SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせしました。
今回、今作での束の立ち居地が決まるでしょうね。


第三十六話 「篠ノ之束」

SAO帰還者のIS

 

第三十六話

「篠ノ之束」

 

 臨海学校二日目、この日は各種装備の実習訓練と専用機持ち達は本国より送られてきたパッケージのテストが行われる事になっている。

 朝、和人は目を覚まして顔を洗い、朝食を皆で食べた後、ISスーツに着替えて集合場所である海岸へ向かおうとしていたのだが、携帯電話に着信を知らせるバイブレーションが鳴った事に気づいた。

 

「朝早くから誰だ?」

『パパ、シンカーさんからみたいです』

「シンカーさんから!?」

 

 急いで通話状態にして受話口を耳に当てる。

 

「もしもし、シンカーさん?」

『やあキリトさん、お久しぶりです』

「はい、オフの日以来ですね」

『ええ、朝早くにすいません』

「いえ」

 

 それで、何の用があって電話してきたのかを問うたら、それはとても嬉しい報告だった。

 

『実は、ユリエールとの結婚式の日程が決まりまして、IS学園に君たち宛てで招待状を郵送しましたという報告だったんです』

「決まったんですか! おめでとうございます!」

『いやぁ、ありがとう。式は君たちが夏休みに入ってからの日程になってるから、今は臨海学校だっけ? 学園に戻ったら招待状を確認してくれたら大丈夫だよ、場所も書いてあるからね』

「わかりました、アスナやナツ、ユリコにも伝えておきますね」

『うん、ユリエールも君たちが来てくれたら喜ぶと思うから、もちろん僕もね』

「ええ、必ず出席します」

『ありがとう、それじゃあ僕もこれから仕事に出ないといけないから、これで失礼するよ。朝早くからごめんね』

「いえ、それじゃあ」

 

 シンカーとユリエールの結婚式が決まった。

 SAO時代に知り合い、今もALOで時々共にプレイする仲間である二人が、既に入籍しているのは知っていたが、ようやく結婚式を迎えることになったというのは、本当に嬉しいニュースだ。

 

「ユイ、夏休みになったら楽しみが一つ増えたな」

『はい、ユリエールさんのウェディングドレス姿、楽しみです』

「ああ、シンカーさんのタキシード姿もな」

 

 ふと時計を見ると、そろそろ行かなければ不味い時間になっていたので、ユイとの会話を切り上げ、彼女を携帯電話から黒鐡に移すと部屋を出た。

 途中で明日奈と合流し、更に道中で一夏と百合子の二人とも合流したので、丁度良い機会だからと、先ほどシンカーから電話が来たこと、シンカーとユリエールの結婚式の日程が決まったという事を報告する。

 

「わぁ! ホントに!? じゃあ学園に戻ったら結婚式に出席する為のお洋服買いに行かないとねー」

「ああ、そっか……じゃあ俺とナツとユリコと、アスナの4人で買いに行こうぜ。レゾナンスに礼服売り場とかあるよな?」

「ありますけど、学生の俺達は制服でも良いんじゃ?」

「ナツ、ナツとキリトお義兄さんは有名人、少しでも目立たなくするなら、礼服の方が良い」

 

 そうだ。和人と一夏は唯でさえ世界に二人しか存在しない男性IS操縦者として有名なのに、その二人がIS学園の制服で結婚式に出席しようものなら、下手したら混乱すら招きかねない。

 そうなればシンカーとユリエールにも迷惑を掛けてしまうので、ここは礼服を買って、それを着て出席した方が無難だ。

 幸い、4人ともレクトのテストパイロットという立場上、給料も貰っているので懐事情はそれなりに潤っているため、礼服一着を購入する程度なら問題無い。

 

「あ、着いたねー」

 

 砂浜に到着すると、既に来ていたセシリア達と合流する。

 今回、専用機持ちと他の生徒はグループ別けされているので、残念ながらシャルロットとラウラの二人は一般生徒のグループに入ってしまっていた。

 なので、一夏たちと同じグループに入るのはセシリアと鈴音の二人だけだ。

 

「千冬姉たち来たみたいだ」

「ですわね、それはそうと一夏さん? 一夏さんたちはパッケージがありますの?」

「いや、無いからセシリア達の手伝いになりそうだ」

「あら、なら手伝わせてあげるわよ。丁度人手欲しいしね」

 

 千冬と麻耶が来て、麻耶は訓練機を使う一般生徒組の方へ向かい、千冬は専用機組の方へ来た。

 ただし、何故か箒を連れて、彼女を専用機持ちのグループに入れたのには疑問を抱いたが。

 

「では、これより専用機持ちには各自パッケージ換装後にテスト稼動を行ってもらう、パッケージの無い者は手伝いをするように」

「えと、ちふ……織斑先生」

「なんだ、鳳」

「何で箒がこっちに居るんですか? 専用機持ちじゃないんだから山田先生の方だと思うんですけど」

「ああ、それは……」

 

