彼女がいれば苦労しないだろう。
だが、いないからこそ我々は翼を広げて物語を楽しむのだよ。
あの後、水波を送って学校に戻った。昼休みに見事にもぐりこんだのである。
多分、放課後は百山校長に怒られるだろう。
そう言えば九重さんは何で学校に潜入していたのだろう?
まぁあの人が特に悪いことを企んでいるわけではないだろう。
むしろこれは、何か危険が迫っていると考えるべきだ。
九重さんが干渉するほどの・・・。
そう考えながら、俺は生徒会室に向かった。
九「しかし、昼夜君のせいで可愛い女子高生が見れなかったなぁ・・・」
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「失礼します、一年B組、四葉昼夜です」
「どうぞ~」
そう声がして、扉が開く。
中には生徒会の面子、そして深雪と達也がいた。
「・・・副会長の服部さんは?」
「ああ、はんぞーくんは昼食は部室で食べるのよ」
それは有り難い。どうにもプライド意識が高そうな方なので、
達也がいると話が進まないのではと思っていた。
「待ってください! 彼が四葉君であることを前提に話してますが、
ホントにあの四葉君なのですか⁉」
中学生くらいに見える背丈に相応の童顔、リスのような雰囲気は・・・
「あーちゃん?」
「あーちゃんて言わないで! って、私名乗りましたか?」
「いえ、会長に以前生徒会のメンバーを教えていただきましたから」
「会長! 私にも立場と言うものがあるんです!
後輩に『あーちゃん』なんて言わないでください!」
「ごめんねあーちゃん、去年はまだ昼夜君が一高に来るとは思ってなかったから」
去年の二十八家合同パーティーで真由美さんに自慢された。
『私には優秀な部下がついてきてくれてるわ』と。
「ではそちらの方がリンちゃん、市原鈴音さんですね?」
「その通りです」
「なんで市原先輩だけ名前を呼んで私があーちゃんなんですか!」
「会長にあーちゃんはこう扱えとのことでしたので」
「会長!」
「アハハ・・・」
真由美さんは苦笑いをして目を逸らしている。
「まぁ、すいません中条先輩。少し悪ふざけが過ぎました」
「うう、いいんです・・・私はどうせあーちゃんですから・・・」
「これも何かの縁ですし、俺のCAD、『プレアデス』をお見せしますよ?」
「え! 『プレアデス』ってもしかして・・・?」
「はい、先輩が大好きなシルバー・トーラス作のCADです」
「あの数少ないリボルバー式でありながら、
その利益のほぼ全てを握っているというあの!」
「はい、その『プレアデス』です。これが特に手に馴染むんですよ」
なんたって作成したのが自分だからな。名前借りてるだけで。
「はわわ・・・いいんですか? そんなものを見せてもらって!」
「いいですよ、先ほどからかってしまいましたし」
「いえいえ、これが見れるならいくらからかわれても・・・」
さっきの立場がどうとかはどうなったのだろう?
「君は中条の扱い方を熟知しているようだな?」
今は持てないのでまた今度と言うことにして話を区切る。
因みに今の渡辺さんの言葉は中条さんは興奮しすぎて聞こえてないようだ。
「先程も言いましたが事前に聞いていましたので」
「それでもだ、それに中条にも特に負の感情は抱いていないと見える」
「それは当然です。態度云々もありますが年上ですから」
「その言い方だと自分より年上の人間は皆尊敬しているように聞こえるが?」
「それは当然です。少なくとも自分より長く生きていることに関して。
態度はまた別に判断しますよ」
「? どういうことかいまいちわからんが?」
そこで口をはさんだのは深雪だった。
「恐らく皆さんと昼夜では時間の重みに差があるのでしょう。
昼夜はその立場からいろいろありますから」
「あ、そう言う事か・・・すまない」
「気にしないでください。俺が選んだ道ですから」
「さて! とりあえずお話は中断! お食事にしましょ」
真由美さんのその言葉で食事を選ぶ。
肉、魚、精進があったので魚にした。青魚だとさらにいい。
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結果、出てきたのは鯵の甘辛だった。やったぜ。
まぁそれでもレトルトだ。少々物足りない感はある。
因みに渡辺さんはお弁当だった。
「意外か?」
「いえ、少しも」
これは達也の反応である。質問も達也宛だ。
指を見た感じだと機械任せではなく手作りなのだとわかる。
傷があるとかではなく、料理する人特有の癖で。
同じことを達也もしたようで(もっとも文字通り次元が違うが)、
渡辺さんは気恥ずかしそうにしていた。
「私たちも明日はお弁当にしましょうか? 昼夜の分も作ろうかしら?」
「いんや、俺は欲しいなら自分で作るからいいぞ」
「そう・・・」
深雪はしょんぼりし、達也は俺を睨みつける。待て、俺が何をした?
