SAO帰還者のIS
第八十八話
「アインクラッド最強ペア」
タッグマッチトーナメントでペアを組む事となった和人と明日奈のペアは、二人を知る者であれば今大会の優勝最有力候補だ。
互いに近接戦闘特化型ではあるが、それを補って余りあるほどの卓越した剣技、常軌を逸した反応速度やスピード、反射神経、剣速、どれを取っても参加者中で最高位に位置する。
和人は二刀流から繰り出される圧倒的な手数と剣技が誰よりも強力で、明日奈は剣速と初速のスピードが群を抜いている為、その動きを目視出来る者は殆ど居ない。
そんな二人は今、自室で夕飯を食べながら今度の大会についての話し合いをしていた。
「ねぇ、キリト君が今回警戒してるのは誰?」
「俺は、セシリアかな……
「そっか……わたしは、簪ちゃんと楯無ちゃんのペアかなぁ」
だが、二人が一番警戒しているのは、他の誰でもない百合子だ。無限槍の脅威は二人もよく知っているし、そのペアとなる箒はクラインに弟子入りしてからどんどん剣の腕を上げているだけでなく、二人の話ではつい最近リミッターが二つ外れたという事なのだから。
紅椿に掛かったリミッターが二つ外れた。それはつまり、今の紅椿は第3世代相当までスペックが上がったという事を意味している。
「作戦というほどでもないけど、各個撃破で行くのが一番良いよな」
「うん、1対1で戦うのが一番セオリーかな。それで先に相手を倒したらもう片方に合流して2対1で戦う」
「だな。まぁ、俺とアスナなら咄嗟の時に、どんな対応でも可能だろう」
黒鐡と瞬光は既に整備状態良好、調整も済んでいる。タッグの練習など、この二人には今更だ。精々練習と言える事をするとしたら、これからALOにログインして、二人で……いや、ユイも入れて三人で過ごす事、それこそが和人と明日奈のタッグの練習だ。
「ふぅ、ごちそうさん」
「はい、おそまつさまでしたー」
そういえばいつもならこの時間はユイが一緒に食卓に座っている筈なのに姿を見ない事に気づいた和人が明日奈に尋ねると、ユイは既にALOにログインしてホームで先に来ているリーファのお相手をしているらしい。
「んじゃ、俺達も行かないとな」
「うん、食器洗っちゃうから先にログインしてて良いよー?」
「いや、一緒にログインするさ。それまで俺はこっちやってる」
そう言って和人が手に持ったのは作りかけの機械らしき物。それを見て明日奈も納得した。それは和人の、そして明日奈の夢の為の機械。
視聴覚双方向通信プローブという電脳世界から現実世界をカメラレンズ越しに見る事が出来るようになるという機械だ。
「師匠に色々とアドバイスを貰って随分と進んだからな……これなら今年度中にテストが出来る段階まで行けそうだ」
「そっかー、それじゃあ来年にはユイちゃんも」
「ああ、ISが無くても現実世界を見る事が出来るようになる」
行く行くはこれを進化させてユイが現実で生きていける身体を作る。ユイに現実での身体を与えて、家族三人で過ごす。それが、和人と明日奈の夢だ。
それから暫くして、明日奈が洗物を終えて準備が整ったので、二人ともアミュスフィアを被ってベッドに横になる。
「「リンク・スタート」」
アルヴヘイム・オンライン中央、イグドラシルシティの居住区にあるプレイヤーホームの一つ、そこはキリトとアスナの二人がユイと共に過ごすホームだ。
そこにログインしたキリトとアスナはリーファと共におやつを食べているユイに姿を目にして苦笑する。
「ユイちゃん、ただいま」
「あ、ママ! パパ!」
キリトとアスナの姿を見つけたユイが座っていた椅子から飛び降りて駆け寄ると、真っ先にアスナの腕の中に飛び込んだ。
アスナもそんな愛らしい愛娘をギュッと抱きしめている横でキリトはリーファの所に歩み寄っている。
「よ、ユイの面倒見てもらってサンキューな」
「ううん、ユイちゃん凄く良い子にしてたから。ホント、お兄ちゃんに似なくて良かったよねぇ」
「うっ……ユイはアスナに似たんだよ」
とは言え、アスナに言わせればユイがキリトに似てきたと思える点が多々あるらしいのだが。
「そういえば今日はクエストに行くの?」
「う~ん……何か目ぼしいクエストがあれば行くけどなぁ」
「まぁ、そうだよねぇ。あたしの方でも調べたけど、最近はクエストもそんなに良いの出てないみたい」
アスナから離れたユイがキリトの背中をよじ登り、その間にアスナが紅茶を淹れにキッチンへと向かった。
キリトもよじ登る愛娘を支えて自然とおんぶすると、ユイが満面の笑みを浮かべるのでリーファが微笑ましげにしている。
