SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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仕事、出張になるかも……。


第七十五話 「白の剣が断ち斬るは蜘蛛の糸」

SAO帰還者のIS

 

第七十五話

「白の剣が断ち斬るは蜘蛛の糸」

 

 講堂下の薄暗い地下更衣室では白式・聖月を纏った一夏と、アラクネを纏ったオータムが対峙していた。

 トワイライトフィニッシャーを片手に構えた一夏はカタールを両腕とアラクネの装甲脚でもある8本の腕に握るオータムの実力を凡そだが計っている。

 IS操縦技術こそ不明だが、近接戦闘技能は間違いなく自分の方が上で、オータム自身に目立った技術が無いのは構えからして判るものだ。

 一言で言えば戦場で鍛え上げた剣、武術といった技術を鍛え上げた剣ではなく、戦場で我武者羅に剣を振るい続けて身に付いた剣といったところか。

 

「なんだ、腕が10本もあるってのに、随分と冷静だな」

「たかが10本腕がある程度で今更驚いたりしないさ……アインクラッドでは6本腕の敵とだって戦ったんだからな」

「はっ! これだから現実とゲームをごっちゃにするガキは駄目なんだよ! 言っとくがな、オレはテメェが今まで相手してきた奴とは訳が違う。ゲームと現実をごっちゃに考えているようじゃ、勝てる相手じゃねぇってことをその身に刻みな!!」

 

 アラクネの腕が、その手に握られたカタールの刃が迫る。

 だが、一夏は冷静にそれを見つめると、1撃目と2撃目を避けて不意にトワイライトフィニッシャーの刃を一閃、二閃。

 3撃目と4撃目を弾くと、そのまま弾いた勢いで構えを強引に作り出してトワイライトフィニッシャーにライトエフェクトを纏わせた。

 

「はぁあああああああ!!!!」

「な、にぃっ!?」

 

 発動したソードスキルは、6連撃のカウンター系ソードスキル、カーネージ・アライアンスだった。

 迫りくる刃一本一本に対してカウンターの如くトワイライトフィニッシャーの刃をぶつけ、逆にカタールを破壊してしまう。

 オータムの手に残ったカタールは最初の避けた二本と、弾いた二本の計四本のみになってしまい、他の6本は根元から刃が叩き折られてしまって使い物にならなくなってしまった。

 

「チィッ!」

 

 だが、オータムとてプロだ。直ぐに折れたカタール全てを投げ捨てて武器を失った六本の腕と、無事だったカタールを収納した二本の腕を装甲脚として機能させ、そこに装備されていたエネルギー砲の砲門を開くと、その砲口を一夏へ向ける。

 それを察知した一夏は一旦オータムから距離を取り、狭い更衣室内を動き回りロッカーを壊しながら盾とした。

 

「甘ぇ!!」

 

 オータムは壊れたロッカーが道を塞ぐのを構わず、寧ろ自分からロッカーに体当たりする勢いで動き、ロッカーを弾き飛ばしながら一夏を追いかけた。

 邪魔なロッカーを二本のカタールで斬り飛ばし、逃げ回る一夏目掛けて八本の装甲脚から放たれるエネルギー砲で狙い撃ちして追い詰めているのだが、エネルギー砲は中々当たらず、寧ろ障害物を増やしてしまってイライラしてくる。

 

「テメェ! 逃げてばかりかよ!! 所詮はゲーマーなんざその程度ってかぁ!?」

「そうだな、いつまでも逃げていたって仕方が無い……なら、さっさと決めさせてもらうか!!」

 

 そう言うと、一夏は狭いからと使わずにいた全身の展開装甲を全てオープン、青い余剰エネルギーを放出しながら散らばるロッカーを物ともせず更に加速した。

 あまりの加速によって、一夏の身体に衝突したロッカーは天井高くまで舞い上げられ、オータムの視界の向こうに居る一夏をエネルギー砲で狙い撃とうにも落下するロッカーが邪魔で撃てなくなる。

 しかし、一夏の狙いはロッカーを盾にする事ではなく、ただオータムの視界を悪くして攻撃の手を休める事だったのだ。

 

「うぉおおおおおああああああああああっ!!!」

 

