SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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オルコッ党の方、暫く彼女の扱いが悪いのはご勘弁ください。ちゃんと決定戦終わった後は良くなりますので。


第三話 「戦士の侮辱」

SAO帰還者のIS

 

第三話

「戦士の侮辱」

 

 1時限目の授業は滞りなく終わった。途中、真耶が一夏と和人に解らない所があるかと聞いてきたが、二人とも確りと参考書を読んでいたので問題なく付いて行けている。

 もっとも、一夏は危うく古い電話帳と間違えて捨てそうになっていたのを、家に遊びに来ていた百合子が偶然見つけて咎めたという隠れエピソードがあるのだが。

 そして1時限目を終えて休み時間は相変わらず一夏達SAO帰還者組が集まって本日のALOでの予定の話し合いをしていた。

 

「今日はどうする? 特に目ぼしいクエストも無いし、イグドラシルシティにスグ達と集まるか?」

「良いね、IS学園入って直葉ちゃんも心配してるだろうし」

「あれ? でも直葉ってスイルベーンに居るんじゃ?」

「あ、そっか、ならスイルベーン…は俺達からだと遠いな」

 

 ALOで集まろうにも和人の妹である直葉のアカウント、リーファはシルフ族長のサクヤに呼ばれてスイルベーンに居るため、彼女だけは直に集まる事が出来そうにない。

 他のメンバー、クラインやエギル、リズにシリカなら集まれそうだが、直葉だけ仲間はずれというのも悪いと、ならば集まるのは如何するか、それを考えていたのだが、そんな4人の所に歩み寄り、一夏と和人に話しかける存在が居た。

 

「ちょっとよろしくて?」

「「ん?」」

 

 声がした方に振り返ると、金髪の英国人生徒が立っていた。彼女の事は自己紹介の時に聞いている。名をセシリア・オルコット、イギリス代表候補生で、専用機を持つ事が許されたエリートにして、入試では学年1位に輝いた生徒だ。

 

「まぁ! 何ですのそのお返事は!? この私が声を掛けた事すら光栄に思っていただきたい程なのですから、それ相応の反応があるのではなくて?」

 

 これは世の中が女尊男卑の風潮で満たされた事による弊害だ。彼女の様にあからさまに男を見下す女性が増え、中にはまるで奴隷のように扱う者、傍に居たからとパシリに使う者、逆らえば問答無用で警察に引き渡す者など、悪質な女性が急増しているのだ。

 彼女、セシリアもまたそういった女性の一人であるらしく、一夏と和人を視線だけで思いっきり見下しているのがよく判る。

 

「キリト君」

「ナツ君」

「いや、気にするなアスナ…それで、入試主席のセシリア・オルコットさんが何か?」

「俺達、今まで話をしていたの理解出来ないのかな?」

「ふん! 話をしていたって、下らない低俗なゲームのお話でしょう? 此処はISについてを学ぶ神聖なる学び舎ですわよ、そのような低俗な話より、この私の話の方が重要かつ優先されるべきなのは当然の理ですわ」

 

 低俗なゲーム、その言葉だけで4人はカチンと来るが、ここは2年の殺伐とした世界を生きた経験上、表に出す事無く表面上は普通にする。

 

「それで、何か用だったのか?」

「まだ物言いに物申したいところですが、まぁ良いでしょう。それより貴方方男二名、男の分際でISを使えるからと、どのようなものか見物していましたが、まさかただのオタクという下等生物でしたとは、とんだ期待はずれですわね」

 

 まぁ、ただALOをやっているというだけではオタクという評価も仕方が無いのかもしれない。一夏も和人も、明日奈も百合子も、4人ともSAO帰還者だという事は世間に知られていない。

 この学園でも4人がSAO帰還者だということを知っているのは千冬と真耶、それから一部の教師くらいなのだから。

 

「まぁ、私は優しいですから、貴方方のようなオタクであろうと、ISについて学びたいと泣いて頼むのでしたら、お教えして差し上げても良くてよ?」

「遠慮する、あんたに教わる事は無いだろうし」

「俺もだな、キリトさん同様、あんたから教わる事は無い」

「なっ!? なにを…」

 

 丁度良くチャイムが鳴った。次は千冬の授業なので、早々に席に着かなければ悲惨な目に合うとセシリアも理解しているのか、顔を真っ赤にしたまま一夏と和人を一睨みすると、席に戻っていった。

