SIREN:FLEET   作:ギアボックス

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初日 05:00:00~06:00:00

 

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翔鶴 夜見島遊園地

   初日 05:02:11

 

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 私達は一頻り再会を喜んだ後、一先ず遊園地入り口で合流し直すことになった。

 お互いに車とバイクを移動させ、私達はすぐに合流する。

 私は軽トラックの荷台に加賀さんが寝ているのに気づき、バイクの後ろに座っていた赤城さんにその旨を伝えた。

 

「あ、赤城さん!」 

 

 加賀さんも私の後ろに座っている赤城さんに気づいたようで、荷台から降りて近寄ってくる。

 肩に血の滲んだ包帯が巻かれているのを見ると、加賀さんも負傷しているようだ。

 瑞鶴から聞いた話だと殆ど動けないとの事だったが、どうやら安静にしていたお陰で傷の回復が進んでいるらしい。

 

「……………加賀さん…?加賀さん、なのね?」

 

「!!……あ、赤城さん……目が………」

 

 目に包帯を巻いた赤城さんを見て、加賀さんの顔が一気に暗くなる。

 赤城さんは声を頼りにしているので、相手が声を発していないと見つけられない。

 赤城さんは加賀さんを探し、虚空を手でまさぐる。加賀さんもそれに気づき、自分から赤城さんの手を掴んだ。

 

「あぁ……そこに、いたのね」

 

「赤城さん、一体何が………翔鶴、何があったの?」

 

「あのゾンビみたいなのにやられたんです。日本兵……のようでした。」

 

 私はその時のことを思いだし、ハンドルを握る手に力が入ってしまう。

 あの時、もう少し早く私が対応できていれば……そう思うと、目潰しを仕掛けてきた敵に再度強い憎しみが湧いてきた。

 

「私が……私がもう少し、上手くやれていれば…っ!」

 

「……翔鶴、顔が怖いわよ」

 

 加賀さんに嗜められ、私は我に返る。

 すると、加賀さんの声を聞いたのか腰に回っていた赤城さんの手がぎゅっと私を抱き締めてきた。

 

「翔鶴さん、ごめんなさい。私がもっとしっかりしていればこんな事には……」

 

「そんな!………私がすぐに援護をしていれば赤城さんは……」

 

「二人とも、今はそんな事よりも先に話すことがある筈。傷の舐め合いは後でもできる。なら、これからの話をしたほうが建設的だわ。」

 

「そ、そうだよ!あ───実は、こんなもの見つけてきたんだ………はい!」

 

「「「コーラ!?」」」

 

加賀さんが一括してきて、私達は黙る。

 瑞鶴も同意するように頷き、更には瓶詰めのコーラを出してきたことで、重苦しい空気は僅かに軽くなった。

 私達は瑞鶴が持ってきたコーラを飲みながら、今後の行動について話し合う。

 

「私達以外で誰か見た………人は、いないわよね?」

 

「いえ、一応ここの住民?がいるみたい。狂ってたけど。ソイツに撃たれたわ」

 

 つまり、加賀さんを撃った住人もこの島のどこかにいるということ。

 もし出会したとき、説得や対話に応じてくれればいいが……恐らく不可能だろう。

 瑞鶴もそう思っていたのか、仲間の捜索を提案してきた。

 

「やっぱり、艦娘の生存者を探すのが無難だよね。」

 

「水雷戦隊の人達は上手く脱出できたと思いたいけど……憶測のみで動くのは禁物ね。となると、今この島にいるのは私達の艦隊と、行方不明の水雷戦隊ってことになるわ。」

 

 どこにいるかは全く検討もつかないが、それは他の皆も同じということだ。

 ただ、固まって動いていた方がいいのは皆既に承知している。他の艦娘を探すために再びバラバラになるのは極力控えることで意見は一致した。

 

「次に連中………個人的に屍人と呼んでるのだけど、その情報と対策を考えましょう。」

 

 加賀さんがあのゾンビのことを屍人と命名していた。何れにせよ名前は必要なので、一先ずは屍人と呼ぶことにする。

 

「屍人……ね。一先ず、強さは常人と同じくらい。動きはゾンビみたいで鈍い…ってところかしら。」

 

