魔法使いと無口な兵士   作:nobu0412

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危機迫る

何事もなく翌日になり目的地へと向かう

夜は特に何もなく終わった

少しだけ眠くうつらうつらと首を揺らす

 

隣に座るラビットと私の間にはユリスちゃんがちょこんと座っている

その姿が可愛らしくてどうしても愛でたくなる

 

私とラビットに懐いてくれたのか可愛くてしょうがないわ

 

そんなことを多少夢心地で味わっていると肩を叩かれた

慌てて軽く叩いてきたであろうラビットに目を向けるとスポッティングスコープを渡してきた

覗いてきた先には小型の恐竜、レクスが数匹いた

 

レクスは群れで狩りをする肉食獣だ

4〜7m程のものが一般で10mを超えるものは長の階級に属する

 

そのレクスがこの先の道にいる

どうやら獲物を捕まえて食事をしている最中で動きそうもない

このままいけば戦闘になるだろう

 

「ラビット。 できるかしら?」

 

ラビットがMacMillan Tac300 を構える

倍率、ピント、肩づけ、風の動き、移動速度、距離、狙いを見定めると安全装置を外し引き金に指をかけ、息を吐き、ガク引きしないようにゆっくりとトリガーの遊びを最大まで殺し、撃つ

 

1発のくぐもった音がセラとユリスの隣で鳴った

サプレッサーのおかげで発射ガスとマズルフラッシュそして銃声は抑えられ静かな射撃だった

一瞬ユリスがビクっとしたが大したものではなかった

 

セラはスポッティングスコープでレクスの5匹の群れの中で一番大きな個体を見事に頭を撃ち抜いた瞬間を見た

食事の最中に横から頭を撃ち抜かれると力なく倒れた

ボスが殺されたことに残りの4匹は動揺しその場をキョロキョロしなが彷徨っている

 

ラビットがボルトを引き薬室から空薬莢を取り出すと装填された新しい弾を送り込む

真鍮製の空薬莢が弧を描き宙に舞い地面に落ちた

続けてもう一度狙いをつけて撃つと今度は体に当たった

鱗のような外殻を貫通し弾は体内に入り込むと撃ち込まれたレクスは倒れた

ジタバタと痛みにのたうち回るとほかのレクスはその場を散り散りに逃げ去って行った

さらに1発撃ち込むとそのレクスはもう2度と動かなくなった

 

「・・・すごいわ、あそこは距離にすると相当よ? それを3回攻撃しただけで撃退するなんて」

 

それは距離にして600m程

動く安定しない馬車の上で正確に当てる腕は確かなものだった

ボルトを引き空薬莢を排出すると4発目を装填した

 

周りは怪訝な目で何かしている程度の認識だったがどうでもいいことだろうと思い気にしてはいなかった

 

「ねぇ、ラビット。 それは魔道具の一種なのかしら?

 

今まで疑問に思っていたことを聞いてみると首を横に振った

魔道具は魔力を流し込むか込めておき使用するものであるがどちらにせよ魔力が必要なため魔力適正のない人間には使えない代物だった

魔力を使わないと言うことは普通の人でも使える武器だと言うことだった

 

「ふーん・・・でも、ラビットのお陰で私たちの仕事がなくなっちゃうわね?」

 

小さく笑うとラビットも肩を竦めた

レクスの死体を通り過ぎるとき何人か騒いでいたが気にはしなかった

最近は盗賊の類は出ないらしく今の脅威はモンスターだけだった

 

休憩に入り食事をとることにした

デールの取り巻きたちは昨日の出来事でラビットを完全に警戒している

本来なら休憩でも周囲を見張るのだがチラチラとラビットを見ていた

見るからに敵愾心がむき出しだった

デールは初日からラビットを睨み続けている

 

みんなでお昼を食べているとユリスちゃんがやって来てラビットのとなりにちょこんと座って一緒に食べていた

 

夜になり焚き火を囲んでいた

もちろんユリスちゃんと依頼主のジャンさんも来た

ジャンさんは私たちと遊ぶユリスちゃんを見て微笑ましい表情だった

 

「いやぁ〜お嬢様がこれほどまでお楽しみになられるとは、やはりあなた方に頼んで正解でしたな! モンスターも不思議と襲って来ませんので上々ですな」

 

ジャンさんの機嫌はすこぶる良く、ユリスちゃんも私たちも楽しい、変わった依頼になった。これもラビットのおかげね

 

そして最悪の事態が起きた

 

「おい、貴様。 ・・・田舎者め、返事ぐらいしたらどうだ」

 

いつの間にかそこにいるデールだった

高圧的な態度に怖かったのか私とラビットの裾を掴む

私は睨み返すけどラビットはちらっと目を向けただけですぐに周囲の警戒に戻った

 

「なんだ? 何か言ってみたらどうだ腰抜け」

 

何も反応しないことに面白くないのか口調をさらに強めて言うがチラリと見て終わっていた

 

「貴様っ・・・まぁいい。 それより貴様、面出しをしろ」

 

親指で後ろを指して首を少し振る

何かやるつもりなのかお見通しだった

 

「ラビット、行く必要ないわ。 どうせロクでもないことよ」

 

「怖気付いたか腰抜けめ。 大した仕事もしていないくせに随分偉そうにしているが大したことはないな」

 

鼻で笑いラビットを挑発するとユリスちゃんを見て『仕方ないな』と言わんばかりに立ち上がりデールについていった

 

「お兄ちゃん・・・!」

 

「大丈夫よ。 ラビットはすっごく強いから。ね?」

 

今にも泣き出しそうな声でラビットを心配する

私も少し心配だった。デールが何をするかわからない以上油断はできなかった

そしてしばらくすると待っていたように取り巻きたちがやってきた

 

