俺たちを乗せたバスはやっとのことで会場についた。
「は~、面倒ごとも休み休みならいいんだけどな・・・」
作品には書かれてないが、実は結構な頻度で面倒ごとに会っている。
前回の血の匂い云々もあながち嘘じゃない。
実際、数日前も皆を攫う計画をしていた奴らを皆殺しにした。
どうにも、無頭竜が裏から手を回して俺を抑える駒にしようとしたらしい。
「昼夜、まるでいつも面倒ごとに巻き込まれてるみたいだね」
「鋼、言っておくが四葉にいると毎日が面倒ごとのフィーバーだぞ」
特に今はお母様が撒いたモンペ菌のせいで俺たちの世代はな。
「ん? あれは・・・?」
「あ、昼夜君!」
「見覚えがあると思ったらエリカか」
「しばらくぶりだね、元気にしてた?」
雫たちとは深雪と一緒によく会っていたそうだが、
俺は最近、休み時間は家からの連絡、放課後は競技の練習などと忙しく会ってない。
何故か最近俺に回る仕事の量が多いんだ。葉山さんもお母様を走らせてるのだが。
どうにも、俺が本当に表に出たので諸外国が嗅ぎまわってるようだ。
矢張りナルとホロの反応は皆と同じだった・・・。
「美月も・・・向こうにいるのはレオと・・・あと一人は?」
美月は時間が空いてる日に達也たちと一緒にいたので何度かあっている。
もう一人は・・・顔を見たことがあるような気がする。古式を調べた時・・・。
その少年がこっちにやってくる。その間に達也たちも合流した。
美月のファッションについて現代のドレスコード云々と言う話をしていた。
「柴田さん、チェックイン混んでたから荷物持ってきたよ」
「エリカ、荷物くらい自分で持てよな」
「・・・思い出した、古式の精霊魔法、古式の言い方では神祇魔法か?
その名家、吉田家の神童、吉田幹比古か」
「ん? おう、昼夜か」
「しばらくぶりだな、レオ。んで、そっちの君は期末試験理論四位の吉田君?」
「ええと、四葉昼夜君だよね? その通りだよ、呼ぶなら幹比古でお願い」
「幹比古だな、分かった。俺も昼夜でいい」
エリカたちはその後ホテルに向かっていった。部屋は家の名前でごり押したらしい。
後は水波とも会った。深雪と達也以外とは顔を合わせるのは初めてだったので挨拶も。
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さて、懇親会の時間になった。要するにただの顔合わせだが・・・。
「は~・・・あんまりこう言うパーティーは嫌いなんだよな」
何が好きでこれから牙を向け合う相手の顔を見ないといけないんだ・・・。
俺は鋼と駿と行動している。取り巻きがいる方が近寄られにくいと思ったからだ。
実際俺には誰も話かけてこない。将輝の姿はまだ見てないけれどどうなのだろうか?
エリカや幹比古はウエイトレス及びウエイターをやっていた。
家の名前だけでごり押しできるのかとは思っていたが、そう言う事か。
徐々に人満ちていく。他校の生徒も集まって来たみたいだ。
そう言えば深雪はどうだろう? あの美貌なら人も集まると・・・
「さぞかし名家のご出身とお見受けするわ。私は三高一年の一色愛梨。
こっちは同じく十七夜栞と四十九院沓子よ」
ありゃりゃ、いきなり愛梨に噛みつかれてるな・・・。
「第一高校一年、司波深雪です」
「・・・あら、一般の方でしたか。
名のあるお方と思って声をおかけしましたが、勘違いでしたか。
ごめんなさい、試合頑張ってくださいね」
「おーい、愛梨~」
俺の声を聴いて、愛梨は少しびくりとする。
「・・・四葉君、なにかしら?」
周りからざわめきが起きる。どうにもあれが本当に、とか聞こえる。
「先に忠告しておいてやるよ。そっちと同じくこっちも一年は粒ぞろいだ。
俺は勿論だが、後ろの鋼と駿、そこの深雪、その後ろにいる雫とほのか。
「・・・あなたが言うからには嘘ではなさそうね」
「それから・・・何度も言うが昼夜にしてくれ、四葉は肩がつかれる・・・」
愛梨はどこか呆然とする。
「そこから言う事じゃないでしょう・・・?」
「俺にとっては重要なんだよ。家の名前が出るとお母様の事を思い出す・・・」
「あ~・・・確かにあの人は魔王の以前にね・・・」
愛梨も何度かあっているので思うところはあるらしい。
「んじゃあ、宣戦布告はこれくらいで充分だろ? 俺ももうちょっと回りたいし失礼」
煽るのはある程度成功しただろう。さて、次のお相手は・・・
「やあやあ、真紅の王子様。おやおや、我が校のレディに執着しているのですか?」
「・・・ああ」
「・・・えーっと、君がカーディナル・ジョージ? 君の相棒どうしたよ?」
普段なら突っ込んでくるところだぞ。真紅の王子様は毎回言ってるし。
「君が四葉昼夜君かな? 将輝はさっき一高の女子に目を向けて動かなくね・・・」
俺は暫く考え・・・そして放棄する。
