SIREN:FLEET   作:ギアボックス

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初日 14:00:00~16:00:00

 

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磯風 瓜生ヶ森

   初日 14:00:45

 

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【───────はは】

 

 最高に気分が高揚している。

 この体は凄いことばかりだ。地の連中はこんなものを独占しているのかと思うと腹が立つな。

 

 この体の元の持ち主の記憶が流入してくるが、まあ取り扱い説明書のようなものだ。

 

 艦娘───まだ仲間がいるのか。いいぞ、我等にもっとこの殻をよこせ。

 

「動くな」

 

 ライトの光が当てられ、私は苦々しげにその方向を見た。

 銃を構えた迷彩服の男が近づいてくる。

 艦娘ではないのが残念だな。まぁ、同胞の殻が増えると思えばいいか。

 

 私は持っていたナイフを持ち直し、その男目掛けて投げつけた。

 

「──!」

 

 男は咄嗟に銃でナイフを弾くが、私はその隙に男との距離を詰めて銃を掴む。 

 

【人間が邪魔をするな。大人しくしていれば楽に死なせてやるものを】

 

「────お前、イモムシ型じゃない割りにはよく喋るな。」

 

【ふふふ……これは状態の良い殻だからな。私は運がいい】

 

「訳わかんないこと言ってる所で悪いけどさ……」

 

 胸に鋭い衝撃が走る。男の手には拳銃。どうやら撃たれたらしい。

 

 まずいな……殻が使えなくなる前に修復しなければ。

 

 私はきびすを返すとその男から逃走した。

 銃弾が飛んでくるが、この体は飛ぶように走れるのだ。銃弾なぞ容易く避けれる。

 

 私は適当な木陰へと逃げ込むと、一旦休んで殻を修復させることにした。 

 この体は傷の治りも早い。この程度の傷ならたちどころに塞がるはずだ。

 

【────海の者の割には、贅沢な殻を持っているな。】

 

【……………何の用だ。協定を反故にする気か?】

 

 チッ……

 ハイエナどもめ。私の殻を奪いに来たのか?

 私の周りを地の無垢たちが取り囲む。まだ黒い衣を着てないところを見ると生まれたてなのだろう。

 

【協定は人間の殻に対してのみ。その殻はお前たちには贅沢すぎる。我々が使わせてもらおう】

 

【鉄の殻を独占していて何を言うか。殻を使う技を見出だしたのは我々だ。それに、母様を復活させたのも我々だぞ。】

 

【その母様が協定を決められたのだ。お前たちは大人しくこの島を守っていればいい。人間の殻に籠ってな】

 

【言わせておけば──我等を置いていった挙げ句、あまつさえ不当に扱う。やはりお前たちは許せん。協定など無意味だ】

 

 地の者たちはまだ無垢。強力な殻を持つ私には敵わない。

 私は懐に仕込んだバタフライナイフを出すと、それを振り回して無垢の者たちを切り払った。

 

 非難の声が挙がるが関係ない。

 この体さえあれば、地の者に屈する必要もない。我々海の者の地位を上げるには丁度よい機会だ。

 この島にいる艦娘は、我等海の同胞が頂く。

 

 一頻り暴れると、無垢の者たちは蜘蛛の子を散らすように退散した。

 私はそれが痛快で一人笑みをこぼす。

 

 しかし、無垢の者たちもただで退いた訳ではないらしい。

 先程の人間を呼んだのだろう。迷彩服の男が銃を構えたまま木を掻き分けてやってきた。

 

【あくまで邪魔立てするか………おのれ】

 

「かくれんぼは終わりだ。じっとしてろ」

 

 銃口が突きつけられ、私は壁際に追い詰められた。

 男の後ろでは、地の者たちがまるで私の死を待つかのように見ている。

 

【………私を撃っても、また甦るぞ?】

 

「なら、その前にお前の体を爆破する。」

 

【どうかな…………なぁ、私と取引しないか?】

 

「………何ふざけた事言ってる。」

 

【私の命を保障しろ。代わりにこの島からの帰り方を教えてやる。だから、まずは後ろにいる連中を蹴散らしてくれ。私も手伝う】

 

「…………」

 

 男は黙って振り向くと、ライトの光を地の者たちに浴びせた。地の者たちが光を浴びて蒸発し溶けていく。

 

「お前の助けなどいらない。が……取引には乗ってやる。帰り方を教えろ」

 

【……………わかった。まずはその銃を下ろせ。】

 

 男が銃口を下げる。

 思いの外素直で面食らったが、ここから出たい欲求が勝ったのだろうと勝手に推測した。

 

【あの鉄塔、あれに昇るといい。そこから顕界へ出れる。】

 

「……………」

 

【さぁ、取引は成立だ。お互い、ここは見なかったことにしようじゃないか。】

 

「……………」

 

