SAO帰還者のIS
第四十三話
「神聖剣」
一夏が、落ちた。それを見ている事しか出来なかった百合子は、一瞬頭が真っ白になって、危うくジョニー・ブラックの毒剣の刃が直撃する所だった。
何とかギリギリで避けたものの、胸の装甲をかすり、明日奈が横からランベントライトによる突きが無ければ追撃されていただろう。
「うそ……ナツ、うそ……いやぁあああああ!!?」
一夏が沈んだ海面が真っ赤な血で染まっていた。
周囲には脇腹を抉られた時のものであろう臓物なども浮かんでおり、思わず目を反らしたくなる。
「ユリコちゃん! Pohを!!」
「っ!」
「箒ちゃんじゃアイツに勝てないから! 早く!!」
「はい……!」
悲しむ間も与えてもらえない。
だけど、それも仕方が無いのだろう。だからこそ、百合子は槍陣を操り呆然としている箒に斬り掛かろうとしているPohの下へ飛び、
「無限か。恋人が死んだのに戦えるとは、最高にCOOLだな」
「っ!」
弾き飛ばされてしまうものの、百合子は未だに呆然としている箒に目を向けると苛立ちを隠さずルー・セタンタの石突で彼女をセシリア達の方へ突き飛ばす。
「グッ!? な、何をする!!」
「邪魔!! 何も出来ない癖に、ただ足を引っ張るだけなら、戦場に出ないで!!」
「なっ! 私だって、戦おうと……っ」
「それでナツの足を引っ張って、ナツが落とされたのに、寝ぼけたこと言わないで!!」
「っ!」
何も、言い返せなかった。
ただ、自分は一夏の隣に立ちたくて、自分だって一夏と一緒に戦えると証明したくて、自分こそが、一夏のパートナーに相応しいのだと見せ付けて、目の前の敵を倒す事でそれを誰もが認めてくれると思ったのに、結果は一夏の死という現実。
何を言われようと、何があろうと一夏の隣に立つのは自分だと、そう信じてきた箒の心が、初めて……折れ掛ける。
「話してる暇があるのかぁ? 無限さんよぉ!!」
「くっ!? せぁああ!!」
Pohの猛攻を受け流しながらソードスキルを叩き込み、だけどアインクラッドの頃より実力が上がっているPohの攻撃を、全て避けきるのは難しかったのか、ソードスキルの合間に左肩の装甲や右の
「っ!? うそ、絶対防御が……!?」
通常、生身の箇所には絶対防御が発動して操縦者を保護するのがISの機能なのに、今の攻撃に絶対防御が発動せず、生身の二の腕を斬られた。
おかしい、これは先ほどの一夏の時と同じだ。あの時、一夏も絶対防御が発動せず脇腹を抉られていたのだから。
「HA! 毒は効いてるみたいだな!!」
「ど、く……っ!?」
「ジョニー・ブラックの剣はな、ソードスキルが使えない代わりに日和ったIS操縦者にとって最悪のウイルスを仕込んであるんだ」
「ウイルス!?」
「そう、傷口からISのシステムに侵入して、絶対防御の機能をシャットダウンさせる、絶対防御を無効化する事にのみ特化した強力なウイルスだ」
男でもISに乗れるシステムといい、そのウイルスといい、随分と世界にばら蒔かれれば危険な技術が多い。
絶対防御無効化ウイルス、そんなものが世間に出回ればISの絶対安全説が崩れてしまう。操縦者は絶対防御に守られて死ぬ事は無いと油断しているIS操縦者達を、簡単に殺せてしまうのだ。
「なら、攻撃を受けなければ……っ!」
「やってみろ、無限!!」
最悪、その一言だろう。
和人も明日奈も百合子も、
明日奈は何度もジョニー・ブラックに出し抜かれ、和人や百合子への奇襲を許してしまい、今では明日奈と和人の二人も絶対防御機能をシャットダウンされてしまっていた。
「キリト君……ごめんね」
「いや……仕方が無いさ」
ジョニー・ブラックを相手に奇襲を防ぐには一人では難しいのは、アインクラッドに居た頃から知っている。
だけど、一夏が落ちた今は判っていても明日奈一人で相手しなければならない状況で、奇襲を許すなというのが無理な話なのだから。
「セシリア! 福音と篠ノ之を連れて旅館へ戻れ!」
「し、しかしそれでは和人さん達が撤退出来ませんわ!!」
「いいから! 早く戻って織斑先生と山田先生を何とか出撃させてくれ! それまで時間を稼ぐ!!」
正直、自信は無い。