 その時だ。

 大声で千冬のあだ名、「ちーちゃん」という呼称を叫びながら爆走してくる一人の人影が見えた。

 頭に機械で出来たウサ耳を付けて、不思議な国のアリスに登場するアリスの着ている服にも似たファッションで身を包むその人影は、真っ直ぐに千冬に抱きつき、熱烈なハグを交わしている。

 

「ちーちゃんちーちゃん! 会いたかったよ! さぁ! 愛を確かめぐっ!?」

 

 言葉の途中でアイアンクローされ、変な呻き声になってしまった。

 そのままアイアンクローをした千冬は呆れた溜息を零しながらゆっくり手を離す。

 

「いてて、ひどいよちーちゃん!」

「束……自己紹介くらいしろ」

「え~メンドイ……って、言いたいけど、実はそうもいかないんだな~これが! 私が天才! 篠ノ之束さんだよ~ん! よろぴー」

 

 驚いた。“あの”束が何の文句も言わずに自己紹介をしたのだから、当然なのだが、だが納得した。

 何故なら束の視線は和人や明日奈、百合子に向けられていたのだから。恐らく束のことだ、一夏を含めた4人のことは調べてあるのだろうし、知っているのだろう。

 

「やあやあ箒ちゃん、久しぶりだね~、元気そうだね~」

「……どうも」

「もう! クールなのは箒ちゃんの魅力だけど、お姉ちゃんにまでクールじゃなくて良いのに~。ねぇいっくん、いっくんもそう思うよね?」

「え? ああ、えっと……まぁ、折角の姉妹の再会ですし、ね」

「うんうん! 流石いっくん! 話が判るね~」

 

 さり気なく束が一夏に近寄り、何度か身体をペタペタと触って感触を確かめた後、耳元に顔を寄せてきた。

 

「いっくん、無事で良かったよ~……束お姉ちゃん、心配したんだからね?」

「束さん……」

「おかえり、いっくん」

「はい……ただいま、束さん」

 

 2年間、SAOに囚われた一夏のことを、束は本当に心配してくれていて、無事に帰ってきたことを、心から喜んでいるのが判った。

 束は昔から一夏のことを本当の弟の様に可愛がってくれていて、それこそ千冬に隠れて一夏に「お姉ちゃん」と呼ばせていた程だ。

 

「それで、君達がいっくんのお仲間さんかな? えっと、桐ヶ谷和人君と結城明日奈ちゃん、宍戸百合子ちゃん」

「は、はい」

「えっと?」

「……?」

「う~ん、じゃあかず君にあーちゃん、ゆりりん! いっくんと……束さんの大事な弟君と仲良くしてくれて、ありがとうね~」

 

 それから、束は一夏の時と同様に和人に近寄り、その耳元に顔を寄せる。

 

「特にかず君には、本当にありがとうだよ~」

「え?」

「いっくんをSAOから開放してくれて、ありがとう。開放の英雄君♪」

「っ!?」

 

 まさか束にバレているとは思わず、少し驚いたが、同時に天才と名高き束であれば知られていても不思議ではないと納得した。

 和人から離れた束は何故か千冬に拳骨を貰っていたのだが、気を取り直して千冬は束に今日、ここに来た用事を済ませるよう促す。

 

「じゃあ、早速だけど皆の衆! 大空をご覧あれ~!!!」

 

 見上げた先に、そこで一瞬何かが光、次の瞬間物凄い速度で銀色の物体が落下してきた。

 砂浜に落下したソレは、銀色の菱形のコンテナで、束がスイッチを押すとコンテナが消えて中に入っていた物が太陽の下に照らされる。

 それは、紅に染まった一機のIS、どこの国にも見られない作りをした、まだピカピカの恐らくは最新鋭と思しき機体。

 

「じゃじゃ~ん! これぞ、束さんが我が最愛の妹、箒ちゃんの為に誠心誠意、丹精込めて作り上げた最新鋭の第4世代型IS! 紅椿!!」

 

 最新鋭、第4世代、その言葉を聞いた時、箒の表情が暗く歪んだ笑みを浮かべたのを、束だけが気づいていた。

 そんな妹の様子を見て、束は一瞬だけ悲しげな表情を浮かべたものの、それは誰にも気づかれず、静かに己が手で生み出したばかりの紅椿を見上げる。

 

「(ごめんね、紅椿……きっと箒ちゃんなら、いつか君の本当の力を使える日が来るから……それまで、我慢してね)」




次回、束の言葉の意味が判明します。
紅椿に我慢してもらうこととは一体何なのか、本当の力を使える日が来るとはどういう意味なのか、それは次回!

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