SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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キャノンボールファスト編突入です。


キャノンボール・ファスト編
第七十九話 「高速機動は大変」


SAO帰還者のIS

 

第七十九話

「高速機動は大変」

 

 学園祭騒動による多少の混乱も落ち着いた頃、IS学園では既に次のイベントに向けた動きが始まっていた。

 学年別対抗キャノンボール・ファスト。ISの国際大会であるモンド・グロッソにおいて高速機動部門で行われている競技がこのキャノンボール・ファストというもので、簡単に言えばISを使ったレースだ。

 しかし、ISを使う以上、ただのレースではなく、障害物を避けながら対戦相手の妨害も行いつつゴールを目指す高速機動戦闘を前提としたレースでもある。

 現在、キャノンボール・ファストに向けて、全学年のIS実習にてその為の特別授業が行われており、一夏や和人達1年1組と2組の合同授業でもそれは同じだった。

 

「本日より、キャノンボール・ファストへ向けた実習訓練が始まる。この第6アリーナは大会当日のレースフィールドになる場所であり、現在アリーナの設定はそのまま大会仕様になっているから、まずは代表して2名にコースを飛んでもらおうか……オルコット、織斑!」

「「はい!」」

 

 千冬に呼ばれて前に出たのは、高機動強襲用パッケージ「ストライク・ガンナー」を装備する事で高速機動戦闘を可能とするブルー・ティアーズ・アンダインを専用機とするセシリア・オルコットと、全身の展開装甲を起動する事で超高速機動戦闘を可能にする白式・聖月を専用機とする織斑一夏の二人だ。

 両者共に専用機が二次移行(セカンドシフト)しているので、注目する生徒達の視線は大いに期待に溢れている。

 

「華麗に、そして優艶に舞い踊り、舞台の華となりましょう……ブルー・ティアーズ・アンダイン!!」

「飛ぶぜ、何処まで共にな……白式・聖月!!」

 

 ガントレットとイヤーカフスが輝き、白と青の光が二人を包み込むと、両者ほぼ同じタイムでISを起動した。

 

「ふむ……態々口上を口にするのはどうかと思うが、まぁいい。一先ず二人にはコースを1週して来てもらおうか」

「妨害は必要でしょうか?」

「いや、今回は飛ぶだけで良い。まぁ、高速機動の何たるかを見せてくれればそれで十分だ」

「よっしゃ、なら俺の得意分野だな。セシリア、負けないぜ?」

「ええ、わたくしも負けませんわよ?」

 

 ISを起動した二人は超高感度ハイパーセンサーを起動させて飛行準備を整えた。後はもう飛び出すだけになっている。

 

「一夏さんは超高感度ハイパーセンサーのご使用経験は?」

「一応、レクト社に言われてテストした事はあるけど……正直言って嫌いだな。別にこんなの無くても高速機動戦闘は出来るしさ」

 

 基本的にIS操縦者というのは高速機動戦闘において超高感度ハイパーセンサーを用いるのが常識だ。

 だが、ALOで高速機動飛行戦闘に慣れている一夏や和人、明日奈、百合子の4人は超高感度ハイパーセンサーを邪魔になると言って嫌い、使わずとも高速機動戦闘を行う事が出来るのだ。

 

「周囲がスローになって見えるってのがホント邪魔なんだよなぁ」

「一夏さん達くらいですわ、そんな事を仰るのは」

 

 千冬ですら高速機動戦闘を行う時は超高感度ハイパーセンサーを用いるというのに、どうしてこうもSAO生還者という人種は出鱈目が多いのかと、セシリアは小一時間問い詰めたいくらいだ。

 

「無駄話はそれくらいにしておけ。準備は良いな?」

「いつでも」

「どうぞ」

「うむ、では……スタート!!」

 

 合図と共に、二人は小規模なソニックブームを発生させながら一気に飛び出し、コースへと突っ込んでいった。

 ブルー・ティアーズ・アンダインは全てのBT兵器「アンディーン」及び「ディープブルー」をスカート上のスラスターにして、全てを点火させる事で超高速機動を実現、速度で言えば第3世代型IS最速と謳われるイタリアのテンペスタⅡシリーズすら上回る。

 一方の一夏が乗る白式・聖月は飛び出した瞬間から全身の展開装甲を開き、青白いエネルギーをスラスターとして放出しながら全てのブースターを駆使して超高速機動に乗った。その速度はブルー・ティアーズ・アンダインをも上回り、事実上の世界最速の名を体言している。

 

「くっ! やはり展開装甲というのは厄介ですわね!! 二次移行(セカンドシフト)して更に速度が上がった筈のティアーズですら、追いつけないなんて反則もいいところですわ!」

「エネルギー馬鹿食いするけどな!!」

 

 折り返し地点まで来て既に白式のエネルギー残量は半分を切っている。白式自体のエネルギー効率は調整して随分と改善しているが、まだまだ展開装甲のエネルギー効率が悪いという欠点は完全に拭えていないらしい。

 

「なら、エネルギー切れること前提にラストスパート行くぜ白式!!」

 

 折り返しのカーブを曲がり切った所で、個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)を研究して開発した応用技術を使った。

 通常の個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)は一発目と二発目、三発目と、それぞれの間に数秒の空きがある。

 だが、一夏が開発したのはその空きを極力無くしつつ個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)の体を保つというもので、それぞれの間の空き時間というのがコンマ1秒以下という、反動だけでG制御機構を抜けて操縦者に暴力的なGが襲い掛かる荒業だ。

 ほぼ一瞬と呼べる間に連続して全てのブースターを用いて行われた|個別連続瞬時超加速《リボルバーイグニッションブーストマキシマム》は、一夏の身体に相当なGによる圧力を与えながらも、白式を一気にゴールまで運び、完全にセシリアを引き離してしまった。

