SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

59 / 132
やっとSAO編終わったぁ!!


第五十二話 「死闘の末、妖精の世界へ」

SAO帰還者のIS

 

第五十二話

「死闘の末、妖精の世界へ」

 

 ヒースクリフから告げられたキリトとの一対一の勝負、それに勝てばSAOは即クリア、全プレイヤーが一斉にログアウト出来るという大チャンス。

 だが、相手はアインクラッド最強と名高き聖騎士であり、レベルこそキリトの方が上であっても実力の上では互角、そして手数ではキリトが上回っていてもヒースクリフの防御はそれを更に上回る。

 正直、キリトが不利の戦いではあったが、キリトは告げられた瞬間から今までの2年間で死んでいった者、涙を流したアスナ、消えていったユイの事を思い出し、ヒースクリフへの怒りという感情が込み上げていた。

 

『……ふざけるな』

 

 こんな簡単にクリア出来るのなら、今まで死んだ人達は何だったのか。100層到達を目指して、その中で散っていった人達、デスゲームという脱出不可能の現実に絶望して自ら命を絶った者達、彼らの死が、まるで無意味であったかのように思えて、我慢ならなかった。

 だけど、ここでクリア出来れば、今生き残っている人達が救われる。ならば、キリトがやるべきは、一つだったのだ。

 

『いいだろう、決着をつけよう』

『キリト君……っ!』

『ごめんな、ここで逃げる訳にはいかないんだ』

『死ぬつもりじゃ、ないんだよね?』

『ああ、必ず勝つ。勝って、この世界を終わらせる』

 

 後に6000人もの人を救った英雄は、このとき何を思って戦いに臨んだのだろうか。まだ当時16の小僧が一人で命賭けの戦いに赴き、そして大勢の人を救う。

 その肩にはどれほどのプレッシャーが圧し掛かっていたのか、その場に居なかった者には想像する他ない。

 

『キリト! やめろー!!』

『キリトー!!』

『キリトさん!!』

 

 エギル、クライン、ナツ、三人の叫び声が木霊する。一人で戦おうとする弟分を、兄貴分を止めるために。

 思えばいつもそうだった。彼はいつも一人で何かを背負い込み、一人で傷ついて、そして今回だって一人で命を賭けた戦いに赴こうとしているのだから。

 

『エギル』

『っ!』

『今まで、剣士クラスのサポートありがとな。知ってたぜ、お前が儲けの殆どを中層プレイヤーの育成に注込んでいた事』

『……!』

 

 まるで今生の別れのようなキリトの口調に、エギルが何かを言おうにも言葉が出なくなっていた。キリトの顔を見て、キリトがどんな覚悟で戦いの臨もうとしているのか、解ってしまったから。

 

『クライン……あの時お前を、置いて行って悪かった』

『っ! てめぇキリト!! 謝ってんじゃねぇ! 今、謝んじゃねぇよぉ!! 許さねぇぞ! 向こうで飯の一つでも奢ってからじゃねぇとぜってぇ許さねぇからなぁ!!』

『わかった……向こう側でな』

 

 クラインにも、解ってしまったのだ。弟分の悲痛な覚悟を、背負っているプレッシャーを、だからこそ、死んで欲しくないからこそ、共に現実世界に帰る事を約束させたのだ。

 

『ナツ……こんなビーターの俺を、ずっと慕ってくれてありがとうな……俺、妹は居るけど弟は居なかったから、お前の事、本当の弟みたいに思えて、凄く嬉しかったぜ』

『俺も…俺も姉は居るけど、兄貴が居なかった! だから、だからキリトさんの事、本当に…兄貴みたいで…だから、死なないでくださいよ!! 向こうで、向こうで絶対! 会って一緒に遊ぶ約束を、守ってくださいよ!』

『ああ、向こうでIS/VSを教えてくれる約束、楽しみにしてるよ』

 

 ナツにも、止められない。慕い続けた兄貴が、死をも覚悟の上でこの戦いに挑む事を、悟ってしまったから。

 止めたい、でも止められないと、キリトの性格をよく知っているからこそ。

 

『ユリコ、向こうでナツと一緒に会えるのを楽しみにしてるよ……ナツと、俺とアスナとお前で、また一緒に遊ぼうぜ』

『……はい、必ず。だから生きて、必ず勝ってください、お義兄さん』

 

 もう、誰も止められなかった。

 ナツ達だけじゃない、周りに居る攻略組の……キリトより年上の者達にも、止める事は出来ない。ずっと年下のキリトにだけ戦わせて、自分達大人が子供に重荷を背負わせる事になった事が、みんな何より悔しいかった。

 

「和人さんの覚悟、まさしく騎士……いえ、戦士のそれですわ」

「ああ、軍人でも何でもない……元々はただの一般人だった筈なのに、この覚悟は見事だ」

「そんな大したものじゃないさ……ただ、この時は必死で、ヒースクリフを倒す事だけしか考えられなかった」

 

 でもそれがSAOクリアに繋がったのだから、和人には英雄としての素質があったのかもしれない。

 事実として、彼は意図せず、本人にはそのつもりが無くとも日本政府から英雄扱いされているのだから。

 

『悪いが、一つ頼みがある』

『何かな?』

『簡単に負けるつもりはない……でももし俺が死んだら、少しの間で良い、アスナが自殺できないよう計らってくれ』

『ほう……良かろう』

 

 その言葉にアスナがキリトの死を予想してしまった。キリトが死んで、一人になってしまう自分を、後を追う事も出来ずにただクリアを目指して戦い続けなければならない日常を想像してしまったのだ。

 

『キリト君駄目だよ! そんなの……そんなの無いよぉー!!』

 

 アスナの叫びも空しく、キリトとヒースクリフは互いに剣を構えた。もはやアスナにすら、キリトを止める事は出来ない。

 

