多分本当だ。
だけどやれるだけ頑張ります!
ミラージの決勝まであと少し、昼夜達は既に会場で席をとっていた。
「昼夜、深雪さんは一体どんな方法を使うと思う?」
駿の言葉は、ほかのメンバーの言葉を代弁したものでもあった。
「難しいな。妨害ができるなら兎も角・・・」
「跳躍ルートを妨害するのは?」
「
愛梨は俺たちよりも先に理解して動く。
ルートの妨害は現実的じゃないな」
今まであらゆる事を理解しているように余裕綽々だった彼が、
穴を見つけられないというのが皆を押し黙らせていた。
「それって、深雪に勝ち目がないってことですか・・・?」
ほのかは恐る恐る訊ねた。もし彼が頷いたなら誰も否定できない。
「まさか? 俺には思いつかないだけで、達也なら思いつくかもしれないし、
それに深雪が愛梨に劣っているわけじゃない以上、互いに勝機はある」
「でも、このルールだと一色選手の稲妻は最適だよ?
こんな事言いたくないけど、深雪が飛行魔法使っても勝ち筋が見えないんだよね」
エリカの言葉は、再び皆を落胆させた。
それだけ愛梨の稲妻の恐ろしさを理解しているのだろう。
「正直驚いたな。エリカがそんな悲観的推測をするとは思ってなかった」
エリカはムスッとした表情を浮かべたが、ひとまず続く言葉を待った。
「まぁまずは訂正を幾つかすべきだな。
1に、稲妻は最適でなく模範解答だ。ミラージで先に知れるのはそれだけ大きい。
次に、愛梨も飛行魔法を使える。あれは誰でも使える事に重点を置いてる。
愛梨なら使えないなんてことはないだろうな」
「否定的な意見しかないんだけど?」
「落ち着け。まず敵に関して正確な情報が必要だっただけだ。
さて、以上がマイナス方面の訂正だ。ここからは深雪の有利点だ」
安堵したメンバーを見て、昼夜は続ける。
「まず愛梨はフルで飛行魔法は使えない。あいつの想子量は普通より少し多い程度だ。
稲妻だけならともかく、飛行魔法と併用では最後まで持たない。
次に・・・まぁ深雪が愛梨より遅いとは限らないってとこか?」
これに関しては見たほうが早いと、昼夜は選手が出てきたフィールドに視線を向けた。
言うまでもなく、矢張り注目選手は愛梨と深雪だった。
開始と同時に全選手が動き出す・・・のだが。
「まぁこうなるよな」
深雪と愛梨の二人だけがスコアを重ねていた。
いや、他の選手も点は取れているのだが、たまたま近くに発生しただけだ。
順調に点を重ねられてるのは二人だけだ。
「深雪の触覚、或いは嗅覚とでもいうべき感覚は世界からの寵愛と言っていい。
感知してからだから稲妻には追いつかないが、
愛梨から届かないボールをとる程度は容易だな」
「それでも、やっぱり深雪が遅れをとってる」
「まぁどんなに言っても後手だからな。とは言えここからだろ」
加えて愛梨はまだ飛行魔法も使っていない。このままなら負けは必至だろう。
「この状況、昼夜君ならどうする?」
「会長達がいつの間にか来たのかは、まぁいいとして。
一つの手段としては、こちらも稲妻を使うとかですかね?」
『ナニイッテンダコイツ』という視線が昼夜を突き刺す。
「別に効果がわかれば魔法式の構築自体は可能でしょう?
