見張りのゴブリンを倒した後、ラビットを先頭にゴブリンの巣窟に足を踏み入れた。
夜だからと言うのも相まって洞窟の中は真っ暗。
一寸先は闇というのが最も正しい表現だった。
セラが光の魔法を使おうとするがラビットの持つMk18 MOD1に取り付けられたSure Fire M952v を使い洞窟を照らし、二人を驚かせた。
「それは照らすこともできるのか・・・本当に奇妙な道具だな。」
「本当にね、それは一体どんな魔道具なの?」
セラたちのいう杖のような魔道具、Mk18は魔道具ではなく現代兵器のため知らないのは仕方のないことだろう。
洞窟の足元を照らしながら進むと奥から数体のゴブリンが曲がってきた。
すかさずラビットがMk18をセミオートで射撃し数発の5.56mmの弾頭はゴブリンたちの体を抉った。
出てきたゴブリンたちは物言わぬ屍となり二度と動くことは無かった。
現在状況ではラビットが先行し殆どは彼が倒し2人は側面と後方を警戒し奥へ奥へと進んでいた。
しかし隠密行動は長くは続かず、やはりゴブリンたちが集結し襲いかかってきた。
狭い洞窟で挟撃を受けてしまう。
「まずいわ、挟撃よ。」
「来た道からは少ない。 まずは退路を確保するぞ。 ラビット、セラと交代して来た道を確保しろ。 セラは食い止めてくれ。」
セナの指示でラビットとセラを入れ替えて応戦する。
Mk18では捌ききるのは厳しいがセラの範囲攻撃の魔法なら全て倒せずとも足止めになる。
少ない方をラビットが倒してその後に足止めをしているゴブリンたちを倒すという作戦だった。
彼女たち2人は多くの実戦を経験しているためかこの程度の状況には取り乱さず、冷静に対処していく。
ラビットもその行動に合わせる事が出来るのは彼も実戦の慣れがあるのだろう。
3人の息はまるで一つのように整った動きだった。
セナが支援魔法である『エネミーサーチ』、この魔法で正確な敵の数と位置を特定し、セラが炎の魔法で焼き払いつつ進めないように炎の壁を張る。
そして手早く数体のゴブリンを射殺し、弾倉を変え、炎の壁の向こう側にいるゴブリンを倒していくと気がつけば、そこにはゴブリンたちの死体と彼ら3人だけであった。
「・・・ここまでうまく行くとは。」
あっけなく事が進み、行く道を阻むゴブリンをラビットが倒して進むという単調な作業のようなものになっていた。
ゴブリンもほとんど出てこない。
おそらくもう殆ど倒してしまったか逃げたのだろう、セナがそう判断しどこかにゴブリンのコロニーの象徴である宝箱か何かを探すことにシフトした。
宝箱とは聞こえはいいが中身はどうでもいいものが多い。
コロニーを結成するに当たってゴブリンたちは自分の宝物を一つの宝箱に纏めておくという習性があった。
理由は解明されていないが多くは『信用、信頼の証』としての意味があると答える。
運が良ければ価値のあるものがあるがそれは運次第。
数時間の探索の後、宝箱の中身はやはりどうでもいい物が殆どだった。
「・・・少しでも期待した私がバカだった。」
「どうするの? 正直、いらないものばかりよ?」
「そうだな・・・とにかくコロニーを潰せばもうそれでいいが・・・」
「・・・!」
突如、地響きに近い揺れと音が洞窟に響く。
「まさか・・・!」
「ビッグゴブリン、だろうな。」
段々と近くなりそこに現れたのは数メートルもの巨体を持つビッグゴブリンがいた。
おそらくこのコロニーの長なのだろう。
様子から見てもとても穏やかではない。配下を殺され、住処まで荒らされることなど耐えられないだろう。
ビッグゴブリンの持つ巨大な棍棒をふるモーションを察知し全員がそれを回避した。
その威力は風圧だけでも当たればタダでは済まないことを容易に察する事が出来た。
Mk18で頭を狙うが棍棒を盾に防がれてしまう。
5.56mmの弾丸では分厚い木の塊に吸い込まれてしまう。
ちょうどMk18に装填しているEMAGの残弾が0になりボルトストップが掛かりチャンバーが開いたままになる。
ここでMk25を抜いても変わらない。9mmでは先ほどの二の舞になってしまう。
Mk18をスリングを使い背中に回すとローブの中から斧を取り出した。
その斧は長めのハンドルが特徴で格闘戦も想定し重めに作られたdemoko社 all steel Tomahawkだった。
ビッグゴブリンはラビットに棍棒を振るもモーションが大きすぎるため全く当たらず、摑みかかろうとするが足元に潜るように侵入される。
両足の健をトマホークの重い斬撃に切られ自らの体重を支えられなくなったビッグゴブリンはその場に仰向けで倒れてしまう。
そしてラビットが勢いを止める事なくビッグゴブリンの手首を切り落としビッグゴブリンの頭にトマホークが深く深く刺さった。
脳を破壊され断末魔をあげるとビッグゴブリンは二度と動くことはなくなった。
その様子を2人の魔法使いたちは唖然とした様子でみていた。
冒険者が束になっても逃げる選択をするあのビッグゴブリンを一人で、しかも銃ではなく斧で殺したのだ。
セラたちもビッグゴブリンとは戦わず避けていたため殆ど戦ったことなどなかった。
それも高々数秒、数分でだ。
「ラビット・・・あなたは何者なの・・・?」
その問いにラビットは答えなかった。
その場の雰囲気が、その行動が彼が只者ではない証明だった。