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翔鶴 ???/???
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青い世界───
地も空も絵にかいたような美しさで、緑と青のコントラストが美しい。忘れ去られたかのように、古い郵便ポストがポツンと佇んでいる。
「───こっち。」
ふと、後ろから声をかけられる。
振り返ると、そこには真っ黒な女の子がいた。緑色のジャケットを着た男の子と手を繋いでいる。
「………悪い、君の傷酷かったから、他に手が思い付かなかったんだ…………ごめん。」
緑色のジャケットを着た男の子が喋る。
私はその声が、意識が途切れる前に聞いた最後の声と一致した。
何となく、この人が誰なのかわかる。
何故かはわからないが、うっすらとこの人の記憶が私の頭へと流入してくるのだ。
「────ここは、どこでしょうか?」
「…………私達の世界。あなたも、私達と同じ血を受けた人間になったって事。」
黒い女の子が話す。
同じ血を受けたとはどういうことなのだろうか?
「俺の血を、君に託したんだ。俺とこの子……美耶子って言うんだけど、ちょっと特殊な血でさ。体よく言えば不老不死なんだ。この血を受けると、まず死ななくなる。」
どうやらこの男の子は、瀕死の傷を負った私をその血で救ってくれたらしい。
しかし、それだと今の私は不老不死と言うことになる。
再び、男の子が喋る。
「………現実世界に帰ったら、一つ頼みがある。」
「何でしょうか?」
「………宇理炎───土の人形を君に託した。それで、俺を焼いてくれ。」
「え………?」
まずなんの事かわからなかったが、少なくとも男の子に自分を殺してくれと頼まれていることだけは理解した。
「わかんないよな………でも、使い方は多分わかると思うんだ。俺もそうだったし。」
「い……いえ、何故あなたを焼かなければならないんでしょうか?私にはそこが疑問なんですが……」
私の疑問に、男の子は深くため息をつくと答えてくれる。
私の中に流入した記憶には、その男の子が辿ってきた戦いの記憶が驚くほど数多くあった。それも、途方もない時間を、一人で。
孤独に戦い続けることがどれ程辛いものだろうか。
「………………………信じられないと思うけど。俺さ、数えきれないくらい世界を渡り歩いたんだ。多分、この世界が最後になる。けど、流石にもう疲れたんだ。宇理炎は自分には使えない。だから、君が俺を終わらせてくれ。頼む」
「…………………………」
終わらせてあげたいとは思う。
しかしそれは、この最後の世界を代わりに私が終わらせなければならないという事だ。
私に、できるのだろうか?
………いや、しなければならない。もう後戻りは出来ないところに来たのだ。なら、残してきた皆の為にも私がやらなければ。
私は、肯定の意で静かに頷いた。
男の子は小さくありがとうと言うと、もう一つ頼み事をしてくる。
「………それと、もし
「……………………わかりました。」
突然いなくなってしまった事に、彼も負い目を感じていたのだろう。
私は快く引き受けた。
どちらにせよ、現実に戻ることを目指さねばならないのだ。目標があるほうがいい。
「そういえば、あなたの名前は?」
「……………SDK、でいい?」
なんだそれはと思うが、何故そんな風に名乗るのかも少しわかる気がした。
私は微笑むと、後の事は任せてほしいという風に首を振った。
二人はそれを見て頷くと、私から背を向けて歩き出す。
とても、仲の良さそうな二人だった。
「行こうか、美耶子」
「うん………」
私は、相も変わらず土の上で目覚めた。
もう、痛みも酔いもない。何故かまだ血の涙は溢れているが。
手に感触があり、私はちらりと見た。
先程の男の子が私の手を握ったまま、傍らに倒れている。握った掌から血が溢れているのを見ると、ここから例の血を受け渡されたらしい。
私は起き上がると、彼が身に付けているものから遺留品になりそうなものを外し、身なりを綺麗に整える。
姿勢を整えて両手を組ませると、私は宇理炎と呼ばれた土の人形を手にした。
私の中のなにかに呼応するかのように、宇理炎が淡い光を放った。
どうすればいいか、不思議と理解する。
「…………終わらせます。SDKさん───長い間、お疲れさまでした。」
宇理炎を空高く掲げる。すると、宇理炎は青白い光を放ち、それに呼応するかのように空から流星のような青い火球が降ってきた。
眩い光と炎に包まれ、男の子は燃え上がり消えていく。
それを眺めながら、私は姿勢を正し挙手の敬礼を送る。
───ふと、炎の中に手を繋いで歩いていく二人の姿が見えたような気がして、私は少し微笑ましく思った。
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赤城 夜見島金鉱(株) 2F
翌日 00:00:01
