SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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な、長くなった……。
PCの調子が悪いし、もう最悪。


第四十二話 「受け継がれる盾、二人の天才の祝福」

SAO帰還者のIS

 

第四十二話

「受け継がれる盾、二人の天才の祝福」

 

 一夏が落ちる少し前、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)が襲撃してきた時、丁度旅館の作戦司令室ではモニターにその様子が映し出されていた。

 モニターの前には作戦指揮を執る千冬とオペレーター作業をしている麻耶、ラウラ、それから解析として部屋に居る事を許可された束が居て、一夏の憎しみに染まった声を聞き、一瞬だが作業の手が止まってしまう。

 

「今の声、織斑君……なんですか?」

「……そう、だ」

 

 麻耶の問いに答える千冬自身、困惑していて自信の無い答えになってしまう。当然だ、姉である彼女自身が弟のこんな声、聞いたことなど一度だって無かったのだから。

 

「あいつら……前に束さんの隠れ家に襲撃してきた奴らだ」

「何……? 束、それは確かか?」

「うん、間違いないよ……でも、何でいっくんとかず君以外の男がISに?」

 

 一夏と和人がISに乗れる理由は束自身もまだ不明なのだが、まさか笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーも彼ら同様に例外、とでも言うのか。

 だが、その疑問は直ぐに笑う棺桶(ラフィン・コフィン)が語って聞かせた事で判明した。天才の頭脳を持ってすれば、理屈さえ理解出来れば後は実行可能かなど、簡単に計算出来る。

 

「どうですか? 篠ノ之博士……奴らの言うこと、本当だと思いますか?」

「うん……多分、間違いなく私の所から盗んだ無人機……ゴーレムの起動理論を応用してるんだろうね。ゴーレムはコアを無人で起動させるシステムを搭載していて、戦闘用AIによって操縦させているから、AIの部分を人間が代わりをするだけなら、別に男だろうが女だろうが関係無いもん」

「そんな!? それじゃあ、そんな技術が広まったら大変じゃないですか!?」

「デメリットも、あるのだろう?」

 

 千冬の問い、束は頷いて答えた。

 そう、理論を聞いて直ぐに束は笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の男でもISに乗れる技術のデメリットを思いついたのだ。

 元々の無人機システムの開発者でもあるのだから、それくらい簡単に思いつくのも当然ではあるのだが。

 

「本来ISっていうのはコアを起動させた人と、そのコアとが繋がって、操縦者の思いに応じてコアが力を引き出すものなんだ。二次移行(セカンドシフト)なんかはその大きな例で、あれは操縦者の思いをコアの人格が大きく受け取り、共感して、操縦者に力を貸したいと願った果ての進化だから」

「では、あの人たちの機体は……」

「うん、無人機のシステムでコアを起動させてるって事は、あの男達はコアと繋がってない、だからコアから力を引き出せないから、本来のIS操縦者みたいに土壇場で大きな力を発揮するとか、二次移行(セカンドシフト)するとかは無いし、当然だけど自己進化機能も働かない」

 

 そんなデメリットもあるが、当然メリットとなるのもある。

 男でも乗れるようになるのは当然のメリットとして、もう一つのメリットがコア出力が常に安定しているということだ。

 

「コアと人が繋がっていれば常に安定した出力を得られるなんて理論上不可能なんだけど、コアと機械が繋がっているのだったら常に安定した出力を得られる。それはつまり、本来の操縦者ならコア出力が低下するような精神状態にあっても、あいつ等の機体ならそれは無い。どんな状況下であろうと安定していられるってわけ」

「機械故の安定性ということか……」

「うん、束さん的にはナンセンスというか、美的意識の欠片も無いけどね」

 

 人の可能性を切り捨てたのが、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の機体ということだ。

 

「あ! 動きました!!」

 

 麻耶の声に、モニターを見ると、一夏が動き出した所だった。

 トワイライトフィニッシャー片手に笑う棺桶(ラフィン・コフィン)3人と戦う姿を見て、まず思ったのは、いつもの一夏らしくない、ということ。

 いつもなら剣筋は流れるようにスムーズに、流麗に動いているのに、今の一夏の剣筋はあまりに出鱈目で、ただ感情の赴くままに剣を振るっているようにしか見えない。

 