 

「やりすぎだ馬鹿者!」

「あいたー!」

 

 戻ってきたところで千冬の出席簿が一夏の頭に直撃した。しかも、シールドバリアーや皮膜バリア、絶対防御全てを貫いてきたのが驚きだ。

 

「ちふ……織斑先生の出席簿は、零落白夜でも搭載してるんですか」

「そんなわけあるか馬鹿者が」

 

 生身の力だけでISのシールドと絶対防御を貫けて来るなど、本当に我が姉は人間なのかと、疑いたくもなるが、そんな事をした日には明日の朝日を拝めなくなってしまうので断念し、ようやくゴールしてきたセシリアにVサインをする。

 

「はぁ、一夏さんの機動は流石と申しましょうか、それとも無茶苦茶だと申しましょうか……伊達にALOで高速戦闘の貴公子と呼ばれてませんわね」

「おいやめろ、その名前をリアルで出すな」

 

 ブラッキー先生ことキリト、バーサクヒーラーことアスナ、串刺し女公のユリコ、高速戦闘の貴公子ナツ、ALOではそれぞれそう呼ばれているのだ。

 

「まぁ、とりあえず今二人が見せたのが高速機動の見本だ……織斑は例外にしてもオルコットのは見習うように」

『は~い!』

「酷くね?」

「自業自得ですわ」

 

 少なくとも、一夏レベルの超加速を使いこなせるのは、数える程しか居ないし、そもそも真似しようと思う人間は居ないだろう。

 

「わたくし思ったのですけど、白式の加速力はリーファさんとも相性が良さそうですわね」

「あ~、アイツも相当なスピードホリックだしなぁ」

 

 和人の妹の桐ヶ谷直葉、ALOでリーファと呼ばれる少女は、高速戦闘を得意とし、ALO内でもトップクラスのスピードの持ち主だ。確かに彼女なら白式を乗りこなせるだろう。

 いや、むしろ彼女の方が一夏より乗りこなせるかもしれない。何故なら高速飛行という点では一夏より直葉の方に一日の長があるのだから。

 

「ま、普通高校に進学したアイツがISに乗る機会は無いし、そんなの置いとこうぜ」

「ですわね。しかし、白式の残りシールドエネルギー……もう少しエネルギー消費効率を考えてみては如何です?」

「……うん」

 

 

 授業の後半は専用機持ちのキャノンボールファストに向けた調整に使われ、一般生徒達はその調整の手伝いや調整の見学をしながら一人コース一周だけ使える訓練機の順番待ちをする事になった。

 各々の専用機の調整には二つのパターンでグループ分けされる。一つは高速機動用パッケージを搭載、調整するパッケージ使用組み。これに属するのはセシリア、鈴音、百合子、和人、明日奈だ。

 もう一つはパッケージではなくスラスターやブースター、エネルギー効率の調整などを行うパッケージ非使用組み。こちらは一夏と箒の第4世代型IS使用の二人のみだ。

 

「和人さん達にもパッケージがあったのだな」

「ん? ああ、レクトで開発した新型高機動パッケージがあるんだよ。本当は白式用にもあったんだけど、二次移行(セカンドシフト)したら装備出来なくなったんだ」

「ああ、全身展開装甲になったからか」

「そういう事……つっても、この展開装甲がなぁ」

 

 展開装甲はエネルギーを馬鹿食いするのだ。折角調整して白式本来のエネルギー効率の悪さを改善したのに、展開装甲がエネルギーを馬鹿食いしては元の木阿弥である。

 

「紅椿はまだ封印が解除されてないから展開装甲が使えないのでわからんが……そんなにエネルギーを食うのか?」

「ああ、だからお前も封印が解けた後、展開装甲使えるようになったら絶対にエネルギー関係の調整はしとけよ……正直言って洒落にならねぇ」

「う、うむ」

 

 そんな話をしながら、一夏の手は白式に繋がれたコードの先、つまり手元のキーボードを打ち続けていた。

 一夏の目の前にある空間投影ディスプレイには白式のOSやら設定データやらが展開されており、一夏がキーボードを打つ度に少しずつ調整されていっている。

 

「ん~……一先ず調整はこれで大丈夫だろうけど、後はキャノンボールファストに向けた特別な設定となると……いっそキャノンボールファストの間はソードスキル封印して、そっちのエネルギーを推進系に回すか? いや、でもそれだと……」

 

 ふと、一夏が武装一覧の画面を展開すると、その一覧に書かれている武装の名前を順に見ていき、何かを思いついたように顔を上げる。

 

「うん、いっそこうしてしまえば……」

 

 素早く設定を変えてソードスキルと単一使用能力(ワンオフアビリティー)を封印して、その分のエネルギーを推進系へ回すようにした。

 

「よっしゃ設定完了! 箒、俺ちょっと飛んでくるわ」

「あ、ああ……後で私の設定も見てくれ」

「おう! んじゃなー!」

 

 そう言い残して白式に乗り込んだ一夏が飛んでいくのを見送り、箒は目の前にある紅椿とコードで繋いだキーボード、それから空間投影ディスプレイに映った設定画面を見つめる。

 

「……どうしよう、設定のやり方がわからない(涙)」

 

 一夏に教えて欲しいと言おうとして、そのあまりに真剣な表情に言い出せず、手元を見てやり方を盗もうと思うも早すぎて理解不能になり、結局は頼みの綱だった一夏が飛んで行ってしまって涙目になる箒が残されてしまった。

 篠ノ之箒、座学におけるISの電子情報理論の授業は……赤点ギリギリなのだ。




次回は、シャルロットの日本代表候補生試験についてのお話かな。

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