SAO帰還者のIS
第三十一話
「デート・黒と閃光編」
一夏と百合子がデートに向かった1時間後、全く同じ場所に一人の少年が現れた。
黒いジーンズに黒いTシャツと、その上から紺色の半袖ジャケットを着た黒髪の少年は、IS学園に在籍するもう一人の男子生徒、桐ヶ谷和人だ。
和人も本日、明日奈と水着を買いに行くデートをすることになっており、その待ち合わせを一夏たちと被らないよう、彼らより一時間遅い時間を明日奈に伝えてある。
『パパ、ママからメールです。もう直ぐ来られるとのことですよ』
「そっか、サンキューなユイ」
『いえ、それより楽しんできてくださいね。ママ、凄く楽しみにしていましたから』
「ああ、でもユイもパパやママに遠慮しないで、いくらでも話しかけて良いからな? 今日は俺とアスナのデートだけど、ユイも居るから親子でのお出掛けのつもりでもあるんだし」
『はい! お邪魔にならない程度にお話したいです!』
和人がスマートフォンの画面に映るユイと会話をしていると、待ち合わせ5分前ジャストで明日奈が来た。
今日の明日奈の服装は真っ白なロングスカートタイプの半袖ワンピースだった。胸元がピンクのフリルで構成されたタイプで足元には百合子とお揃いで購入した白いハイヒールのサンダルを履いて、手にはピンク色のポーチを持っている。
「お待たせ、キリト君」
「ああ、ユイと話してたから、そんなに待ってないよ」
「そうなんだー、ユイちゃんもごめんね? 待たせちゃって」
『いえ、パパとお話して楽しかったですよ』
合流して直ぐに自然と和人の腕に自らの腕を絡ませた明日奈は和人の手にあるスマートフォンの画面に映る愛娘と会話を始めた。
今日はデート恋人同士のデートであり、親子3人でのお出掛け、始まりから随分と楽しくなりそうな予感だった。
モノレールを乗り継いでSAO生還者が通う学校近くにあるショッピングモールに来た二人は先に水着売り場まで来ていた。
早めに目的の物を購入して、後は存分にデートを楽しむというスケジュールを組んでいるので、時間的に全然余裕がある。
「ね、キリト君はどんな水着が似合うと思う?」
「え? そうだな……アスナなら何を着ても似合いそうだけど」
「もう、キリト君わかってなーい! わたしはキリト君に選んで欲しいんだよ?」
「う、その、だな……ビキニ、とか」
「ビキニ? へぇ……あ! 可愛いのある~!」
明日奈が見つけたのは赤と白のストライプのビキニだ。胸元の大きな赤いリボンがワンポイントになっており、彼女の好みによく合っている。
キリトもそれを着た明日奈の姿を想像するが、良く似合っている気がするので、それを勧めてみた。
「キリト君もこれが良いと思うの?」
「ああ、赤と白って所なんてアスナに一番似合っているしな」
血盟騎士団の制服も、そしてISの装甲カラーも赤と白で構成されているのだから、これほど明日奈に似合う色の水着は無い。
「じゃあ、これにしよっと」
籠の中に水着をハンガーラックから取って入れると明日奈は和人の手を引いてレジではなく、何故か今度は子供用水着コーナーに連れて来た。
見た感じ10歳くらいの女の子用の水着がずらっと並んでおり、その値段も子供用にしてはそれなりにする。
「ここ子供用じゃないか?」
「うん、実はユイちゃんの水着を作ってあげようと思って、それで参考になりそうな水着を調べてたんだけど、やっぱり実物見た方が良いじゃない?」
「なるほどな」
「ユイちゃん、どんな水着が好きかなー?」
『わたしですか? ママが作ってくれるのでしたら何でも好きですけど』
「でもやっぱり作るならユイちゃんの好みで作りたいの! 何か無い?」
『そうですねぇ』
すると、ユイは和人のスマートフォンから明日奈の瞬光に移って三次元投影されたARウインドウに姿を現した。
いつも和人と明日奈の二人と一緒に居る時だけ見せる白いワンピースを着た少女の姿、ユイが二人の娘として本当の姿だと認識する姿で。
「あらユイちゃん、こっちの方が見やすかった?」