「いっくん……っ! 落ち着いて、そんな憎しみの感情だけじゃ!」

 

 距離があるので通信が繋がらないのがもどかしい。声こそ拾えるものの、こちらの声は届かないというのが、遣る瀬無い。

 

「一夏の仲間を、目の前で殺した、か……」

「教官……?」

「いや……いったいSAO事件で死んだ4000人近くの内、あいつ等に殺されたのはどれだけの人数なのだろうな、と少し思ってな」

 

 昨夜、明日奈に言われ、自分で調べる事にしたSAO事件の事、それには当然だが笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のことも含まれているのだろう。

 積極的殺人歴のある人間も、あの事件では存在しているという事を思い出して、今更ながら異常な事だと認識していた。

 そして、弟はそんな殺人歴のある人間に、殺意を抱いているのだと知り、いったい弟はアインクラッドで、どんな経験をしていたのだろうか、疑問を抱いてしまったのだ。

 今まで、もう二度と弟をVRMMOになど関わらせたくない、そう思ってSAO事件から目を逸らし、一度だって一夏からアインクラッドでの事を聞いたことが無かった。

 ずっと、話そうとしていた弟の言葉を無視して、頭から拒否していたからこそ、千冬は何も知らない自分を初めてもどかしく思っている。

 

「一夏があそこまで憎む理由、仲間を目の前で殺された時の気持ち……無視してしまえば、私は二度と一夏に歩み寄ることは出来ないのだろうな」

「……ちーちゃん」

「認めるつもりは無い。今でも一夏はISに進むべきだという気持ちは変わらないし、これからも変えるつもりは欠片も無い。だが、あの憎しみに目を曇らせる一夏を見てしまった以上……姉として、知る義務がある」

「もう……まだ無視するつもりだったら、束さんが思いっきり引っ叩いてたよ?」

「勘弁してくれ……お前にビンタなどされては頭が消し飛ぶ」

「そこまで力強くないよ!?」

 

 戦いは架橋に入っていた。

 一夏がPohと、和人がザザと、明日奈と百合子がジョニー・ブラックと戦っている様子がモニターに映し出されており、現状は互角……否、一夏だけが劣勢だ。

 

「っ!? た、大変です!!」

「どうした? 山田先生」

「び、白式の絶対防御機能に、エラーが発生してます!!!」

「なっ!?」

「うそっ!?」

 

 各人の機体をモニターしていた麻耶が白式の異常に気がついた。

 慌てて束は目の前のコンソールから白式の状態をチェックすると、その異常の原因は直ぐに判明する。

 

「何これ……!? 白式に、ウイルスが侵入してる!!」

「ウイルスだと!?」

「しかもこれ、ISを機能停止させるとか、暴走させるとか、そんな奴じゃなくて、絶対防御機能を停止させる為だけのウイルスみたい」

「そんなウイルス、一体いつ入った!?」

「……あった! これは……あの時の!」

 

 束がウイルスの逆探知をした結果、侵入経路が右肩からだというのが判明する。

 そして右肩といえば、先ほど一夏がジョニー・ブラックの短剣による攻撃を受けたところであり、おそらくウイルスの侵入経路はそこで間違い無い。

 

「あの武器、多分ウイルスを斬った相手に侵入させる特殊な短剣なんだと思う」

「ゲームで言う毒剣という奴だな」

「そっか、ラウラウはALOやってるから判るよね……そう、ゲームとかで出てくるステータス異常を起こす武器、それをリアルで再現させたんだと思うよ」

「チッ! 厄介な武器を……!」

 

 ゲームで言う所のステータス異常、それは今回、リアルでは絶対防御機能のエラーという形で発生した。

 

「っ! 箒ちゃん!? 駄目ぇ!!!」

「あの馬鹿!!」

 

 モニターには、箒が一夏の加勢をしようと飛び出していく瞬間が映し出され、その彼女が乱入した事により、一夏のバイタルは若干だが落ち着きを取り戻し始めたが、箒の乱入は、最悪の結果を齎した。

 

「い、一夏……」

「いっくん!!」

「そんな……っ!?」

「一夏ぁ!!!」

 

 モニターには、左脇腹から臓物と血を撒き散らしながら、海へと落下していく一夏の姿があった。

 