 4人も自分達の席に座ると、丁度千冬が教室に入ってきて、教卓の所に立つ。

 

「では、2時限目はISの各種武装についてだが…その前にこのクラスのクラス代表を決めようと思う。クラス代表はその名の通りクラスの代表者だ、各種委員会の集まりや会議、その他にも今度の学年別クラス代表対抗リーグに参加する事になる。誰か、立候補でも推薦でも構わん、居ないか?」

「は~い! 折角このクラスには男が居るんですし、織斑君か桐ヶ谷君を推薦します」

「あ、そうだね。折角の見世物を使わない手は無い!」

「賛成!」

 

 明らかに一夏と和人を見世物として他のクラスに宣伝するのが目的に思えてならない。だが、一夏も和人も人の上に立つなど苦手なタイプなので、当然だがクラス代表にピッタリな人物を推薦する事にした。

 

「俺は明日奈を推薦する」

「き、キリト君!? わ、わたしは無理だよー」

「何言ってるんだよ、血盟騎士団副団長殿、明日奈なら人の上に立つの慣れてるじゃん」

「そ、そうだけどー……」

「俺もアスナさんを推薦するよ」

「ナツ君も!?」

 

 まさか弟分にまで裏切られるとは思わなかった明日奈が涙目で一夏を睨むが、なんとも迫力が無い。

 SAO時代のアスナの睨みは震え上がるほど恐ろしいものがあったが、今の和人の恋人である明日奈の睨みは、何処か可愛らしいものがあり、恐怖より微笑ましさの方が際立ってしまうのだ。

 

「な、ならわたしはユリコちゃんを推薦します!」

「ちょ、お義姉さん!」

「だって、ユリコちゃんもわたしの補佐してたから人の上に立つの得意でしょ?」

「ええー……」

 

 これでSAO組4人が推薦された事になる。だが、それに意を唱える人物が一人だけ居た。そう、イギリス代表候補生セシリア・オルコットだ。

 

「納得いきませんわ!!」

 

 バンッ! と音を立てながら立ち上がった彼女は推薦された4人では納得いかないと不満を爆発させる。

 

「男だからと物珍しさで下等な存在をクラスの上に立たせるなど、冗談じゃありませんわ! そこの女生徒二人も男二人と同じオタクという存在ですし、私は下等生物共の下になる気などありませんわ! そもそも、文化としても後進的な極東の島国で暮らすこと自体苦痛ですのに、あんな下等生物の下だなどと、私に1年間屈辱の生活をしろと仰るんですの!?」

「…はぁ、日本が後進的、ね」

「あら、事実ではありませんか。日本など、私の祖国イギリスと比べれば品の無い国ですわ」

 

 一夏の呟きが聞こえたのか、セシリアはまだ日本を侮辱し続ける。だが、それはこのクラスの大半を占める日本人全員に対する侮辱も同じだ。

 

「そもそも、ISやVRMMO技術を開発したのは日本人だぜ? そのどっちも開発出来なかったイギリスの何処が日本より上なんだ?」

「そもそも、イギリスなんて飯マズ世界一何年連続ナンバー1だっての」

 

 和人、一夏と続いた言葉に、今度はセシリアがキレる番だった。

 

「な、あなた方! 私の祖国を侮辱しますの!?」

「先に日本を侮辱したのはどっちだっての、それに…理解してるのか? あんたはイギリスの代表候補生で、このクラスの大半と担任、副担任は日本人だぜ? あんたの言葉は此処じゃイギリスの言葉だ。つまりあんたが日本を侮辱するという事はイギリス国家が日本を侮辱している事と同意だって」

「っ!?」

 

 一夏がそこまで言うと、セシリアは何かに気付いたように青褪めた表情でクラス中を見渡した。当然だが、1組に在籍する日本人生徒は全員がセシリアを不快な表情で睨んでおり、千冬すらも若干だがセシリアを睨んでいる。

 

「理解したか? 代表候補生を名乗るなら、言動に気をつけろよ…この国際社会であんたのような軽はずみな言動をすれば、即国際問題に発展しかねないぜ?」

 

 代表候補生という立場はただエリートだ、専用機持ちに選ばれただけでは済まないのだ。国を代表するものの候補生に選ばれたという責任が言動に圧し掛かってくる。

 勿論、国家代表の方が責任としては大きいが、それでもその候補生というものにだって大いに責任というものは存在しているのだから、セシリアの様な言動は日本で、特にIS学園では不味い。

