艦の艦首に装備した新兵器の陽電子衝撃砲の一斉射撃で奇襲するという戦法によって大打撃を与えることに成功したものの、苛烈な反撃を受けて地球艦隊も大きな損害を受ける、痛み分けに近いながらも地球側の辛勝という結果となった。

 

 

 

 戦闘終結から1週間近くがたち、横須賀に帰還してきた艦は、旗艦の「ヒュウガ」こそ健在であったが、その数を僅かに4隻にまで減らしており、その中に「ハグロ」の姿は無かった。「ハグロ」は「ヒュウガ」の直衛艦としての役割を全うしたのだ。

 

 そして、第2次火星沖会戦で痛打を受けた異星人は艦隊による直接攻撃を断念して、攻撃方法を遊星爆弾によるロングレンジ攻撃に切り替える。

 遊星爆弾による攻撃には一切の容赦がなく、都市部のみならず無人の砂漠や海上にまで落下し、地球上のあらゆる土地を破壊した挙句、有毒物質をまき散らして地上を汚染、人類の生存圏を次第に狭めていった。

 

 明乃ともえかにとって唯一残されていた家族である邦江も、遊星爆弾の落着に巻き込まれて死亡し、わずか7歳にして孤児となった二人は、国連宇宙軍系列の孤児院へと収容されることとなる。

 

 

 

 

 

 時に、西暦2194年。宇宙戦艦ヤマトが地球環境再生のため、コスモリバースシステムを受領するべくイスカンダルへと往復33万6千光年の航海に旅立つのは、これから5年後の西暦2199年のことである。


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