SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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ふ、二日酔いで頭が……。


第四十一話 「憎悪の刃、落ちた白の剣」

SAO帰還者のIS

 

第四十一話

「憎悪の刃、落ちた白の剣」

 

 ドンッ! という爆音にも似た音が響き渡った。

 そして、その音をこの場に居る誰もが認識した瞬間には、既に一夏の姿は先ほどまでの百合子の隣ではなく、Pohの目の前に居て、トワイライトフィニッシャーの刃を振り下ろしていた。

 だが、その刃をPohはアインクラッドで使っていた物とよく似た包丁型の短剣……友切包丁(メイト・チョッパー)で受け止め、その隙にエストックを持ったザザと短剣を持ったジョニー・ブラックが斬り掛かるも、左手に雪片弐型を展開してエストックを受け止め、右足で短剣を蹴り上げながらバク転して雪片を収納、ピックを投擲しながら再度Poh目掛けて瞬時加速(イグニッションブースト)で接近する。

 

「ナツ! 止まれ!!」

「ナツ君だめぇ!!」

「ナツ!!」

 

 和人達は一人飛び出していった一夏へ静止の声を上げるが、その一夏は既に憎しみに思考が支配され、周囲の声は一切耳に届いていない。

 それどころか、トワイライトフィニッシャーを再び受け止めたPohに背後からザザが振り下ろしたエストックの刃を握り締めることで受け止め、その刃を無理やりPohの顔面目掛けて突き刺そうとしている。

 もちろん、ザザもエストックを引っ張り、阻止しようとしているので、刃がPohの顔面に突き刺さる事は無く、逆にジョニー・ブラックの短剣の刃を右肩の装甲に受けてしまった。

 

「グッ!?」

「油断大敵だ! 白の剣士!!」

「がぁっ!?」

 

 腹部に衝撃を受けた一夏は、そのまま後ろに弾き飛ばされてしまう。

 Pohの蹴りがどうやら一夏の腹に入ったらしく、シールドエネルギーが随分と減ってしまっていた。

 

「殺す……殺してやる!!!」

「良い殺気だぁ……良い、良いぜ白の剣士! やっぱテメェはそうじゃなきゃなぁ!! ならばその殺意に敬意を評して行かせてもらうぜ……イッツ・ショウ・タイム!!」

 

 Pohが動き出した。

 マズイ、そう和人達は直感してそれぞれ武器を手に飛び出そうとしたのだが、その前に……。

 

「セシリア! 他のみんなと一緒に下がっていてくれ!!」

「な、なぜですの!? みんなで戦えば数ではこちらが」

「駄目だ! ヤツらは今までの相手とは訳が違う! 本気で殺しに来る相手なんだ!」

 

 まだセシリアも鈴音もシャルロットも箒も、本物の殺意を持った相手と戦ったことなど無い。ましてや本気で殺しに来る相手との戦闘など未経験だ。

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)相手に、最初から捕縛を考えて戦うのは、あまりに無謀、更に先ほどまでの一夏との戦闘を見る限り、奴らの戦闘技術はアインクラッドに居た頃より更に上回っている事から、セシリア達では敵わないのは明白。

 むしろ、援護など入られても逆に邪魔になってしまう可能性だって考えられるのだ。奴らがセシリア達を人質にでもしたら、負けるのはこちらなのだから。

 

「アスナ! ユリコ! 行くぞ!」

「うん!」

「はい!」

 

 Pohも攻撃に回って劣勢になっている一夏の下へ行き、和人がザザに、明日奈と百合子がジョニー・ブラックにそれぞれ斬り掛かる。

 

「黒の……剣士……あの時の、決着……!」

「あの時……? そのエストック、なるほどな」

 

 嘗て、アインクラッドで起きた笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐作戦の際、和人はエストック使いと戦った記憶があった。

 つまり、あのエストック使いが、このザザだったということだろう。あの時、エストック使いとの戦いは和人の勝利で終わり、拘束したのは記憶にあるので、ザザの言う決着とは、どちらかが死ぬまで戦うということか。

