SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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ちょい短め。
そして、ついに一夏と千冬が……。


第二十九話 「貴公子改め、第一次姉弟喧嘩」

SAO帰還者のIS

 

第二十九話

「貴公子改め、第一次姉弟喧嘩」

 

 学年別タッグマッチトーナメントが終わり、1学年の部は優勝者が和人と百合子に決まった。

 一夏と明日奈は準優勝ということになるので、世界各国に男性IS操縦者の実力と知名度を広げた形になった。

 そして、トーナメント翌日のHRでは、またもや一騒動が起きようとしていた。何故なら、この日は1組に新たな転入生が来るのだから。

 

「え~、今日は皆さん新しいクラスメートを紹介します……新しい、というか、何というか、これって転入扱いなんでしょうか?」

 

 教壇に立つ麻耶が目の下に隈を作って引き攣った笑みを浮かべながらHRを進行している。

 その隣に立つ千冬も同じように目の下に隈を作り、空ろな表情で空を見上げているのを見るに、相当疲れているらしい。

 

「では、どうぞ~……」

 

 力なく呼ばれ、教室に入ってきたのは、IS学園女子の制服をギリギリまで短いスカートに改造している金髪が美しい美少女だった。

 それも、その顔はつい数日前にクラスの全員が見たばかりで、昨日のトーナメントは休みだった元男子生徒。

 

「結城シャルロットです。皆さん、改めてよろしくお願いしますね」

 

 その瞬間、一夏、和人、明日奈、百合子の4人は両耳を塞いだ。

 同時に教室が割れんばかりの絶叫が響き、その声に半分眠っていた千冬が目を覚まして出席簿をブーメランのように投擲してクラスの大半を机に沈める。

 

「えっと、デュノア君は、デュノアさん、だったみたいで……今は結城さんの妹さんってことになるみたいです」

 

 正式に日本への亡命が認められ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡはフランスへ返却、更にデュノア社の悪事が暴かれたことでデュノア社長は一家共々行方不明になったので、親権を明日奈の父が獲得するのは容易かった。

 現在は日本国籍を取って正式に結城家の養女として認められたので、結城シャルロットとして改めてIS学園に入学し直したのだ。

 

「遅れました」

 

 誰もが騒然としている中、教室の後ろのドアが開かれ、ラウラが入ってきた。

 つい先日、シュヴァルツェア・レーゲンをドイツに返却して、現在は日本国籍のドイツ系日本人として千冬の保護下に入った彼女は、ISへの搭乗こそ禁じられているが、整備士志望の学生としてIS学園に残れることになったのだ。

 そんな彼女は、教室に入ってきてまずは一夏の前まで来ると、勢い良く頭を下げてくる。

 

「すまなかった」

 

 頭を下げたまま、一夏の言葉を待つラウラ。

 一夏はそんなラウラを黙って見つめた後、デコピンを一発くらわせる。

 

「俺じゃなくて、セシリアや鈴に謝ることだ。俺は特に気にしてないし、何かされた訳じゃないしな」

「……ああ」

「もうお前は処罰されたんだから、これ以上は何もしない。それでいいな?」

「感謝する」

 

 スッキリした顔で自分の席に座ったラウラを見て、麻耶が改めてHRをスタートさせた。

 これでようやく、一夏たちも落ち着くことが出来たのだと、このときは思っていたのだが、どうにも一夏に平穏が訪れるのは、まだまだ先になりそうだった。

 

 

 一日の授業が終わり、部活に行こうとしていた一夏だったが、千冬に職員室に来るように言われたので、和人達には先に行くよう伝えて一人、職員室に向かっていた。

 ノックをして職員室に入ると、自分の席で待っていた千冬の所に向かい、その前に立つと、千冬が一枚のプリントを手渡してくる。

 

「これは?」

「今年の秋に行われる日本代表候補生選抜試験の案内だ。既にお前をエントリーさせてあるから、試験本番までゲームなぞやってないで勉強しておけ」

「はぁ!?」

 

 寝耳に水だった。

 そもそも、代表候補生になんてなるつもりは欠片も無いのに、この姉は自分に何の相談も無く何を勝手なことをしているのか。

 

「ちょっと待てよ千冬姉! 俺は代表候補生になんてなるつもりは無いぜ!?」

「馬鹿者、この先IS操縦者として生きて行くのだから、せめて代表候補生には早い内からなっておけ。幸いにもお前の実力ならソードスキルなど使わず零落白夜を使えば間違いなく代表候補生になれるだろうから、筆記試験対策をしておけば問題は無い」

「だから! そもそも俺はIS操縦者になるつもりは無いんだっての! 何勝手なこと言ってるんだよ!」

「……何?」

 

