SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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紅椿がどうなったのか、ご開帳。


第三十七話 「紅椿、力を持つ事の意味」

SAO帰還者のIS

 

第三十七話

「紅椿、力を持つ事の意味」

 

 篠ノ之束が持ってきたIS、世界中が未だ第3世代型ISの試作実験を行っている中に現れた第4世代型のIS、紅椿。

 それは彼女から最愛の妹への誕生日プレゼントという名目で用意された篠ノ之箒専用機という話だった。

 世界中に混乱を招きかねないその存在に、少々呆然としていた千冬が我に返った途端怒鳴り散らすのも無理は無い。

 

「束! やりすぎるなと言ったはずだ!」

「いや~、やっぱり束さんが作る物は十全じゃないとね~。第3世代でも良かったかなぁとか思ったんだけど、まぁ……でも問題は無いよ?」

「何……?」

「だって、この紅椿は確かに世代分別では第4世代で間違い無いけど、現状だと性能的に第2世代相当のスペックしか無いから」

「なっ!? どういうことですか!? 姉さん!!」

 

 第4世代という未知の力を目の前にして喜びの絶頂にあった箒が、束の言葉で一気に怒りを露にした。

 当然だ。第4世代などという現状世界最強の力とも言えるであろうISが、何故第2世代相当のスペックしか無いのか、その理由が理解出来ないのだから。

 

「だって~、今の箒ちゃんには正直、第4世代のISを渡すつもりは無いんだもん。でもじゃあ紅椿をあげないなんて誕生日プレゼントを用意した意味が無くなるし~。なら紅椿を渡せて、尚且つ第4世代の性能を持たせないようにするならどうするか、簡単な話だよね~、リミッターを付ければ良いんだから」

「リミッター……?」

「そうだよ。今の箒ちゃんじゃ、正直な話をすると第4世代型ISとしての紅椿の性能を120%発揮するなんて無理。なら箒ちゃんのレベルに合わせてリミッターを掛ける事でスペックダウンさせれば良いだけの話なんだよ」

 

 現状、紅椿には4つのリミッターが設けられており、全リミッターが掛かった状態だと第2世代相当のスペックしか発揮出来ない。

 今後、箒がこの紅椿に乗って操縦者としてレベルをアップさせていく事で、それに応じて自動でリミッターが外れるようにしているのだとか。

 一つ外れれば第2,5世代相当、2つ目で第3世代相当、3つ目で第3,5世代、そして最後のリミッターが外れる事で初めて第4世代型ISとしての性能をフルに発揮出来るようになる。

 

「だから、現状だと第4世代型ISとしての真骨頂である展開装甲は使用不可能、武装も展開装甲を利用したビット兵器は使えないから、レーザー射出型の刀、“雨月”と“空裂”の二本しか使えない状態。速度はまぁ通常の第2世代ISの打鉄やラファール・リヴァイヴよりは出るけど、多分速度重視の第2世代であるイタリアのテンペスタと同等クラスかな?」

「そ、そんな……なんでそんな余計なことを!!」

「余計……ね」

「そうでしょう!? 私は最強の力を求めて貴女に連絡したんだ! なのに出てきたのは第4世代とは名ばかりの枷を嵌めた機体じゃ、態々貴女に連絡した意味が無いじゃないですか!!」

「つまり箒ちゃんにとって、お姉ちゃんは自分の都合の良いときだけ連絡して、最強のISを用意させるだけの存在なのかな?」

「っ! そこまでは言ってない! でも、貴女の所為で私の生活が滅茶苦茶になったんだ! なら、貴女は私の言うことを聞く義務がある!!」

「うん、だから紅椿用意したよね?」

「だったら、リミッターを今すぐ外してください。そんな物、私には必要無い」

「それは駄目、言ったよね? 箒ちゃんには第4世代相当の力を扱うだけの実力が無いし、その覚悟も無い」

 

