四葉のもう一人の後継者   作:fallere

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書き貯め?そんなものはありません。


追憶編 二節

 

私は今ものすごく憂鬱だ。

 

バカンスとは言え世間とのしがらみを切れるわけじゃない。

 

沖縄に来て初日だというのにそのしがらみに引き寄せられたのだ。

 

お母様の従弟に当たる黒羽 貢さんにパーティーに招待された。

 

お母様は大事を取って家で休まれるとのことなので私が行くことになった。

 

でもそれはこの際どうでもいい。パーティー自体は嫌いではないし。

 

それに何より、お兄様が一緒に来てくれるのだから。

 

ただ・・・。

 

「深雪姉さん、準備は整いましたか?」

 

やっぱり従弟はついてくることになるのだ。

 

彼はこれでも(叔母さまの親バカもあり)次期当主筆頭候補だ。

 

当然、私が呼ばれるのだから彼も呼ばれるだろう。

 

「今準備しています、女性の準備をせかすだなんてデリカシーがありません‼」

 

つい大きな声を出してしまう。

 

騒動の後、帰る時にお兄様と従弟が仲良く話していたのが羨ましいのだ。

 

「そうですね、ごめんなさい」

 

私の八つ当たりに従弟はあっさりと謝ってきた。

 

これでは私はまるで嫌な子じゃないか・・・。

 

少し罪悪感を憶えたので早々と準備して部屋から出た。

 

するとそこには私を呼びに来たのか穂波さんがいた。

 

「おや、もう準備は済んでいるみたいですね。

っと、不機嫌な顔をしていると、せっかくのお召し物が台無しですよ」

 

「・・・わかりますか?」

 

そこまでわかりやすいような顔をしていたつもりはないのだけど。

 

「いいですか深雪さん、うまく隠したつもりでも気持ちはどこかに出てしまいます。

必要なのは自分の気持ちをうまくだませるようになること、でしょうか。

建前と言うのはまず自分自身を納得させるためにあるんですよ」

 

その後もう出ないと間に合いませんよ、と言われコミューターに乗り込んだ(お兄様と従弟はすでに乗り込んでいた)。

 

 

 

数分でコミューターはパーティー会場についた。

 

「はぁーーーー」

 

「どうしたんだ昼夜?」

 

従弟のため息にお兄様が反応する。無視したっていいのに。

 

「間違いなく黒羽の叔父様は亜夜子ちゃんと文弥君の自慢話するでしょ。

それに俺は次期当主筆頭候補だなんて言われているから目の敵にするし」

 

「まぁそう言うな」

 

愚痴を言う従弟を、私はざまぁみろと思った。

 

 

 

パーティー会場に入ると黒羽の叔父様があいさつに来てくれた。

 

「やぁやぁ、これは深雪くんよく来てくれた・・・昼夜君もこんばんは」

 

従弟が言った通り、目の敵にしてるのかはわからないけど私とは態度が違う。

 

「黒羽の叔父様、本日はお招きありがとうございます。

申し訳ないですがお母様は大事を取って休ませていただきました」

 

「何、気にすることはないよ」

 

私に続いて挨拶するように従弟に目を向けると、嫌な顔一つせずに挨拶した。

 

「黒羽の叔父様、こんばんは。この場にご招待いただきありがとうございます。

ところで、亜夜子さんと文弥くんにも挨拶したいのですがどちらに・・・」

 

多分この言葉の副音声は『自慢話はいいから二人に会わせてくれ』だろう。

 

そして『いらっしゃいますか?』を言い終わる前に・・・。

 

            ドンッ‼

 

「おっと・・・」

 

何かがすごい勢いで従弟に飛びついてきた。それを従弟は難なく受け止める。

 

「亜夜子ちゃん、何やってるの?」

 

「飛びついているんです、昼夜お兄様」

 

従弟が当てた通り、飛びついてきた人物の正体は再従妹(はとこ)の亜夜子ちゃんだ。

 

「いや、それは分かるけど、なんで飛びついてきたの?」

 

亜夜子ちゃんはお兄様と従弟に得意魔法を教えてもらい、四葉での地位を確保した。

 

だからと言ってこれは馴れ馴れし過ぎないだろうか?

 

「姉さん、何やってるんだよ。昼夜お兄さん抱き着いたりして」

 

走ってきたのは亜夜子ちゃんの双子の弟の文弥君。

 

恥ずかしいからやめてと言う視線を姉に向けるが、睨まれて引き下がった。

 

「取り合えず、亜夜子ちゃん、文弥君、元気そうで何よりだ」

 

従弟が亜夜子ちゃんを引きはがし挨拶をしたのでそれに続いて私も挨拶する。

 

「亜夜子さん、文弥君、お二人とも元気そうね」

 

「深雪姉さま!昼夜兄様!お久しぶりです」

 

「お姉さま、お兄様もお変わりないようで」

 

二人は元気に、いつもの笑顔で答えてくれた。

 

そこからは叔父様の自慢話が始まってしまった。

 

私はそれなりに話を聞きながら、文弥君の服装は季節にあってないのでは、と考えたが

親子が好きで着て(着せて)いるのだから別にいいだろう、などと考えていた。

 

しばらくすると何時ものように、文弥君がそわそわし始めた。

 

視線も何かを探してさ迷いだす。そして・・・。

 

「深雪姉さま、達也兄様はどちらに?」

 

「お兄様ならあちらにいらっしゃるわ」

 

私が視線を向けた方向を探して、お兄様を見つけると・・・

 

「達也兄さま!」

 

「もう、仕方ないわね」

 

二人はお兄様のところに行ってしまった。

 

それを良い目をしないで見ている人が一人。

 

「叔父様はやっぱり達也兄さんと一緒に遊んでいるのは嫌ですか?」

 

それをストレートに聞くバカ従弟も一人。

 

「昼夜君も彼と仲がいいみたいだね」

 

「従兄と仲良くするのに理由がいりますか?それに・・・」

 

そう言うと従弟は叔父様にしゃがんでもらって耳打ちする。

 

「き、貴様ッ・・・何故それを・・・!」

 

するといきなり叔父様は顔に怒りを浮かばせた。

 

「お母様たちの仲を取り持ったのは私なのですから、

知ってたとしても何の不思議もないでしょう?」

 

一体、何の話をしているのだろう?

 

「今更後悔しているわけでもないでしょう?

第一、自分たちの望みが叶った途端に掌を返した臆病者だということを忘れてないですよね?」

 

叔父様の顔色の変化も無視して、言葉を投げつける従弟。

 

従兄がお兄様と仲がいいのは知っていたが、分家の当主に反発するほどに仲がいいとは思っていなかった。そして、兄を庇う姿に私は感謝を憶えた。

 

「さて、深雪姉さん、僕らも達也兄さんの所に行こうか?」

 

「え、あ、はい。では、黒羽の叔父様、また今度」

 

私は従弟に連れられてお兄様たちのところに向かった。

 

生憎、叔父様のせいでお兄様は少し見回りに行ってしまったけど、

 

それでも嫌な感じはしなかった。

 


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