SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせしました、ようやく学園に帰ってきましたよ~。


夏休み編
第五十五話 「世界最強の剣」


SAO帰還者のIS

 

第五十五話

「世界最強の剣」

 

 臨海学校が終わり、一年生は皆、学園へと帰ってきた。

 そして、帰ってきて直ぐに期末テストに向けての猛勉強をしている中、学園の地下深くにある最高機密ルームに二人の人影がある。

 部屋の中央に鎮座する石像の前に立つのは織斑千冬と篠ノ之束の二人。二人揃って目の前の石像を見上げながら静かに佇んでいる。

 

「久しぶりだな……暮桜」

 

 ふいに、千冬が口を開いて、目の前の石像に話しかけた。

 そう、この石像こそが嘗ての千冬の愛機であり、世界最強へと導いた剣、コアナンバー002を使って作られた世界で二番目のISにして今も尚、最強の名を欲しいがままにする第一世代型IS暮桜だ。

 

「束……頼む」

「うん」

 

 移動型ラボ、『我輩は猫である(仮)』を展開した束はケーブルを石像に挿して作業を始めた。

 これから行われるのは石像となって凍結状態にある暮桜の復活、再び嘗てと同じく千冬の剣として動けるようにするための作業だ。

 

「う~ん……やっぱり長いこと石像状態だったから色んな所にガタが来てるなぁ。ちーちゃん、動かすなら解凍後に一度オーバーホールしないと駄目かもしれないよ?」

「全て任せる。元々こいつを作ったのはお前だ、お前の好きなようにしろ」

「りょうか~い! じゃあ天才・束さんにお任せコースで行くよ~」

 

 暮桜の解凍自体は30分で終わるらしい。

 後のオーバーホールは全て束に任せて千冬は一人剣道場へと向かった。

 今はテスト準備期間中なので部活動は全て活動禁止になっているため、剣道場を普段使用している剣道部員は一人も居らず、千冬一人貸切状態だ。

 

「剣道着に身を通すなど、何年ぶりだろうな」

 

 剣道着に着替えた千冬は一緒に持ってきた真剣を腰に差し、道場の中央に立つと刀を抜き、得意としている篠ノ之流の技の一つ、一閃二断の構えを取る。

 

「……っ! ふっ!!」

 

 力強い踏み込みと共に振られた刀は白銀の閃光と共に空気を一閃し、鋭い音を響かせた。

 もしこれが対人であったのなら、相手の身体は脳天から股下まで真っ二つに両断されていただろう。

 

「衰えたな……やはり現役を退いてから剣を握る事が少なくなったのが原因か」

 

 まだ20代の千冬が年齢が原因で衰えるという事は考えられない。つまり考えられる衰えの原因は鍛錬をしなくなった事だ。

 いくら千冬が剣道の腕や才能に恵まれていようと、鍛錬を欠かせば衰えるのは必至、それでもまだまだ未熟者に負けるとは思わないが。

 

「ふむ……」

 

 ふと、何を思ったのか千冬の構えが変わった。

 それまでは篠ノ之流剣道としての構えだったが、今の構えは篠ノ之流剣術……つまり実戦を想定した剣術の構えだ。

 

「っ!」

 

 一閃、二閃と技を振るうが、恐らく束が見ていればこう言うだろう。「何とも無様な太刀筋だ」と……。

 いや、剣閃は確かに美しい。剣道の才能があるからこそ、剣筋というのは実に美しいのだが、剣術に求められるのは美しさではなく、確実に相手を殺す事であり、剣筋が美しいから見事だという評価は貰えないのだ。

 むしろ、実戦剣術において剣筋の美しさなど不要、そんなものをより確実に相手を殺す事を第一に考えなければならないのだから。

 これが、千冬に剣術に才能が無い理由の一つ。千冬の剣はどうしても見栄えが良くなる剣筋になってしまい、剣術を使おうとも不要な要素ばかりが目立って本当に必要な要素を詰め込む隙間が無い。

 言ってしまえば千冬の剣とはどこまで行っても剣道向きの剣であり、本来ならば実戦で扱うべきものではないのだ。

 しかし、それでも、と千冬は考えていた。

 

「一夏が私より強い……? なるほど、実戦経験もあり、その中で剣を磨いてきたのなら確かに実力があるのも当然と考えるべきだろう。所詮はゲームだなどと言うつもりは最早無いが……だが、それでもまだ」

 

 一夏が千冬よりも強くなってしまっては、もう一夏を守れないではないか。

 ずっと、一夏を守るために剣を、ISの腕を磨いてきたのに、その一夏が15にしてもう千冬より強くなってしまっては、もう守る側ではなく守られる側になってしまう。

 まだ、まだ千冬は一夏を守る側で居たいのだ。愛する弟を、大切な家族を守る姉で居たい……まだ、早いのだ。

 

