四葉のもう一人の後継者   作:fallere

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大変長らくお待たせいたしました。
ちょっと色々厄介ごとが重なりまして・・・。
遅れたのは私の不始末ですので一応前回までのあらすじを・・・。

季節は夏。
学校も夏休みとなり昼夜たちものんびり・・・とはいかず、
九校戦へ向けての調整を行っていた。
そんな中、会場である富士にて不審な人物の目撃情報が入る。
そして来る会場へ向かう日、警戒していた昼夜は反対車線からの特攻に気づいた。
なんとかそれを克人、深雪、鈴音の協力で防ぎ、残党を仕留め再び会場に向かう。
会場では入学編以降交友のあったエリカたちと会い、新たに幹比古とも仲良くなる。
そして懇親会が始まる。
愛梨に噛みつかれていた深雪をフォロー(?)、
その後、将輝に対する宣戦布告を行う。
そして登場した九島閣下に(軽く)目を付けられる。
昼夜は自分がこの九校戦を案外楽しみしていたこと、
学生生活が退屈しないことに気づき、獰猛な笑みを浮かべていた。

とまあ、長くなりましたがこんな感じです。
多少順番がおかしくなってるかもしれませんが気になさらずに



九校戦編 五節

「あ~、面倒だった・・・」

 

「昼夜、第一声がそれかい?」

 

俺たち・・・正確には俺と鋼と駿は部屋に戻って休憩中だ。

 

因みに俺たちがモノリスのチームなので三人での部屋割になっている。

 

「だって、姓の『四葉』二文字だけでじろじろ見られるんだぞ?

あこがれる奴も駿とか駿とかいるかもしれないがいいもんじゃないぞ」

 

駿が何故例が俺なんだ! と突っ込んでいたが華麗にスルーする。

 

「と言うか宣戦布告はいいとして俺たちまで巻き込むな・・・

カーディナルジョージ相手じゃそう簡単には勝てないだろ・・・?」

 

「何言ってる? お前なら少し余裕を持つくらい十分で勝てる。

いくらカーディナルが策を積んでもお前の経験は計算外だ」

 

策を立てるには相手の力量を図る必要がある。

 

速さ、力、耐久などは調べる事ができるが、経験は同じ時間でも個人差が大きい。

 

増してや多くの人が経験の詰む速度は変則的だ。

 

そして俺も駿が使いやすいようにCADをお膳立てしたんだ。

 

将輝のブレイン、訓練だけで詰める経験も少なくないが本番に対する耐性はこちらが上だろう。

 

「約束しよう。俺たち三人で出られる競技は全部優勝総なめだ」

 

二人はやれやれと言った感じに頷いた。なんだかんだで信用はしてくれているようだ。

 

「っと・・・悪い、ちょっと夜風に当たってくる」

 

理由はない。本当に何となく外に出たかっただけだ。俺は部屋を後にする。

 

 

 

「う~ん・・・部屋に残ってもよかったけど出たくなったってことは・・・」

 

俺は視界を広げてみる。

 

「・・・生ごみは出荷できないんだよな。ここだと生ごみの回収は何曜日だ?」

 

「昼夜君、君は一体何を考えてるの?」

 

「幹比古、気づいているか? 鮮度抜群の肉塊に」

 

声をかけてきたのは幹比古だった。

 

「・・・まあ精霊たちが教えてくれたからね」

 

精霊って便利だな。俺も使えるようになれるか?

 

「じゃあ俺が補助するから気絶でも何でもさせてくれ」

 

「君がやった方が早いと思うんだけど・・・?」

 

「面倒くさい」

 

そこまで堂々とよく言えるという表情を浮かべられたが了承してくれた。

 

「仕掛けるぞ。3・・・2・・・1・・・今だ!」

 

幹比古は札を発動する。・・・現代魔法で言うと放出系のスパークが近いか。

 

だが、札に仕組まれた魔法に余分な箇所が多い。敵はすでにこちら気づき銃を向けている。

 

俺は障壁を展開した。『常闇』のために多くの障壁魔法を調べたのは結構役に立つ。

 

弾丸は防がれ、幹比古の魔法は賊の意識を刈り取った。

 

「・・・ふぅ、昼夜君助かったよ。僕一人じゃ確実にやられていた」

 

「いや、幹比古の魔法も最適だ。殺さずに意識を一撃で刈り取る。これ以上ない戦果だ」

 

「でも君の補助がなければ僕は・・・」

 

「何言っている。重要なのは結果だ。お前が賊を全員倒した。

それが今の結果だ。過ぎたことに仮定を立てても意味がない」

 

