直接本編とは関わりがあるやら無いやら……。
それと、本編のネタバレも含まれている点があるので、その辺りを注意。
まぁ、今後の本編の展開を見て、ああこれが結果こうなるのか、みたいに楽しんで頂ければ幸いです。
SAO帰還者のIS
番外編3
「ちょっと未来の話」
これは、もしかしたらあり得るかもしれない未来のお話。
一夏達が無事にIS学園を卒業してから10年の月日が流れ、もはやあの頃の出来事も昔話だと笑って話せるようになった頃の出来事である。
日本で有名な人物は誰かと問われれば、昔なら誰もが口を揃えて篠ノ之束と織斑千冬の名前を出しただろう。
しかし、それはあくまで10年前までの話であり、10年経った今では彼女達は、そんな人物も居たなぁと時々思い出される程度。
現在では日本で有名な人物と問われた際に必ず出てくる人物の名は、織斑一夏と桐ヶ谷和人。この二人の男性の名前だ。
電子工学の権威、次世代VRマシン開発計画……通称NL計画の主導者であり、ブレイン・インプラント・チップに代わる新たな量子接続通信端末を完成させた事で注目を浴びている織斑一夏博士。
機械工学及び生体工学の権威、視聴覚双方向通信プローブや高性能な義手・義足、更にはメディキュボイト無しでは生きられない人の為に、現実世界を本来の身体の代わりに動き回れる、人間と何ら見た目が変わらない義体を世に送り出し、身体的不自由な人々や、メディキュボイト利用者の助けとなる様々な発明をしているとして注目され、更には20年前にISを世に送り出した天災こと篠ノ之束の愛弟子としても有名な桐ヶ谷和人博士。
二人は正に日本の科学者として世界的知名度を誇る存在だった。
そして、そんな二人の科学者の内の一人、織斑一夏博士の朝は随分とのんびりとしたスタートを切る。
「おはよ~」
朝、自宅で起床した一夏がリビングに入ると、味噌汁の良い香りが漂ってきて、寝起きだというのに食欲をそそられてキッチンに目を向けた。
「おはよう、あなた」
「おう、良い匂いだなぁ……」
朝食の用意をしている妻が起きてきた夫である一夏がテーブルに着いたのを確認して、朝食のご飯、味噌汁、漬物、鮭の切り身を並べた。
「あなた、今日は?」
「ん~? 昼過ぎまでプロジェクトの方を進めて、その後は実際の製作って所かな」
「そっか」
「百合子は?」
「今日はお休み。買い物とかやっておこうと思ってる」
妻、織斑百合子は情報工学の権威として嘗ては大学で教鞭を取っていたのだが、結婚し、そして妊娠を機に退職して、出産後は近くのパソコン塾で講師をやっている。
「おはよ~……ふぁ~」
すると、リビングに一人の少女が入ってきた。
年の頃は16といったところで、黒く美しい髪をセミロングにしている美少女だった。ただし、今はヨレヨレのパジャマ姿に、自慢の髪も寝癖でボサボサになってしまっているが。
「遅いよ夏奈子、それに女の子なんだから寝起きでも身嗜みはきちんと」
「うぅ~、顔洗う時にやるよぅ」
「それなら先に洗ってきなさい」
「は~い……あ! お父さん! もう食べてるの!?」
「ゆっくり食べてるから、早く顔洗って来い」
「はいは~い!」
織斑夏奈子、一夏と百合子の血の繋がらない娘で、所謂養女という奴なのだが、二人の愛情を一身に注がれて育った大切な愛娘。
今年で16になる彼女は、1歳の弟を目一杯可愛がるお姉ちゃんとして立派な時もあるのだが、弟の居ない所では何と言うか、すこしだけズボラな所があるのだ。
脱いだ服は脱ぎっ放し、風呂上りに父が居るのにも関わらずバスタオル一枚でリビングをうろつくなど日常茶飯事、挙句には今のようにボサボサになった寝癖をそのままにリビングに入ってくるという何とも姉を見ている様だと一夏は語る。
「さっぱりした~」
ようやく顔を洗って寝癖も整えた夏奈子がリビングに入ってきて父の向かい側に座り、母が用意した朝食を食べ始めた。
「そういえば、今は夏休みだったか?」
「そだよ~」
「宿題はちゃんとやってるだろうな?」
「うっ……な、夏休み後半になってから本領発揮するよ!」
「そんなこと言って、いつも終盤までやらないじゃないの」
母の駄目出しに言葉を詰まらせる娘に苦笑しながら、一夏は朝食を食べ終えて、一度部屋に戻ってスーツに着替えると、鞄を持ってリビングに戻る。
リビングでは朝食を食べ終えた夏奈子がソファーで寛ぎながらテレビを見ており、百合子は洗物をしていた。
「それじゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい……気をつけてね」
「いってらっしゃ~い!」
「おう、いってきます」
リビングにあるベビーベッドで眠る息子にも挨拶をしてから一夏は家を出た。
