あれから数時間経つが動きはない。
外は日常を行き交う物で溢れ日が沈むにつれ人は消えてゆく。
スタンプはセナと見張りを交代し休憩するために奥に下がった。
「ブリーダー、いいか?」
「なんだ?」
「その前に、ラビットは?」
ブリーダーが向いた先には容体が整い安静に寝ているセラと心配そうにその手を握るラビットがいた。
「・・・聞こえないように話したい。」
ブリーダーが無言で頷き先ほどのラビットが『怒っている』様子を伝えた。
「・・・何をしでかすかわからんな。 交代で目を離さんようにしよう。」
「あぁ、できりゃあいつらにもさせてぇんだけどな。」
セナ達にもラビットから目を離さないようにしたいのだがラビット抜きでは会話もままならない現状そうするしかないのだ。
「もし連中が来たら?」
「そん時は返り討ち。 まぁなんとかするしかねぇさ。」
「だな。」
襲撃を受けた際の現状、少なすぎる武装を確認した。
ないものはないし、あるものでどうにかするしかない。
コップに注がれた水を一気に飲み干した。
夜になり外を出歩く人間はほとんどいない。
灯りは点けず家の中は真っ暗だ。
ある一室、寝息を立て今も目覚めぬセラに寄り添うようにラビットが座っている。
「・・・ラビット」
見張りを終えてやってきたセナもそばに座る。
「・・・ラビット。その、だな」
セナは彼を慰めたいのだ。しかしこういう時どういう風にこえをかければいいのか分からず、言葉が途切れてしまった。
「お前のせいなんかじゃない。 全力を尽くしてもどうしようもなかった。全てはデールのせいだ。」
どうにかしてラビットの気持ちを持ち直したい。その気持ちもあったがセナとしてはラビットやセラにそんな苦しみを味わって欲しくないのだ。
「だから、気を落とさないでほしい。 セラが今も生きてられるのはお前のおかげなんだから。」
ラビットの手を握りしっかりと彼を見据えると一瞬だけ、安心したように見えた。
すると今まで寝ていたセラが小さく声を出して目をうっすらとあけた。
「・・・ん、 うぅん・・・?」
「セラ? 大丈夫か、私がわかるか?」
「セ・・・ナ・・・?」
まだ体に異常があるのか手は震えているようだった。
「無理をするな。 今は寝てていい。」
小さく頷き首をぎこちなく動かすとラビットを見た。
「ラ・・・ビッ・・・ト・・・!」
涙を浮かべながらラビットに向けてを伸ばそうとするが上手く動かない。
痺れと倦怠感により体が動かないのだ。
何よりセラとしてはラビットの足を引っ張ってしまったという罪悪感があった。
「ごめんなさい」と謝ろうとした時だった。
ラビットが手を握り頭を撫で始めた。
セラは止め処となく涙を流し始める。何度も「ありがとう」と言いながらぐずぐずと泣いてしまう。
ラビットが優しく抱きしめてしばらくして泣き止む頃には疲れて眠ってしまった。
「えぇい!! 女ひとりまだ連れてこれないのか!」
ある一室、豪華の装飾が施された部屋に怒号が響く。
セラを捕まえるように命令し未だに事態が変わらないことに苛立ちを隠せなかった。
聞いた知らせはほとんど良いものではない。追跡に失敗したか仲間がまた殺されたなど殆どが被害の報告ばかりだった。
「おい、サシャ。 本当にできるんだろうな?」
デールは金で雇った殺し屋、ボウガンの達人であるサシャに威圧的に声をかける。
退屈そうにボウガンをいじりながら椅子に座るサシャは飄々と返す。
「大丈夫よ、あの娘は矢がかすったから。 今も毒に苦しんでるでしょうねぇ。」
口唇を釣り上げ不気味に笑う女は酷く
嗜虐的で残虐なことを厭わないことを連想させた。
「そろそろ家を襲うけど。さて、どう動くのかしら?」
その日は月も見えない新月の夜だった。