SAO帰還者のIS
第六十話
「結婚、シンカーとユリエール」
夏休みに突入したIS学園学生寮、その食堂では現在四人の学生が着慣れない服装に身を包み、仲間達に囲まれていた。
一夏、和人、明日奈、百合子の四人は礼服という冠婚葬祭の中で結婚式用にと用意した服を着ていて、一夏と和人は無難なスーツを、明日奈はピンクのワンピースドレス、百合子は水色のワンピースドレスを着ていて、普段は見られない四人の姿に皆が見惚れている。
「ねぇ一夏、今日って何かあるの?」
「ん? ああ、今日はシンカーさんとユリエールさんの結婚式なんだよ」
「え!? うそ、今日だったの!?」
そう、今日は一夏達SAO生還者組の仲間であり年上の友人でもあるシンカーとユリエール夫妻の結婚式が行われる日なのだ。
招待状を貰い、臨海学校から帰ってきて直ぐに礼服を購入し、今日ようやくそれに袖を通したが、特に問題も無く、寧ろ全員似合い過ぎているほど。
「あ、お姉ちゃん、今日は何時頃に帰るの?」
「う~ん……二次会でダイシー・カフェに行く事になってるから、多分夕飯は向こうでだと思うの。だから遠慮しないで先に夕飯済ませておいてね?」
「そっか」
因みに、最初は全員制服で行こうかとも考えていたのだが、よくよく考えてみればただでさえIS学園の制服は目立つというのに、そこに加えて世界で二人しか居ない男性IS操縦者が、IS学園の制服を着て結婚式に参列しようものなら返ってシンカーとユリエールに迷惑が掛かってしまうと、急遽礼服を用意したのだ。
「そろそろ、時間」
「お、そうだな……じゃあアスナ」
「うん」
「ナツも」
「おう」
朝食を食べ終えた四人はそれぞれ鞄やハンドバックを持って出掛ける準備を整える。
「シンカーさんとユリエールさんの写真、頼んだわよー!」
「二人によろしくね」
「行って、らっしゃい」
「その、気をつけて行ってこい」
「留守は任せろ」
鈴音、シャルロット、簪、箒、ラウラに見送られ、四人は出掛けていった。
残された五人もそれぞれ朝食を食べ終えると、やる事が無くなってしまい、どうしたものかと考えていたのだが。
「あ、その……皆に頼みがあるのだが」
突然、箒がそんな事を言い出した。
「実は、だな……姉さんがアミュスフィアを買ってくれて、その……ALOを今日から始めようと思うのだが」
「箒が? へぇ……」
なんと、あれだけVRMMOを嫌悪していた箒がALOを始めると言うのだ。
いったいどんな心境の変化があったのか、気にはなるが良い傾向だと特に追求するのを止めた鈴音は他のメンバーに目を向ける。
全員、頷いてくれた。
「ならアタシ達でビシバシ指導してあげるわ! 一夏達直伝の指導だから根を上げるんじゃないわよ?」
「よ、よろしく頼む」
こうして、箒はこの日ALOデビューを果たした。
種族には
結婚式の会場は銀座にある式場との事で、四人はIS学園のある島から先ずはモノレールで本土へ渡り、その後は電車を乗り継いで銀座まで来た。
銀座に着いたらそのまま式場へ行くのではなく、待ち合わせをしているので駅前まで行くと既に遼太郎、ギルバート夫妻、里香、珪子、直葉が待っており、どうやら四人は一番最後になってしまったらしい。
「おう! 遅ぇぞキリト! ナツ!」
「しょうがないだろ、IS学園から銀座は結構遠いんだから」
「寧ろこれでも急いだんですよ?」
「急いだのは良いが、おめぇら飯食ったのか?」
「ああ、朝一番でな。それよりエギル、お前ん所、今夜は大丈夫だよな?」
「勿論だ! 今夜は貸切にしとくぜ」
全員揃ったところで式場へ向かって歩き出す。女性陣は女性陣で、男性陣は男性陣で集まって歩き、話に花を咲かせていたが、突然黒鐡から映像が投影された。
それはいつもユイを映していたARウインドウではない。投影されたのはALOにおいてナビゲーションピクシーではなく、本来の姿の時のユイそのままの姿の立体映像だ。
ただ、服装は白いワンピース姿ではなく、明日奈と御揃いでピンクのワンピースドレスを着た姿で、更には父親と同じ黒髪も母親と同じ髪型にしている。
「お、ユイ、チェック終わったのか?」
『はい! 黒鐡、瞬光、共にシステム異常無しでした!』
「お、おお!? ユイちゃんじゃねぇか! 何だ? 今までのARウインドウじゃなくなったのかよ!?」
「ああ、夏休みに入って少し暇が出来たからな。ちょいと弄ってユイの姿を立体映像で実体化出来るようにしたんだ……まぁ、あくまで立体映像だから物に触れるとかは出来ないんだけどな」
その代わり、黒鐡や瞬光の周囲5mまでなら立体映像としていつでも現実世界に姿を現す事も出来るし、ハイパーセンサーを利用しているので視聴覚もリンクしている。
因みにだが、こうやってユイを現実世界に立体映像として出現出来るようになった背景には束の協力もあったが、それは後日語るとしよう。