その様子を見て笑う生徒会組。何が面白いのか全く分からん。
「そう言えば四葉は朝うちの制服と違う女子を連れていたそうだが・・・」
部屋の気温が一気に下がる。そしてそれが一気に常温に戻る。
「渡辺先輩何地雷踏んでるんですか?」
「待て! 今のは私が悪いのか⁉」
「昼夜? 今のはどういう事かしら?」
深雪のスマイルはものすごく怖かった。このスマイルは0¥じゃだめだ。
こんなものが0¥なら世界中の人類はすでに滅びているだろう。
「その子はただの護衛だ。少しいざこざがあってここに来てもらってたんだ」
「女の子が護衛なんですか?」
「その通りです」
「昼夜は女の子に守ってもらわないといけないほど弱いんですか?」
ここからの説得は時間を擁した。
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暫くして、吹雪警報はやんだ。後日聞くと、この生徒会室一番の危機だったそうだ。
「さて、本題に入るのだけど、昼夜君か深雪さんのどちらかもしくはお二人に、
生徒会に入ってくださることを希望します」
俺の回答は決まっている。
「申し訳ありませんが俺は辞退させていただきます」
「やっぱりね・・・一応理由を聞いておくわ」
「戦略級魔法師が生徒会役員なのは学校のイメージ上悪い結果につながるかと。
しかも、もし万が一、生徒会長にでもなろうものなら第一高校は、
『戦略級魔法師が支配する軍人を育てる学校』と叩かれることになるでしょう。
今は少なからずではありますが反魔法主義者確かにいます。
俺を理由に反魔法主義を加速させたくないですし、俺も叩かれたくないです。
ですが一方で、風紀委員なら務めてもいいと思っています。
俺は自分の周りに手を出されたくないですから風紀を守る仕事なら引き受けます」
真由美さんを除く生徒会組は唖然とする。これくらいの思考は当然だと思うが。
「まぁ、昼夜君はこの入学前から誘ってもこの調子よ。
なので、出来れば深雪さんには入ってもらいたいのだけど?」
「・・・・・・」
深雪は少し迷っているが・・・
「悪いが深雪、達也は生徒会役員にはなれない」
「昼夜、どういうこと?」
「生徒会規則に生徒会役員は一科生から選ばれることになっている。
これはこの学校で唯一明文化された差別だ」
「・・・わかりました、私でよければ引き受けさせていただきます」
「ありがとうございます、深雪さん。それと、ごめんなさいね」
「いえ、気にしないでください・・・」
「まぁ、そこで提案があるわけですよ」
全員が俺の方を向く。達也は嫌そうな顔をして。
「渡辺先輩は差別はお嫌いなのですよね?」
「無論だ」
「ならそこの達也を風紀委員に入れることお勧めしますよ。
知っての通り魔法を分析する力がありますし、腕っぷしも保証します」
「成程! その手があったか!」
「賛成! 生徒会は達也君を推薦するわ!」
達也にはアイコンタクトで説得した。
一つの理由に校内でCADを持てること。
次に深雪を喜ばす事が出来ること。
決め手は俺が作った深雪の人形1/10サイズだった。
「それで、昼夜君はどうするの? 教師推薦枠があるから頼まれるかもだけど・・・」
「それは森崎用ですね。あのトラブルを起こして一方だけが風紀委員となれば、
多少なりとも叩かれますから」
「摩利、部活連推薦枠はどうだったかしら?」
「確か・・・今年の入部期間は嫌だと一人逃げ出したな」
「じゃあ、十文字君にお願いしてみよっか」
「どうにも今年の風紀委員は大収穫だな」
勝手に話しが進んでいる。克人さんか・・・。
魔法で戦えば俺が勝つだろう。俺の夜は克人さんに有利だし。
だがなんだか・・・人間として勝てそうにないんだよな・・・。
中「『プレアデス』・・・シルバー様のCAD・・・」
昼「次回! 次回お見せしますから!」
プレアデスは和名ですばる、六連星(むつらぼし)なので、
六連装リボルバー式のCADにちょうどいい名前かと思いました。