だから、最悪は死を覚悟しなければならないが、セシリア達が巻き込まれるよりはマシだ。それに、嘗て日本国家代表として世界最強に輝いた千冬と、千冬を除けば日本最強とまで呼ばれた元日本代表候補生の真耶が来てくれれば撤退も可能なのだ。
「逃がすと思ってるのか?」
「っ!?」
いつの間にか、囲まれていた。
セシリア達も含めて、無人のIS10機ほどに囲まれ、銃口を向けられている。
「メイルシュトローム!?」
「あれ、中国の
「リヴァイヴもある……!」
不味い状況になった。これではセシリア達も逃げられないし、福音を抱えているセシリアは戦えず、鈴音とシャルロット、箒ではあれだけの数の無人機を相手に、戦えはするだろうが、勝てるかと問われれば……難しい。
「終わりだ、黒の剣士、閃光、無限……ショウタイムも、いよいよ終盤だぜ」
「くそっ!」
恐らく、自衛隊が来ないのは無人機達が原因なのだろう。
そして、その無人機がここに居るということは、自衛隊が来る事は無い。それはつまり、増援も無く、絶体絶命のこの状況で、勝つ見込みが……無いということ。
「ナツ……」
和人は一夏が沈んだ海面を見つめ、死んだ弟分と、自分たちは同じ末路を辿る事になるのだと、もうすぐ、自分たちも弟分が眠る場所へ行く事になるのだと、考えてしまった。
そう、そう考えた時だった。
「っ!?」
一夏が沈んだ海面から、巨大な光の柱が天高く昇ったのだ。
青白い光の柱は和人達に攻撃しようとしたPoh達の動きを止め、無人機達もまた、想定外の事でAIが誤作動を起こしたのか、一瞬だがフリーズしてしまった。
「あれは……ナツ!!」
「え……ナツ君!?」
「生きてた……のか」
光が収まり、その数瞬後に海面から飛び出した人影……全身展開装甲によって青いエネルギーを放出し、右手にトワイライトフィニッシャーを、左手に装甲と同じく展開装甲によって青いエネルギーを放出する白い盾を持った白式を纏う一夏が、無傷の身体で姿を現した。
「ナツ!」
「心配掛けたな、ユリコ……ごめん」
「ううん……良かった、生きてて」
「ああ……少し待っててくれ、今……終わらせるから」
軽く百合子の唇に口付けをして、一夏はPoh達と対峙する。
その瞳は、先ほどまでの憎悪に染まったものではなく、強い決意を秘めた男の眼光だった。
「Wow……生きてたのは、驚いたが、随分と様変わりしたな白の剣士」
「ああ、お前達を倒す為に、地獄の底から這い上がるのをどこぞの天才様が手伝ってくれたんでな」
【
一夏の身体が、黄金の光に包まれ、トワイライトフィニッシャーが紅のライトエフェクトを纏った。
「ユニークスキルなんて、初めて使うから慣れてないんだ……手加減は期待するなよ!!」
「なに……っ!?」
一瞬、一夏の姿を見失った。
そして、気がついた時にはジョニー・ブラックが落とされていたのだ。
「Wo-Wo-Wo……おいおい」
「神聖剣のソードスキル、ゴスペルスクェア……ヒースクリフが使っている所を何度か見ていて良かったよ」
我に返り、エストックの刃を振りかぶって飛び出したザザだったが、その刃を盾に受け止められて逆にソードスキルの餌食となった。
神聖剣のソードスキル、水平十字斬りを行う2連撃のディバイン・クロスがザザのエストックを破壊し、シールドエネルギーを大きく奪い去る。
「まだまだぁ!!」
一度ザザからバックステップの要領で距離を取った瞬間、盾を前面に一気に突進し、盾がザザと激突した瞬間、その横からトワイライトフィニッシャーの刃を突き刺した。
爆発を起こしたザザのISの
「キリトさん達は周囲の無人機を! Pohは俺一人で大丈夫です!」
「……わかった、気をつけろ!」
「はい!」
周囲の無人機に和人、明日奈、百合子、鈴音、シャルロットが攻撃を開始したのを確認して、一夏はPohと向き合った。
仲間が落とされたというのに、Pohは未だ不敵に笑い、右手に持った
「決着の時だぜ……Poh」
「HA! いい、いいぜぇ……最高だぜ白の剣士!! 最高のショウにしようじゃないか!! イッツ・ショウ・タ~イム!!!」
トワイライトフィニッシャーと
聖騎士と兎、二人の天才の加護を受けた白き剣。
宿敵と交えた刃がついに最終奥義を放った時、織斑の因縁が姿を現す。
次回、SAO帰還者のIS。
「サイレント・ゼフィルス」
静かなる蝶が、不敵に笑う。