SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせしました。
いやぁ、PCで動画が見れなくなったという危機を乗り越え、やっと投稿できました。


第六十二話 「深海の戦い」

SAO帰還者のIS

 

第六十二話

「深海の戦い」

 

 トゥーレ島のビーチから飛び立って暫く飛んでいると、目的の海域まで来たので全員その場で停止し、キリトが現在位置と目標海域の地図を照らし合わせていた。

 

「座標はこの辺りのはずだよな……ナツ、クライン、何か見えるか?」

「いえ、俺の方には何も」

「ん? お! あれじゃねぇの?」

 

 クラインが指差した先には海面が不自然に光っている箇所があった。

 何も無い海の海面が太陽光とは全く違う輝きを放っているという事は、そこには何かがあるということで、この海域にあるものといえばクエストのポイント以外あり得ない。

 

「じゃあ、ウォーターブレッシングの魔法を掛けるね。カンザシちゃんはそっちのチームにお願い」

「はい」

 

 潜るべきポイントを確認したので、各チームの水精霊族(ウンディーネ)であるアスナとカンザシがそれぞれのチーム全員に潜水用魔法ウォーターブレッシングの魔法を掛けるため、詠唱を始める。

 

「「オース ナーザ フョール フィスク バラム スバール バトン!」」

 

 ウォーターブレッシングによるバフ効果が全員に付加されたのを確認し、キリトとナツはそれぞれのチームへ目配せをすると、一気に光る海面へ突入を開始した。

 海に飛び込んで海底まで潜水して行くと、キリト達の視界に入ってきたのは、遺跡と思しき古びた建造物で、その入り口らしき場所には一人の人影が見える。

 

「ん?あれはクエストNPCみたいだな」

「海で困ってる人とくりゃあ人魚って相場が決まってらぁ! マーメイドのお嬢さ~ん!!」

 

 エギルの言葉で真っ先に反応し、無用心にもクラインが一人突っ走ってNPCの下へと泳いで行き、他の皆も呆れ顔になりながらそれに続いた。

 どの道、あのNPCがクエストNPCに違いないと予想していたので、傍まで行かなければクエストが始まらないのだ。

 

「何かお困りですか? お嬢、さ……ん~!?」

 

 果たしてそこに居たNPCはクラインの期待していたマーメイドのお嬢さんではなく……。

 

「お嬢さんではなくお爺さんでしたね」

「きゅ~」

 

 ユイの言う通り、そこに居たのは白いローブを纏った白髪白髭の老人、いわゆるお爺さんだったのだ。

 クラインは現実逃避を始めたのか石化してしまい、キリトはそれを華麗にスルーしながら老人の前に立つと話しかける。

 

「どうされましたか? 御老人」

 

 キリトが話しかけた事でクエストフラグが立ち上がった。キリトの前にクエスト開始のメッセージウインドウが開かれる。

 深海の略奪者、それが今回チャレンジするクエストの名前らしい。そのウインドウの「○」をタップすると、クエスト受注が完了し、無言だった老人がようやく口を開いた。

 

「おお、地上の妖精達よ。この老い耄れを助けてくれるのかい?」

 

 ようやく全員が合流した所でNPCの名前を見たリーファとカンザシの二人が何か引っかかったのか、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「どうしたの? リーファちゃん、カンザシちゃん」

「あ、いえ……」

「ちょっと、あのお爺さんの名前、何処かで見た事があるなって」

 

 カンザシの言う老人の名前とは、NPCの頭上に出ている「Nerakk」という文字の事だろう。確かに妙な名前だとは思う。

 名前にしても読み方がイマイチわからない。ネラク、と読めば良いのかもしれないが、スペル的にはそんな読み方はしない。いや、そもそもあれではスペルとして成立していないのだ。

 

「実は、古い友人への土産物を、この神殿に居る盗賊共に奪われてしまってのぉ」

 

 その土産を奪い返してきて欲しいというのが、今回のクエスト内容だった。キリトがそれにYESで答えると、フラグが完全に成立してクエストが正式にスタートとなった。

 因みに老人が言うには土産とは相当な大きさの真珠らしい。

 

