魔法使いと無口な兵士   作:nobu0412

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また空いてすまぬ・・・仕事つらすぎてつらい


城での休息

結局押し切られ身なりを整えるためメイドを先頭に更衣室へと向かっていた

服は貸してくれるそうなので甘えさせてもらう

ユリスはメイドに連れられ先に食堂へと向かった

 

向かい側から何やら貴族と思しき人物、セラには完全に見覚えがあった

いつか助けたユミールと言う名の貴族だった

隣には側近なのか男もいる、彼も身なりからしていい立場なのだろう

こちらに気づいたのか2人が嫌悪感剥き出しの表情になった

 

「あなたは・・・! なぜここに忌子がいるのですか! 衛兵は何をしているのですか!!」

 

ユミールが叫ぶと巡回していた兵士達が駆け寄ってきたが敵襲などの非常事態でないと理解するも状況がつかめず混乱していた

 

「クエストでここに来ただけよ。 もう帰るから気にしなくていいわよ?」

 

「貴様! このユミール家の御息女、ユミール様に対して何たる無礼か!」

 

男が加勢するように怒鳴り散らす

あまつさえ冒険者を、ここにいる仲間も貶す事を言いはじめる

 

「ふんっ! 薄汚い冒険者風情どもが、立場をわきまえろ!」

 

ユミールが何か言おうとしたがラビットの存在に気付き固まった

そして慌てて言葉を出す

 

「あ、ら、ラビット殿!? ここ、これはご機嫌麗しゅう・・・でなくて、今までどこに? お礼をしに城下町まで行っても見つからないものなので・・・」

 

ラビットは動かない、精々ブリーダー達に伝わるよう通訳をした程度だった

先ほどの男が言ったことも全て

「あぁ、はいはい」と言っただけで特にもしない

 

ブリーダーとスタンプからすればどうでもいいことだった

彼らはついででここに来ただけでましてや冒険者でもない

完全に部外者で関係ないと判断したのだ

 

「ユミール様!? そんなに引け腰ではいけません! おい貴様! ユミール様がお話をされているのだぞ!」

 

肩を一瞬竦めるが何もしない

男が怒りを露わに飛び出しそうになるがユミールが止めた

 

「やめなさいクロッソ、彼は命の恩人なのです」

 

「しかし・・・!」

 

クロッソが渋々と引き下がった。 ラビットから矛先はセラへと向いた

 

「ふんっ、この世界でそんな汚らわしく邪悪な髪をしているのは貴様だけだろうがな! さっさと消え失せろ、害悪め」

 

クロッソの言葉にセナやフィリスが咎めようとした

それより早くラビットがターバンを外す

すると今まで隠して来た顔が露わになった

緩くつり上がった暗い瞳、高くもないが低くもない鼻、特徴もない唇、そして一番に目を引くのが手入れをしていないのか少しボサボサした黒髪だった

 

クロッソと呼ばれた男はもちろん、ユミールも酷く驚いた顔をしていた

 

「ら、ラビット!?」

 

「ラビットさん、黒髪だったんですか!?」

 

ラビットがクロッソの胸ぐらを掴んだ

腕力に対抗できずなすがままとなるクロッソ

ラビットは空いた腕を振りかぶった

 

「ラビット!! やめーーー」

 

「諸君、そこまでだ」

 

声がした方へ目を向ける。

多くの衛兵と使用人を従わせ佇むその男、見まごうことはない、ブーゲンビリア国王のフロストだった

 

「フロスト陛下・・・!」

 

ユミールが頭を下げて挨拶を始める

セラ達はもはやどうすればいいかわからず戸惑っていた

 

「面を上げよタイタニア殿。 して、そなた達がユリスの護衛を?」

 

視線をユミールからこちらへとシフトした

全員が固まるがセナが答える

 

「は、はい! 我々がクエストを受け護衛を・・・」

 

「はっはっは。 そこまで硬くならなくても良い。 娘が世話になった」

 

今度はまだクロッソを掴み上げ殴るために振りかぶったままのラビットに近づく

 

「君も放したまえ。 頭にくるのはわかるが殴っても不毛なことだろう?」

 

ラビットは投げるように解放するとクロッソは少し咳き込むとようやく立ち上がった

 

「君も言葉を慎みたまえ。 ここが誰の城かわかっているのか?」

 

陛下直々に咎められ言葉もでず、完全に真っ白になっていた

 

「な、なぜ陛下が此処に・・・?」

 

戸惑うのも無理はないだろう

フロストはセナの言葉を丁寧に返す

 

「娘に早く早くと急かされたのだよ。ともかく諸君よ、これから食事をするのだろう? この城の料理は絶品だと私が保障しよう。 ではまた、食堂で逢おう」

 

そういうと来た道を戻っていった

 

「あれがブーゲンビリア国王・・・」

 

「なんていうか、凄いお方でしたね・・・」

 

それぞれが感想を口にするがセラにはそんなことはどうでもよかった

同じ黒い髪の人間が存在していたのだ

今まで孤独に、自分だけだったがやっと同じものが現れた感動、戸惑い、様々な感情が入り混じったのだ

 

時間をかけて服装を整えると個が個でそれぞれの特徴を引き出していた。

 

初めて着るドレスにリーエやフィリスは戸惑いと興奮を隠せないでいた

しかしセラだけは先ほどのことが強烈すぎて未だ脳内での処理が追いついていないのだ

 

「セラ・・・セラ!」

 

セナが少し声をあげ呼びかけるとゆっくりと首を向け驚いた顔だった

 

「な、なにかしら?」

 