 

 何も無い、真っ白な空間……脇腹を抉られ、死んだと思っていたのに、何でこんな場所に居るのか、一夏は理解出来なかった。

 いや、もしかしたらこれが死後の世界という奴なのかもしれない、そう思いながら横たわる一夏は、ふと抉られたはずの脇腹からの痛みが無い事に気づいた。

 

「傷が、無い……?」

 

 全くの無傷のまま、白式も何も無い、ISスーツ姿のまま、一夏は真っ白な空間で横たわっていたらしい。

 

「ああ、でも死後の世界ならそんなものなのかな……俺、結局何も出来ずに、あいつ等の仇を討つ前に、死んじゃったのかよ……っ」

 

 情けない、あまりにも無様が過ぎる。そんな思いで涙が流れそうだった。

 

「ごめんな、みんな……」

「それは、誰に対しての言葉なのかね?」

「っ!?」

 

 無人だと思っていた空間に、一夏の言葉への問いかけが聞こえた。

 しかも、その声は随分と聞き覚えがあり、そして同時にとても懐かしい、今ではそう思える声だ。

 

「あ、あんたは……!」

「久しぶりだね、ナツ君」

 

 慌てて起き上がった一夏の目の前に居たのは、真紅の鎧と純白のマントを身に纏い、大きな盾と十字の剣……剣と盾の二つで一つの武器であったリベレイターと呼ばれる武器を持った青年だった。

 

「ヒースクリフ……茅場晶彦!?」

 

 そう、この男こそ、かつてアインクラッドにて最強の聖騎士と呼ばれ、同時にSAO事件を引き起こした張本人でもあったヒースクリフこと、茅場晶彦だ。

 

「な、何で……あんたが」

「ふむ、状況を理解出来ていないようだな……ここは、死後の世界ではなく、君の専用機、白式の中……まぁ、簡単に言えば白式のコアと繋がっている君の精神世界と言えようか」

「俺の、精神世界……」

 

 この真っ白な何も無い世界が、一夏と白式の世界なのかと思うと、らしいと言えば良いのか、寂しいと言えば良いのか。

 

「んで? その白式のコアと俺の精神世界に、何でアンタが居るんだ?」

「キリト君から聞いてはいないかね? 私はアインクラッドでの最終決戦の折、彼に破れ茅場晶彦としての意識を電脳空間へとスキャンさせたという話を」

「……ああ、そういえば」

 

 そんな話、聞いたことがあった。

 

「そして、そのとき私はキリト君とアスナ君、ナツ君、ユリコ君の4人のナーヴギアのローカルメモリに私の意識のコピーを紛れ込ませていたのだ」

「何で、そんな真似を……」

「興味があった、ただそれだけだ……システムを上回る人間の意志の強さを見せ付けたキリト君と、そんな彼と共にある君たちに」

 

 ただ……、とヒースクリフは続ける。

 

「先ほどの君の戦いを見せて貰ったが……嘗ての君らしくなかったな。無様なものだ」

「っ!」

「君の話はアスナ君から聞いたことがあるから知っている。白夜剣舞のメンバーが彼らに殺されたそうだね」

「ああ……だから、俺は奴らを、この手で殺さないといけないんだ!」

「その結果が、今の君ではないのかね?」

 

 憎しみに目が曇り、その結果が無様にも脇腹を抉られ、ここに居る。

 勿論、一夏だって理解はしている。憎しみに支配されれば、いつも通りの戦い方が出来るわけ無いなんて事も、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)はそんな理性を失った戦い方で勝てる相手ではないことも。

 だが、理解はしていても、どうすることも出来ないことだってあるのだ。

 

「君は、あの世界で何を学んだのだね」

「……何?」

「君は、あの世界で憎しみしか学ばなかったのか?」

「それは……」

 

 そんな訳ない。あの世界で、大切なことを学んだ。命の大切さ、生きるという事の意味、仲間との絆、そして何より……愛する人の存在を。

 

