四葉のもう一人の後継者   作:fallere

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前期の期末テストに時間を取られました。ごめんなさい。
書き貯めはない。でも、妄想は無限にある(はず)。


追憶編 四節

深雪side

 

 

「奥様、深雪さん、今日のご予定はどういたします?」

 

桜井さんが食後の紅茶をいただいている私たちに聞いてくる。

 

「暑さがやわらいだから沖に出るのもいいわね」

 

「ではクルーザーを?」

 

「そうね・・・あまり大きくないセーリングヨットがいいわね」

 

お母様の提案で午後の予定はクルージングとなった。

 

「深雪さん、午前中はビーチにでも行かれたらどうでしょうか?

寝転んでいるだけでもリフレッシュになるとと思いますよ」

 

そういえば昨日は襲われるわ叔父様の自慢話を聞かされるわで気が休まらなかった。

 

ここは桜井さんのお言葉に甘えさせてもらおう。

 

「そうですね、せっかくなのでそうさせてもらいます」

 

「では日焼け止めをぬらないといけませんね。うふふ、

夏の日差しは強力ですから水着の下までしっかり処置をしないといけませんね」

 

え、なんだか桜井さんが怖い・・・。

 

「し、支度くらい一人で出来ますから・・・」

 

そう言って部屋に行こうとすると桜井さんは私の手をつかんで、

 

「折角の綺麗なお肌が日焼けしたら大変ですから、ね?」

 

「は・・・はい」

 

私は生理的に感じた恐怖で思わず頷いてしまった。

 

 

 

昼夜side

 

 

「うっわ・・・桜井さんの少し悪いとこが出ちゃったよ・・・」

 

「まぁ、桜井さんの立ち位置から考えると仕方のないことだ」

 

俺と達兄ぃは黙って深雪姉ぇが連れられて行くのを見ていた。

 

無理もない、あの状態の桜井さんに逆らったら遣られる。

 

「叔母様、桜井さんにもう少し自由な時間をあげては?」

 

正直この発言は四葉としてふさわしくない。

 

桜井さんはガーディアンであってボディーガードではないのだ。

 

「これでも前よりは増えてるわよ。わざわざ部屋にこもったりまでして」

 

だが、叔母様は俺の事を理解してくれる人だ。

 

この意味は安全な室内にこもってまで桜井さんに時間を作ってくれてるという事。

 

「深雪姉ぇ連れ去られたんじゃねぇ・・・」

 

桜井さんの悪い癖とは深雪姉ぇに憧憬してしまっていることだ。

 

幼いころの思い出は訓練ばかりだったであろう桜井さんは、

 

深雪姉ぇが羨ましいのかこういう時には世話役を買って出る。

 

子供の肌に触れて自らの過去の穴埋めを無意識にしているのだろう。

 

増してや深雪姉ぇの美貌もそれを駆り立てているのだろう。

 

「さて、昼夜さん、あなたも出かけるなら先に治療をお願いしたいのだけど」

 

「わかってますよ。俺もそうしようと思ってましたし」

 

「あら、そう」と言って叔母様は微笑む。

 

この様に笑うときは何故か毎回、俺と深雪姉ぇが一緒にいることが決まった時だ。

 

そんな雑念を追いやり、携帯端末汎用型CADを取り出し魔法を発動した。

 

発生するのはただの想子(サイオン)の波。だがその波はものすごく複雑だ。

 

達兄ぃとの戦闘では一切CADを使わなかったが、これの構築ばかりは厳しい。

 

発生したのは『キャストジャミング』の対極、『キャストアクティベート』。

 

ジャミングと違い柔らかい想子の波が発生し、この部屋を包み込む。

 

本来の効果はジャミングを相殺する波を発生させる。故に『術式有効化(キャストアク

ティベート)

 

しかしこの場に限り、別の効果を持つ。

 

この波は魔法師の精神を安定・回復する副次効果がある。

 

魔法とは即ち、精神の力。

 

叔母様は特異魔法を酷使した影響で今はかなり虚弱になっている。

 

魔法演算領域の消耗、それすらも少しづつではあるがこの波は癒す。

 

唯一の難点は波の構造が複雑すぎるために俺と達兄ぃ位しか使えないこと。

 

俺は波の発生を3分ほど続けた。

 

「ありがとう、もう大丈夫よ」

 

「わかりました」

 

キャストアクティベートを解除する。

 

「昼夜、達也、あなたたちも準備に行ったら?」

 

「そうさせていただきます」

 

そう言って俺たちは水着に着替えにそれぞれの部屋に向かった。

 

 

 

深雪side

 

 

私が桜井さんに体の隅々まで日焼け止めクリームを塗られていた間に、

 

お兄様と昼夜も一緒に行くことになったらしい。

 

昼ご飯は昼夜が文弥君達に美味しい店を聞いたそうなのだ。

 