「なにじゃない。 行くぞ。」

 

「・・・えぇ」

 

メイドたちに連れられ食堂へと向かうと待っていたようにフロストとユリスが座っている

ユミールの他にも重鎮なのか高位の人間と思しき人物たちがいる。

 

そしてひとりのメイドの連れられた男、礼服を着たラビットがやってきた。

なぜかブリーダーとスタンプが来ていない

 

先ほどよりも清潔になりボサボサだった髪も綺麗になり黒髪の艶が現れる

 

やはりさっきのは夢ではなかった。

ラビットが黒髪であったことが事実だった

ラビットに声をかけようとしたその時ユリスの声が食堂に響く。

 

「お兄ちゃーん! お姉ちゃーん! こっちこっち!!」

 

視線を向けると上座に鎮座するフロストがユリスの頭を抑え「こら」と少し怒っていた。

すぐに「ごめんなさい」と謝ると大人しく座っていた

 

気づけばラビットがのんびりといった足取りでユリスの下まで歩み寄っていたためそれに続きセラたちもついて行く形で後を追った

 

 

 

食事はどうやら穏やかな空気で進み問題もなく進む

あるとすればユミールがこちらを睨み続けることだけだろう

最初こそは押さえていたがやはり我慢できずはしゃぎながらラビットと食事をしていた

 

ラビットがフォークで野菜を取りユリスに向ける。ユリスが残していたものだ。

すると少し嫌そうな顔をしてラビットを見るとゆっくりとした動きで口に含み苦いものを食べている顔になった。

実際今食べている野菜は栄養価は高いが苦味があるため子供には大変嫌われている野菜だった。

 

口に含みしっかり噛んでいることが確認できたのか今度は甘い果実をスプーンですくいユリスへ差し出した

それを見たユリスがぱくっと口に含み先ほどの苦い顔が嘘のように幸せそうな顔になった

 

「はっはっはっ! 娘の扱いが私より上手いな」

 

愉快そうにフロストが笑いをあげる。

それはとても嬉しそうな様子で満足げとも取れた。

 

「君たちを待っておる間に娘に君の話をされてな。 これなら娘がなつくのも頷ける」

 

フロストとラビットが話しているのをセラたちは眺めていた

 

「夢ではないよな? 王国の城で食事をとり仲間が国王と親睦を深めているよな?」

 

「はぃ、夢なんかじゃありません・・・!」

 

「落ち着け、冷静になれ。 とりあえずこれはおいしいな・・・」

 

そんな3人はよそに、セラはやはりぼぅっとしている。

視線の先にはやはりラビットがいる

 

「(私と同じ・・・)」

 

セラには食事や国王の御前ということなど頭になくそればかり考えていた。

 

 

 

 

 

時刻は夜になる。

なんとフロストが、国王が今夜は城へ泊まれというではないか。

最初はこそ断ろうとしたが小声で「私の顔を立ててくれ」といわれなんとなく察した

 

城では暖かい湯で入浴ができるため女性陣は皆で集まって湯に浸かった。

 

「おねーちゃん、どうかしたの?」

 

やはりセラはぼんやりとした様子でユリスに声をかけられ慌てて返す

 

「そ、そんなことないわよ? 私は大丈夫だから」

 

「むぅー! 嘘はダメ! お姉ちゃんごはんの時も元気なかった!」

 

「そうかしら?」

 

「どういう時は・・・こうするんです!!」

 

突如、リーエがセラの胸を後ろから揉み始めた

リーエのバストサイズは察してほしい。

それ故に彼女はこのような行動をとるのだ

 

「ちょ、ちょっとリーエ!」

 

「わぁあ! お姉ちゃんすごくやわらかい!」

 

「ちょ、やめっ」

 

リーエとユリスに揉みくちゃにされるセラがそこにいた

 

 

〜その頃、男湯は〜

 

「・・・」

 

「・・・」

 

筋肉隆々、数多の戦いを潜り抜け傷だらけに成りつつも王の座を取った男と素性がわからないが若くも同じように戦い抜いて来た男が睨み合うように入浴していた

 

※あくまで平和な入浴シーンです

 

 

 

 

 

リーエにお仕置きした後全員ネグリジェに着替えて明日の出発に向け眠ろうとした

 

「お兄ちゃんとも一緒に寝たい・・・」

 

流石に彼女たちとしても困るだろう、乙女の園へ男が入る、というのは

実際フィリスとリーエは困り気味だった

セナは顔を赤らめ何か言っているが聞こえはしなかった

そうこうしているうちにユリスがうつらうつらと船を漕ぎ始める

 

「ユリスちゃん、もう寝よう? お姉ちゃんたちも一緒だから、ね?」

 

「ん〜・・・おにいちゃん・・・」

 

ついにはパタリと眠ってしまった

毛布をかけて寝顔を見ると誰もが見入るかわいい寝顔があった

 

「かわいい寝顔だ」

 

「そうですね・・・私たちももう寝ませんか?」

 

「あぁ、明日は帰る準備もして出発だ」

 

明かりを消し寝静まる

しかしセラだけは起き上がり部屋を出て行った

 

部屋の外は大きな窓から月光が差し込む

ふと窓に近づき中庭を見ると人影が見えた

セラはそのまま下へと階段で降り中庭に出てその人影を探した

 

人影の正体は体格からして男で見慣れない緑が基調の斑点柄の服を上下に着込み月に照らされていた

 

「・・・ラビット?」

 

絞り出すように出た声で名を呼ぶとその男は振り返った

見間違えるはずはない、私と同じ黒髪の人間がそこにいた

 

 


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