「けど、標的を見つけるとかなりの動きをする奴もいるわ。私もそれで目をやられたから、油断はできない。極力間合いをとって対処するほうが良さそうね。」

 

「なら、私が手に入れたライフルが役に立つかも。加賀さんは射撃得意な方?」

 

「そうね……可もなく不可もなく……ってところかしら。」

 

「なら私が撃つわ。本当は赤城さんがいいんだろうけど、目が………」

 

 赤城さんは趣味で射撃をやっていて、軍民問わず大会に出るような腕前だった。しかし、赤城さんは目が使えないし、そもそもクレー射撃が専門だった。

 

「瑞鶴さん、仮に私の目が無事だとしても、散弾銃とライフルでは挙動が違うわ。あなたがやりなさい。運転は………加賀さん、できそう?」

 

「少し傷が痛いけど、そのくらいなら雑作もないわ。戦闘では役立たずだろうから、私がやります。」

 

「翔鶴さんは前衛で偵察………どうかしら?」

 

「そうですね……簡単な威力偵察くらいは出来ますから。趣味乗りの腕前ですが、やらせて頂きます。」

 

「また翔鶴姉謙遜しちゃって。滅茶苦茶上手いのにそんな事言ってると、また嫌味言われちゃうよ?」

 

「うーん………」

 

「翔鶴さん、オフロードバイクに乗ると人が変わったと思うくらい運転上手いものね。頼りにしてるわよ?」

 

「赤城さんまでそんな………」

 

 以前、研修で陸軍の偵察オート隊のバイク走行を見る機会があった。

 その後、試しに乗らせてくれるとの事だったので周りの推薦もあり走らせてみたら、私の運転を見た偵察オート隊に"化け物級"と呼ばれてしまった事がある。

 

 

 

 

「あ、それと………何か、変な能力が使えるようになったのよね。他の人の見ている光景が見える、といえばいいかしら?」

 

 加賀さんが思い出したように言うと、瑞鶴もそれに覚えがあるという風に頷いた。

 

「それって、視界ジャックの事?私も使えるよ、ソレ」

 

 そう言うなり、瑞鶴は目を積むった。

 そして───

 

「見えた………これ、加賀さんの視界かな?赤城さんと翔鶴姉が見えるし……」

 

「…………こう、他人に視界を盗み見られるのって、変な感じね。」

 

 加賀さんが複雑そうに言っている辺り、瑞鶴は本当に加賀さんの視界を見ているらしい。

 

「瑞鶴、どうやってるのそれ…?」

 

「うーん……なんかこう、見たい相手の意識を見つけて潜り込む感じかな?」

 

「そうね……私も、瑞鶴の安否が気になっていたら使えるようになったわ。見たい相手を意識すると、その視界を盗み見れる──ということかしら。」

 

 加賀さんの解説にそれとなく合点がいった私は、取り合えず瑞鶴の視界を見てみようと意識を巡らせた。

 すると、瑞鶴が見ているとおぼしき視界が脳裏に映り込んできたのだ。これには驚くしかなかった。

 

「嘘……本当に見えたわ。まさか他の人のも……」

 

 試しに意識を周囲に向けていくと、色々な視界が脳裏に飛び込んでくる。

 その中には、赤城さんのものと思われる真っ暗な視界や、近くにいると思われる屍人達の視界も見ることができた。

 

「翔鶴さんも使えるの……?─────────嘘、み……見える………」

 

 赤城さんも試していたようだが、成功した瞬間、あまりの衝撃に絶句していた。

 そして、まるで目が見えているかのようにバイクから降り、加賀さんの隣まで歩いてみせたのだ。

 

「赤城さん、今誰の視界を?」

 

「皆のよ。組み合わせて使えば、視界をかなり補えるわ……!あぁ、嘘みたい……もう、見えないと思ってたのに

──」

 

 赤城さんは包帯で閉ざされた自分の目を触り、鏡の前で身形を整えるように服装を正していた。

 見るからに嬉しそうな様子で、久々に笑顔が見れたと思う。

 しかし、その笑顔はすぐに一変して険しい顔となった。

 

「ん?これは───遊園地内?………屍人がこんなに遊園地内にいるなんて──」

 