用意周到だと思ったが、お母様も行って来たら?と言うのでそこに行くことにした。

 

午後までの予定が決まり、私たちは別荘最寄りのビーチに向かった。

 

ついてみると、既に何組か客が来ていた。

 

「喰らえ達兄ぃ‼」

 

後ろから声がしたので振り向いてみると、昼夜がボールをお兄様に投げていた。

 

無論、お兄様はそれを楽々キャッチする。

 

「昼夜、いきなり投げつけるな」

 

「いやぁ、海に来るのなんて初めてだから舞い上がちゃって」

 

「それなら泳いで来い」

 

それを昼夜は釣れないなぁ、と言う顔+ジト目で睨みつける。

 

と言うか海に来るのが初めてなんて、今までどれだけ本邸から動かなかったのだろう?

 

「それに俺は深雪のガーディアンと言う大事な仕事があるんだ」

 

「俺たちの『眼』相手じゃ誘拐もできないでしょ。

特に俺相手は宇宙規模の誘拐でも起きない限り」

 

昼夜もお兄様と同じように知覚系魔法を有しているのだろうか?

 

「それはそうだが・・・」

 

抵抗しようとするお兄様から昼夜はボールを取り返して・・・

 

「今度こそ、喰らえ‼」

 

人間には不可能な速さでボールが投げつけられる。

 

そのボールはお兄様の顔に吸い込まれて行き・・・

 

             バンッ‼

 

「あ・・・」

 

流石のお兄様も魔法で限界まで加速されたボールに間に合わなかったようだ。

 

そのまま当たって倒れてしまう。

 

「あの・・・お兄様大丈夫ですか?」

 

私はお兄様のそばによる。すると・・・

 

「く・・・ふふ・・・ははは・・・・・・」

 

「え?・・・あの・・・お兄様?」

 

お兄様は不気味に笑いながら立ち上がる。

 

「昼夜、俺を本気で怒らせたな」

 

「あ・・・ヤバ、こういう時は・・・」

 

 

昼夜は何やら術式を組み立てる。

 

「逃げるが勝ち‼」

 

自己加速術式で海の方に逃げていった。正直なさけない。

 

「こら、待て昼夜‼」

 

お兄様は全力でボールを投げつける。それは昼夜の後頭部をとらえた。

 

「だぁ!クソ、やってくれたな‼」

 

それを拾ってまた昼夜がボールを投げるの繰り返し。

 

でも何故か、お兄様は少し楽しそうだった。

 

 

 

昼夜side

 

 

達兄ぃマジで怖い‼あそこまで怒ると思ってなかった‼

 

「逃げるが勝ち‼」

 

すぐさま自己加速術式を発動して海に逃げだす。

 

深雪姉ぇのなさけない・・・という視線を視たがそんなのにかまってる暇はない。

 

殺られる。それだけが俺の頭を支配していた。

 

「ふぎゃ‼」

 

後頭部に衝撃を感じる。いや、マジで痛い。

 

ていうかおかしいだろ。反撃を予測してわざわざ逃げたのに。

 

普通に考えて中学生が本気で投げても届かない距離だぞ。

 

そこで俺は思い出した(ここまでの時間、0コンマ05秒)。

 

 

 

           達兄ぃ普通じゃないや。

 

 

 

「だぁ!クソ、やってくれたな‼」

 

俺は海に逃げながら、回収したボールを加速魔法で投げつける。

 

それを達兄ぃはキャッチして同じく加速して投げ返してくる。いや、今の止めれるの?

 

「ならこれでどうだ‼」

 

俺は『ダブルバウンド』を発動。

 

襲ってくるボールが倍速になって達兄ぃを襲う‼・・・はずだった。

 

何が起こったかと言うと・・・ボールがはじけた。

 

よくよく考えれば始めの加速魔法もボールが壊れないギリギリで投げたのだ。

 

そりゃ倍速になったらはじけるよね。

 

って、そんなこと考えてたら殺られる!と思ってた時期が俺にもありました。

 

達兄ぃは俺を追いかける足を止めて深雪姉ぇの方に振り向いた。

 

 

 

深雪side

 

 

お兄様は昼夜を追いかけに行ったと思ったら昼夜が投げ返したボールがはじけた。

 

見たところ抵抗に耐えられなかったのだろう。

 

お兄様はやっぱり楽しそうに追いかけている。

 

なんだか羨ましい。もし私が弟ならあんな風に追いかけっこをしたりしたのだろうか?

 

そんなことを考えていたせいか、近づいてくる人に気づくのに遅れた。

 

背中に衝撃を受ける。何かが落ちる音。

 

当たってしまったのは怖い顔した見た目20台程の男の人。

 

音の先を見れば、あるのは壊れたスマホだった。

 

「おい、何処突っ立ってやがんだよ。おかげで俺のスマホ壊れちまったじゃねぇか!」

 

何言ってるの!私は立ってただけでぶつかって来たのはあなたじゃない!