「でも・・・」

 

なんだこいつは? まさかとは思うが・・・。

 

「幹比古、お前相手の数や練度関係なく勝つ事を基準になんてしてないよな」

 

幹比古は図星を突かれてか黙り込む。

 

「はぁ、達也、そこにいるんだろ?」

 

俺は物陰で隠れている従兄を呼ぶ。

 

「達也は幹比古をどう思う?」

 

「阿呆だ」

 

綺麗なまでな即答。これまた幹比古はショックを受けている。

 

「幹比古、一つ言っておくが俺だって相手の数や練度関係なく勝つことはできない。

戦略級と言われても体はただの高校生だし体力や魔法力にも限界がある。

俺だってそう言う理想は抱くがやることやるたびその結果とは程遠いもんだ」

 

時には任務を果たせず逃げ帰ったこともあるしな。

 

「それから、幹比古が感じている悩みも案外どうにかなるかもしれないぞ」

 

「何を分かったようなことを言ってるんだい・・・」

 

「魔法の発動速度、相手が銃を握りしめた時お前の顔は焦りに飲まれていた。

あれは自分の魔法発動速度に嫌気でも指してたみたいだが・・・

お前の魔法展開速度自体は遅くない。むしろ平均水準より高い」

 

俺は達也に説明を譲る。

 

「問題があるのは起動式だ。魔法が自分の思うようにいかないのはそのせいだ」

 

「なんでそんなことが分かるんだよッ!」

 

幹比古は叫んでいた。まあしょうがない。

 

俺たちがしているのは吉田家が改良してきた術式の否定、強いては努力の否定だから。

 

「・・・達也、お前が幹比古に合わせてCADと魔法を用意してくれ。

幹比古、明日からの夜、ここの訓練所で相手になる。この期間中ならいつでもな」

 

そう言った俺の頭に二つの飛行物体が迫る。

 

「っと・・・ナルにホロか? なんでこんなところに?」

 

まあばれないように鳥籠を隠して外に置いておいたが・・・。

 

「? ねぇ、昼夜君? 今気づいたけどその二羽って式神?」

 

「は? 一体どういうことだ?」

 

「二人とも、話のところ悪いが先にこいつらをしかるべきところに届けるぞ」

 

「ああ、そうだった。生ごみの廃棄所はどこだったっけ・・・?」

 

いや、死んでないからと幹比古は突っ込んでくれた。ある程度は整理できたようだ。

 

 

 

「んで、ナルとホロが式神?」

 

肉塊をしかるべき場所に連れて行った後、俺は幹比古と話していた。

 

「うん、古式魔法の中には使役状態の精霊を鳥獣に入れて使役する術があるんだけど、

精霊化は分から無いけどその二羽に何かしらの精神体が憑依してる・・・と思う」

 

やけにあいまいだな? 一体どういうことだ。

 

「でもそれをするには術の行使が必要で、君がやってないのに憑くとは思えなくて」

 

「う~ん・・・幹比古って一応精霊と会話できるんだよな?

それで聞くこととかできないのか?」

 

「精霊って言うのは自然そのものに宿る者なんだ。

僕らは声を聞くという体を取っているけど、実際はただ想子波を合わせているだけ。

与えられる波から何となくこうだと感じ取っているだけなんだ」

 

ふむふむ、つまり言葉で会話をしているわけじゃないと。

 

「それに、僕の一族は昔山奥の村で雨ごいなどをしていた。

だから僕も得意な精霊な属性は水や風なんだ。

でも多分その精霊は二羽とも火、一応雨だから蒸発の過程で火属性も入るけど、

僕が見た限り、得意じゃない僕が合わせられるほど甘い霊格じゃないと思う」

 

「そんなのが憑いてるのか・・・」

 

適当に拾った烏とミミズクだぞ・・・。

 

「・・・幹比古、精霊との交信は基本想子の波を合わせるんだよな」

 

「うん・・・やってみるなら僕が簡易だけど祭壇を組み立てるけど?」

 

折角なので頼むとして、属性が合わないとはいえその道の神童が無理と言ったものだ。

 

だめで元々、成功したなら万々歳ってところでやっていくか。

 

 

 

で、本当に簡易な祭壇だと思った。

 

贄は普段から餌あげてるなら必要ないだろうと、

水は空気中からなるべく水蒸気のみを集めたかなり純粋な水。

 

何処からか持ってきたろうそくを数本立てて、

 

神社などでよく見るひらひらを備えた感じだった。

 

「実際これって効果はあるのか?」

 

「少なくとも、大規模な精霊を呼ぶには環境も合わせないと難しいから」

 