 

「く…よくも、私に恥を掻かせてくれましたわね……決闘ですわ!」

 

 恥を掻かせるも何も、一夏は当然の事を言っているに過ぎないのだが、何故か逆切れしたセシリアが一夏と、それから和人にまで決闘を申し込んできた。

 

「どうしますキリトさん?」

「俺は良いぜ? せっかくだ、IS戦ってのも経験しておきたい」

「あ~あ、キリト君の悪い癖が始まった」

「ああなると、お義兄さんは止められませんね」

 

 元々がバトルジャンキーな所のある和人だ、当然ながらセシリアの決闘を受け入れた。ならば仕方が無いと一夏もその決闘を受ける事となる。

 

「それで、俺とキリトさんはどこまでハンデが必要だ?」

 

 一夏の言葉、それはセシリアを睨んでいた生徒たちすら笑わせるには十分な言葉だったらしい。クラスの全員(箒、明日奈、百合子を除く)が爆笑している。

 

「織斑君本気? 代表候補生相手にハンデって、それは舐めすぎだよ」

「そうそう、ゲーマーじゃ代表候補生にハンデ貰う側になるんじゃない?」

「そうかな? 俺もナツも、アスナもユリコも、彼女よりは実戦経験があるんだ…経験の差では俺達の方が上だぜ」

「え~? だって桐ヶ谷君も織斑君もIS初心者でしょ? 実戦経験って言われてもねぇ?」

「うんうん、ALOの経験なんて役に立たないって」

 

 一見すれば確かに、ただのゲームでしかないALOの経験は役に立たないと思われがちだろう。だが、一夏の次の言葉がクラスを凍りつかせた。

 

「俺と、キリトさん、アスナさん、ユリコはSAO帰還者だ…命懸けの戦いの経験なら2年間だ」

 

 出来るなら隠しておきたかった。だけど、これ以上舐められるのも癪に障るというか、いつまでも自分達が愛するVRMMOを馬鹿にされるのも我慢出来なかった一夏が、自分達の正体を現わす。

 日本人なら、SAOという言葉だけで一夏達がどんな存在なのか、理解出来ただろう。実際に死者も出ている最悪のゲーム、その生還者というだけでも奇跡の存在なのだから。

 だが、セシリアの様に海外出身の者はSAO事件の事を知ってはいても所詮は海の向こうの話、実際に死者を出したゲームと言われてもピンと来ないものだ。

 

「ふん、SAO帰還者がなんだと言うんですの? それに、そんなもの所詮はゲームなどという下らない物で2年という時間を無駄に過ごした落伍者でしかありませんわ」

 

 2年を無駄に過ごした。それは一夏達が一番許せない言葉だ。当然だが、セシリアの言葉に一夏達4人は殺気を滲ませてセシリアを睨んでいる。

 今の4人はIS学園生徒の織斑一夏、桐ヶ谷和人、結城明日奈、宍戸百合子ではない。SAOにて最前線を戦った攻略組最強クラスの戦士、白の剣士ナツ、黒の剣士キリト、閃光のアスナ、無限槍のユリコの雰囲気を身に纏っていた。

 

「セシリアさん、そこまで言ったからには…わたしも、戦わせて貰うよ」

「手加減出来ません、アインクラッド攻略組の力、思い知ってください」

 

 彼等にとっては大切な2年間だ。嬉しい事、悲しい事、辛い事、様々な経験や思い出が2年という短くとも長い時間に凝縮されている。

 その2年を侮辱された以上、4人は誰一人として引かない。手加減すらしない、あの2年間を侮辱した報いを受けてもらう必要があった。

 

「決まったな、では一週間後にクラス代表決定戦を行う。最初は織斑とオルコット、その後は桐ヶ谷とオルコット、翌日に結城とオルコット、宍戸とオルコットの試合を行う」

 

 2日連続計4連戦をセシリアに課す辺り、千冬もセシリアの日本侮辱には思うところがあったらしい。まぁ、それでも余裕の表情を浮かべているセシリアは、今はまだ幸せだろう。

 だけど、試合の日、彼女は思い知る事になる。自身が侮辱したゲーム、SAOを命懸けで生還した者の実力が、如何なるものなのかを。




ついに言っちまったぜセッシー…。
次回は部屋割りです。此処でチッピーブラコン魂というか、寮長という権力を大いに使ってきます。

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