今日も忙しい一日が始まるが、夢を叶えた今、全てが楽しいと意気揚々に通勤する一夏の姿は、嘗てのIS学園に通っていた少年の面影を残しつつ、大人として立派に成長していると言えるだろう。
父が出勤した後、朝食を食べ終えた夏奈子は本来なら部屋に戻って二度寝を楽しむ所だったのだが、母に二度寝は許さないと言われてしまったので断念。
仕方がないと適当にショッピングでもしようかと思い、身嗜みを整え、着替えてから母へ出かける旨を伝えると、寝てる弟の頭を一撫でしてから家を出た。
「あっづ~い……」
真夏の外は正に炎天下、早速だが外に出た事を軽く後悔しつつ、近所にあるショッピングモール、レゾナンスへ向かう夏奈子だったが、途中のモノレール駅で見知った顔を見つけた。
身長は160cmほどだろうか。黒く美しい髪をストレートに腰まで伸ばした白いワンピース姿の女性、その足元には3歳くらいであろう栗色の髪の男の子と黒髪の女の子も居て、三人を見つけた夏奈子は一目散に駆け寄り声を掛ける。
「おはよう~! 結ちゃん! 明! 和!」
「あら? カナちゃん! おはようございます、一昨日ぶりですね」
「かなちゃん!」
「おはよー、かなちゃん!」
幼少時からの付き合いであり、年上ではあるが幼馴染の桐ヶ谷結、現在は都内にある国立大学に通う大学生で、時々アルバイトとして彼女の父の仕事を手伝っている才女だ。
そして彼女が連れている男の子が桐ヶ谷明、女の子が桐ヶ谷和、結の弟と妹である。
「結ちゃんは今日は双子ちゃん連れてお出かけ?」
「はい、今日はパパのお仕事がお休みなので、パパとママ夫婦水入らずでデートなんです。なので私は明と和を連れてお出かけを」
「そっかぁ……良かったねぇ明、和! お姉ちゃんと一緒にお出かけできて!」
「「うん!」」
結と手を繋ぐ双子は大好きな姉と一緒にお出かけという事もあってか、大変嬉しそうで、そして元気だ。
「カナちゃんも今日はお出かけですか?」
「そうなの、折角の夏休みなんだし家で二度寝しようかと思ってたらお母さんに怒られちゃったから」
「あはは……百合子お姉さんらしいですねぇ。でも、カナちゃんも夏休みだからってだらけてたら駄目ですよ? 今度、私が夏休み中の生活状況をチェックしに行きますからね」
「え~、結ちゃんまで~」
「可愛い妹分がだらけた生活をしないようお姉ちゃんがチェックしなければいけませんから」
そう言って微笑む姉貴分に、夏奈子は何も言えなくなった。
昔から、姉と慕う結に対して夏奈子はどうも強気に出ることが出来ず、彼女の笑みを見せられると反論する気すら起きなくなってしまうのは、一種の洗脳なのではないかとすら思ってしまう。
「おねえちゃん! ものれぇるきた!」
「ねーねー! はやくのろう!」
「はいはい、ちゃんとモノレールが止まってドアが開いてからね? 危ないからお姉ちゃんの手を離しちゃ駄目よ?」
「「は~い!」」
この後、行き先が同じだったという事もあり、夏奈子は結達と共にショッピングを楽しんだ。
夕方になってそろそろ帰ろうという時間になって、まだ一緒に遊びたいとぐずる双子を結があやして、後ろ髪引かれつつも帰宅した夏奈子は、この日も宿題に手を付ける事は無かった。
東京都の御徒町にあるダイシー・カフェ。夜はバーとして営業しているその店には、常連であり、巷で有名な人物が顔を見せていた。
「ようギル、バーボンロックで」
「俺も同じので」
「わたしはカクテルをお願いします」
「あいよ」
店主、アンドリュー・ギルバート・ミルズは来店した常連にして、長い付き合いの友人二人に注文の酒を出すと、いつものサービスとして軽いおつまみも出した。
来店した三人、一人は一夏だ。そしてもう一人は、電子工学の権威、桐ヶ谷和人と、そしてその妻である桐ヶ谷明日奈だ。
「ようカズ! 一夏、! 明日奈さん! 先に一杯やってるぜ」
「こんにちは桐ヶ谷君、織斑君、結城さん」
「なんだ、遼太郎と真耶先生もう来てたのか」
先客として同じカウンター席に座る男女、片方はギルバートや一夏、和人、明日奈の長年の友人である壷井遼太郎、もう一人はその妻であり、一夏、和人、明日奈の恩師でもある壷井真耶だった。
「なんでぇ、今日はカズは休みだったのか?」
「ああ、昨日で凡その実験は終わってたからな」
「それで今日はデートしてたんです。結ちゃんが双子ちゃんを連れてお出かけしてくれるって事だったんで」
「で、仕事帰りの俺とばったり、じゃあ一緒に飲むかって事になってね」
つまり、偶然にも会ったので一緒に飲むという話になり、このダイシー・カフェに来たら、遼太郎と真耶夫妻が居たという事だ。
「そういえば、最近は織斑君が作ったニューロリンカーを使ってる人が多くなりましたね」
「お? そういえばそうだな。どうよ一夏、自分が開発した物が実際に大勢に使われてる感想は?」