「よし、じゃあまず確認な。クエストは探し物系クエストだけど、神殿の中には当然だけどモンスターも出てくる筈だ。前衛は水中だと武器の振りが遅くなるから気をつけてくれ」

「後衛は雷系魔法は使用禁止、水や氷系、それに炎系魔法は効果が無いだろうから、基本的に風や土、聖、闇属性の魔法を使うように。それからツバキは前衛って事になるけど、まだ不慣れでスキル熟練度もそんなに高くはないから、必ず誰かと一緒に攻撃をする事」

「わ、わかった」

「俺たちのパーティーの後衛はカンザシとラファールの二人で頼む」

「こっちはアスナとリーファだ」

 

 陣形と役割も決まった所で早速出発となった。

 神殿の入り口から中に入り、一番前をキリト、クライン、ナツの二人が歩き、一番後ろにはアスナ、リーファ、カンザシ、ラファールの四人が着いて行く形になる。

 

「おい、キリトよ……」

 

 しばらく歩いていると、クラインが声を潜めながらキリトに話しかけてくる。

 

「リーファちゃん、水中戦闘苦手なんだろ? もうちょい気ぃ使ってやらなくて良いのか? ただでさえ、おめぇは普段IS学園に居るから中々会えないんだろ?」

「そうは言ってもな……俺とリーファ、それにナツとユリコのパーティーの時はともかく、こうして仲間内全員でレイドパーティー組んでると、接し方に迷うんだよなぁ」

「でもキリトさん、自然体で良いと思いますよ? 兄なんだし、もう少し妹の面倒を見ても……」

「でもな、最初にリーファとして出会った時はアイツが妹だなんてっ!?」

「「っ!?」」

 

 突如、三人の足元が無くなり、渦巻く穴の中に落ちていく。

 

「「「ううわあああああ!?」」」

 

 必死に泳ぎながら上へ登り、何とか淵に辿り着くと呆れ顔のエギルが三人を見下ろしていた。

 

「見えてる落とし穴に落ちる奴があるか……たっく」

 

 エギルが三人を引き上げているのを後ろで見ていた一同は、元アインクラッド攻略組トッププレイヤーにあるまじき失態に全員呆れ顔だった。

 特にアスナ、ユリコ、リーファの三名は笑みこそ浮かべていても、その口元は思いっきり引きつっている。

 

「もう、不注意だよナツ」

「足元注意だ、戦士なら油断は禁物だぞ」

「これが元攻略組トッププレイヤーとはねぇ」

「ナツの幼馴染として、アタシは恥ずかしいわ……」

 

 ラファール、ハーゼ、リズベット、スズの言葉がグサッと胸に突き刺さる。

 

「っ! パパ!! 後ろです!!」

 

 突如、ユイの声が響き渡り、その言葉通りに三人の後ろで落とし穴の底から光と共に何かが出てきた。

 その大きさは巨大と言えるほどの大きさではないが、人と大して変わらないサイズのシーラカンス型モンスターだ。

 

「戦闘用意!!」

 

 全員一斉に武器を手に取り、始めにキリト、クライン、ナツが斬り掛かる。

 シーラカンスは素早い動きでキリトに突っ込んで来たので、キリトは剣で迎え撃ったが、頭が意外に硬かったためか、ダメージは通らず、軌道を逸らすので精一杯だ。

 

「頭はダメージが通らない! 俺がタゲを取るから、皆は側面から攻撃してくれ!!」

「よっしゃああ!」

「任せろっ!」

「せぇああああ!!!」

 

 キリトがシーラカンスの頭を剣で受け止めている間にナツ、クライン、エギルが側面から斬り掛かり、リズ、シリカ、ハーゼ、ユリコ、ツバキも動き出した。

 

「あ、あたしも! って、う、うわぁっ!?」

 

 後衛ではあったが、前衛に加わった方が良いかと思ったリーファが剣を抜きながら走り出そうとしたものの、一歩踏み出しただけで水中の浮力に足を取られて上手く動けなかった。

 

「リーファ! アスナ達と一緒に、魔法で援護頼む!!」

 

 シーラカンスの頭を受け止めながらキリトがリーファに指示を出し、受けたリーファは剣から手を離して後衛のアスナ達と目を合わせると、一つ頷く。

 アスナ、リーファ、カンザシ、ラファール、シルフとウンディーネ二人ずつの援護魔法によってパーティーメンバー全員に攻撃力と防御力強化のバフを掛けた。

 