精霊魔法使いも苦労しているんだな・・・。

 

「じゃあダメもとでやってみますか」

 

俺はまず眼を合わせる。始めはナルだ。

 

眼に入る可視光線に霊子光を加える。

 

光学の眼(オプチカル・サイト)』の性質は光媒体の遠視だけではない。

 

眼に入る光を完全に制御する。霊子はデフォルトではoffなのだが、

 

今回は交信する相手を見た方がよさそうだ。

 

因みに、赤外線などもonにすると視界がぐちゃぐちゃになる。

 

この眼を通して移るナルには、確かに何かが憑いている。

 

いや、ナルそのものが何かに変わろうとしているように見える。

 

俺は波を合わせてみる。ジャミングやアクティベートより複雑に感じる。

 

かれこれ2~30分ほど粘ったか。何かが自分に流れ込んでくるのを感じた。

 

それを一気に手繰り寄せる。波が完全に適合した。

 

≪お待ちしておりました、我が主よ≫

 

そう聞こえた。幹比古は感じるだけで精霊と事を交わすことはできないと言ったはず。

 

≪昼夜様、わたくしがナルでございます。

そして人の言う精霊としては、八咫烏の霊魂を持っております≫

 

八咫烏、神武天皇を大和まで導いた神鳥、導きの神であり太陽の化身。

 

三本足で描かれることが多いが古事記や日本書紀にその記述は無い。

 

名前の由来は咫が親指から中指までの長さ約18cm、その八倍144cmとなる。

 

が、八はつまり八百万と同じくものすごく等の意味で、この場合は大きいという意味。

 

頭の中から分かる限りの知識をひねり出す。

 

≪流石我が主、御博識にございます。しかし、それらはすべて伝説でしかありません。

元の八咫烏はただの烏、その羽ばたきを導きと解釈した人がおりました。

その烏はまつられ、霊格を持つようになり転生している次第です≫

 

まあ神話などそんなものだろう。政治利用するためのものなのだから。

 

≪しかし、その霊魂も時と共に弱まり消滅しかけておりました。

私たち精霊、独立情報体は物理次元におけるダメージを負いませんが、

情報次元においては情報の波に飲まれるまで。

何時までもその波にあらがうことはかないません≫

 

成程、魔法だけではなく情報は些細なことで変化する。

 

元が精霊ならそれが当然な環境だろうが偶然霊体となった場合はどうだろう。

 

恐らく変わりゆく情報の波にあらがい続けるために物理次元の依り代が必須だ。

 

そうして何度も転生していると。もみ消されないように。

 

≪私が新たな依り代としてこのナルに付いたのは生まれる前でした。

そして、依り代を持っても抗いきれなくなったと思ったときに現れたのがあなたです。

あなたの気は特別です。私どものような場合の霊は誰かの想像で霊となります。

あなたはその霊を生み出せる気の持ち主。想像して創造できるもの≫

 

要するに、その俺の気に触れて再度安定した状態に戻ったわけか。

 

≪そしてその気を、『覇気』。ほんの一部が持てる王者たるの気質≫

 

そういや八雲さんも僕の気がどうとか言ってたな。

 

≪その気質は味方を鼓舞し、敵がひれ伏す。

他の気質を押し返し切り開く唯一無二の気質≫

 

そんなヤバいもんだったのか・・・。まあ結果としてナルを守れたならそれでいい。

 

≪私こそ、この命を助けていただいた恩は忘れません。

今後とも力にならせていただきます≫

 

そこで交信は切れた。

 

 




『腑抜けていたのは俺の方だったか・・・』
前書きでも言いましたが投稿遅れてごめんなさい。
言い訳無用と言う方は感想でも個人メッセージでもどうぞ罵りください。
ただ、他の閲覧者に当たるのはやめてください。
取り合えず暫くは安定して投稿できるはずです。
今日は頑張りますよ!

(余談:今回出てきた八咫烏ことナルの精霊としての立場ですが、
    個人的に精霊はいくつかの種類があると思っています。
    1.幹比古が精霊魔法で呼ぶような精霊は自我はほとんどなく、術者の意志で動く。
    2.吉田家の竜神等、精霊では高位に立ち自我を持ち、術者を意志と時に対立する。
    3.人の信仰等によって創造された精霊。自我を持つが、2に比べると力は大きく劣る。
    4.重力の壁によって分けられた別次元に生息する精霊。パラサイト。
     こちらでは存在を保つために生物に宿り、その本能に従う。

    こんな感じだと思っています。
    正直にわか知識丸出しかもしれませんが許してください)

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