スレイン法国の滅亡   作:西玉

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12巻を読んで……どうやら、法国ありますね。


8 エルフ王国

 エルフ王国の三ケ月湖畔に立ち、戦闘の指揮を任されていたエルフ、ゴトフリー・ワイナイナは報告を受けていた。

 エルフ王の傍女の一人で、王の子供を三人産み、育て、捨てられたエルフの女性である。

 それだの仕打ちを受けてもなお、エルフ王に仕えることを辞めない。それが忠義ではなく、恐怖からによるものだとゴトフリーは知っている。

 

「それで、王は何と?」

「はい。あの程度の兵に滅ぼされる程度の国なら、滅んでしまえと」

 

 女のエルフは、三ケ月湖の先に視線を向けた。

 そこには、数週間前に建設されたスレイン法国の砦があった。

 法国の兵は強い。しかし、戦争は一進一退の攻防を続けていた。それは、森を戦場に選んだエルフの知恵による結果だ。

 

 しかし、数週間前から法国は戦いの方法を変えてきた。森に非常にうまく潜伏し、エルフを上回る隠密能力で次々にエルフを狩っていき、ついには王都を望む三ケ月湖に面した砦を築くまでになった。

 戦いは終盤を迎えていることは、ゴトフリーは理解していた。もとより、平地での戦いではエルフ側に勝機はないのだ。

 王都の直前まで攻めたてられた段階で、後はいつ攻め落とされるかを待つしかない。

 

「自分で始めた戦争だというのに、いい気なものだ」

 

 エルフ王がスレイン法国の神人である女性をかどわかし、手籠めして子供を身ごもらせた。誰が聞いても耳を疑うような理由で戦争が引き起こされ、ゴトフリーはそれからずっと、前線で指揮をとっている。

 外見は若いエルフと変わらないが、エルフ族は長命である。数十年に及ぶ小競り合いを、ずっと目の前で見てきたのだ。

 

「今エルフ族を生き永らえさせるためには、戦争に勝つことではなく、いかに皆を逃がすかだが……逃げたエルフはあの王が殺しに行くと宣言している。我々は、無駄死にだとわかっていながら、戦うしかないのか」

「ゴトフリー将軍、それについてですが……提案してよろしいでしょうか」

 

 意外だった。目の前のエルフの女は、ただエルフ王の寵愛を取り戻すことしか考えていないのだと思っていたのだ。

 ゴトフリーにしてみれば、エルフ王はただ強いと言うこと以外、唾棄すべき男である。恐怖に囚われるあまり、愛情と勘違いしたのだろうと思っていた。

 

「どうした? 妙案か?」

「法国の北に、新しい国ができたという噂があります。その国に……」

「助けを求めることは王がゆるさんだろう。王に知られないように……か。王は、囚われて奴隷にされたエルフたちには興味はないようだ。ならば……法国に捕えられたと見せかけて……その国を目指すか」

 

「私が言わなくとも、もともとお考えだったのですね」

「ずっと、戦に勝つことではなく、エルフ族をどうやって生き永らえさせるかを考えていたのだ。しかし、その国、信用できるか? 魔導国の王は、恐ろしいマジックキャスターだと聞く」

 

 女エルフの顔が、少し崩れた。笑ったのだ。崩れても、整った顔立ちは美しい。エルフらしい長い耳が、少しだけ揺れる。

 

「私が申し上げたいのは、魔導国ではありません。魔導国の南、法国と魔導国に挟まれるように、ゴブリン王国が誕生したとか」

「……ゴブリン王国? ゴブリンの王が国を作ったのか? そんなもの、すぐに法国に潰されるだろう。我々エルフは人間種だが、ゴブリンは亜人だ。法国の連中が存在を認めるはずがない」

 

「つまり、ゴブリン王国に戦力を向けるはずです。その間に……決戦を挑み……」

「あえて破れて、この国を離れるか……それも、いいかもしれんな。だが、そう上手く行くか? ゴブリン王国の動向がわかるまい」

 

 女エルフは小さく頷いた。

 