「織斑先生」

「……桐ヶ谷か」

「ええ……少し、付き合って貰えますか?」

「……」

 

 一体何の用なのかと怪訝に思うも、和人の真剣な表情から大事な用事なのだろうと思い、着替えに少し待たせてから道場を出て和人に付いて行った。

 向かった先は千冬が寮長を務めるIS学園学生寮の1年生スペース、その中の一部屋である和人と明日奈の部屋だ。

 

「あ、おかえりキリト君、それといらっしゃいませ織斑先生」

「ただいまアスナ、準備は?」

「出来てるよー」

 

 中で待っていた明日奈が笑みを浮かべると、ベッドを指差した。

 そこには和人が使用しているベッドに二つ、明日奈が使用しているベッドに一つ、それぞれアミュスフィアが置かれており、既にLAN回線に繋がれてスタンバイしている。

 

「何のつもりだ?」

「何も言わず、ALOにログインしてください……先生に、今のナツが居る領域を、見せます」

 

 VRMMOをやれと突然言われて、はいそうですか、という訳にはいかない。断ろうとしたが、一夏が今居る領域というものに興味が湧き、そして同時に一夏が見ている世界を、魅了された世界を一度は見てみるのも一興かと渋々だが明日奈のベッドに置かれているアミュスフィアを被り、電源を入れた。

 

「それで、どうしたら良い?」

「えっとですね、まずは先生がその状態で全身をペタペタ触ってください。キャリブレーションをしますので」

 

 明日奈がALOへの初ログインにおける手順を説明している間、和人は自身のアミュスフィアをセットしてログインする準備を整える。

 

「あ、それから先生、ログインするのに必ず決めないといけない事があるんですけどー」

「決めなければならないこと?」

「はい、種族なんです。ALOは自分が妖精になって冒険をするゲームですので、まず初ログインの際に自分の種族を決めないといけないんです」

 

 前に一夏達がそんな話をしていたのを思い返し、なるほどと思ったが、そこで困ってしまった。

 

「な、何を選べば良いのだ……?」

 

 数ある種族から一つを選ばなければならないという決まり、だがどの種族を選ぶべきなのかという疑問にぶち当たってしまう。

 

「攻撃重視な種族でしたら火妖精族(サラマンダー)、スピード重視なら風妖精族(シルフ)がお勧めですね。他にも回復役に徹するなら水妖精族(ウンディーネ)、サポート魔法でしたら影妖精族(スプリガン)闇妖精族(インプ)が良いですし」

「ふむ……」

 

 ならば火妖精族(サラマンダー)が性に合ってそうだと思い、種族を決めた。

 後はログインして実際に初回設定時に種族を設定するだけだと、早速だが三人ともそれぞれベッドに横になる。

 

「「「リンク・スタート」」」

 

 

 アルヴヘイム・オンライン、その世界にある火妖精族(サラマンダー)領に、一人のプレイヤーがログインした。

 透き通る様な美しい桜色の長い髪とルビーの如き紅い瞳が特徴の女性、プレイヤー名をサクラと言う。

 

「これが……ALO」

 

 初めてALOにログインしたサクラは行き交う人々や街並みを見渡し、次いで自身が腰に一本の片手剣を差しているのに気がついた。

 

「しかし……どうすれば」

 

 困った事になったと思いながら途方に暮れていた千冬だったが、突然目の前に一人の男が下りてきて、慌てて剣を抜き警戒する。

 

「待った待ったぁ! 俺は怪しいモンじゃねぇっすよ!?」

 

 バンダナを頭に巻いた武士の様な装いの火妖精族(サラマンダー)、一体何者かと警戒するサクラに、男が意外な名前を口にした。

 

「俺はクライン、アンタがキリトやアスナちゃんの言ってた今日ログインするってビギナーで間違い無いか?」

「キリト……アスナ……あ、ああ、そうだ」

 

 その名は普段から聞いている名前なのでよく知っている。

 この男……クラインからその名が出てきたという事は、クラインは二人の知り合いという事になるが……。

 

「一応、アンタがどの種族を選んでも良い様に仲間内でそれぞれの種族の領で待っていたんだが、俺んとこが当たりたぁなぁ」

 

 そういえば、このクラインという男の顔、名前は見覚えがあった。

 そう、あれは確か臨海学校のとき、SAO事件の詳細を映像で見ていた時の事で、確かキリトというプレイヤーと一緒に映る事が多くあったクラインという野武士面のプレイヤーが居た気がする。

 

「まぁ、それは兎も角としてだ。これからキリトとアスナさんの居る所に案内するからよ、俺に付いて来てくれねぇか?」

「む、それは……遠いのか?」

「ん~、あの二人が居る場所はイグドラシルシティだから、まぁ飛んでいけば30分くらいで着くだろうぜ」

「と、飛ぶのか……」

 