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「…………………何!?」
突然鳴り響いたサイレンの音に私は飛び起きる。
この音には聞き覚えがあった。嫌な記憶しかないが。
私は横になっていたソファから離れ、見張りの利根さんの視界を借りた。
想像通り、あの赤い津波が迫ってきていた。
利根さんが慌ててこっちに掛けてくる。
「あ、赤城!まずい、まずいぞ!」
「わかっています……!全員屋上へ!一ヶ所に固まって艤装展開!」
私の指示に、金剛さんと加賀さんも応じて建物の屋上へと出た。私も利根さんに補助してもらいながら急いで屋上へ出る。
迫り来る津波に、誰も恐怖していた。
全員艤装を顕現させ、バラバラにされないよう各々手を繋ぎ合わせる。
「死んでも放さないヨ!!もうバラバラはイヤネ!!」
「当たり前です……!」
「うおぉぉぉぉぉ!来る来る来るのじゃ!!」
「っ………どれだけ私達を弄ぶつもりですかっ……!この島はぁぁぁぁぁぁッ!!」
迫り来る津波に、感情を剥き出しにして吼えた。
負け犬の遠吠えだろうが構わない。
最後まで足掻くしか、私達には残されていないのだ。
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浜風 蒼ノ久漁港
翌日 00:00:04
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「─────!」
サイレンの音に飛び起き、私は周囲を見回しました。
舷窓から見える赤い津波に、起きてきた藤田さんと共に驚愕します。
「ま、まずいぞこりゃあ……!船を沖合いに出さねぇと」
「い、今からで間に合いますか!?」
「やるしかねぇ!」
それを聞くなり、私は船を繋いでいるモヤイ縄を解きに走りました。
岸壁に飛び移り、ダビットから縄を急いで外すと船に飛び乗ります。
その間に藤田さんがエンジンを回したようで、船は速度を上げて港から出ていきました。
舳先が潮を掻き分け赤い海を突き進みますが、津波は眼前へと迫ってきています。
もう少し沖合いにでないと、乗り越えるのは困難です。
「思ったより津波が速い…………こうなったら!」
私は艤装を展開し、船の後方へ付くと機関を一杯に作動させ船を押します。
大破してはいますが、機関は生きています。船は速度を増し、津波へと突進していきました。
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神通 夜見島金鉱社宅 ハ号棟
翌日 00:00:12
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「まずい、津波が来る………」
私はサイレンの音に目覚めると、一目散に見張り台へ走っていた。
遠方に、巨大な赤い津波が見える。
後からやってきた川内姉さんは、それを見ながら気になることを呟いた。
「また、誰か飲み込んだんだ………」
「………どういうことです?」
「あの津波は幻覚だよ。現実には存在しないから、波に呑まれることはない。あれが来るのは午前0時。そして、新しい犠牲者がこの場所にやってくるんだ。」
流石に長いことこの島にいる為か、川内姉さんは落ち着き払った目で迫る津波を眺めていた。
私はその様子を見て警戒を解き、部屋へと戻る。
いくら幻覚とはいえ、津波に呑まれるのはあまり気持ちのよいものではないからだ。
部屋へ戻ると、川内姉さんは続きを話してくれた。
「この前までは、仮説でしかなかったんだ。けど、神通達が来てから確証に変わった。現実の島に獲物をおびき寄せて、ああやって津波で呑み込む。」
「──狙いは、人間の体?」
「それもあるだろうけど、それには私らも含まれてるし、多分私らが本命だと思うよ。連中は肉体が欲しいんだ。だから、日本近海にまで現れてるんだと思う。私達が無視できないように。」
「………ここは、鼠取りカゴ。ですか」
「そうだろうね。ここにいれておけば、後は勝手に弱る。そうして弱りきったところに……取り憑くってところじゃないかな。」
「胸糞悪い………」
「あぁ、胸糞悪い。だけど、こうとも言うじゃん。窮鼠猫を噛むってね。」
「────ふふっ、ええ……噛んでやりましょうか。私達はただでは屈しない。」
「そうだね………さてと、仲間も増えたと思う。電文が使えるとわかったことだし、早速呼び掛けてみようか。」
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野分 蒼ノ久漁港沖
翌日 00:12:14
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「…………………ここは………」
巨大な津波に飲まれ、私は気づくと先程とは別の地点を航行していた。
記憶が正しければ、私は島の北部沿岸を航行していたはず……
僚艦の舞風の姿も見当たらないが、一体私はどこにきてしまったのだろうか。