「そういえばお兄ちゃん、ナツ君は元気?」
「……元気、だとは思うけど」
「そっか……やっぱ、専用機を失ったのがショックなのかな? あたしはISとか興味無いからよく分かんないけど」
「ISを失うこと自体はそんなに大したことじゃないんだ……俺もナツも、ユリコやアスナもISに一生関わるわけじゃないからな。でも、今の時期に戦う力を失うのは、不味い」
勿論、戦力という意味ではまだまだIS学園には強力なメンバーが残っているが、キリトが懸念しているのは、いざと言うときに敵を殺せる人間が減る事だ。
キリトとて、殺す事が無い方が勿論良いと思うが、戦いというものは時としてそんな甘い考えが通用しない事を理解している。
そして、もし殺さなければならない状況になった時、それを実行出来るのはナツを除けば4人だけ。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「真面目な話をしてるのは良いんだけどさ……ユイちゃんの頭撫でながらだと締まらないよ?」
「……あ」
キリトにおぶさったまま頬を摺り寄せるユイの頭を撫でていたキリトは、先ほどからずっとそのまま話をしていた事に気づいた。
とはいえ、気づいても撫でるのを止めない辺り、キリトの親馬鹿っぷりも相当なものだが。
「さてと、それじゃあたしはそろそろ行くね」
「ん? 用事があったのか?」
「いや、用事って程じゃないんだけどねぇ。サクヤに会いに行こうと思って」
「そっか、サクヤさんによろしくな」
「うん、それじゃアスナさん、あたし行きますねー!」
「は~い! 今日はユイちゃんの面倒見てくれてありがとうね、リーファちゃん」
リーファが出て行って直ぐ、アスナが紅茶を淹れて戻ってきた。
椅子に座ったキリトは隣の椅子にユイを座らせて目の前に差し出された紅茶を一口飲むと窓の外に見える空を……その向こうに浮かぶ浮遊城を見つめる。
「パパ?」
「キリト君?」
「あ、いや……今度の12月には21層から30層まで開放のアップデートがあるなって思ってさ」
「あ……そっか」
「またあの家でパパとママと暮らせますね!」
そう、現在新生アインクラッドでは20層までが開放されており、既に20層のフロアボスがクリアされている。
次のアップデートで21層から開放されて、22層まで上がれば……あの森のログハウスに、もう一度暮らせるようになるのだ。
あのログハウスを購入する為の資金は既に集まっている。家具も、それからベッドも親子三人で眠れるような物を買ってあるから、後は開放されて21層フロアボスをクリアするだけ。
「でも、アップデートまでに俺達にはまだまだやるべき事がある」
「今度のタッグマッチトーナメントに、その後の体育祭、それから修学旅行よね?」
「そのどれでも、もしかしたら襲撃があるかもしれない。向こうに
キリトは、須郷にとって憎悪の対象であり、殺したいほど憎まれている。アスナもまた須郷にとっては執着の対象になっているのだ。
「でも、わたしとキリト君なら、きっと……」
「アスナ?」
「大丈夫だよ。わたしとキリト君、それにユイちゃんが揃っていれば乗り越えられないものなんて無い。今までだって乗り越えて来たじゃない?」
「そうです! パパはわたしが消え行くのを救ってくれましたし、ママの事だって助け出しました!」
「アスナ……ユイ……」
いつだって、どんな時だって、キリトとアスナ、ユイの親子三人が揃っていれば、どんな苦難だろうと乗り越えられる。
キリトもアスナも予想している、今度のタッグマッチでも来るであろう襲撃だって、ナツが居ない状況でも、きっと乗り越えていけると、信じているのだ。
「だからキリト君、あのログハウスを目標に頑張ろう? リアルでも、こっちでも」
「……ああ、そうだな」
窓から差し込む光に照らされて、寄り添う親子三人の影が、すっと伸びている。
また、あの森の家で穏やかな日常を送る日々を夢見ながら、ついに専用機持ち限定タッグマッチトーナメント当日を迎えるのだった。
~合宿中のシャルちゃん~
教官「いいか! 今の貴様らの恋人はその手の銃だけだ! その銃を彼氏のモノだと思って愛○してやれ!!」
候補生A「フフフ……とっても綺麗だよトーマス」
候補生B「素敵なフォルムね、ジェームズ」
候補生C「黒光りするまでピカピカにしてあげるわよ、嬉しいかしら……トム」
候補生D「貴方の為なら死ねるわ、スティーブン」
シャルロット「あは、あはははは……アハハハハハ、一生離さないよ、ドミニク」