「いや、嬉しいような恥ずかしいような、そんなところ」
「因みにウチの明ちゃんと和ちゃんもニューロリンカー使ってるよー?」
「うへぇ……」
身内に使用者が居るというのは中々に恥ずかしいものだ。
一夏はたまらずテーブルに突っ伏すが、ポンっと遼太郎が肩に手を置いたので顔を上げてみると……。
「来年生まれる俺の子にも持たせるぜ!」
「……は?」
来年、生まれる……? どういうことなのかと真耶に目を向けると、少し恥ずかしそうにしつつ、嬉しそうに下腹部へ手を当てて頷いていた。
それはつまり、今まさに真耶のお腹には遼太郎の子が宿っているという……。そういえば真耶はいつも飲んでるカクテルではなくオレンジジュースを飲んでいるという事に気がつくと。
「先生! おめでとうございます!!」
「ありがとうございます、結城さん。母親としては私の方が後輩ですから、色々と教えてくださいね?」
「勿論ですよ! あ、百合子ちゃんにもお願いしておきますね!」
明日奈と真耶、女同士が盛り上がってる横で、ギルバートと和人、一夏が遼太郎と改めて乾杯していた。
「おめでとう、遼太郎……そっか、お前も父親になるのか」
「サンキュー、へへ……そういう訳だからよ、親父になる心構えってのを三人に教わろうと思ってんだ」
和人、一夏、ギルバート、三人とも遼太郎より先に結婚して、そして人の親になった先達だ。故に、これから父親になる遼太郎もまた、妻同様に色々と学ばなければならない。
「そういえば一夏、お前の姉はどうした? 彼氏が居るって聞いたが?」
「まだ結婚するって話は聞かないですねぇ……ほんと、いつ結婚するんだか。マドカだって来月には結婚するってのに」
まだ結婚する様子を見せない姉と、翌月には結婚する事になる妹を思い、深い溜息を零す一夏だったが、とりあえず今は友人と恩師のお目出度い話題に頭を切り替える事にする。
命懸けの戦いをする事も無くなった今の、平和な暮らし、普通の日常を送る事の幸せ、仲間や友人達と変わらず笑い合える日々を噛み締めながら。
次回はちゃんと本編やりますよ。
ちょっとネタが詰まったというか、プチスランプになってしまったので、番外編を描きましたが。
まぁ、多分大丈夫です。
以下、未来人物設定。
織斑 一夏 26歳
ニューロリンカーという次世代の量子接続通信端末を開発した事で世界的に有名な電子工学の権威。
茅場晶彦の再来とまで呼ばれる若き天才にして、世界屈指の研究者。
織斑 百合子 26歳
織斑一夏の妻。嘗ては情報工学の権威として国立大学の講師という立場で教鞭を取っていたものの、出産を機に退職。
現在は専業主婦の傍ら、近所のパソコンスクールの講師のアルバイトをしている。
2児の母。
織斑 夏奈子 16歳
織斑家の長女であり、一夏・百合子夫妻の養女。
現在高校一年生で、IS学園には通っていない。というよりISそのものに興味が無い。
普段はだらけた生活をしているが、実は生身の戦闘能力もVRワールドでの戦闘能力も馬鹿みたいに高い上、頭脳もやる気を出せば父親よりも上になれるはずなハイスペック少女。
将来の夢は父親の研究を手伝うこと。
織斑 由夏 1歳
織斑家の長男で、一夏・百合子夫妻の実の子。
名前の読み方は「よしか」
現在は乳幼児なので、基本的に家に居る事が多く、両親不在のときは父方の叔母が面倒を見ている。
桐ヶ谷 和人 27歳
機械工学、生体工学の権威であり、長年の夢だった愛娘ユイの現実での身体を完成させた事で、その技術を認められて世界的に有名になった若き天才。
桐ヶ谷 明日奈 28歳
桐ヶ谷和人の妻で、レクト社経営顧問兼専業主婦。
基本的に家で家事をしている事が多く、職場に行くのは週に2~3日程度。
子供達に精一杯の愛情を注いでおり、夫とも毎日が新婚のように熱い夜を送っている所為か、最近は再び月の物が来なくなって……。
桐ヶ谷 結 便宜上20歳
桐ヶ谷家の長女という扱い。
現在は都内の国立大学に通いつつ、アルバイトで父の仕事を手伝っている。
その正体は旧SAOのメンタルヘルスカウンセリングプログラム、つまりAIなのだが、父が完成させたボディにコアプログラムを移す事で現実で動ける身体を得た。
桐ヶ谷 明 3歳
桐ヶ谷家の長男、名前の読み方は「あきら」
髪と瞳の色は母に、顔つきは父に似ている双子の兄の方。
両親と姉からの愛情を注がれて元気一杯に育っている上、3歳にして既に細剣の才能の片鱗を見せている。
桐ヶ谷 和 3歳
桐ヶ谷家の長女だが、立場上は次女。名前の読み方は「のどか」
髪と瞳の色は父に、顔つきは母に似た双子の妹の方。
両親と姉からの愛情を注がれて元気一杯に育っている上、3歳にして既に剣の才能の片鱗を見せている。