 いつも、箒には笑顔を向けていた束が、このときばかりは真剣な表情を向けていた。

 その鋭い眼光に、一瞬怯みそうになる箒だが、負けじと睨み返しても束には何処吹く風、一切妹の眼光に恐れ戦く様子は見られない。

 

「箒ちゃん、箒ちゃんが電話してくれた時、お姉ちゃん聞いたよね? 何で力が欲しいのか」

「ええ、その問いに私はちゃんと答えました」

「うん、その答えが理由。あんなふざけた答えしか持てないのに、第4世代の力を持つなんて無理な話だよ。今の箒ちゃんは正直、専用機を用意してあげただけでも幸運だったと思うべきなんだから……今の、この場の誰よりも、色んな意味で弱い箒ちゃんには」

「っ!」

 

 弱い、その言葉が我慢ならなかったのか、箒は何処から取り出したのか木刀を片手に目の前に束へその木刀を振り下ろそうとした。

 脳天目掛けて、その結果がどうなるのか考えもせず、ただ自分の思い通りにならない事に癇癪を起こした子供のように。

 だけど、その木刀が束の脳天をかち割る事は無かった。何故なら束を守ろうと一夏達が動くよりも早く、束が量子化していた刀を展開、抜刀して箒の木刀を断ち斬ったのだから。

 

「なっ!?」

「箒ちゃん、いつまで子供みたいな癇癪を起こして暴力を振るうような真似を続けるのかな? 確かに、そうなった原因の一端はお姉ちゃんにあるし、それについては反省もしてるし、これから償うつもりだよ? でも、箒ちゃんはその性格を改善する努力すらしない……ううん、性格の事だけじゃない、あらゆる事で努力をしているように見えない」

 

 性格だけじゃない、ISの事にしたって、彼女はISが嫌いだからとIS学園に入学するまでISの勉強などして来なかった。

 IS学園に入学してからも、操縦を上手くなろうという努力をした事も無い。ただ流されるままに、抗いもせず、言葉では姉を嫌っている癖に、篠ノ之束の妹だという立場に甘えている。

 

「箒ちゃん」

「っ!」

 

 束の持つ刀の切っ先が箒の喉元に突きつけられ、箒は身動きが取れなくなった。

 

「それからちーちゃん」

「わ、私もか……?」

「そう、二人とも……もう少しさ、現実を見ようよ? 現実を見て、そしていつまでも前に進まず立ち止まっているのは自分たちだって事を、自覚しなきゃ駄目だよ?」

「何を馬鹿な」

「ちーちゃんはそう言うけど、自覚してないだけ。束さんから見たらちーちゃんはずっと2年……もう3年になるのか、3年前から前に進んでない」

 

 刀を鞘に戻して量子化した束は、今度は別の物を展開した。

 出したのは2本の木刀、その片方を自分で持ち、もう片方を何故か一夏に投げ渡す。

 

「束さん……?」

「いっくん、一撃だけで良いから立ち会ってくれるかな?」

「えっと……?」

「今の君を、ソードアート・オンラインというゲームで、アインクラッドという世界で磨き上げた白の剣士としての君の全てを、一撃に込めて見せて」

「……わかりました」

 

 正眼に木刀を構えた束と対峙して、一夏は同じく木刀を構えた。

 その構えはいつも通りの、白の剣士ナツとしての構え。生身である以上、出来る動き、スキルは限られているが、それでも魂を込めた一撃を見せる事は可能だ。

 

「行きます」

「うん」

「っ!」

 

 速度も威力も何もかもが本来の物に劣るが、一夏が見せた動きは片手剣上位スキル、ヴォーパル・ストライクのもの。

 白の剣士ナツの代名詞、一夏がアインクラッドで最も愛用し、最も信頼を寄せ、魂にまで刻み込んだと自負する動き、その一撃は束の頭にあるウサ耳の左側を破壊して、避けた束が木刀の切っ先を一夏の鼻先に突き付けた事で勝負が着いた。

 