「ヨォお嬢さん方、今夜こそお楽しみと行こうぜ〜?」

 

・・・なるほど、この為ね

昨日はラビットが助けてくれたけど、今日は自分たちでなんとかするしかないわね

 

「お楽しみ? 何を言ってるんだ貴様等は。 今はクエストの最中そんなことをしている場合か。 阿呆が」

 

「気の強い女だな。 ヒィヒィ言う様をみてやりてぇぜ」

 

「俺はそこのオドオドしてるボウガン使いがいいな」

 

「そこの剣士も見てみろ、引き締まっていい体してるぜ?」

 

「黒髪には手を出すなよ? デール様にやられちまうぞ」

 

ほんとクズばかりね。こんな奴らでも実力はそれなりにあるから気に入らないわ

 

でもそれに負けないくらい私たちは修羅場を超えて来た。

フィリスが剣を抜きリーエがボウガンに弓を装填した

二人も限界らしい

対抗するように取り巻きたちも剣を抜く

 

取り巻きの一人が駆け出すとフィリスの素早い身のこなしで鎧の脇を剣のグリップで殴ると痛みに負け剣を離した

相手は重いプレートアーマーに対しフィリスは剣士にしては装備も少なく軽装のスピード重視だった

ポニーテールで纏めた銀色の長い髪を靡かせながら蝶のように舞い、蜂のように刺すという言葉が当てはまる剣さばきだった

 

リーエも剣を抜いているものに対してボウガンを撃ち無力化していた

彼女のボウガンの腕は中々の物で的確に撃ち抜きつつ体に当たっても急所は外していた

一本づつでしか撃てないが錬成して来た早業で素早く多く放った

 

セラとセナで同時に風の魔法を凪ぐように放つと取り巻きたちはそれに怯んだ

 

4人の実力を目の当たりにし怯んで後ずさりをすると突然ニヤリと笑い合図を出すように手を挙げた

 

「ほらこっち来い!」

 

「やぁああ!!!」

 

「お嬢様!」

 

後ろに回り込んでいた一人がユリスちゃんを攫った

ジタバタと暴れるがナイフ突き立てられる

 

「貴様・・・!」

 

「ユリスちゃん!!」

 

「おっと動くな! このガキがどうなってもいいってんなら話は別だがな」

 

ユリスちゃんを盾にすると笑い始める

 

「お前たち正気か!? 今はクエストの最中なんだぞ!!」

 

「あ〜? 依頼なんかどうでもいいんだよ。 俺はお前等上玉とヤれりゃもうどうでもいいんだからな!」

 

高らかに笑って剣を向けてくる

 

「ほら、武器をよこしな。 魔法で変なことするんじゃねぇぞ」

 

剣先を振りながら武装解除の要求をする

仕方なくフィリスとリーエが武器を投げ捨てセラとセナもおとなしくしていた

 

「へっへっへっへっへっ、従順じゃねぇか最初からそうしてりゃいいんだよ」

 

武器を回収するとまだ足りないのかさらに要求をしてくる

 

「んじゃあ、まず服を脱ぎな」

 

「貴方達・・・!」

 

「なんだ? ガキがどうなってもいいのか?」

 

射殺すように4人が睨むが飄々とした様子で服を脱ぐように要求する

4人が嫌々服を脱ぎ始めようとした時だった

 

「がっ!?」

 

突如誰かが変な声を出して倒れる

その先にはラビットがいた

 

「ラビット!」

 

「て、てめぇ! デール様達はどうした!?」

 

そんな言葉御構い無しにかけると次々と顎を打たれてたり、鳩尾を突かれ気絶するか悶絶するかのどちらかだった

剣に対しては確実によけるかmk18で受け流して避けるとすぐに剣を弾かれ地面に沈んだ

 

「て、てめぇ、ガキ----がぶっ!?」

 

ユリスを抱えて人質にとっている男にはその場にあったそこそこの大きさの石を投げると反応できなかったのか見事に頭に直撃し転げ回った

 

「うわあああああああんっ!」

 

ユリスちゃんが私に飛び込んで来るとわんわん泣いてしまう

 

「ラビット・・・もうっ、もうちょっと早く助けなさいよ」

 

からかうように言うと「めんぼくない」と言うように頭を掻いた

 

「銃を使って殺しても良かったんじゃないか?」

 

セナがそういうと一瞬チラリとユリスちゃんを見た気がした

 

「・・・なるほどな。 優しいところがあるじゃないか」

 

セナがにこやかに笑う

こう言う表情は私もあまり見たことがなかったから一瞬驚いちゃった

 

「それより、どうするんですかこれ」

 

リーエがゴロゴロと横たわる取り巻き達を蔑む目で見下ろす

 

「縛っておいていけばいいんじゃないか?」

 

「それもそうだな」

 

「ねぇラビット、デールの方はどうしたの?」

 

ラビットがさっき連れていかれた方を親指でクイっと指す

やっぱり敵じゃなかったわけね

 

「・・・死ねヤァああああああ!!」

 

ラビットの後ろから声がした

撃ち漏らし!?

ダメ、間に合わない!

ラビットが仕方ないと判断しMk25を振り向き様に構えて引き金を引こうとした

 

ゴスッ!! っと鈍い音がすると倒れて動かなくなった

そして全身が斑点の服を着て無精髭を生やした男がいた

その姿はまるであの時みたラビットと同じような姿だった

 

「撃ち漏らしとは珍しいな。 体調でも悪いのか?」

 

もちろん私たち4人が驚いて警戒したのは言うまでもない

 

「おっとお嬢さん方、そう怖い顔しなさんな。 ラビット、通訳頼む」

 

無精髭の男が自己紹介を始める

 

「俺はブリーダーって呼んでくれ。 何者かって言うのは・・・ラビットの仲間ってところだ」


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