SAO帰還者のIS
第二十八話
「最速ペアVS最多ペア」
ついに、学年別タッグマッチトーナメントも決勝戦を迎えた。
1学年の部の決勝は誰もが予想した通り、一夏・明日奈ペアと和人・百合子ペアの対決となり、専用機持ち4人による大激突を皆、待ち望んでいる。
「ユリコ、決勝では無限槍を使うのか?」
「最初から、そのつもりです。キリトお義兄さんは?」
「ああ、俺も最初から二刀流で行く」
一夏と明日奈が相手なのだ、最初から全力で臨まなければ負けるのはこちらだ。
敏捷力がアインクラッドで飛び抜けていた二人を相手にするには、どうしても手数が必要となる。そして、それを可能とするのが和人の二刀流と百合子の無限槍なのだ。
「向こうの作戦は多分、高速機動を活かした高速戦闘だろうな。アインクラッドに居た頃もあの二人がコンビ組んだ場合は持ち前の敏捷力で動き回ってたし」
「私たちは、ユニークスキルの手数と、筋力値の高さを活かしたパワー戦闘、ですね」
「ああ、向こうが速度で勝負するなら、こっちは技と力だ」
警戒すべきは一夏のヴォーパルストライクと明日奈のフラッシングペネトレイターだろう。
一夏のヴォーパルストライクは完成度で言えば和人のソレを上回り、速度特化の一夏だからこそ、その速さは危険だ。
明日奈のフラッシングペネトレイターはまず、スキルを使われればもう手遅れだ。彼女が使うフラッシングペネトレイターの動きを目視出来た者など今まで誰一人として……たった一人を除いて居ないのだから。
「向こうも俺のスターバースト・ストリームとジ・イクリプスを警戒している筈だから、使えるかどうかだな」
「上位剣技と最上位剣技は、どうしても警戒されます」
「ああ、ユリコの無限槍だって上位と最上位のスキルは凶悪そのものだから、警戒されてるだろうな」
因みに和人達が警戒しているフラッシングペネトレイターは細剣の最上位スキル、ヴォーパルストライクは片手剣の上位スキルだ。
上位と最上位のスキルを警戒するのは、お互い様だろう。
「そろそろ時間だ、行こう」
「はい」
控え室を出てピットに向かい、それぞれISを起動するとアリーナへと躍り出る。
アリーナにて対峙するは4人の剣士、純白の片手剣を構える白式を纏った白の剣士ナツ、エメラルドの如き輝きを持つ細剣を構える瞬光を纏った閃光のアスナ、黒の片手剣と白の片手剣を構える黒鐡を纏った黒の剣士キリト、赤い長槍と黄色の短槍を構えた槍陣を纏う無限槍のユリコ。
今、この場に居るのは織斑一夏でも、桐ヶ谷和人でも、結城明日奈でも、宍戸百合子でもない。嘗て、アインクラッドを駆け抜けた戦士達だ。
「この時を楽しみにしてましたよ、キリトさん」
「ああ、俺もだ」
「わたしとナツ君の速度に、付いて来れるかな?」
「私とキリトお義兄さんの、パワーで粉砕します」
いよいよ試合開始時刻となった。
試合開始のカウントダウンが始まり、観客達も固唾を呑んで見守る中、ついにカウントランプが赤から緑の光に切り替わる。
【試合、開始】
試合開始と共に、4人の姿が観客達の視界から消え失せた。
何事かと目を凝らそうとした観客達だが、突如鳴り響いた金属同士のぶつかり合う甲高い音を複数聞いて、そちらに目を向けると、一夏が振り下ろしたトワイライトフィニッシャーの刃を和人がエリュシデータとダークリパルサーをクロスさせて受け止めていて、そのすぐ近くでは明日奈と百合子が互いにランベントライトとルー・セタンタ、ヴェガルダ・ボウによる刺突の応酬が行われているのが見える。
更に4人は再びその場から消えて今度は全く正反対の位置で一夏と百合子が、和人と明日奈がぶつかり合っていた。
「らぁっ!」
「せぁっ!!」
二刀流による圧倒的な手数から繰り出される連撃を、明日奈はランベントライト一本で捌き、時折鋭い刺突を放つ。
和人は攻撃の合間に繰り出される刺突を避けながら、連撃の手を休めないのだが、やはり敏捷値の差から、明日奈が動き回る所為もあって中々クリーンヒットが出ない。
「ふっ! はぁっ!!」
「くっ! うらぁ!」
一夏と百合子の方も接戦だった。
百合子の両手にある長槍と短槍による刺突や払いの連撃を、トワイライトフィニッシャーで捌き、受け流しながら、一夏は時折ピックを投擲して注意を逸らし、反撃を繰り返している。
百合子も投擲されたピックをヴェガルダ・ボウで弾き、ルー・セタンタでトワイライトフィニッシャーの刃を受け流し、再びヴェガルダ・ボウの穂先を一夏に向けて刺突を放つ。
ヴェガルダ・ボウの穂先は真っ直ぐ白式の左腕を貫き、その代わりにトワイライトフィニッシャーの刃を返した一夏が槍陣の右肩装甲を斬り落とした。
「ナツ君!」
「はい!」
明日奈の合図と共に一夏は
そして、和人から同じく距離を取った明日奈と合流して、一夏と明日奈の二人で今度はアリーナ中を縦横無尽に動き回る。