 

「ヒャッハー! 閃光と無限槍じゃねぇか! あの時以来だな! 今度こそその綺麗な顔、切り刻んでやるぜ!」

「黙りなさい! もうこれ以上、あなた達の好きにはさせないわ!」

「大人しく、私たちに裁かれるか、法の裁きを受けるか、選んでもらう」

「ハッ! 俺たちが死ぬかよ! リアルで殺しの出来ないお嬢ちゃんは大人しく震えてな!」

 

 和人がザザと、明日奈と百合子がジョニー・ブラックと戦ってくれるおかげ、一夏はPohと一対一になった。

 

「Yeah! イイ、イイねぇ! やっぱ殺し合いってのはこうじゃなきゃなぁ!!」

「うううぉおおおおおあああああああ!!!」

「Ha! まるで獣だな! 白の剣士の殺意は心地良いが、獣臭くてたまらん!!」

「死ねぇええええええ!!!」

 

 一夏の攻撃の一切がPohに受け止められ、受け流されていく。

 まるで攻撃が通らないPohに次第に一夏のフラストレーションも溜まっていき、どんどん冷静さを失って憎しみと焦りが攻撃から精細さを無くしていた。

 ただただ、その憎悪が指し示すがまま、まるで本能だけで剣を振るい、ソードスキルも何も無い戦い方は、まさしく獣そのもので、少し離れたところからいつでも援護に入れるようにしていたセシリア達に言わせてもらうなら、あまりに……無様。

 いつもの一夏らしくない、織斑一夏を織斑一夏たらしめているソードスキルありきのアインクラッド流とでもいうべき剣技など、欠片も無い姿は、見るに耐えなかった。

 

「セシリア、どうしよう? せめて一夏の援護だけでもした方が……」

「駄目ですわ……いくら一夏さんがいつもの彼らしくない戦い方をしていても、近接戦闘という分野であの二人の戦闘は正直、国家代表クラス同士の戦いと言えます。私たちでは、恐らく援護などしても邪魔にしかならないですわね」

「でも、このままじゃ一夏だってマズイじゃない!」

「せめて、和人さん達が一人でも援護に、と思うのですが……難しいですわね」

 

 和人はザザと互角状態なので無理だろう。

 明日奈と百合子はジョニー・ブラックの戦い方を見る限り、二人で戦った方が良いのは明白だ。ジョニー・ブラックは隙あらば和人か一夏に奇襲を掛けようとしているので、一人で抑えるのは無理、二人で抑えて奇襲させないようにしないと危険なのだ。

 現状、セシリアも鈴音もシャルロットも、近接戦闘という面で見れば誰一人、援軍として行けるほどの腕前は無いと自覚しているから、どうすることも出来ない。

 願わくば、一夏が冷静さを取り戻してくれることを祈るしかない。

 

「それにしても、自衛隊、遅くない?」

「もう来ても良い頃、だよね?」

「何か、あったのでしょう……彼らが組織の人間だというのなら、考えられるのは」

 

 他の、同じ組織の者が自衛隊を落としたか、それとも現在交戦して足止めしているか。

 

「最悪、自衛隊の援軍は期待出来ないですわ」

 

 ならば、一夏がまずくなれば、援護に出よう。例えPohに勝てずとも、連携して撤退するだけの時間を稼げればそれで良い。

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と、その操縦者は鈴音が担いでいるので、彼女は無理でも、最悪逃げるのに徹すれば、何とかなる。

 だが、その予定は大幅に狂う事となった。

 

「もう、我慢出来ん!!」

「ちょっと、箒!!」

「止まりなさい! 箒さん!!」

「私なら剣の腕であんな奴らに遅れを取るものか!! 私が一夏と共に戦えば、勝てる!!」

 