「目を覚ませ!」
俺は将輝をビンタする。くそ・・・ここでも身長差が・・・。
「お~い、目覚めたか~?」
「うぅ・・・って、なぜ昼夜がここに!」
「なぜって・・・今懇親会だからだろ」
しかし将輝の奴、ガチでその女子、つまるところだが深雪に御執着のようだ。
「はぁ、深雪に手を出すなら半殺しになる覚悟位はしておいた方がいいぞ」
「? どういう・・・もしかしてお前も⁉」
「俺じゃねーぞ。深雪を守ることのスペシャリストがいるからな」
「もしかして既に彼氏が・・・」
「安心しろ、そう言う目的で近づく奴を排除するのがそいつの仕事だ」
将輝はますますわからないといった顔をしている。
「要するに、スーパーシスコンの兄がいる。
その力を解放した時の戦力は俺もやられかねない」
「・・・冗談か?」
将輝と俺は実際に戦ったことはないが魔法力、干渉力は多分俺が少し上くらいだろう。
手数及びバリエーションに関しては俺が遥かに上回るだろうが。
「その話はこれくらいにして、出るのはピラーズブレイクとモノリスか?」
「・・・ああ、そうだが」
「成程・・・今その二競技での一高の優勝がほぼ確定した。
将輝、俺に勝ちたいならあっと驚くような奇策を用意してみろ。
じゃないと俺に勝つことはできないぞ」
この場での勝利宣言、なぜなら・・・
「将輝の爆裂では俺に勝てないぞ」
確実に爆裂を防ぐ手段が俺にはあるからだ。
そして、モノリスも対抗手段はすでに用意している。
将輝は元々奇襲に弱い性格だ。俺は奇襲を迷わない。将輝からは相性は最悪だろう。
「ではでは~、競技で闘うのを楽しみにしてるよ~」
俺は将輝に手を振って離れていく。
「・・・昼夜、正直モノリスの肩の荷が重いんだが・・・」
「駿、先に言っておくが将輝が、ジョージが奇策を考えても俺を出し抜けないさ」
その自信はどこから・・・と言う眼差しを向けられたが。
「決まっている、この三人なら誰にも負けない。そう思って二人を選んだんだ」
直接魔法に対して絶対の防御を誇る鋼、
テクニックと速度に秀でた実戦経験のある駿、
自分で言うのもなんだが、眼による偵察、攻撃力、防御力と隙の無い俺、
これだけ揃えて勝てない敵はほとんどいないだろう。
「いけないな・・・どうにも俺は思ってる以上に楽しみにしているみたいだ」
鋼曰く、この時の俺はすさまじく獰猛な笑みを浮かべていたそうだ。
暫くすると会場の光が消える。どうやら閣下のお出ましのようだ。
(ん? 何か違和感を感じる・・・精神干渉か?)
壇上にスポットライトが当たる。
そこにいるのはパ-ティードレスに身を包み、金髪を揺らす女性だった。
「ねえ、昼夜? 九島閣下って女装趣味でもあるの・・・?」
「さぁ? 九島閣下ともなれば年齢も性別も操れるんじゃない?」
適当に返して少し眼ではなく、感覚を広げる。
俺はその網にスポットライトとは真逆に俺たちとは雰囲気の違うモノを知覚した。
俺は光波振動系の魔法でその場所を照らした。そこにいたのは案の定・・・
「おっと・・・見つかってしまったか」
老師、最巧、トリックスター、いまだに他国に畏れられる九島閣下のお出ましだ。
「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する」
閣下の目は俺を見ていた。術式消失で隠したはずなんだがなぁ・・・。
「今のはちょっとした余興、魔法と言うより手品の類だ。
だが、手品のネタに気づいたのは私の見たところ六人だけだった」
俺、達也、真由美さん、克人さんは間違いないだろう。
特殊な眼を持つ三人と、魔法的な空間把握の力の高い克人さんだ。
後の二人は分からない。摩利さんはそちらに強いとは思えないし、将輝や愛梨も同じ。
深雪も魔法感覚の強い触覚を備えているが、勘はないので怪しいところ。
まあそんなことはどうでもいいだろう。どちらにしろ少なすぎる。
「つまりもし私が君たちの殴殺を目論むテロリストで爆弾やガスを仕掛けたとしても、
それを阻むため行動できたのは六人だけと言う事だ」
閣下の言葉に会場は静寂に覆われる。
「魔法を学ぶ若人諸君。
魔法とは手段であって目的ではない。
それを思い出してほしくて私はこのような悪戯を仕掛けた。
私が今用いた魔法は規模こそ大きくても低ランクの魔法だ。
私が言いたいのは、使い方を誤った大魔法は使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。
若人諸君、私は諸君の工夫を楽しみにしている」
会場は拍手喝采。ほぼ全員が手を打ち鳴らす。
しかし、ランク主義の現代魔法社会に異議を唱えることだ。
魔法は使い方次第。魔法を道具と割り切った考え方。
成程、これが『老師』か・・・。
最近思うが、案外高校生と言うのも退屈しないかもしれない。