「因みに、今日のユイちゃんのドレスと髪型は、わたしと御揃いにしてみましたー」
『えへへ、ママと御揃いです!』
「よく似合ってるよユイ、可愛いな~」
『わぁい! パパに褒められちゃいました!』
出来ればちゃんと頭を撫でてあげたいし、歩くのだって手を繋いで歩きたい和人と明日奈だったが、今はまだ技術的に無理だから我慢している。
もっとも、今夜は二次会が終わってALOでの三次会へ突入した際には、それはもう思う存分愛で倒す予定だが。
「ねぇナツ、あの二人……いつもあんな親馬鹿全開なわけ?」
「まぁ、概ね」
「いいな~、アスナさんとユイちゃん……私もキリトさんに可愛いって言って貰いたかったなぁ」
「シリカ、どんまい」
「はぁ、お兄ちゃんったらユイちゃんが可愛いのは分かるけど、もう少しデレデレしないでキリッとしていて欲しいなぁ」
結局、黒と閃光の一家、ミルズ夫妻の仲睦まじい姿に、一同はゲンナリしながら歩く事になるのだった。
「いやいやいや!? ナツとユリコ嬢ちゃんも同じだからな!?」
「「?」」
「ナツ君とユリコちゃんも大概だよね」
隣で呆れる直葉に、一夏と百合子が首を傾げている中、ようやく目的地の結婚式場が見えてきた。
結婚式には大勢の招待客が訪れていた。
シンカーの勤める会社の人間は勿論、新郎新婦の親族、それから友人でもあるSAO生還者達。特にSAO生還者達には見覚えのある人間だけでもサーシャやヨルコ、カインズ、シュミット、それだけではなく風林火山のメンバーやアインクラッド開放軍の面々もいくつか見覚えのある顔がある。
「流石にキバオウは招かないよな」
「あのねキリト君、何処の世界に自分を殺そうとした人を結婚式に招くのかな」
「いや、言ってみただけだって……まぁ、アイツが居たら流石に俺も困るからな」
来ているアインクラッド解放軍の面々だって恐らくは当時のシンカー派の人間ばかりなのだろう。キバオウを含めたキバオウ派を招くほど、シンカーも空気が読めないわけじゃない。
「っていうか、呼ぼうとしてもユリエールさんが拒否しそうですよね」
「絶対する、当たり前」
と、話している間に式が始まった。多くの拍手と共に入場してきたシンカー、ユリエール夫妻は幸せ一杯の顔をしていて、たくさんの人に祝福された結婚式は何事も無く無事に進行するのだった。
「やぁ、お久しぶりですね」
料理を食べていると、何故か新郎のシンカーが和人達のところに来た。因みにユリエールは衣装直しで退場している最中だ。
「シンカーさん! 良いんですか? 新郎がこんなところに」
「良いんですよ、キリトさん。せっかく来ていただいた皆さんに挨拶の一つもしておかないと妻に怒られちゃうからね」
「シンカーさん、早速尻に敷かれてませんか?」
「いやぁ耳が痛い、実は同棲してたときからもうね、僕は彼女に頭が上がらなくて」
そう言って笑うシンカーだが、その顔は本当に幸せそうで、ユリエールの尻に敷かれる事すら幸せだと言わんばかりだ。
「そういえばキリトさん、ナツさん、夏休みが終わったら直ぐに学園祭があるらしいですね?」
「よく知ってますね」
「いえ、妻が君達の事を色々と心配していてね。それでIS学園についても調べているんだよ、行事とか」
「ユリエールさん……」
「それで、学園祭についても知ったんだけど、もう招待チケットを送る人は決めてるのかな?」
「いえ、それはまだ」
聞いた話では一人につき二枚まで招待チケットを貰えるとの話なので、最低でも八人は仲間内から学園祭に誘える。
「俺はスグに渡すのは決まってるんだけど」
「わたしはリズとシリカちゃんに渡すつもりだよ」
「私は、エギルさんと奥さんに」
「って、キリト! そこは俺に渡せよな!?」
クラインはそんなに学園祭に行きたいのだろうか。
「俺は友達の弾に一枚は決まってるんですけどね」
「そっか、なら良ければユリエールを招待して貰えると嬉しいかな」
「ユリエールさんにですか? まぁ……それも良いですね」
自分たちの事を心配してくれていたらしいので、ここはその恩も込めて学園祭に招待するのもアリだろう。
「おっと、そろそろユリエールの衣装直しが終わるみたいだから、僕は席に戻るよ……じゃあ、二次会でね?」
シンカーが席に戻って少しすると、衣装直しを終えたユリエールが入場してきたため、式が再開される。
式は夕方まで続けられ、シンカーとユリエールは沢山の祝福の中、本当に幸せそうな笑みを絶やす事は無かった。
それは、一人の妖精からのお願いだった。
真夏のALO、海辺で戯れる妖精達。
目指すは海底ダンジョンと、妖精の願い。
海の底で妖精達は何を見るのか。
次回、SAO帰還者のIS
「目指せ、海底ダンジョン」
少女の願いのために、戦士達は集う。
なんだろう、最近執筆してて苦痛を感じるというか……、スランプですかね?