SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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2~3話でSAO語りは終わります。ALOのことについては……語るべきですかね。


第四十五話 「英雄は、かく語りき」

SAO帰還者のIS

 

第四十五話

「英雄は、かく語りき」

 

 旅館へと帰還した一夏達を出迎えたのは束と千冬、真耶、ラウラの4人だった。

 長時間にも渡る戦闘を終えて疲労困憊となっていた彼らは簡易的な報告だけ済ませて、入浴後に改めて正式な報告を行うことになり、現在は全員が大浴場に居る。

 勿論、男女別にはなっているが、それぞれ温泉で戦闘の疲れを癒し、浴衣に着替えた一同は作戦司令室に集まった。

 

「改めて、ご苦労だった。これより報告を聞く、代表で一人、報告を聞かせろ」

「では、僭越ながら現場指揮を行っていたわたくしが報告させて頂きますわ」

 

 立ち上がったセシリアがまず銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との戦いについての報告を行う。

 特に目立ったミスも無く、順当に作戦通りに事が進み、無事に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃破、操縦者のアメリカ国家代表ナターシャ・ファイルスも意識不明ではあるものの、気を失っているだけで命に別状は無い旨を伝えた。

 

「これが、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦における詳細です」

「うむ、問題は無さそうだな。では、その次の報告を……恐らく事情に詳しいであろう結城姉、聞かせろ」

「はい」

 

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)との戦闘については同じSAO生還者の方が詳しいだろうという事で報告の指名を受けたのは明日奈だった。

 

「まず、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)撃破直後に彼ら……SAO時代に最悪の殺人者ギルドと呼ばれていた笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の幹部三名が襲撃してきました。リーダーのPoh、側近だった赤目のザザ、ジョニー・ブラック。これらはアバターネームなので本名は総務省にお聞きください、私達も彼らの本名は知りませんので」

「……続けろ」

「彼らは亡国機業(ファントム・タスク)という組織にスカウトされ、その組織の命令で襲撃に来たのだと思われます。理由は不明、使用していたISについての出所についても不明ですが、恐らく同時に襲撃してきた無人量産機同様に強奪してきた物だと思われます。それで、男性である彼らがISに搭乗出来た理由については無人機のシステムを応用していると本人達からの説明がありましたが、詳細についてはわかりません」

「そちらは束が調べている」

「了解しました。次に、戦闘について彼らをよく知るわたしと桐ヶ谷和人、宍戸百合子、織斑一夏が時間稼ぎをしている間にセシリアさん達には銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を旅館まで運んでもらい、織斑先生及び山田先生を応援に呼びに行ってもらおうと思ったのですが、無人量産機によってそれが不可能になります」

 

 無人量産機が出てこなければ明日奈の選択は概ね間違ってはいないだろう。

 実戦経験の乏しい面々とお荷物になっていた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を逃がし、その間の時間稼ぎをしつつ、戦力としてセシリア達を上回る千冬と真耶が駆けつければ全員の撤退が可能だったのだから。

 もちろん、それはIFの話なので、論議しても意味は無い。

 

「戦闘中、篠ノ之さんの乱入によって織斑君は彼女を庇い一度は撃破され、その後二次移行(セカンドシフト)した白式によって戦線復帰した織斑君が笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の赤目のザザとジョニー・ブラックを撃破、Pohも後一歩の所まで追い詰めたのですが、敵の増援により結果として敵を逃がす形となりました」

 

 モニターに映し出されたのはサイレント・ゼフィルスに乗ったMの姿だ。

 それを見て、セシリアが表情を顰めたのだが、それも仕方が無いだろう。彼女の祖国で作られたISが敵として現れたのだから。

 

「なお、無人量産機およびサイレント・ゼフィルスに関してはそれぞれの開発国で強奪されているという報告があります。恐らく近日中にもIS学園に報告が来るかと」

「なるほどな……ご苦労だった」

 

 以上で戦闘報告は終了だ。これで解散になるのだと思っていたのだが、まだ千冬の口から解散という言葉が出てこないことから、まだ何かあるのかと思った。

 しかし、沈黙している千冬に困惑していると、傍で見ていた束が呆れたという表情になりながら彼女に変わって口を開く。

 

