今私は馬車に揺られてどこかへ向かっている。
身売り? それなら先程の拘束を解かないでそのままのはず。
こんがらがった思考をまとめようにも纏まらない。
するとローブの人物がこちらを向き目が合った。
ーーー!?
わかる、この男だ。
間違いない、さっきの見たことのない格好の男。
顔が見えなくともこの男の雰囲気が一緒だった。
何よりもあの冷たい目が、何よりも証拠だった。
全てを隠す様に茶色のローブを身にまとい、布で顔を隠し深くフードを被っているが目だけは出ていた。
気がつけば男は興味を無くした様に外の景色を見る為か首をそちらへ向けた。
何もしてこない男に戸惑っていると痩せた壮年の男が気づいた。
「おっ! 起きたな。気分はどうだ?」
そう言われるが今の状況がつかめない為言葉が出ず、小さく頷いただけだった。
「大丈夫そうだな! おい兄ちゃんもなんか言ってやれよ。」
男はチラリと目だけでこちらを見たがすぐに元の景色に視線を戻した。
「なんだよ冷てぇなぁ。なぁお嬢ちゃん、名前はなんだ?」
壮年の痩せた男が問いかけるとゆっくりと起き上がり答えた。
「セラスフィア。セラスフィア・アロント」
「なるほど、いい名前だ。俺はーーー」
すると男はあぐらから膝立ちの姿勢になりローブの前の留め具を外し何かを取り出すが何かはわからない。
「あ、兄ちゃん・・・?」
突然の行動に不安めいた声が壮年の男から出る。
すると馬車が止まった。
「クソ! 盗賊の待ち伏せだ!」
馬車を荷車の外で動かしていたであろう人物が叫ぶ。
「あ、お嬢さん! 無理しちゃダメだ!」
制止の声を無視して軋む体を動かし、四つん這いで移動して外を見ると小規模ではあるが盗賊であった。
先ほどの連中の仲間だろうか? 仇討ち?
「おい、とっとと持ってるもん寄越して消えな!」
そんな声を聞きつつ戦力を見ると10人は居るだろう。
弓やボウガンも持って居るのが多数、こちらは戦闘員はほとんどいない。
もはや絶望的だった。
「おい! 中にもいンだろ、出てきな!」
壮年の男は腰が抜けたのか震えながら両手を合わせて神への祈りを捧げ始めた
すると男は立ち上がりゆっくりと歩き出し声のした方向、荷台の後ろから外へ出た。
飛び降りたと同時に剣を向けられるが同じように黒い何かを盗賊の頭に向けるとくぐもった音、あの時聞いたのとは違うが同じようなものだった。
盗賊の男は脳漿と血しぶきを撒き散らし、絶命した。
その状況についていけない盗賊たちを容赦なく殺していく。
優先的に弓とボウガンを持つ男を殺すと見覚えのある杖のようなものを出しそれで殺して回っていた。
ある盗賊は荷台の陰から不意打ちをするが避けられあの杖の攻撃で膝の皿から血が吹き出し、痛みに耐えられず膝をついた盗賊は脳漿をぶちまけ死んだ。
あるものは荷台の壮年の男を人質にとるが同じように魔法か何かわからないが頭が吹き飛ばされ死んだ。
恐怖に耐え兼ね逃げた盗賊も背中に容赦なく攻撃されとどめを刺され死んだ。
「ひっ、ひぃぃぃぃ!」
一人だけ生き残っていた。
しかし足を負傷し逃げ出すこともできず、戦うこともできずにいた。
背中を踏み付け起き上がれないようにすると一言だけ言った。
「仲間は?」
「へぇ!?」
間抜けな声を出す盗賊は力強く踏み付けられ悲痛な叫びをあげた。
「ぎゃああああああ!! 助けて! 助けてえええええええ!!」
盗賊の男がそういうと足を退かし一瞬助かったように見えた。
しかしあの男は容赦なくあのくぐもった音を鳴らすとその盗賊は物言わぬ死体となった。
何度も何度もくぐもった音を鳴らしもう既に死んでいる男の体に穴を開ける。
あれは一体何?
そう考えていると男は馬車が通るために整えられた道に転がる死体たちをゴミでも捨てるように道から退かした。
男がまた荷台に乗ると唖然とする馬車の運転者に合図を出す様な仕草をすると馬車の男は反応が遅れるも馬車を動かした。
そして再び馬車は動き始める。
盗賊たちの屍を残して。
沈黙が渦巻くこの馬車には壮年の男性と若い男、そして私がいた。
壮年の男は先ほどの恐怖がまだ抜けていないのか隅で縮こまっている。
若い男はローブを着なおし、また同じ場所に座って外の景色を眺めていた。
私はさっきまでは動くのも辛かったけど回復したのか動ける様になった。
「さ、さあ。着いたぜ。」
動いていた馬車が門の前で止まると若い男は立ち上がり馬車を降りると何事もなかった様に門を通過した。
「さぁ、あんたらももう降りてくれ。」
そう言われるとまだ重い体を動かして馬車を降りた。
門番に身分証であるギルドカードを見せようとすると門番が声をかけて来た。
「アロントさん! お疲れ様です。昨日帰ってこないから心配しましたよ。」
「・・・えぇ」
「どうかしましたか?」
「さっき通したあの男、知ってるかしら?」
そう聞くと門番は難しい顔をして話し始めた。
「さっきの、ですか? いやぁ〜自分にはわからないですね。 ・・・なんでも、変わった魔道具を使う冒険者というぐらいですから・・・」
「そう・・・わかったわ、ありがとう。」
門をくぐり帰る場所である王都へと向かう。
重たい体を支えながらもずっとそのことを考えていた。
王都ギルドで任務の終了を報告した。次の日は怠く、動けなかったから勝手だけど休みを取った。
どうせギルドの仕事は気分で受けるものだからあまり関係なかった。
寝るまでずっとあのローブの人物が気になって仕方なかった。