「ユリコ君を守る、それが君の誓いだったはずではないかな? 君とユリコ君が結婚すると報告に来た時、君は私にそう誓った筈だ」

「……そ、れは」

「そのユリコ君を守るどころか、彼女の制止の声を無視して戦い、無様を晒した君は……何がしたかった?」

「……」

「過去にばかり目を向け、今守るべき者を守る事を忘れる……白の剣士とは、その程度だったのか?」

「違う……ああ、違うさ! そんなこと、あっちゃいけない!! 俺は、ユリコを守ると誓った! もう二度と、大切な人を失わないと、ユリコを愛すると決めた時に俺は誓った!!」

「ならば、君がするべきことは何だ?」

「……戦う! 白夜剣舞の皆の仇もあるけど、それ以上に……俺はユリコをこの先、一生守り続ける為に、戦う! こんな所で死ぬわけにいかない!!」

 

 その時だった。

 今まで真っ白なだけだった筈の空間が突然青空が広がり、一夏達は一面に広がる水の上に立っていた。

 

「これは……」

「どうやら、君は合格ということらしい」

「合格……?」

 

 すると、ヒースクリフが一夏の背後を指差す。

 振り返ってみれば白いISを纏った黒髪の女性と、白いワンピースを着て、白い帽子を被った少女が立っていて、ジッと一夏を見つめていた。

 

「あなたは、力を求めますか?」

「……ああ、力が欲しい」

「それは、何の為に?」

「守るため……あの日から、俺の戦う意義はユリコを守る為にある」

 

 その答えを待っていたとばかりに問いかけていた女性ではなく、その傍らに立つ少女が一夏の前に歩み寄った。

 

「これは、お母さんの気持ち……生きて帰ってって、お母さんは言ってた」

「おかあ、さん……束さんか」

「うん……だから、私はあなたを生かすよ」

 

 少女の手のひらに淡い光が集まり、現実世界では抉られている左脇腹を覆った。

 

「ナツ君」

「……」

「これを、受け取りたまえ」

「これって……リベレイターの、盾?」

 

 ヒースクリフは一夏に自身が持っていた盾を差し出した。

 彼をアインクラッド最硬たらしめていたリベレイターの盾、それを受け取った時、何かが一夏の中に流れ込んでくる。

 

『晶彦君……もし、いっくんが生きて帰ってきたら』

『ああ、そうだね……束くんの弟君だ、一度くらいは……助けてあげよう』

『お願いね』

「っ!? い、今のは……」

 

 脳裏に再生された映像、それは束と茅場晶彦が何処かの山小屋らしき所で話をしている光景だった。

 

「アンタ、もしかして束さんと……」

「……時間だ、もう行きたまえ」

「待ってくれ! せめて、一つだけ答えてくれ!」

「何かね?」

「……何で、俺たちだったんだ?」

「……運命、だったのだろう」

 

 その言葉をヒースクリフが口にした時、既に一夏の姿は無かった。

 

「これで、私の役目は終わった……さぁ、戦いたまえナツ君! 君の戦いを、アインクラッドとの決着を、君自身の手で着けるんだ!」

 

 

 海底に沈み続ける一夏は目を覚まして直ぐに白式のチェックを軽く済ませた。

 先ほどまでとは大きく姿を変えた白式に大きく頷き、全身の展開装甲(・・・・・・・)と、雪片弐型が変形した大型の盾を展開し、一気に海面へと浮上していく。

 

「行くぞ……白式・聖月(びゃくしき・みつき)!!」

 

 天災の加護(全身展開装甲)天才の加護()と共に、進化した白の剣士は飛び立った。

 もう、憎しみに支配されるだけの戦いをしない為に、愛する人を、生涯守り続けるという誓いを、貫く為に。




絶望と涙の戦場を駆ける黒と閃光と無限。
己が過ちに涙を流す紅と無力を嘆く乙女達の前に進化した白が目覚める。
次回、SAO帰還者のIS。
「神聖剣」
聖騎士と兎の加護が、憎しみを打ち払う。

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の機体のメリットは書きました通り、男でも女でも乗れるというものと、常に安定したコア出力を維持出来るという点。
逆にデメリットはコア出力が常に一定だから普通のISのように出力を急上昇させるといった事が出来ないという点です。
ギャラクシーエンジェルをご存知の方がいれば判るかと思いますが、普通のISを白き月の紋章機、ラフコフのISを黒き月の紋章機……ダークエンジェルだと思っていただければ、わかりやすいかな?

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