『はい、携帯電話の中ですとカメラレンズでしか視覚情報を確保出来ませんけど、ISの中からでしたらハイパーセンサーで360度全ての景色が見えますから』
視界が良くなったユイは子供用水着コーナーに並ぶ水着を一つ一つ見渡していくと、一つの水着が目に入った。
ピンクのワンピースタイプ、フリルがあしらわれた可愛らしいその水着がユイの心を見事に掴んだらしい。
『ママ! あの水着が良いです!』
「あのピンクのやつ? うん、あれなら作れそう……じゃあ今晩INした時に作るから、楽しみにしててね?」
『はい! ありがとうございます、ママ!』
微笑ましい母娘の会話を隣で見ていた和人は、ふと先日ALOで購入した物があるのを思い出した。
そして、ユイが選んだ水着を見て、恐らく似合いそうだと思い、明日奈の隣に映るユイに話しかける。
「ユイ、俺のアイテムストレージって見れるか?」
『可能ですけど、どうかしたんですか?』
「ああ、この前イグドラシルシティの店でユイに似合いそうな麦藁帽子が売ってたから買っておいたんだ、あの水着に似合うだろうから、今度ALOで海に行って被ってみないか?」
『わぁ……行きたいです!』
「よし、じゃあ決まりだな」
『パパ、大好きです!』
「おう、パパもユイが大好きだぞ~」
今度は父娘の会話になってしまった。
ユイを黒鐡に移して明日奈の水着をレジで会計して、店を出ると再び腕を組んだ二人は近くのレストランに入る。
そろそろ昼食時なので、込む前に席を確保しておいた方が時間の無駄にならなくて済むのだ。
「ね、キリト君は泳げるの?」
「人並み程度にはな、スグが泳ぎは苦手だけど」
「え? 直葉ちゃん泳げないの? 運動神経良さそうなのに」
「ちょっと昔溺れ掛けたことがあってな、それ以来だ」
話をしている間に注文した料理が来た。
普通のファミリーレストランにしては中々美味しいのだが、明日奈の料理やIS学園の食堂の料理を食べなれている和人にしてみれば、イマイチ物足りないと感じるものの、食べられないということはない。
「明日奈が頼んだのって何?」
「これ? シーフードドリアだよ、キリト君は……ハンバーグ定食かぁ、相変わらずだねー、君も」
「良いだろ、好きなんだし……それより、そっちの一口ちょうだい」
「え~、じゃあキリト君のも一口!」
「じゃあ、先に食うか?」
「うん!」
頷いてフォークを切ってるハンバーグへ向けようとした明日奈だったが、何故か和人の手によって止められてしまった。
不思議そうな表情を向ける彼女だったが、次の瞬間にはその顔が真っ赤に染まることになる。
「ほら、あ~ん」
「き、キリト君!?」
「ほら早く」
明日奈が食べようとしていた一口大にカットしたハンバーグを自分のフォークで刺して明日奈の口元へ持っていく和人、その表情は随分と楽しそうだ。
「あ、あ~ん……」
観念して顔を赤くしたまま差し出されたハンバーグを口に入れた明日奈はお行儀良く口元を隠しながら租借して飲み込むと、頬を膨らませて和人を睨んだ。
「もう、人前なのに」
「嫌だったか?」
「い、嫌じゃないけど……もう! キリト君の意地悪!」
「はは、悪い悪い」
お返し! とばかりに今度は明日奈がドリアをスプーンで掬って和人の口元に持っていった。
今度は和人が口元を引き攣らせて周囲を見渡しながら顔を赤く染める番だ。
「キリトく~ん? まさか食べられないなんて言わないわよね?」
「え、いや……」
「はい、あ~ん」
「……あ~ん」
スプーンに乗ったドリアを口に入れた和人は、満足そうな表情を浮かべ離れようとする明日奈を咄嗟に捕まえて、その唇に自分のソレを重ねる。
口の中で飲み込まずに残っていたドリアを半分明日奈の口の中へ移し、ゆっくりと唇を離すと、口元を押さえて先ほど以上に真っ赤な顔をした明日奈が驚愕の表情で和人を見ていた。
「んぐっ……ごちそうさん」
「き、キリト君ーーーーっ!!!!?」
後日、このレストランに『バカップル禁止』の張り紙が張り出されてしまったのは、当然の結末だった。
次回は遂に海!