そこから余分な式を除いたり慣れるのは使わないとわからないですが」
この程度なら達也であれば容易だろう。だが、この手は無しだろう。
そうなると経験の差が出てしまう。達也はそんな手段を選ばない。
「そうなると、まぁこうなるか」
昼夜が言うと同時、会場で声が上がる。
深雪のスコアが愛梨に追いついたのだ。
「えっと、どういうことでしょう?」
「見たとおりですよ」
中条先輩の質問を昼夜はその一言で返した。
愛梨は確かにボールをとったのに、スコアが加算されない。
いや、空中に浮くボール自体が増えている。
「もしかして・・・ダミーを作成したんですか?」
「流石ほのかだな。光波振動に関してはこのメンバーでも頭一つ抜けている。
稲妻は確かに誰よりも早く視て動けるが、逆に言えばそれまでだ。
ダミーを判別する効果は勿論、空中機動が自由になるわけでもない」
結果として、早いだけならダミーでほぼ封殺が可能だ。
「ギャンブル要素もあるし、飛行魔法で空中機動を上昇されると厳しいが、
そうなればスタミナ勝負で負けかねないしな」
発生させた深雪にはダミーがわかる以上、深雪が有利なのは言うまでもない。
ダミー自体は相手に対して害は無いのでルール違反にはならない。
一定の期間でダミーはランダムに再発生する。
愛梨も想子量の差については理解しているはずだ。
それを考慮すれば飛行魔法はまだ使いにくいだろう。
結局第一ピリオドは深雪優勢で終了した。
「第二ピリオドはどうなりますかね?」
「恐らく中盤から飛行魔法を使ってくるでしょうね。
それを考えるとスコアがあまり開いてない現状は不利とも言えますが」
稲妻と跳躍魔法しか使ってなくて優勢がやっと。
やはり稲妻はミラージで最強と言って差し支えない。
ダミーにできるのは、その優位を誤魔化すのがせいぜいだ。
それで追い越せるのは深雪の才と努力のなせる技だ。
そうこう言っている間に第二ピリオドが始まる。
矢張り深雪はダミーを発生させた。だが、予想外は常としてあるものだ。
「飛行魔法を短時間発生、一定範囲のボールを纏めて処理したか」
「でも、ダミーの量を増やせばまだ・・・」
「ダメだな、飛行魔法のだけじゃなくて投影魔法もかなりの連続処理をしている。
これ以上下手にダミーを増やせば、深雪の魔法外処理に支障が出る」
スコアはみるみるうちに巻き返される。
深雪も頑張っているが、スコア差はどうしても縮まらない。
「あれ? スコアが開かなくなった?」
「ダミーの発生個所を纏めただけだ。
範囲内に多い場所狙うなら、ダミーをまとめれば誘導できる。
とは言え傷口を防ぐのがせいぜいだがな」
「それなら孤立しているのを狙えばいいんじゃ?」
「そうならないように、ダミーだけじゃない郡も用意してるんだ。
逆に孤立していてもダミーのだってある。
それなら纏めてチェックできる群を狙ったほうが効率がいい」
第二ピリオドは愛梨優勢と、一高としてはうれしくない結果だ。
「これって不味くない? 第三ピリオドは迷いなく飛行魔法使うでしょうし」
「不味いかと聞かれれば、まぁ九死に一生を得られるかといったところか。
差をつけたかったが、むしろつけられてるからな」
「まだ一生の余地はあるの?」
「あのびっくり箱から何が飛び出すかは俺にも分からないからな」
その時、昼夜の電話がなった。
「悪い、少し出る」
「達也、こんな時電話なんて悠長だな?」
観客席からでて確認した電話相手は、絶賛深雪のメカニック中の達也であった。
『頼みがある。深雪の封印を変わってもらえないか?』
「待て、すぐそっちに向かう」
文字通り神速といえる速さで(魔法も使って)選手控えまで向かった。
「来たぞ。そして達也、お前の頼みじゃ聞けない。
これは深雪の戦いだ。決めるのは深雪だ」
時間がないので色々と言葉は略されていた。
二人は昼夜の言葉の意味もこれだけで理解できる付き合いだった。
「私は・・・負けたくありません! 何より、自分の全力をもって戦いたいです!」
達也も頼むように昼夜に向けて目を伏せている。
「深雪、手を貸せ」
深雪は一瞬驚いたように、そして直ぐに笑みを取り戻し手を差し出した。
昼夜はその手を握り、目を閉じる。ただ集中するためだけに。
(魔法式『
移行用魔法コード認証・・・成功。
続いて起動中魔法『誓約』を一時凍結・・・成功。
『誓約』発動者移行式、起動・・・発動・・・移転完了。
凍結状態の『誓約』を解凍・・・成功・・・起動・・・成功。
これより『誓約』の発動者は四葉 昼夜が代行する)
「今日だけだ、ここまでやらせたんだから勝て」
「ええ! 絶対に勝つわ! ありがとう昼夜」
「では俺は戻るぞ」
さて、これは愉快な試合になりそうだ。