 オータムの視界の向こう、落下する沢山のロッカーの向こうで、一夏がトワイライトフィニッシャーを突刺の構えにしたままライトエフェクトによって輝かせていた。

 紅い光芒と共に一夏の咆哮とジェットエンジンの如き爆音が響き渡り、オータムの耳が狭い空間に響き渡った大音量で一時的に使い物にならなくなる。

 次の瞬間、一夏は青い余剰エネルギーの光の残像と共に瞬時加速(イグニッションブースト)を併用したヴォーパルストライクを使用して跳ね上げて落下してくるロッカーをぶち抜きながらオータムへと一気に突進してきて、そのまま胴体へトワイライトフィニッシャーの切っ先を叩き込んだ。

 

「グッ!? あああああああああああ!?」

 

 馬鹿みたいな速度で突進してきた重量物が剣の切っ先という狭いポイントへその全ての力を注ぎ込むというのは相当なもので、直撃したオータムはまるで剣が本当に胴体を貫いたのではないかと思う程の衝撃と激痛にのた打ち回る。

 実際は装甲こそ貫いているものの、絶対防御のお陰で装甲の下の生身には一切の傷は無いのだが、それでも痛覚自体は存在する訳で、オータムはその激痛により反撃すら忘れてしまった。

 

「たかがゲームと侮るからそうなるんだ……こっちは剣一本で2年間生き抜いてきたんだ。お前みたいな男を見下して、男が自分より強いわけがないと思っているような奴に、負けるつもりはない」

 

 一夏の言葉は、正しかった。

 これまでオータムは女尊男卑の考えに染まっていて、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)ですら素人にしてはそれなりだが、所詮は男で、しかもゲーム如きで2年間眠っていた落伍者なのだから、確実に自分より下だと見下していたのだ。

 だが、実際のところ、彼女の上司であるスコールから見ればオータムよりもPohとザザの方が強いと判断しているし、ジョニー・ブラックはオータムと同等だろうと見ている。

 

「クソッ! クソッ!! クソがっ!! ふざけんなよ糞ガキィ!!」

 

 ようやく痛みが引いたのか、オータムは憎悪に染まった目で一夏をにらみ付けながら、振り返り様に蜘蛛の糸のような粘着性のある網らしき武装を放ってきた。

 だが、その蜘蛛の糸は一夏の右手に握られたトワイライトフィニッシャーと、左手に瞬間切替(ラピッド・スイッチ)の要領で展開された刀身から鍔元、柄まで全てが真っ白な片手用直剣によって断ち斬られてしまう。

 

「何っ!? 織斑一夏が二刀流を使うなんざ聞いてねぇぞ!!」

「ああ、それは間違いないぜ。俺は二刀流をソードスキルとしては使えない……が、別に剣2本使う程度なら二刀流ソードスキル使えなくても問題無いだろ?」

 

 一夏が左手に展開した剣は、先日レクト社に注文して作ってもらった剣で、新生ALOで使用している工匠リズベット作、純白の片手用直剣ブレイブハートだ。

 その形状はダークリパルサーに似ているものの、鍔元の所はトワイライトフィニッシャーに似ていて、まるでダークリパルサーとトワイライトフィニッシャーのデータが混濁して生まれたような剣だと、仲間内で笑っていたものだったりする。

 

「とは言っても、俺はキリトさんや箒みたいに器用じゃないから、長々と二刀を使うのには向いてないんだがな」

「チィッ!」

「あ、それと……」

「今度は何だ!」

「後ろ、気を付けた方が良いぜ? 何せ、とっても強いお姉さんが素敵な笑顔を浮かべてるから」

「は……?」

 

 いったい何を言っているのかと怪訝そうな表情をしたオータムが後ろを振り向くと、そこには水色の髪の美少女が扇子を片手に水色の装甲と水のヴェールが美しいISを身に纏って笑みを浮かべていた。

 

「はぁい♪」

「なっ!? ガッ!?!?」

 