「私たちは……エルフ王のためにはもはや戦えません。しかし、それが同族のエルフたちを生き延びさせるためであれば、最後の一人まで戦いましょう。ゴブリン王国と法国を戦わせ、その間に、私たちは法国に攻め込み、戦わずに進軍し続け、リ・エスティ―ゼ王国に庇護をもとめてはどうでしょうか」

「法国の領土を縦断することになる。可能か?」

「……耳を落とせば」

 

 女エルフは、自分の長い耳を切り落とす所作をした。奴隷のエルフは、耳を切られるとは聞いていた。それは、エルフとしての誇りをへし折るためだ。

 それに、広い国土の全てをくまなく監視しているわけではないだろう。途中で街に寄らなければ、縦断するだけなら可能かもしれない。

 

「耳を切ることに、抵抗は?」

「もちろんあります。しかし……生き残りさえすれば、我々の子供はまた長い耳を持って産れるでしょう。長い時を、耳を失って生きることになろうとも、子供たちが立派な耳を持って産れてくれれば、それだけで十分かと」

 

 ゴトフリーは腰に刺した剣に目を落とした。先代の王から、エルフ王国の将軍に任じられたときに託されたものだ。

 あの時は、歓喜に身が震えた。

 エルフ王国の敵には、死を与えるものと誓った。

 だが、実際に当時の王から託されたことは、エルフという種族の存続だったのだと思いだす。

 

 200年以上前の記憶だが、いまでも王の顔ははっきりと思いだせる。

 腰に刺した剣の柄を一撫でし、ゴトフリーは王の居城を見上げた。

 自然物を尊重し、人工的なものを蔑視するエルフ族は、天然の崖地を穿ち、城として利用してきた。

 現在の王が大規模に修繕させ、中はすっかり人間の城のようになってしまっている。それでも、外装まで作り変えるのはさすがに無理だと断念し、王は現在でも崖地の城に篭もっている。

 

 エルフの街は、本来は深い森の中にあり、現在のように平地に築いたりはしない。三ケ月湖の周りに生え茂った背の高い木々を切り倒し、建物で覆ったのも現国の王の指示だ。

 それがなければ、これほどまでに戦局が悪化することはなかったのだと思うと、いかに現国王が凡庸で愚かかが知れる。ただ、強いのだ。

 エルフ王国の最高指導者は国王である。

 ただし、エルフを種族として生き永らえさせるためであれば、王は現在のところ害悪でしかない。

 

「……南方に行けば……砂漠の地に天空の城があると聞く。そこは、かつての八欲王の城だという。そこまで逃げられれば……いや、駄目か……」

「そこにたどり着く前に、亜人や魔物に狩られましょう」

「そうだな。やはり、我々が生き延びるためには、ゴブリン王国こそが鍵となるのだろう。よし、兵を集めよう。スレイン法国に打って出る」

 

 打って出て、そのまま敗戦し、逃亡するのだ。

 

「今の話、どこまで聞かせましょう」

「まだ、誰にも言うな。スレイン法国にしかける前に、まず数名でゴブリン王国を目指させるのだ。そのために、あらかじめ耳を切り落とし、奴隷に扮する役割の者と、奴隷商人の役を演じる人間が必要だ」

 

「人間なら、捕虜としたスレイン法国の兵士を利用しましょう」

「危険だと思うが?」

「心配はいりません。篭絡いたします」

「……自身があるのか?」

 

 意外なことを聞いたと、ゴトフリーは尋ねる。エルフは生来細身で、人間からすれば、魅力の無い体つきなのだと聞いたことがあった。

 尋ねた女エルフは、少しばかり自慢げに言った。

 

「捕虜の中に、同族の者たちの体を舐めるように見る者が若干ながらいるようです。話を聞くと……ロリコンとか言うらしいですが……」

「ふむ。人間の性癖の一つなのかな? まあいい。そちらは任せる。私は、次の戦の準備を進めておく」

「はっ」

 

 女エルフが見上げたのは、背後の王の城である。

 王の城を見上げるエルフの表情に深い恨みを見つけ、ゴトフリーは仕えるべき王にすっかり愛想をつかしている自分に気が付いた。

 




エルフの将軍はオリキャラです。あまりにも情報が少ないので、仕方なく…ですね。ご了解ください。

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