「えっ!?そんな、翔鶴姉が皆倒した筈じゃ────嘘でしょ………」

 

「っ───────甦ってる………この屍人、私が跳ねた屍人よ。」

 

 私も視界ジャックで遊園地の気配を探ると、跳ねた筈の屍人が蘇り、遊園地内を徘徊していた。

 

「連中……不死身なの?」

 

「いえ、違うわ……甦ってるのと、甦ってないのがいるもの。何か───」

 

 赤城さんの言葉に、私は再び視界ジャックを使った。すると、屍人の視界のすみに、時折屍人の死骸が写り込む。

 屍人の死骸は、首から上が無かったり、頭が半分になっているものだった。

 

「ある程度以上のダメージで体が損傷すると、復活できない?」

 

「それが妥当………でしょうね。」

 

 私の予測に、赤城さんは苦虫を噛み潰したように答える。

 つまり、普通に致命傷を負わせるくらいでは完全には殺せず復活するということ。

 確実な方法は、少なくとも頭部を大破させるか、可能なら体をバラバラにしたり燃やすなどして始末してしまうしかない。

 

「…………少し、試してみたいことがあるわ。皆、私の指示したものを集めてくれないかしら?」

 

 対処方法を皆が考える中、加賀さんが一人思い付いたように言った。

 加賀さんが集めてほしいものを私達に言うと、赤城さんが素早く作業を振り分け指示する。

 私達は早速もの集めと作業を行い、しばらくして4本の火炎瓶が完成した。

 

「これで──適当な奴を燃やしてみましょう。普通の火炎瓶と、私特製の火炎瓶。それぞれの効力を見るわ。」

 

「わかりました。なら、その役目は私が最適ですね。」

 

 物集めのためにバイクで走り回ってきたばかり故、エンジンは暖まっている。

 私は加賀さんから特製火炎瓶とライターを受け取り、園内へとバイクを走らせた。

 

 視界ジャックで適当な屍人を見つけると、一本目の火炎瓶──ただ灯油とガソリンを混ぜただけのものに火を点け、すれ違い様に屍人へ投げつけた。

 炎が屍人を包み込み、薄汚れた衣服に引火して燃え上がる。

 声にもならない悲鳴を上げながらその屍人は倒れた。炎はすぐに鎮火してしまったが、一応倒すことはできるようだ。

 

「次は───よし。」

 

 炎を見たのだろう。二体目の屍人が駆け寄ってくるのを見て、私は二本目の火炎瓶に火を点けた。加賀さん特製の、色んな混ぜ物が加えられた火炎瓶だ。

 

「えいっ!」

 

 タイミングを見計らって、突っ込んでくる屍人へ火炎瓶を投げつけた。

 すると、先程とは比べ物にならない爆発的な燃焼──しかも、炎の温度が高いことを示す白い炎が巻き起こり、屍人を包み込む。

 

【オォォォオォォォ゛】

 

 まるで溶けるかのように屍人は地面へ崩れるが、更に炎は屍人を焼き続けていた。

 

【あつい──あつい──】

 

 しばらく燃え上がる屍人を眺めていると、今度は通常の火炎瓶で倒した屍人が起き上がってくる。

 全身焼け爛れて尚甦る相手に戦慄したが、私はトドメを刺すべく渾身の力で火掻き棒を振るった。

 

 

 

 

 

「…………すごい炎………加賀さん、アレなんなの?」

 

「ナパーム剤にテルミット反応を起こす材料を混ぜたのよ。そうすると、燃焼温度は3000度くらいになる。焼くというより、熱で溶かすようなものね。しかも、ナパーム剤だから燃料は粘着質で相手に張り付く。一度火が点けば、燃え尽きるまでは水をかけても消えないわ。」

 

 戻って効果を報告すると、加賀さんはあの凄まじい火炎瓶の仕組みを事細かに説明してくれた。

 集めた材料が材料だけに正直あそこまでの威力は想像していなかったが、目の前で溶けていく屍人を見てその認識はすぐに改めた。

 

「なんというか……よく知ってたよね加賀さん。」

 

「知識として知っていた。それだけよ、瑞鶴。使えるものは使うべき。さぁ────材料はまだ沢山あるわ。皆、手伝って。」

 

