あれから数日、ゴブリンのコロニー襲撃の調査が入り見事壊滅させたことを証明して今日は正式に着任する儀式が今始まろうとしていた。
もちろん私も出席している。
白が基調で高貴な印象を与える王都ギルドの制服を身に纏いセナが壇上へ上がる。
そして王都ギルド専用のギルドカードと勲章バッジを受け取り拍手喝采を受け正式にセナは王都ギルドの一員になった。
「じゃあ、セナの王都ギルド就任を祝って、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
「セナさん、王国ギルド就任おめでとうございます!」
「おめでとう。先を越されてしまったな。」
その夜、城下町のギルドではセナを祝う宴会が始まった。
なぜ王都ではなく城下町でしているのは王都はちょっとお上品な店が多くて羽目を外しきれないからである。
宴会にはパーティでセナの後輩のリーエや先輩であるフィリスが来てくれた。
ちなみにフィリスは私の後輩でもある。
「ほら、ラビットも飲みましょ?」
もちろんラビットも捕まえた。
それに応えるようにお酒の入ったグラスを少し上げてから飲んだ。
「セラからも聞いたがやっぱり噂で聞いた通り無口だな。」
「本当に喋らないんですね・・・」
フィリスとリーエの言葉に頷いた。
「それにしても、本当に素晴らしい働きだったぞ。お前でなければ私はこうして制服もバッジももらえなかったろうな。」
セナが左胸につけているバッジを撫でるように触った。
まだ真新しいバッジは金色の輝きを放ちその存在感を表していた。
「それにビッグゴブリンを一人で倒すなんて、本当にあなたは何者なのかしら?」
「なに!?」
「え!?」
フィリスとリーエが驚愕の声を上げる。
無理もない。並みの冒険者なら束になっても勝てるか怪しいビッグゴブリンを倒せばそんな反応をするだろう。
その後も楽しく飲み明かしてた。
フィリスとリーエはいつもより早いペースで飲んでいた。
セナはお酒が飲むペースが遅いからいつも通り。
ラビットはあんまり飲んでいない。
けどやっぱり・・・
「お酒最高〜!!!」
「やっぱり始まったな。」
「始まった・・・酒乱モードのセラ。」
「もうダメおしまいです。」
セラはお酒が大好きなのである。
だがしかし、弱い癖にペースが速く、最後は寝ている。
そして目をつけたものに執拗に絡むのである。
前回はリーエだった。
席を立ち上がり向かい側に座っていたラビットのところまで千鳥足で歩くとラビットに左手側から抱きつくように倒れこんだ。
「んふふふ〜! らびっとぉお! あんまりのんれないれひょ、のみなひゃあ〜い!」
ラビットが酒が注がれたグラスを手に持ち少しだけ飲んでグラスを口から離した。
「れぇんれぇんろんれらいららい!! もぉ〜!」
全然呂律が廻っていないほどすぐに回ってしまっている。
ちなみに今のは「全然飲んでないじゃない!! もぉ〜ッ!」と言ったようだ。
「うわ、かつて無いほど酔ってるぞ!」
「なに言ってるか、全然わかりません!」
フィリスもリーエも酔いが回って来たのか声が大きく周りの注目を浴びている。
普段騒がしい酒場だが今日はもっと騒がしかった。
「こ〜らてのむのよ〜!」
ラビットからグラスを取り上げグイッと口をつけ飲んでるように見えるが、グラスを取った時とのむ時にむせて口からこぼれている。
ほとんど飲めてない。
「けほっ、けほっ・・・こほひりゃった・・・ふえぇ・・・! おひゃけにきらられた〜!! ふあああああああああああん!!!」
突然セラが大きな声で泣き始めるとフィリスとリーエが大笑いし始める。
セナは申し訳なさそうな表情をしていた。
「すまない・・・いつもより酷いんだ、これは。」
いつもより酷い惨状に周りのドン引き具合が目に見えてわかる。
これはもう帰って休んだほうがいいかもしれない。
セナがそう思いセラをどうするか考えているとその横ではラビットが大泣きするセラをあやしていた。
「フィリス、リーエ、もうお開きにして帰るぞ。」
「いや、まだ私はいけるぞ!」
「酔ってまシェーン! 酔ってまシェええええええエン!!」
セナが2人の酔っぱらい共を連れて行く脇でセラはすぅすぅと寝息を立てて寝ていた。
「はぁ・・・すまないラビット、この酔っ払いどもは私が引っ張る。 そこの酒乱を頼む。」
ラビットが頷くとゆっくりとセラを背負った。
ここ日の宴会はここで終わった。
「・・・ラビット、すまないがセラと酔っ払いどもを家まで送る。 家までは私が案内する。」
2人の酔っ払いを引っ張りながらセナとセラを背負うラビットが王都へと向かった。
王都の検問を通りそのまま真っ直ぐセナたちはセラの家へと向かう。
セラの自宅は王都ギルドで用意された自宅がある。
セナも就任されたばかりであり、まだ家は用意されていなかった。
それまではセラの家に泊まっていた。
賑わう王都を通りながらセラの家に到着し5人は家に着いた。
セラを寝室のベッドに寝かせ、リビングのソファにフィリスとリーエを寝かし毛布を掛けた。
しかしラビットはローブを掴まれ身動きが取れないでいた。
「・・・ラビット。」
セナがラビットに声をかけた。
その声は真剣そのものだった。
「酒場でも言ったがビッグゴブリンを一人で、それも数秒で倒すなど、常識外れも良いところだ。」
歩きながら話す。
しかし隣を歩く男は何も言わない。
「改めて聞く。 お前は何者だ?」
沈黙、静寂
それが2人を取り巻いていた。
窓の外の夜の王都は賑わう。
しかしその騒がしさが嘘のように、セナには感じなかった。
ここ男が敵になれば間違いなく私は死ぬ。
私だけじゃない、セラやフィリス、リーエも秒で全員殺されてしまうだろう。
だからこそこの男の中を知る必要があった。
しかし答えない。
いつものように、この男は沈黙を貫き通していた。
「答えないか・・・。 『答えれない』『答えることができない』、か?」
「・・・」
「だんまり、か。 ラビット、こう見えても私は興味のある人間とは良い関係になりたいんだ。 だからセラを助けてくれたお前とは仲良くしたいんだ。」
そう言うと隣に座り眠るセラにイタズラするように漆のように黒く長い髪をいじる。
「昔からの付き合いで、本当に変わらないんだ。 無茶はする、お人好しですぐ損をする。」
懐かしむように話すが次第に辛そうな顔をする。
「見てわかる通りセラの髪は黒い。 黒の髪は邪の象徴、髪が黒いだけで差別を受けるなど馬鹿げている。 セラは魔法が使えたからまだマシだが、それでも酷い扱いをされていたんだ。」
次第にしんみりとした雰囲気になってゆく。
セナは幼少の頃からセラとの付き合いがあり、今に至る。
彼女の受けた辛さをセナはよく理解している。
「きっとセラは心から気を許せる人間にまだ出会っていないんだ。 最近ではお前の話ばかりだがな。」
セナはセラの頬をくすぐる様にいじると少し唸る。
「セラが私以外の人間とあんなに楽しそうにするのは初めて見たんだ。 だから、これからも仲良くしてやってくれ。」
そう言うとセナは立ち上がった。
「さて、私はもう寝る。 ラビットも今日は泊まっていけ。 」
最後におやすみと言うと部屋から出て行った。
「・・・」
ローブを掴む手を、ただ見つめていた。