 男が背を見せ、私から遠ざかる。

 が、この体はその男からの殺気を敏感に感じ取っていた。

 案の定、男は振り返り様に銃口を向けてきた。

 私はその銃口を掴んで上に反らすと、男のホルスターから素早く拳銃を奪い取って額に突きつけた。

 

「─────やるじゃない。」

 

【殺気が駄々漏れだよ。】

 

 

 

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翔鶴 夜見島港/夜見島金鉱(株)2F

   初日 15:08:11

 

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「よし、入ったわ。」

 

 赤城さんの声に、事務所にいた全員が振り向く。

 赤城さんは艤装を顕現させ、艤装妖精からの連絡を待っていた。

 

 この島に来てからずっと、通信手段がない状態になっている。

 本部との通信が途絶している為、無線機材は使えないものと思っていたのだ。

 しかし実際は、感度が極端に悪いだけで使えたのである。残念ながら島外からの電波信号は受信できなかったが。

 

 この夜見島金鉱の事務所ビルに本拠地を据えた後、連絡手段の話となり無線通信ができないか試した結果、艤装を顕現させた私と瑞鶴の間でモールス信号による通信を行うことに成功した。

 モールスなら、無線電話やデータ通信が不可能な環境でも最低限の情報なら確実に伝達できるのだ。

 本来なら艦隊内無線電話で済むような距離ではあるが、それでも通信手段がまったく無いよりはあったほうがいい。

 

「───ワレカガ、アオノクヨリハツデンチュウ……カンアリヤ──…………入電成功ね。浦風さん」

 

「はいよー」

 

 赤城さんが加賀さんからの連絡を受け取る。赤城さんの声に、となりの浦風が地図へ印を書き込んだ。地図といっても、紙に略地図と地名、道路や情報などをざっくりと書き込んだものだが。

 

 現在はどこまでならモールス信号による交信が可能であるか調べる為、加賀さんと瑞鶴の二人組に島のあちこちへ行ってもらい、そこから無電を打って貰っていた。

 無論移動手段は軽トラで、同時平行で仲間の探索も行ってもらっている。

 

 今のところはすべての地点からの入電に成功しており、残すは島の西部のみとなった。

 移動にかかる所要時間を考えて、次の交信までは10分ほどある。

 私は下へ降りて、加賀炎(かがえん)ビン(加賀さん特製ナパーム&テルミット火炎ビンの略、瑞鶴命名。長いので加賀炎に省略)を製造している利根さんと金剛さんを手伝うことにした。

 ちょうどこのビルの地下で大量のビールビンと一升ビン、灯油とガソリンの備蓄を見つけたのだ。添加物は余分に集めていたので増産は可能だった。

 

「お二人とも、首尾はどうですか?」

 

「順調ネ。もう2ダースは作ったヨ」

 

 作っていると手が油まみれになるので軍手(これも地下で見つけた)を嵌めた二人は、じょうごを使って燃料と添加物を器用に混ぜていた。

 流れ作業になっているらしく、利根さんと金剛さんで持っている薬品が違う。

 

「作ったは良いが、本当に効くのか?」

 

「加賀炎はなかなか強力ですよ。一度使った私が保証します」

 

 目の前で爆発的に燃える炎の凄まじさは圧巻だった。威力としては問題なしだと思う。

 私は利根さん達としばらく作業した後、再び上の階に戻った。

 

「赤城さん、電文は来てませんか?」

 

「いえ、まだね。いや───感あり。来たわ。えっと………ワレイソカゼ、キカンラハドコニアリヤ……………え?」

 

「!………磯風さんからの、電文?」

 

 

 突然の電文に、私のほかに事務所にいた浦風さんが飛び上がった。

 

「返信してきたっちゅうことは、艤装を使っとるんじゃろうか?」

 

「その可能性が高いわね。他に無電設備なんてこの島には……」

 

 磯風さんからの電文を受けた私達は、一先ず加賀さん達にも電文を飛ばして情報を共有する。

 加賀さんと瑞鶴からもこちらに戻ると連絡があり、私達は磯風さんを出迎えるための準備を始めた。

 赤城さんが返信を打つよう、妖精に指示を出した。

 

「ワレアカギ、シュウケツチテンニテマツ……よし、打電して」

 

 

 

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榛名 夜見島/瓜生ヶ森

   初日 15:25:45

 

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「………すこし、暗くなりましたね。」

 

「そうだね………もう1530だから、連中が活発に動き出すかも」

 

 もともと辺りは暗いですが、それに拍車をかけて暗くなった気がします。

 永井くん曰く暗くなればなるほど敵は活発に動き出すらしく、私はこれから戦闘が増えることを考えると少し気落ちしました。

 私達は小中学校での探索が不発に終わったこともあり、一旦船に戻って夜を過ごすことになりました。夜に行動するとひっきりなしに敵と遭遇するのだそうです。

 

 私達は船のある森の中を進んでいましたが、ふと道の脇に一台の大きな軍用車が停めてあるのに気づきました。

 