 オータムの後ろに立っていた人物……更識楯無が、その手に持っていた蒼流旋の強烈な突刺がオータムの喉元に突き刺さった。

 勿論、絶対防御が発動しているので実際には刺さっておらず、皮膚の手前でシールドによって防がれているものの、喉への衝撃はそのまま直撃している。更に、蒼流旋から放たれたガトリングの弾丸が顔面を直撃し、同じく絶対防御によって無傷で済んでいるものの、至近距離でガトリングの弾丸が顔面に連射で直撃する衝撃にオータムの意識が飛びそうになってしまう。

 

「一夏君! 今よ!!」

「せぇああああっ!!」

 

 楯無が蒼流旋でオータムの両手のカタールを弾き飛ばして手放させた所で一夏がブレイブハートで装甲脚二本を切断、同時にトワイライトフィニッシャーで発動したソードスキル、シャープネイルで三本を破壊、残る三本は楯無が潰した。

 

「クッ……チクショウ!!」

「残念ね亡国機業(ファントム・タスク)さん、先入観で相手の力量を決め付けている内は、まだまだ3流よ?」

「クソッタレが! この貸しはデケェぞ! 覚えてやがれ!!」

 

 そう叫んだオータムがアラクネのコアだけを持って身体が飛び出した。乗り手とコアを失ったアラクネ本体は膨大なエネルギーが内部で膨れ上がり、今まさに自爆しようとしている。

 

「一夏君は彼女を! 私は自爆の被害が起きないように水で抑え込むわ!!」

「はい!!」

 

 楯無がアクアヴェールの水を使ってアラクネ本体を包み込むのと同時に、逃げ出したオータムを追って一夏は更衣室を出た。

 どちらに逃げたのかと探してみれば、視界の先にオータムの後姿があり、黒服の男達と共に逃亡しようとしている様子がハイパーセンサーで察知出来る。

 

「逃がすか!!」

 

 追いかけようとした一夏だったが、スラスターを吹かそうとした瞬間、ハイパーセンサーが新手の敵を察知した為、その場から立ち退くと、マシンガンらしき銃弾が一夏の居た場所を抉る。

 

「お前は……」

「織斑、一夏……貴方を、殺します」

 

 目の前に現れたのはイタリア製の第2世代型量産ISテンペスタに乗る幼女、以前一夏と百合子の前に現れて銃口を向けてきたKだった。

 

「K、だったか?」

「……問答をするつもりは、ありません」

「お前には、聞きたい事があったからな……悪いけど、幼子だろうと気絶してもらうが、文句言うなよ!」

 

 ブレイブハートを格納して、代わりにリベレイターⅡを展開。残りのシールドエネルギーを考えて全身の展開装甲をスラスター以外全てOFFにしてトワイライトフィニッシャーを構えた。

 

「白式……一撃だけだ。一撃だけ、アレを使う」

単一使用能力(ワンオフアビリティー):神聖剣、発動】

 

 白式と、一夏が黄金の光に包まれ、トワイライトフィニッシャーの刀身が真紅のライトエフェクトを纏った。

 同時に、Kの両手にあるマシンガンが火を噴き、無数の弾丸が一夏に迫るも、リベレイターⅡで受け止めながらバックステップで一度後ろに下がり、そのままリベレイターⅡを前面に押し出したまま一気に突進する。

 

「せぁああああああっ!!!」

「なっ!?」

 

 突進したまま、リベレイターⅡの影から突き出された強烈な突刺がKの胸に直撃する。

 神聖剣のソードスキル、ユニコーン・チャージは神聖剣の基本スキルではあるが、ユニークスキルである以上、その一撃は並のソードスキルの基本の比ではない。

 

「う、ぐぅううううう!?」

「眠れ……」

 

 リベレイターⅡを投げ捨てながら至近距離まで詰め寄った一夏は、Kの鳩尾に一発、拳を入れてKを気絶させる。

 オータムにはこれで逃げられてしまったが、一先ずはこのKという少女だけでも確保出来たので、これで楯無に納得してもらう事にしようと、楯無への引渡しを考えた一夏だった。

 しかし、テンペスタを解除して一夏の腕の中で眠るKのあどけない寝顔を見た時、ふと胸の内によく分からない感情が芽生えた気がしたのだが、それに一夏が気づくには、もう少しだけ時間が必要だった。

 

「……んぅ、パ……パ……」




あとがきの次回予告風、思い浮かばなくなりました。
なので、暫く次回予告はおやすみします。

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