「サンキューみんな! ええいっ!!」

「はぁっ!」

「行くぞユリコ! ツバキ! スズ!」

「うん」

「ああ!」

「任せなさい!!」

 

 リズベット、シリカが斬り掛かったのと同時に、ハーゼ、ユリコ、ツバキ、スズもそれに続く。

 更に追撃でクライン、エギル、ナツもどんどん攻撃を加えて行き、シーラカンスのHPはイエローゾーンからもう少しでレッドゾーンへと突入しようとしていた。

 

「っ! (何やってるの? あたし……皆と、お兄ちゃんと……何処までも一緒に行くって決めたのに!!)」

 

 前衛で戦っている皆を見ていて、リーファは前に決めた事を思い出し、こんな所で後衛に甘んじて兄と共に剣を振れない自分を恥じた。

 だからこそ、リーファはもう一度剣へと手を伸ばし、抜き放ちながら今度こそ浮力に足が取られないように走り出す。

 

「リーファちゃん!?」

「大丈夫です! 今度こそ!!」

 

 アスナの制止を振り切って、リーファは剣を上段に構え飛び上がると、シーラカンスへ一気に振り下ろそうとした。

 しかし、HPが丁度レッドゾーンに入ったシーラカンスは今までとは全く違う動きを見せてしまった事でリーファにピンチが訪れる。

 受け止めていたキリトを振り切ったシーラカンスは落とし穴の真上へ移動すると、そのまま渦を巻くように高速で泳ぎ出し、強烈な渦潮を発生させた。

 全員、剣や槍を床に指して引き込まれないようにしたのだが、丁度飛び上がっていた為に地面から足の離れているリーファはバランスを崩して渦潮に引き込まれてしまう。

 

「う、うわ、うわぁあぁあああああああ!? っ!?」

 

 渦潮の先にあったのは、先ほどキリト達が落ちそうになった落とし穴だ。

 何とか淵を掴んで落下は防げたが、未だ渦潮を作るシーラカンスを何とかしなければ、リーファは落とし穴に落下してしまう。

 

「リーファ!! くそっ……キリトさん! リーファを!!」

「っ! ああ!!」

 

 何とかしようとしていたキリトは、ふと上を向くと、何かを思いついたのか態と剣を床から抜いて飛び上がり、渦潮の中へ突っ込んでいく。

 

「キリトぉ!!」

「キリト君!!」

 

 クラインとアスナの心配する声が聞こえるが、キリトは冷静に渦の流れに身を任せ、体が天井付近へ来た所で思いっきり天井を蹴りつけた。

 

「うぉおおおああああああああ!!!」

 

 目指すは渦の中心に居るシーラカンス、それを目指して剣先を真っ直ぐ向け、一気に突進すると、頭の付け根に剣を深々と突き刺す。

 今の一撃でHPを完全に奪ったのか、シーラカンスがポリゴンの粒子となって消え、同時に渦潮も収まった。

 

「さっすが、キリトさん……」

「……」

 

 キリトの行動を見て、ナツがそう呟いたのを、偶然聞いたツバキが、リーファを引き上げているキリトへ目を向けて、それから先ほどまでの戦闘を思い返していた。

 全員、ただのゲームなのに、どこか真剣で、ユイの為にという共通の目的があるにしても、死んだところで現実に何の影響も出ない戦いを、絶対に死なないようにと戦っている。

 全員が協力し合って、一つの目的の為に共に戦う、それは今までツバキが考えたことも無かった事だ。

 

「独り善がりの戦いじゃ、ない……か」

 

 もしかしたら、このクエストをクリアしたら、何か見えてくるのかもしれない。ナツに出された宿題の答え、そのヒントが……。

 そう考え、ツバキは刀を鞘に納めて歩き出した一行に着いて行った。




深海での戦いは続く。
幾度の困難を乗り越え、宝物を手に入れた戦士達。
だが、それは大いなる存在に仕組まれた罠だと気付いた時、強大な敵が姿を現す。
次回、SAO帰還者のIS。
「大いなる海の支配者」
小さき少女の願いは今、叶う……。

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