「えっとね、いっくん、かず君、あーちゃん、ゆりりん、ちーちゃんはね、SAOでの事を聞きたいんだよ」

「束さん、それって……」

「うん、Poh達に向けるいっくんの憎しみを目の当たりにしてSAOでいっくんに何があったのか、どんな経験をしたのか、ようやく知ろうと思ったみたいだよ」

 

 それは、今まですれ違ってきた姉弟が、ようやく向き合おうとしている証。

 今まで、千冬はSAOの話を聞くどころか、その名前を出すのすら拒否していて、一切の興味を向けなかったのに、一夏の尋常ではない憎悪の表情を見て、やっと向き合う事を決めてくれたのだ。

 

「でも口で言ってもたぶん完全に理解するのは難しいよね。だから、こんなのを用意してみました~!」

 

 そう言って束が取り出したのは大きな機械だった。

 見た目は何かの立体映写機のような物で、何かを再生する為の機械だというのは分かるが、こんな物を取り出して何をするというのか。

 

「えっと、いっくん達のISを貸して貰えるかな?」

「キリトさんやアスナさん、ユリコのもですか?」

「うん、4人のISにはそれぞれが使っていたナーヴギアのローカルメモリが搭載されているんだよね? そのメモリが必要だから、ISをこの機械に繋げたいんだ~」

 

 そう言われては断れないので、4人とも待機状態になっているISを束に渡す。

 ISを受け取った束は4つの待機状態になっているISを機械の中に入れて、起動スイッチを押した。

 すると、真耶に指示して部屋の電気を消してもらうと、機械の上にARモニターが現れて4つの映像が映し出される。

 

「あ! キリト君これって!」

「ああ、まだ鏡を使う前の俺だ……」

 

 映像に映っていたのはこの場に居る誰にも似ていない4人の人物の姿だった。

 だけど、その人物の事は4人ともハッキリと覚えている。それはSAOに初めてログインした当初の4人の姿、まだ現実の姿に切り替わる前のアバターの姿だ。

 

「これって、一夏達なの? ALOでのアバターとも結構違うわね」

「姉さん、この機械は……」

「そう! ナーヴギアのローカルメモリから読み取ったSAO内部の出来事を映像記録として再生する束さんの発明品! その名も『剣の記録』!」

 

 今まで、SAO内部で起きた出来事を知っているのはSAO生還者だけだった。

 勿論、話で聞いて何があったのか知っている者も生還者以外に居るだろうが、それは話に聞いただけの事であり、実際にどんな事が起きたのか、それを正確に知る者は居ない。

 総務省の者でも、それは同様であり、SAO内部の出来事はモニターしていても、それを映像記録で知っているのではなく、プレイヤー達のアバターがどの階層のどこに居るのか、などの位置情報くらいしか分からなかった。

 SAO内部の映像記録は存在していないので、解明する事が今まで出来なかったのだが、今回の束の発明は、それを可能にするという代物。

 

「うわ、懐かしい! クラインさんと一緒にキリトさんにソードスキルの使い方をレクチャーされてる時だ!」

「ああ、そういえばクラインと一緒にお前にもレクチャーしてたなぁ」

「私も、槍の練習してる……」

「え~、皆そんな映像なんてずるい! わたし、初めてのゲームに大はしゃぎしてる映像じゃない!」

 

 実に懐かしい。

 この頃は、まだ純粋にゲームとしてのSAOを、世界初のVRMMOというゲームに興奮して楽しんでいた。

 この後に待ち受ける、最悪のデスゲーム開始宣言があるなど、予想だににしていなかったからこそ、楽しかったというのを、今でも覚えている。

 

「お姉ちゃん達は最初、デスゲームになるなんて知らなかったんだよね?」

「うん、様子がおかしいなって思ったのはある程度遊んでログアウトしようとしたら、そのログアウトボタンが消失しているのに気づいた時だったよ」

 