それもただ飛ぶのではなく、ジグザグに、規則性など全く無いように見えて完璧なコンビネーションで絶対にぶつからないように持ち前の敏捷力と瞬発力、速度を活かした動きに、和人と百合子は二人に狙いを定めて接近することが出来ない。
「隙を見せたら即座にっ! 襲ってくるってか!!」
和人の言葉通り、隙を見ては急接近して一撃入れて、また離脱しては動き回る二人に、中々反撃のチャンスが無い。
ならば、どうするのかと言われれば、答えなど一つしか無かった。
「ユリコ!」
「了解」
一気にアリーナ上空まで飛翔した百合子と、その側で守るように和人も隣に並んだ。
そして、百合子は今まで使わなかった奥の手、アインクラッド最高の手数を誇ったユニークスキル、無限槍を開放する。
「全ヴェガルダ・ボウ、展開」
アリーナ上空を、無数のヴェガルダ・ボウが穂先を地面に向けて覆った。
その短槍群は重力に引かれて穂先を下に向けたまま一気に地面へと落下し、それに続いて百合子達も急降下する。
「ソードスキル、エンドレス・ループ」
一夏と明日奈は何とか降り注ぐ槍の雨を避けたのだが、地面に突き刺さる全てのヴェガルダ・ボウがライトエフェクトの輝きを放った事で青褪めた。
そして、上空から一気に急降下してきた百合子は一夏へと右手に持ったライトエフェクトを纏うルー・セタンタを叩き付け、地面へと落とす。
「グッ!?」
何とか地面との激突は避けた一夏だが、飛来するヴェガルダ・ボウとルー・セタンタを見て慌ててトワイライトフィニッシャーを一閃、二閃、弾き返すのだが、その隙に一夏の背後に移動した百合子が近くに刺さっていたヴェガルダ・ボウ二本を引き抜いて刺突を放つ。
それも弾いた一夏だが、槍を弾き飛ばした端から地面に刺さるヴェガルダ・ボウを引き抜いては攻撃してくる百合子に、防戦一方となってしまった。
「相変わらず厄介だなっ! エンドレス・ループは!」
無限槍の上位ソードスキル、エンドレス・ループ。
元々無限槍というユニークスキルは両手の手持ち装備にしている槍だけではなく、自分のストレージに保管してあった槍であればオブジェクト化して地面に置いていても敵に奪われても、その所有権を自分に維持していられるというスキルだ。
つまり自分のストレージに入っている槍全てをオブジェクト化し、周囲の地面に刺しておく事で武器を落としても直ぐに近くの槍を拾って攻撃出来る、無限に槍が途切れる事の無いスキル、故に無限槍。
そして、エンドレス・ループというソードスキルは、自分の持つ槍と、周囲にある槍全てを用いて行う合計40連撃という二刀流をも上回る凶悪スキルなのだ。
「弱点は、自分の所有権がある槍全てを使わないとエンドレス・ループとして成り立たないって事くらい、かっ!!」
もちろん、その程度の弱点は百合子とて承知済み、そしてその弱点は、アインクラッド最強の槍使いだった彼女には弱点足り得ない。
「アスナさん!」
「ごめん! ちょっと、難しいよ!」
見れば明日奈も和人の二刀流スキル、シャインサーキュラーによる15連撃を何とか受け流そうとしている最中だった。
「しまっ!?」
「きゃあっ!?」
やはり、一夏も明日奈も剣一本で二刀流と無限槍を相手するのは無茶だったようで、受け止め、流しきれなくなってまともに攻撃を受けてしまった。
二人纏めてアリーナの壁に吹き飛ばされ、折り重なるように倒れた所を、百合子がトドメを刺す。
「終わり」
地面に転がるヴェガルダ・ボウ全てを一気にルー・セタンタで跳ね上げて自身も飛翔すると、宙を舞うヴェガルダ・ボウと、百合子の持つルー・セタンタがライトエフェクトの輝きを放つ。
「ソードスキル、インフィニティ……モーメント!!!」
ルー・セタンタをフルスイングし、ヴェガルダ・ボウの石突を叩く。
全てのヴェガルダ・ボウが弾丸となって二人に降り注ぎ、ついに白式と瞬光のシールドエネルギーが0になった。
【織斑一夏、結城明日奈、シールドエネルギーエンプティー。勝者、桐ヶ谷和人・宍戸百合子ペア】
無限槍の最上位ソードスキル、インフィニティ・モーメント。
その威力は、絶大だった。
改めて、無限槍について説明。
ユニークスキル、無限槍。
自身のアイテムストレージに入っている槍全てをオブジェクト化して地面に刺して、通常であればその状態だと一定時間が経てば所有権を失うのだが、それが起こらなくなり、敵Mobや他のプレイヤーに拾われても所有権の移行状態にもならないというスキル。
槍であれば、ユニークスキルを適用中は自分が所有権を持つ限り永遠に失わない、奪われないというのが、この無限槍の特徴。
故に、フィールドの至る所に槍を用意して、例え戦闘中に槍を弾き飛ばされたり、投擲して手元から失われても直ぐ近くの槍を拾って直ぐに攻撃出来るが故に、その槍が側にある限り無限に攻撃出来るという特性故に、無限槍と名づけられた。
ただし、このスキルは集団戦やボス戦などに使う方が効率的らしい。