 

しかも、地面は砂浜なんだからスマホが壊れてしまうはずがないじゃない!

 

そう頭では思うのに声が出ない。それをいいことに男は勝手に話しを進める。

 

「どうした?反省の言葉もなしか!」

 

こっちが反省して欲しいくらいです‼

 

「まぁ反省の言葉はいいや、おい、持ってる金出せ。弁償だ弁償!」

 

これは当たり屋と言うやつなのだろうか?

 

そもそも最近のスマホは耐衝撃性も優れていてコンクリートに落としても壊れない。

 

だがやはり声は出ない。私はなんとか首だけを横に振る。

 

「あぁ?金もねぇのか、なら仕方ねぇ。体で払ってもらうしかなさそうだな!」

 

体で払うって・・・もしかしなくてもそう言う事よね?

 

いやよ!そんなの絶対にッ!

 

そう思うのに体が動かない。男の手が伸びてくる。確実に迫ってくる。

 

しかしその手は途中で止まる。そしていつの間にか男の後ろに人が立っていた。

 

「中学生相手に体で払えだなんてずいぶんなロリコンさんだねぇ~」

 

一瞬お兄様かと思ったが、声でそれは間違いだと知る。

 

「深雪姉ぇに手をだし

てただで済むと思ってるの?ロリコンのお兄さん?」

 

昼夜は余裕綽々と挑発を始めた。

 

 

 

昼夜side

 

 

「おやおや?深雪姉ぇが絡まれてる?」

 

達兄ぃのように眼を向けるといかにも怖そうな男に何やら文句を言われていた。

 

「昼夜、行くぞ」

 

「え?深雪姉ぇなら大丈夫じゃないの?」

 

「深雪は視線ならともかくこういう直接的なのはまだ耐性がない」

 

意外だ。あの美貌ならいつでもナンパを受けそうなのに。

 

「昼夜、お前が行け」

 

「なんで?疲れたなら疑似瞬間移動で送るし、達兄ぃの方が喜ぶでしょ」

 

俺が行くメリットは一体何だというのだろう?

 

「簡単だ、深雪を助けてお前の好感度を上げる。

俺がぎすぎすした空気を何とかする必要がなくなる。それだけだ」

 

「う~ん、まぁいいや。達兄ぃが深雪姉ぇとの好感度を上げていい、か」

 

あれ?あとで殺されるんじゃね?

 

「お前が持っていいのはあくまで従弟の関係だ、いいな?」

 

「そう言うと思ってました」

 

まったく、このシスコン兄貴は・・・

 

ため息をつきたくなるのを我慢して、疑似瞬間移動を発動する。

 

近づくと変態(決めつけ)が深雪姉ぇに手を伸ばしていたので、

 

減速領域(ディーセライレーション・ゾーン)』を発動して手を止めさせる。

 

そして男の後ろに着地する。

 

「中学生(前略)(中略)ロリコンのお兄さん?」

 

「あぁ?テメェ・・・魔法師か?さてはレフトブラッドの子供か?」

 

「あ、いいえ、全くの無関係です。どこからどう見ても日本人でしょう?

そんなのも解らないんですか?ロリコンで変態で当たり屋なお兄さん?」

 

「ダメ!昼夜、怒らせたら・・・」

 

深雪姉ぇが俺を止めようとするが、止まるつもりは毛頭ない。

 

「おい!ガキが偉そうに言うのもたいがいにしろよ‼」

 

「そのガキに真実言われて逆上してるのはどこの、

ロリコンで、変態で、当たり屋で、沸点が低い、お兄さんなのかなぁ?」

 

これでもかと挑発したしもういいだろう。

 

「はてさて、ところで僕の特異魔法何か深雪姉ぇ知ってる?」

 

「え?確か光波振動系だったはずだけど・・・?」

 

「惜しい、俺の特異魔法は『光』、光を粒子としても扱えるから光波じゃないのよ」

 

「おいガキ、いつまで俺を無視してるつもりだ‼」

 

何か聞こえたような気がするが無視しよう。

 

お兄さんが体を動かそうとするとエネルギーも増えるし。

 

「んで、もう一つが『エネルギー』。

エコに使うのは勿論、エネルギーの種類の変換もできる。

例えば、今お兄さんが体を必死に動かそうとしてるわけだけど、

この奪った+の運動エネルギーを+の電気エネルギーに変化すれば・・・」

 

男の前で放電が発生する。

 

「こんな事が出来る。流石に+から-への変化は無理矢理反発するしかないけど、

お兄さんがホントに必死に動かそうとしてくれたおかげで、

人一人気絶させるほどの電気エネルギーは十分だ」

 

そして男に『スパーク』をぶつけて気絶させる。

 

「さて深雪姉ぇ、大丈夫?」

 

俺は自分にできるとびっきりの笑顔で深雪に微笑みかけた。

 

 


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