「うん、良い一撃だったね」

「簡単に避けてたのに何言ってるんですか」

「いや~、避けるとき、結構ヒヤッとしたよ~? いっくん、強くなったねぇ、束さんに一瞬でもヒヤッとさせるなんて、ちーちゃんにだって無理なのに」

 

 それはつまり、千冬ですら出来なかった事を一夏がやってみせたという事だ。

 

「今の見てて、ちーちゃんと箒ちゃんはどう思ったかな?」

「どうも何も、相変わらずゲームの技ばかり使って、何と愚かな、としか思いません」

「私も同感だ。所詮はゲームの技、現実では何の役にも立たん」

「はぁ……まぁ、後は自分たちで気づけないと意味が無いし、束さんからはもう何も言わないよ~。それより箒ちゃん、紅椿に乗って? 初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を済ませるから」

「む……」

 

 どうしようか、迷った。

 確かに専用機を望んだ箒だが、こんなリミッターに縛られた機体など望んでいなかった。正直いらないと言いたいのだが、一応専用機である事に代わりは無い。

 ならばさっさと乗りこなしてリミッターとやらを早急に外してしまえば第4世代型という世界最強の力を手に入れることが出来ると考えた。

 

「わかりました」

 

 箒が紅椿に乗り込んだところで、黙って見ていた一夏はまだ痺れる(・・・・・)右手をプラプラさせながら和人達の所に並び、心配そうに見つめてくる百合子に苦笑で返した。

 

「やっぱ、束さん強ぇや」

「篠ノ之博士って、剣道やってたの?」

「いや、あの人がやってたのは篠ノ之流剣術の方……実は千冬姉って剣術だと束さんに勝った事が無いんだぜ?」

「へぇ、そんなに強いのか」

「ええ、何せ、箒は何故か知りませんけど束さんって篠ノ之流剣術の師範代でしたからね」

「へ~、天才にして剣術の達人……何だか団長みたいな人だねー」

 

 そう言えば、確かにそうだ。

 あの男も、稀代の天才にして、アインクラッド最強の聖騎士と呼ばれていたのだから、何処か似ている。

 

「ねぇ一夏……本当に大丈夫なのかな? 篠ノ之さん」

「シャルの心配は判るけど、大丈夫じゃないかな?」

「どうして?」

「どうしてって、ラウラなら判るよな?」

「うむ、確かに第4世代というのは世界中が是非ともデータが欲しいであろう存在だが、リミッターが掛けられ第2世代相当のスペックしか発揮出来ないのであれば稼動データなど無意味。全てのリミッターが外れるまでは精々機体データくらいしか役には立たん」

「そうですわね。機体データだけでは第4世代のISのデータとしては不足していますし、展開装甲とやらも現状では使えないのであれば、稼動データが取れない現状ではどうする事も出来ませんわ」

「それと、リミッターもそうよね。博士手ずから掛けたリミッターなら、多分本当に自動で外れる以外に外す方法なんて無いっていうか、誰にも外せないだろうし」

 

 つまり、現状では紅椿は第4世代とは名ばかりの第2世代相当のISでしかない。機体データだけ取れたら、後はリミッターが外れるまでは何の役にも立たないだろうと、世界中が判断する筈だ。

 

「お、織斑先生~!!」

「む?」

 

 そのときだった。

 一般生徒達の方を見ていた筈の麻耶がタブレット端末片手に何やら慌てた様子でこちらに走り寄っている。

 

「た、大変です!! 今、学園上層部から通達があったんですが、非常事態特例が発令されました!!」

「何!? テストは一時中止! 一般生徒は旅館の自室にて別働あるまで待機! 織斑、オルコット、鳳、桐ヶ谷、結城姉、宍戸……それから篠ノ之も一緒に来い! ボーデヴィッヒと結城妹は私達のサポートとして山田先生に続け!」

 

 楽しい海は、これにて一度終わりを迎える。

 昨日から感じていた嫌な胸騒ぎが、現実となる瞬間だった。




次回はついに銀の福音戦です。
ただし、原作とは随分と違う展開になるでしょう。

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