 ISで飛んだ経験は豊富にあるサクラだが、ALOでの飛行は初めてだ。

 最初は補助コントローラーを使って宙に浮き、ヨロヨロと拙い飛行ではあったが先を飛ぶクラインを追いかけるサクラ。

 だが、だんだんとISも使わずに空を飛ぶという事が楽しくなってきたのか、先ほどまで仏頂面をしていたサクラの表情が少しだけ爽快感に緩む。

 

「気持ち良いだろ? アンタはIS使って空飛ぶのに慣れてるってナツから聞いてっけどよ、やっぱあんな機械使って飛ぶより自分の羽で空飛ぶってのは何よりの快感だからな」

「む、ああ……確かに、これは良いものだな」

 

 30分ほど経って、ようやくイグドラシルシティに到着した。

 イグドラシルシティに入ったクラインとサクラは、まずサクラの装備を整えなければと武具屋へ向かい、防具一式を選ぶ。

 

「金なら気にすんな、今回は俺の奢りだからよ」

「しかし、流石に初対面の人間にそれは」

「良いって! 報酬はちゃんと貰ってるから、アンタは気にせず装備整えなって! じゃないと大変だからよ」

 

 大変とはどういう事なのか、それを問いただす前に装備の購入が終わり、早速だが今の初心者装備である防具から購入した防具に着替える。

 白を基調として桜の花弁が描かれた着流し、紺色の袴のようなズボンと黒いブーツを履いて、手には茶色の皮製オープンフィンガーグローブを装備、ストレートに伸ばしたままになっていた髪はサクラのリアルの姿である織斑千冬の時と同じ髪型に結んで準備は完了した。

 

「よし、じゃあこっちだ」

 

 クラインに案内されて着いた場所はイグドラシルシティにある公共デュエルスペース、その一角にて全身黒い姿で、同じく右手に黒い片手剣を持つ影妖精族(スプリガン)の少年と、それに寄り添う形で水妖精族(ウンディーネ)の少女が立っている。

 更にはその周囲に猫妖精族(ケットシー)の少女や工匠妖精族(レプラコーン)の少女、それから明らかに日本人には見えない土妖精族(ノーム)のアメリカ人青年も居た。

 

「お前は……」

「俺ですよ、キリトです」

「そうか……ここでは現実の名はマナー違反なのだったな?」

「ええ、なので俺の事はここではキリトでお願いします」

 

 すると、キリトは工匠妖精族(レプラコーン)の少女……リズベットが差し出した一本の刀を受け取ってサクラへ投げ渡した。

 受け取った千冬は目の前に出たウインドウにあるトレード画面を見て、そこにリズベットよりサクラへの刀……ユキサクラの受け渡し確認のOKをタップする。

 

「んじゃあ、アタシの仕事はこれでお終い! それ、一応はアタシが作った傑作だから、大事に使ってくださいな」

「君が作ったのか……」

 

 鞘から抜いて刀身を見るが、その雪の如き白銀の輝きは実に見事で、正にプロの仕事だと言わざるを得ない。

 

「それで桐……キリト、お前の用事を聞かせろ」

「ここまで準備されてて、気づかないわけないですよね? 俺と、今から勝負して貰えますか?」

 

 キリトがシステムメニューを操作してサクラへデュエル申請を行う。それと同時に右手に持つ剣とは別にもう一本、黒い片手剣を出して抜くと、二刀流の準備を整えていた。

 サクラはその申請画面を見ながらキリトの真意を理解し、同時に剣士として、そして何よりナツの姉として一度はキリトとぶつかって見るべきだと思っていたのもあり、OKをタップ、完全決着モードでデュエル申請を受ける。

 

「条件は地上戦オンリー、先生はソードスキルがまだ使えないんで、俺はソードスキルを一切使いません」

「構わんが、別に危なくなれば使っても構わんぞ?」

「……なら、使わせてみてください」

 

 不適に笑うキリトに、サクラも同じような笑みを浮かべてユキサクラを抜いて構える。

 デュエル開始のカウントが進む中、それぞれ剣を構えるキリトとサクラを、アスナ、リズベット、シリカ、クライン、エギルが見守り、やがてカウントが0となり、デュエル開始となった瞬間、二人の戦いは始まった。




くーちゃん登場はもう少し待ってください。

姉と弟の戦いの前哨戦、それは苛烈の一言だった。
弟の見てきたもの、感じてきたものを理解しようと剣を振るう現実世界の最強と、そんな彼女へ弟分の見てきたもの、感じてきたものの一端を見せるために剣を振るう仮想世界の最強、二人の剣が火花を散らす時、頑なだった心に大きな兆しが芽生える。
次回、SAO帰還者のIS
「現実世界最強VS仮想世界最強」
戦いの火蓋が今、切られた。

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