 IS操縦者になるつもりは無いという言葉に、千冬が鋭い瞳を向けてきた。

 

「そもそも、俺はIS学園を卒業したら、もうISに関わるつもりは無いんだよ。アメリカのカリフォルニア州にある大学に留学したいと思ってるんだしな」

「留学、だと? 馬鹿なことを言うな! そんなもの、認めるわけがないだろう! お前は世界で二人しか居ない男のIS操縦者だ、そのお前がIS操縦者以外の人生を歩むなど、出来るわけがない!」

「それはそっちの都合だろうが! 俺の人生を何で他人に決められないといけない!? 俺の人生を決めて良いのは周りの大人でも、千冬姉でもない! 俺だけだ!!」

「まだ自分の足で立って歩けないガキが生意気を言うな! いいか! お前の留学など認めん! 大人しく秋の代表候補生選抜試験を受けろ!」

「お断りだ! 誰が受けるかそんなもの!」

 

 大喧嘩を始めた織斑姉弟に職員室に居た教師全員が慌てて間に入って止めに掛かる。

 相当興奮しているようで、止める声が耳に入らなかったため、総員で羽交い絞めにすることで何とか揉み合いになりそうになっていた二人を引き離すことに成功した。

 

「織斑君、ほら落ち着きなさい!」

「織斑先生もです!」

 

 まだ興奮している二人だが、とりあえず話は出来そうなので、冷静になるよう促し、話し合いをさせることにしたのだが、その話し合いはずっと平行線を辿っている。

 千冬は一夏がIS学園卒業後に留学するなど認めないと言い張り、頑なにIS操縦者の道を歩ませようと代表候補生選抜試験を受けろと言っていて、一夏は絶対に留学すると言ってIS操縦者になるつもりは無いと主張していた。

 

「で、でもですね織斑君? 織斑君がIS操縦者以外の道を行くのは無理があると先生も無理があると思うんですよ」

「それはそちら側の都合です。別に先生方に認められなくても日本政府は俺やキリトさんをIS操縦者にするつもりはありませんから」

「何だと!?」

 

 真耶が何とか説得しようとしていたのだが、一夏の言葉に千冬が驚愕した表情を浮かべて声を上げた。

 その通りなのだ。日本政府は一夏と和人をIS操縦者の道に進ませるつもりは無く、将来的にはVR技術の方に貢献して欲しいとすら思っている。

 故に、日本政府の考えとしては、二人が現在IS学園に通っているのは安全の都合上仕方が無く通わせているのであり、IS学園を卒業したら相応の大学に行って知識を蓄え、VR技術に関連した仕事をしてもらいたいのだ。

 勿論、それが日本政府の総意というわけではなく、一部の者は二人をIS操縦者にしようと画策しているのだが、それは本当にほんの一握り程度であり、大半は二人をVR技術の道に進ませようとしている。

 千冬が勝手に出した日本代表候補生選抜試験のエントリーが受け入れられたのは、その一部の者の独断ということだ。

 

「で、でも何で日本政府はそんなにお二人をVR技術の方へ進ませようとしているんですか? 確かにお二人はSAO生還者というのは聞いてますけど、それだけでは理由として弱いと思うんですが……」

「それに関しては政府も黙認してますよね? なら俺から言うわけにはいきませんよ。一応は機密扱いみたいですし」

「……チッ、政府の馬鹿共め、私がどれだけ日本に貢献したと思っているのだか……」

 

 確かに、千冬が日本国家代表として日本にした貢献は相当なものだが、日本政府としてはこれから先のVR技術発展のことを考えれば過去の栄光しか持ち合わせていない千冬の言葉など耳を貸す価値が無いとすら考えている。

 所詮はISというスポーツの世界大会優勝者という肩書きしか無い千冬では、6000人もの人間の命を救った英雄達という肩書きには敵わないのだ。

 

「とにかく、俺は日本代表候補生なんてならないし、ISに関わるのはIS学園に通ってる3年間だけだ。卒業したらもう好きにさせてもらう」

「……留学など、させんぞ。未成年であるお前が留学するのであれば、当然だが保護者である私の許可だって必要だ。私は絶対に許可など出さん。お前には絶対に試験を受けてもらう」

 

 結局、この日は話が平行線のまま一夏が帰ることになった。

 この日から、一夏と千冬の仲は拗れてしまい、間もなく臨海学校があるというのに、1組の教室が二人の放つ極寒の如き空気で冷え切ってしまうことになるのは、余談である。




今回の喧嘩は前哨戦です。
この後、臨海学校でもひと悶着あり、解決は恐らく夏休みでしょうね。
それまでに箒ともひと悶着ありますし。
そして次回はデート回! 一夏と百合子、和人と明日奈による水着購入のためのデート回です!

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