 

 

 

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浜風 貝追崎/陸軍桟橋

   初日 05:54:58

 

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「浜風ちゃん、足の様子はどうだい?」

 

「休んだお陰で、もう何ともないようです。その………藤田さん、ご迷惑ばかりかけてしまって─」

 

「なぁに、お巡りさんは大丈夫だ。それより、あともう少しで日の出だ。そしたら、船でこの島を出よう。それまでは休んでなさい。」

 

 荒波にもまれ、津波に飲まれ、そうして桟橋に流れ着いていた私を助けてくれたのは、心優しい警察官のおじさんでした。

 足を挫いていましたが、藤田さんはそんな私を介抱し、安全な場所まで抱えて運んでくれたのです。

 適当な民家を見つけた藤田さんは、そこで休むことを提案してくれました。

 私は大丈夫だと言いましたが、藤田さんの優しさに負け布団を掛けられていたのを覚えています。

……………父親とはこう言うものなのかと、私は思いました。

 

 

 

 民家の中は静かで、藤田さんは別の部屋で見張りをしてくれています。

 私は一緒に流れ着いた無事な荷物を片手に、足音を消して静かに部屋を出ました。

 

「…………さすがに、されっぱなしでは後味が悪いわね。」

 

 時間を見るともうすぐ6時、基地なら総員起こしがかかる頃です。

 私は民家の台所へと抜け、戸棚などを少し物色しました。こういう民家なら、必ずある筈───

 

「あった……」

 

 鍋がいくつかに食器類。

 ガスコンロも見つけ、私は早速準備を始めました。

 

 

 

 

 

「藤田さん。」

 

「うん?浜風ちゃん、もう起きたのかい?」

 

「はい。実は、少しおなかが空いたので………藤田さんもどうですか?」

 

「えぇ?」

 

 藤田さんは要領を得ないらしく、首をかしげながら私に着いてきました。

 到着したのは居間、そこには丸いちゃぶ台。

 

「───俺は、夢でも見てるのかな?」

 

「夢ではないと思いますよ。さぁ、お腹も空きましたから」

 

 ちゃぶ台の上には、食器によそられた白いご飯と味噌汁、付け合わせの海苔。おかずはさんま蒲焼きと、本来は昼用のハヤシハンバーグ。

 戦闘糧食を2食分湯煎して食器に盛り付けただけですが、食は見た目も重要です。

 本当は手料理を振る舞いたいところですが、こんな状況で贅沢は言えません。

 

「いただきます。」

 

「い、頂きます……」

 

 藤田さんは狐にでも摘ままれたかというような顔でご飯を一口食べましたが、すぐに表情を変えてご飯を食べ始めました。手料理ではないですが、少し嬉しいです。

 

「うまい……うまいなぁ……メシなんか食えないと思ってたんだけどなぁ…」

 

「喜んでいただけてよかったです。お代わりはないですけど、しっかり食べてくださいね。」

 

「────っ、俺はこんな幸せで─いいのかよ畜生っ──」

 

「ふ、藤田さん!?なぜ泣くのですか!」

 

「浜風ちゃんの料理がうますぎるんだよぉ…!俺は娘にすら料理作ってもらったことがないくらいなのに」

 

「………………そう、なんですね」

 

 まさか泣くほど美味しいと思ってもらえるなんて……

 手料理でなかったのが本当に残念です。

 

 




アーカイブ
No.008

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藤田茂の警察手帳

階級 巡査部長
氏名 藤田茂

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昭和二十六年 
 単身、夜見島を出る。翌年母死亡。

昭和四十五年 
 夜見島港閉鎖、同年父死亡。以後、夜見島に戻らず。

昭和五十年  
 夜見島小中学校全焼

昭和五十一年 
 海底ケーブル切断による大規模な停電。
 夜見島島民消失事件。
 安全面の問題から夜見島上陸禁止に。

昭和六十一年 
 島に若い女の姿を見たと漁師達の噂→調べてみる必要有り。

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 藤田茂の警察手帳。
 彼が夜見島を訪れた理由が書かれている。
 また、この警察手帳は2002年10月1日のデザイン変更以前のものとなっている。

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