島の稜線からはわからないが、港については見覚えがある。間違っていなければ島の西側だ。
何故ここに飛ばされたのかはわからないが、飛ばされた以上は仕方がない。
私達は、作戦参加前にしつこく上陸禁止を言い渡されている。
任務は一つ、佐世保の空母機動部隊の捜索だ。島の沖合いを航行し、洋上から誰かいないか監視・捜索するのだ。
しかしこうなった以上、任務続行は難しいと判断した。僚艦もおらず、丸一日かけて監視を行っても島には誰一人いなかったのだ。
上空からヘリで捜索する部隊もいたが、そちらの方にも動きがあった様子はなかった。
「司令部へ打電──野分、僚艦行方不明につき単独航行中。作戦続行は困難につき、これより帰投する───よし」
通信妖精に打電を伝達すると、私は進路を島の北側へ向ける。宿毛へ向かうためだ。
「………………えっ!?それは本当なの?」
通信妖精が、艦隊通信用の周波数に打電があったと報告してくる。返電にしてはかなり早い。
そう思いつつ妖精の報告を聞くが、電文の内容は予想だにしない驚くべきものだった。
シマシュウヘンヲコウコウスルカクカンハミナミノミナトヘシュウケツセヨ
誰からかはわからないが、兎に角艦娘が発電していることはわかった。
こんな状況のため、できれば単独航行は避けたいのが本音だ。罠である可能性は否定できないが、私は進路を南へ変え、一先ず港を目指すことにした。
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金剛 夜見島金鉱(株) 屋上
翌日 00:24:56
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「─────Oh、本当に誰か来たネ。」
津波を食らった後、私達は何事もなかったかのように屋上にいた。どうやら津波は幻覚らしく、濁流に呑まれるということはないようだ。
津波の直後、川内からの具申を受けた私達は屋上に這いつくばっていた。
何をしているのかというと、港周辺海域の見張りである。川内から、先程の津波で誰か新しい艦娘がこの島に来ているかもしれないと報告してきたのだ。
そのためこうして待っているのだが、本当に誰か来るとは思わなかった。
「誰かわかりますか?」
赤城が言うので、私は目を凝らして確認する。
銀髪に小さな体。海を航行している以上は艦娘で間違いなく、体格や艤装からして駆逐艦クラス。
記憶にも覚えがある。
「─────Oh my god.あれは浜風ネ。」
「………よ、よかった……生きてたのね…」
赤城の安堵の声が聞こえる。
死んだと思っていたので、その生存が確認されたのは余程嬉しかったようだ。
私はまだ喜ぶのは早いと、浜風の動きをつぶさに観察した。
磯風のように屍人化している可能性もあるのだ。もしかしたら、コチラの電文を掴んでやってきた可能性もあった。
変な動きを見せた瞬間、私は撃つつもりで艤装を顕現させる。
浜風は港内に入ってくると、辺りを見渡して周囲の安全を確認しているように見えた。
ここから見る限りでは怪しい動きはない。
「………赤城、一度電文を送ってみるヨ。こっちにくるように。私が迎えにいくから」
「そうね………わかった、やってみましょう」
赤城が電文を発するのを見て、私は下の階へと降りた。
戦艦娘の私なら、万が一交戦になっても火力で圧倒できる。装甲も魚雷の使えない駆逐艦娘相手なら十二分に強力だ。
下の階で見張りをしている加賀と利根の横をすり抜け、私は近くで見つけた自転車に飛び乗ると港へ向かった。
勿論、自転車がペシャンコにならないよう艤装はしまってあるが。
「───Hey!浜風!」
「─!こ、金剛さん!」
浜風は私を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
一人で心細かったのかもしれないと思い、私は浜風を抱き締める。
浜風は片目を隠すような髪型をしているが、今はそこからチラリと包帯が見える。
どうやら、傷を負っているようだ。
「傷はあるけど、屍人にはなってないみたいネ………」
浜風の状態を観察し、私は事務所ビルへ向け発光信号を飛ばした。異常なし、と。
アーカイブ
No.023
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─の人─探して下さ──
────8月2──土───畳式マ──バイクで自宅を出た後、行方不明になり────
【氏名】───
【生年────年7月26日生(16歳)
【血液型】O型
【─────170cm 体重60kg
【失踪当時の服装】モスグリーン色の半袖シャツ──Tシャツ──ジーンズ。白いスニーカー。
心当たり─────警察署、もしくは最寄り警察署にお知ら────
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人捜しの貼り紙。
劣化が激しく、読み取れない箇所がある。