 これだから下手に剣道で全国優勝して腕前があると自覚している人間は厄介だとセシリアは思っていた。

 箒は確かに剣の腕前で言えば代表候補生である自分たちよりも上だろう、それは認める。だけど、それ以前に箒は自分と相手の力量差を見極める能力が欠けているのだ。

 少しは相手の力量を判別することは出来るだろうが、変に実力がある分、彼女は若干相手を見下している所がある。

 自分は剣道で全国優勝するほどの腕前だから、剣の腕だけなら自分に勝てる者など居ないと、そう思っている節があった。

 

「一夏! 援護するぞ!!」

「っ! 邪魔だぁああああ!!」

「なっ! 何を!!?」

 

 一夏の援護をしようとPohに斬り掛かろうとした箒を、一夏が蹴り飛ばした。

 何をするのか、と怒鳴ろうとした箒だったが、自分が居た場所に友切包丁(メイト・チョッパー)を振り下ろしているPohの姿を見て背筋が冷っとする。

 Pohの動きが見えなかった。もしあのまま一夏に蹴られなければ、あの肉厚の刃は、自分を斬り裂いていたかもしれない。

 

「Wow、お嬢ちゃん……雑魚は引っ込んでな」

「なっ!? だ、誰が雑魚だ!」

「邪魔するな箒……お前の援護なんて、必要無い!! こいつを殺すのは、俺だけだ!!」

「い、一夏……」

 

 一夏の言葉が、箒には信じられなかった。

 昔の一夏は、優しい少年で、こんな簡単に殺すなんて事を言えるような人間ではなかったのに、SAOが、一夏をこんな風に変えてしまったのかと、一瞬思いそうになったが、先ほどの話を聞いてSAOが、ではなく、Poh達が、一夏の仲間を殺したから変わってしまったのだと、そう理解した。

 

「Pohーーーっ!!」

「Yeah! 最高のショウだぜ!!」

 

 駄目だ、このまま一夏を戦わせては駄目だ。

 劣勢なのは勿論だが、それ以上に今の一夏は冷静ではない。だからこそ、このまま戦わせては、何かが壊れてしまう。

 そう思った時には箒の身体が自然と動いており、両手の刀を構えてPohに向かって飛び出していた。

 

「はぁああああ!!」

「チッ……ショウの邪魔だぜ!」

 

 友切包丁(メイト・チョッパー)がライトエフェクトによって輝いた。それはつまり、一夏達と同じソードスキルシステムを、ISに搭載しているという証拠であり、そして同時に……嫌な予感を、否……嫌な予想をしてしまう原因になった。

 

「チッ!」

 

 自分の記憶が確かなら、Pohが好んで使うソードスキルは一つしかない。

 そして、それがどういうスキルなのかを知っているからこそ、一夏は箒を蹴り飛ばして、その身でPohのソードスキル……、ファッド・エッジを受けるのだった。

 

「カハッ!?」

 

 普通なら、生身の部分に刃を受ければ、絶対防御が発動するのに、何故かこのときは発動しなかった。

 絶対防御が発動しないということは、その肉厚の……ISサイズの刃はそのまま一夏の左脇腹を抉り、臓物や血を撒き散らして、白い装甲を赤く染め、意識を刈り取られた一夏は海へと落下する。

 

「い、一夏ぁああああああ!!!」

 

 箒の絶叫が響き渡る中、海へ落ちた一夏は、海面を血に染めながら深く暗い、海の底へと……沈んでいく。




落ちた白の剣、響き渡る乙女の絶叫、嘲笑うかのように高らかと死の宣告をする男達。
残された剣士達が涙を流しながら戦いを続ける最中、白の剣士は嘗ての聖騎士と対面する。
次回、SAO帰還者のIS。
「受け継がれる盾、二人の天才の祝福」
白は、紅と兎の洗礼により目覚める。


次回予告、もはや意味不明w
ああ、それとセッシー達も戦えよ、という意見があれば先に言います。
SAO組の戦闘があまりに高度すぎて援護が逆に邪魔になるんですよ。
寧ろ、ラフコフ相手に大人数で乱戦は危険という。

それから今回の最後、一夏に絶対防御が発動しなかった理由は兎ではないのであしからず。ちゃんと理由があったりします。
ヒントは肩の傷。

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