「高機?…三沢少佐が乗り捨てたってことか?まぁいいや。二人になったし、足があったほうがいいよね?」

 

 そういうと永井くんは、停められていた車の中をライトで照らしました。車内を確認しているようです。

 

「やっぱそのまんまだな………まぁいいや。周りにはいねぇみたいだし。ほら、榛名ちゃん乗って。」

 

 永井くんが勧めてくるので、荷物を後ろに積んでから助手席へと乗り込みました。車内は普通の車よりかなり広々としていて、このまま中で寝転がれそうな程です。

 永井くんは慣れた手つきで車のエンジンをかけ発進させました。薄暗い森の道を走らせながら、隣の永井くんが話し掛けてきます。

 

「高機乗るの初めて?」

 

「はい。軍用車に乗ることは少ないので新鮮ですね。」

 

「え?普段どうやって移動してるの?」

 

「公務ではバスかヘリ、外出の時は公共交通機関か、免許持ってる子は軍の用意した車を使ってます。」 

 

 こういった本物の軍用車に乗る機会は本当に少ないのです。基本的にはバス、急ぎなら軍のヘリを使うし、少人数なら公用車に有りがちな黒いセダンです。

 しかし、永井くんは移動手段とは別の部分に反応しました。

 

「へぇ………って、艦娘って普通に外出してるの!?」

 

「していますよ。私達も四六時中基地内だと息が詰まりますし」

 

 私達も普通の軍人同様、申請さえ出せば外出や外泊が可能です。昔は出来なかったのですが、今は艦娘の数も増えて福利厚生も重視されるようになりました。

 

「そうなんだ………じゃあ、鎮守府近くで若い女の子いたら艦娘だったり──」

 

「可能性は高いですね。近場に外出してる子も多いですから」

 

 ちょっとした外食や買い物のために外出する子も多いです。故に鎮守府近辺では知り合いの艦娘に会うことも珍しくありません。

 永井くんはこくこくと一人頷いていましたが、何か気になることでもあるのでしょうか?

 

「─────うおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 突然、人影が脇道から飛び出してきました。永井くんのハンドル操作が追い付かず、その人影を車は盛大に撥ね飛ばします。

 ブレーキが効いて車が止まった頃には、数メートル先にその人影が転がっていました。

 

「迷彩服?」

 

 跳ねられた人は永井くんと同じ迷彩服を着用したスキンヘッドの男性でした。

 私には見覚えがあります。永井くんは当然ながら誰かわかったようで、大急ぎで車から降りてその人のもとへと駆け寄りました。

 

「少佐!三沢少佐!」

 

 永井くんが揺さぶりますが、倒れている三沢さんはピクリとも動きません。

 しかし、私はその額に銃弾の痕があることに気づき、腰の刀に手を添えました。

 

「やべぇ……やべぇよ………」

 

「永井くん、この人変です。少し距離をとりましょう」

 

「え?」

 

 私の声に、永井くんは疑問に思いつつも離れました。

 案の定、私の予感は的中します。

 

 三沢さんはむくりと起き上がると、ゆらゆらとこちらを向きました。

 

【────なーがいくーん──一緒に遊びましょうっ!】

 

 私はとっさに駆け出すと、永井くんを突き飛ばして前に出ました。

 そのすぐ後、乾いた銃声が森に木霊します。

 

「あうっ───」

 

 胸に痛みを感じ、私は小さく悲鳴を漏らしました。

 銃声と痛みで、何をされたかわかります。それは永井くんも同じようでした。

 血が溢れてきて、私は足に力が入らなくなり腰から崩れました。永井くんが私を寸でのところで抱き止めます。

 

「は、榛名ちゃん!!───────てめぇ………三ィ沢ァァァ!」

 

 永井くんは私を抱えながら、足につけていたホルスターから拳銃を抜き放って三沢さんに向けました。耳が痛くなるほどの絶叫です。

 銃声が交差し、一方は在らぬ方向へ、もう一方は相手の頭へと撃ち込まれます。

 

 ぐらりとふらつき倒れる敵。

 永井くんは、かつての上官の眉間を的確に撃ち抜いていました。日頃の訓練の賜物というものでしょう。

 

 私は心臓が撃たれたということもあり、体内から血が流れ出すぎたせいで頭が朦朧としてきました。

 永井くんが必死に呼び掛けているのがわかりますが、うまく呂律が回りません。 

 

「榛名ちゃん、榛名ちゃん!!」

 

「──────はる、なは───大丈夫───で、す───」

 

 どうにか言葉を紡ぎだし、私は意識を失いました。

 永井くんに誤解させてしまいそうで私は心苦しかったです。 

 

 

 

 




アーカイブ
No.014

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軍人手帳

下記の者は日本陸軍軍人であることを証明する。
陸軍幕僚長
階級 少佐
氏名 三沢岳明

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三沢岳明の軍人手帳。
公的な身分証明書として機能する。


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