第三十話 「デート・白と無限編」
SAO帰還者のIS
第三十話
「デート・白と無限編」
臨海学校を目前に控えた休日、この日は多くの1年生の生徒達が街に繰り出して水着を買いに出かけていた。
そして、それは一夏達も同じで、この日は一夏と百合子、和人と明日奈がそれぞれ水着を買いに行くという目的でデートをすることになっている。
IS学園から出るモノレールの改札口では、いつもより少しお洒落をした一夏が既に百合子を待っていて、既に何度もデートをしているからか、その表情は随分と落ち着いていた。
「ナツ、お待たせ」
「お……その服似合ってるじゃん」
「ん……ありがと」
白い半袖のブラウスに空色のミニスカート、白いハイヒールのサンダルという姿の百合子に、一夏はちょっと見惚れた。
明るい服は百合子の黒髪をより映えさせているので、実に見事なコーディネートだと言えよう。
「行こ?」
「だな」
差し出した一夏の左腕に自らの右腕を絡ませた百合子を確認して、二人は歩き出した。
「まず何処に行く?」
「ん、と……レゾナンスに新しく紅茶をテイクアウト出来るお店が出来たんだけど」
「よし、じゃあ先にそこに行くか」
モノレールに乗った二人は適当な席に並んで座り、街へと向かった。
モノレールが動き出して景色が流れる窓の外を眺めながら、ふと一夏は気になっていた事があり、それを百合子に尋ねる。
「そういえば、ユリコっていつから俺をナツ君じゃなくてナツって呼び捨てするようになったんだ?」
「ん? 覚えてないけど……嫌だった?」
「いや、呼び捨ての方が嬉しいかな、なんか対等な感じがするし」
いつかはアバターネームではなく、本名で呼んで貰いたいが、今はこうしてナツ、と呼び捨てにして貰えただけで満足だった。
そして、二人を乗せたモノレールは目的の駅へと到着する。
レゾナンスのある駅に着いてモノレールを降りた二人は早速だが一夏の言っていた紅茶のテイクアウトが出来るという店に向かった。
その店は喫茶店というわけではなく、普通のクレープ屋みたいな小さな出店みたいな物だったのだが、実際にテイクアウトした紅茶を飲んでみれば中々どうして、実に良い味をしている。
「へぇ、店見たときはあんまり期待してなかったけど、結構イケルな」
「うん、クラスの子が話してたの、気になってたんだ……この店は正解」
今、二人が飲んでいるのは両方ともアイスティーなのだが、茶葉が違った。
あの店はただ紅茶をテイクアウト出来るというだけの店ではなく、その紅茶の種類が豊富で、紅茶のみを扱った店だったのだ。
好みの茶葉を選んで、ホットかアイスかを選んで、アイスであれば水出しとオンザロックのどちらか好みの淹れ方を選ぶというシステムになっている。
「ナツが飲んでるのは何?」
「俺のはディンブラってやつのオンザロック。ユリコが飲んでるのは?」
「私はキャンディのオンザロック。水出しは、あの独特の薄さが好みじゃないから」
「へぇ、一口ちょうだい」
「ん」
差し出されたコップに刺さっているストローに口を付けて一口、するとキャンディの独特な甘みが口に広がり、一夏は思わず「これ好きだな」と呟いてしまった。
「ナツ、そっちのも一口」
「ほら」
「ん……うん、おいしい」
ディンブラは渋みこそキャンディより強いが、同時にちゃんと甘みと紅茶独特の香りも楽しめて、アイスティーには最適な紅茶とも言われている。
「次はどうする?」
「ん~……水着買いに行こう?」
「おう」
飲み終わった紙コップを近くのゴミ箱に捨てて、腕を組んだ二人は一路、水着売り場へと向かう。
水着売り場では流石に季節なのか、大勢の女性客やカップル客が居たのだが、手早く一夏は自分の水着を選んでユリコと共に女性用水着コーナーに来た。
「ナツ、どんな水着が好み?」
「え、そうだなぁ……」
別に百合子の好みでも良いのではないか、とも思ったのだが、そこは明日奈によるリハビリのおかげで本当に若干だが鈍感が直った一夏は百合子が一夏の好みの水着を着たいのだと予想して周囲に並んでいる水着を見渡す。
ビキニ、ワンピース、セパレート、様々な水着が並ぶ中、ふと一夏の目に留まったのは一着のビキニだった。
「……」
「ナツ?」
「っ!? え、ああ……悪い」
「……へぇ」
呆っとしていた一夏に声を掛けた百合子は、次いで一夏が目を向けていた先を見る。