 映像でも調度、ログアウトボタンが無い事に気づいて様子がおかしいと気づいた4人の姿が映し出されていた。

 そして、4人とも……クラインも含めて5人は突如、はじまりの街の中央広場に強制転移され、SAO公式サービス開始のセレモニーが行われる。

 それは、開発者である茅場晶彦本人による、デスゲーム開始の宣言と、ひとつのプレゼントだった。

 

「こんなことがあったんですね……私もニュースで丁度、SAO被害者が次々と出始めたって見てました」

「ドイツでもその情報は掴んでたが、やはり日本では相当な問題になったのだな……」

 

 モニターでは、プレイヤーに渡された鏡によって、全プレイヤーの姿がアバターの姿から現実での姿に変わった所になっていた。

 デスゲームが始まり、まず迅速に動き出したのはキリトとナツの二人、クラインと別れて次の町までキリトとナツの二人がパーティーを組み、向かっていった。

 アスナとユリコについては二人ともはじまりの街の宿に篭り、恐怖によって動けなくなっているところだ。

 

「あら、明日奈さんと百合子さんは動かなかったんですのね」

「うん、SAOが始まって暫くはわたし、怖くてはじまりの街の外に出られず宿に引きこもってたから」

「私も、同じく」

 

 やがて、アスナとユリコも何かを決意したのか街の外に出てレベル上げを始め、SAO開始から1ヶ月、2000人の犠牲を出しながらもやっと第1層のボス攻略が始まった。

 この頃には既にアスナがボス攻略参加可能なレベルに追いついていたので、キリト、ナツ、アスナの3人がボス攻略に参加している。

 攻略の為に5~6人のパーティーを組み、レイドを作るという段階になり、ここで初めてキリト、ナツ、アスナの3人パーティーが結成された。

 

「懐かしいね、ここで初めてキリト君とパーティー組んだんだよね」

「ああ、会ったのは少し前の、アスナが無茶なレベル上げしてるときに助けたのが最初だったけどな」

「もう! そのことはもういいでしょ!」

「あはは、ごめん」

 

 始まったボス攻略、イルファング・ザ・コボルトロードの姿に、SAO組以外の面々は、特にALO未体験の千冬、真耶、箒、束の4人は驚いていた。

 現実では存在しない巨大な化け物、そんなモノを相手に戦うという事がイマイチ理解出来なかったが、実際の姿をこうして映像で見て、こんな化け物と2年も戦ってきたのかと、よく戦おうという気になれたものだと、そう思った。

 

「あ……」

 

 最初に声を出したのは誰だっただろうか。

 映像に映し出されたコボルトロードが、武器を斧と盾から、野太刀に持ち替えてレイドリーダーたるディアベルが斬られ、キリトに皆を託して死んだ所、それはボス攻略における一番最初の犠牲者だった。

 

「ディアベル……」

「キリトさん、あれはキリトさんの所為じゃない。βテストの時と正式サービスの違いを誰も知らなかったのが原因ですよ」

「判ってるけど、やっぱまだな……あの時、無理やりにでもポーションを飲ませてればって……そう思ったら」

 

 そうこうしている間に、コボルトロードへの怒涛の攻撃を開始したキリト、ナツ、アスナが、ピンチを周りに助けられながらもコボルトロードを追い詰め、キリトのバーチカルアークによってトドメを刺した。

 歓声が挙がり、誰もがラストアタックを決めたキリトを称える中、キバオウがキリトを批難する。ディアベルを見殺しにしたこと、βテスターだった事を隠していたこと、その所為でディアベルが死んだのだと。

 

「愚かな、この男は何を言っている? 桐ヶ谷のおかげで倒せたのだろうに、その桐ヶ谷を責めるとは」

「まぁ、言ってることは、俺も理解出来るんです。だから、βテスターと他のプレイヤーとの間に確執が出来ないよう、俺は全てのβテスターに向く筈だった批難を、俺一人に集中させる事にした」

 

 それが、ビーターという黒の剣士の他にキリトの持つ渾名の始まりだ。

 そして、第1層が攻略され、最前線が第2層に移り、ユリコもようやく行動を開始した所で、アインクラッド攻略は怒涛の勢いで進められる事となった。




次回予告飽きたw

次回はアニメソードアート・オンライン3話の話からスタート!

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