『キリト君!!』

 

 アスナの叫びを最後に、静寂が訪れ……そして、勝負は唐突に始まった。

 キリトの両手に握ったエリュシデータとダークリパルサーがヒースクリフに襲い掛かり、対するヒースクリフはそれをリベレイターの盾で受け止め、時に避ける。

 互いに一進一退、紙一重の剣戟を繰り広げ、勝負は互角、ソードスキルを一切使っていないのに、その戦いは正しく頂上決戦の名に相応しいものだった。

 

「す、すごい……」

 

 ハイレベルの戦いに、箒が思わず呟いた。

 自身も紅椿で二刀流を使っているのもあり、二刀流自体は学んでいる。だが、キリトの二刀流は箒のように流派による型など無い我流のものであるのにも関わらず、魅せられたのだ。

 はたして、自分にここまでの戦いが出来るのか、そう思ったが……無理だと首を振る。

 確かに剣に関しては決まった流派を持つ以上、箒の方がもっと上手に扱えるだろう。だが、キリトの剣は、流派を持たないが故に流派を持つ箒では決して真似出来ない高みを感じてしまった。

 

「やっばいわ、アタシじゃ絶対に勝てないわね……」

「僕も無理、かな」

 

 鈴音とシャルロットもヒースクリフの戦いを見て、自分達がもし剣のみで彼と戦った場合を想像してみたが、絶対無理だと首を振る。

 

「ちーちゃん、どう?」

「……晶彦さんが優勢だ。桐ヶ谷は確かに善戦しているが、決定打が無い」

「うん、同感かな。それに晶彦君はソードスキルをデザインした張本人だから、ソードスキルは全て読まれてしまう……正直、かず君に勝ち目が無いっていうのが本音だよ」

「だが、桐ヶ谷は勝ったからSAOがクリアされたのだったな……なるほど、日本政府が一夏よりも奴を優遇する理由が理解出来た。桐ヶ谷は6000人の命を救った英雄本人であって、一夏はIS世界大会優勝者の弟でしかない……大勢の人を救った訳でもない人間の弟と、実際に救った人間では、どちらを優先するのか問われるまでもないのか」

 

 それでも、一夏を含め攻略組として75層のボスと戦ったメンバーは日本政府からSAOクリアの切欠へと至った英雄達の一人として数えられている。

 実際にクリアした英雄である和人とは別に、英雄達の一人として一夏はカウントされているので、優先度こそ和人より低いものの、日本政府にとっては大切な人材なのだ。

 フルダイブ環境への親和性が高く、実力もあり、将来性のある10代の若者という事で、色々と便宜は図られていた。

 

「あ! 事態が動きましたわ!!」

 

 ヒースクリフの一撃がキリトの頬を掠り、それによって冷静さを欠いてしまったキリトがついにソードスキルを発動してしまった。

 発動したスキルはまだSAO生還者組ではない誰もがまだ見た事の無い二刀流最上位ソードスキル、ジ・イクリプス。

 キリトの最強の切り札である27連撃は確かに凄まじいのだが、やはりその全てがヒースクリフに読まれてしまい、攻撃の全てを盾によって阻まれてしまう。

 そして、最後の一撃となったダークリパルサーは盾に阻まれた際に折れてしまい、それと同時にキリトの心までもが折れてしまった。

 スキル後の硬直によって死を覚悟したキリトに、無常にもヒースクリフの剣が振り下ろされ、その体に剣が届こうとした……その時。

 

「え!? お姉ちゃん!?」

 

 麻痺状態で動けなかった筈のアスナが、システムを上回る人間の意志とでも言うべきなのか、キリトの前に身を投げ出して、ヒースクリフの剣をその身に受けてしまった。

 

「ウソ……何で明日奈さん、え……だって生きてるじゃん」

 

 鈴音の言う事も最もだが、映像ではアスナはそのHPを全損して、キリトの腕の中でポリゴンの粒子となって消えてしまった。

 愛する者を目の前で失ったキリトは完全に戦意喪失状態になり、折れたダークリパルサーの代わりに残されたランベントライトを拾い、力無くヒースクリフに攻撃するが、簡単にエリュシデータを弾き飛ばされてしまう。

 

「キリト君……あの後、こんな事が」

「君が死んだと思ったあのときは、絶望してたんだろうな……ただ惰性で剣を握ってた気がするよ」

「……ごめんね?」

「いや、こうして生きていてくれたから、もう気にしないでくれ」

 

 和人の右肩に頭を乗せる明日奈を安心させるため、その頭を優しく撫でる和人は、改めてアスナを失ったと思った時の事を思い出し、この温もりを二度と失わないと誓った。

 そして、映像の中で、ヒースクリフの剣がキリトを貫いてHPを全損させてしまい、キリトまでもが死んだ……筈だったのだが、そこで奇跡が起きたのだ。

 

「まぁ……」

 

 消える直前、キリトは最後の力を振り絞ってランベントライトをヒースクリフに突き刺し、ヒースクリフのHPを全損させる事で相打ちとなった。

 

「これが、SAOの全てだ……この戦いの後、キリトさんとアスナさんは、奇跡的に助かり、俺を含めて全プレイヤーがログアウトされた」

「でも、300人のプレイヤーがログアウトした筈なのに意識を取り戻さなかったという事件が、この後待ち受けていたけどな」

 

 それが、ALO事件の始まり。

 キリト、ナツ、ユリコの三人が囚われの身となったアスナを救うため、妖精の世界へと旅立つ始まりでもあった。




次回は崩れ去るアインクラッドを見て、まぁALOを軽く語ってお終いかな?
ようやく臨海学校が終わる……。
夏休み編楽しみだなぁ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。