そこには薄いピンクのフリルがアクセントとなった白いビキニがマネキンに着せられた状態で展示してあった。
「うん、これにする」
「え!? いや、もう少し選んでも……」
「だって、ナツが目を奪われるほどだもん、これが一番」
絶対に譲らないという表情の百合子に苦笑しながら一夏は水着に付いている値札を手に取り、書かれている値段を見る。
「うわ、7900円だってさ」
「結構、するね」
「う~ん……よし、俺が出す」
「え? いいよ、自分で……」
「いいから、ここは彼氏に格好着けさせてくれよ」
幸い、百合子もそうだが、一夏もレクトの仮社員としての給料を貰っているし、何より男性IS操縦者としてのデータ提供をしているので、その報酬もあるから、実はそれなりにお金があるのだ。
1万円もしない水着を一着購入するくらい、今の一夏の懐事情からすると大した痛手ではない。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「んじゃ、レジ持って行くか」
「うん」
二人でレジまで行き、会計を済ませる。
店を出る前に百合子がお手洗いに行っている間、一夏は何か百合子の水着のワンポイントになりそうなアクセサリーは無いかと店内の水着アクセサリーコーナーを見ていたのだが、ふと目の前に何故か女性物の水着が差し出された。
「この水着、買うからあなたお金出しなさい」
「は?」
見れば随分と派手な服装の見知らぬ女性が一夏にその差し出した水着を買えと言って来た。
何気に見えた値札には1万2千円という数字が書かれており、そんな高価な水着を、見ず知らずの男にいきなり声を掛けて、更には奢れとは、随分と女尊男卑思考の強い人間なのか、それともただの礼儀知らずなのか。
「さっき、女に水着奢ってたの見たわよ? お金あるんならアタシの水着も奢りなさい」
「何で見ず知らずのアンタなんかに水着を奢らなきゃいけない? 常識って言葉を小学校で勉強して来い」
「はぁ!? アンタ、男の分際で女のアタシに逆らうっての? 良い度胸してるじゃないのさ」
「……あ~、あれだ、小学校じゃアンタに教えられることは無さそうだから、大人しく動物園でも行って檻に入ってろ」
「なっ!? ……男の癖に、アタシにそんな口を利いたことを後悔させてやるわ! アンタなんか、警備員を呼べば直ぐに捕まるんだから!」
溜息を零しながら、一夏は腕に付いているガントレッド……待機状態にしている白式を見せた。
最初こそ、何のつもりなのかと不振そうな目をしていた女だが、それが何なのかを理解して、そして改めて一夏の顔を見て、その傲慢な表情が一気に青褪める。
「あ、ああ……アンタ、まさか」
「随分と世間知らずみたいだから、いっぺん警察の世話にでもなるか?」
「し、失礼しました~!!!」
水着を放り投げて逃げ去った女を呆れた目で見送りながら、放り投げられた水着をキャッチしていつの間にか隣に来ていた百合子に手渡す。
「これ、戻しといて」
「うん、ナツは?」
「流石に騒ぎが大きくなったから、先に店の外に出て待ってるよ」
「わかった」
店を出て、少ししてから同じく出てきた百合子と合流した一夏は改めて百合子と腕を組み、少し急ぎ足で水着売り場から立ち去る。
野次馬にこれ以上注目されるのは勘弁願いたい。
「次は何処に行こうか?」
「ナツは、行きたいところ無いの?」
「俺? そうだな……」
この辺りで良い所は無いかと周囲をキョロキョロとしていると、丁度時計が見えて、その針が12時半を指し示していた。
時間的に丁度良い頃合だし、そろそろ空腹感を感じ始めていたので、一夏は百合子の腕を引いて歩き出す。
「飯にしようぜ、この辺で美味い店、知ってるからさ」
「うん、お腹空いた」
こうして、少々ハプニングこそあったものの、二人のデートはこの後何事も無く無事に終わった。
学園から帰ってきた後、同じくデートをしてきた和人と明日奈の二人と一緒に食堂でお互いの盛大な惚気話をして、周囲に居た生徒達に砂糖を吐かせ続けたのは、言うまでも無いだろう。
因みに、この日の夜は至る所で壁を殴る女子生徒が大多数見受けられたのだが、その理由は不明である。
次回はキリトとアスナのデートのお話。
時系列的には一夏たちがモノレールに乗ってから一時間後がスタートです。
キリト、アスナ、そしてユイの親子団欒をお楽しみに!