SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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ほんと、凄い反響です。


入学編
第二話 「戦士達の入学」


SAO帰還者のIS

 

第二話

「戦士達の入学」

 

 時は流れ4月。世間では新入学、新入社の季節に、ここIS学園でも新入生が入学して最初のHRが行われていた。

 無事、IS学園に入学できた一夏、和人、明日奈、百合子は全員1年1組になり、その教室の席に座っているのだが、クラス全員の視線が一夏と和人に集まっていて、二人は居心地の悪さを感じている。

 

「ナツ…マジで辛い」

「いや、俺もなんですけどね」

 

 特に和人はコミュ障ということもあり、余計に辛そうだ。

 

「では次、織斑君、自己紹介をお願いします」

 

 教壇の上に立つ1年1組副担任の山田真耶、見た目は(胸以外)中学生がスーツを着て紛れ込んだとしか思えないような童顔と低身長の女性で、眼鏡の奥の瞳はまるで子犬のごとく純粋に透き通っている。

 彼女に言われ、一夏は自己紹介の為に立ち上がると一番前の席なので振り返ってみると、和人と明日奈、百合子以外のクラスメート全員の瞳がギンギンに輝いていたのに少し引いた。

 

「え~、織斑一夏です。えと…趣味はALOかな? それと家事も得意です。よろしく」

 

 最近、和人がALOで茅場晶彦から受け取ったという世界の種子<ザ・シード>によってALO事件でサーバー停止に追い込まれる筈だったALOが復活した為、一夏も和人も明日奈も百合子も、4人ともALOをプレイしている。

 今では嘗てのSAO時代の仲間、友人もALOをプレイしているので、ほぼ毎日ログインしていると言っても良いだろう。

 

「まだゲームをしていたのか、貴様は」

「っ!? ゲッ!? 千冬姉!? あだぁ!?」

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 物凄く聞き覚えのある声に振り返った一夏が見たのは、一夏の実の姉にして両親の居ない一夏にとっては唯一の家族である織斑千冬の見目麗しいスーツ姿だった。

 しかも、先生と呼べということは、彼女はこの学園の教師であるという事を意味しているわけで、今まで姉の仕事が何なのかSAOに閉じ込められていたのもあって知らなかった一夏にとっては寝耳に水だ。

 

「きゃああああ千冬様よーー!!」

「私ファンですーーー!!」

「私も! 千冬様に会うために九州から来ました!」

「ああ、お姉さま! 私も罵ってください!」

 

 物凄い人気がある姉だが、千冬の立場から考えれば当然だと思う。

 そもそも千冬はIS業界で知らぬ者は居ないVIPの存在、世界最強…ISの国際大会であるモンド・グロッソの第一回大会で総合優勝し、ブリュンヒルデの二つ名を獲得した世界中のIS乗りの憧れでもあるのだから。

 

「はぁ、まったく馬鹿共しか入学して来なかったのか今年も…このクラスの担任になる織斑千冬だ。今日から一年間、私の仕事は貴様らの基礎を鍛え上げる事だ。いいか、私の言う事には従え、嫌でも従え、それが私のやり方だ。付いて来れなければ来年は無いと思うように!」

 

 あまりにも理不尽な自己紹介だった。もっとも、千冬は一夏がSAOに囚われる少し前から一年間、ドイツ軍で教官をやってたという話なので、これくらいの厳しさは当たり前か。

 

「それで…織斑、貴様はまだVRMMOをやっているのか? 言っておくが此処に来た以上、そんなものをやっている暇など無いと思え」

「いや、そんな物って千冬姉…そんな言い方は無いだろ?」

「黙れ、そして織斑先生だ」

 

 物理的に黙らされた。

 

「え? もしかして織斑君って千冬様の弟?」

「ええー、良いなぁ」

「VRMMOでALOって言えば巷で有名なゲームだよね? 織斑君ってもしかしてオタクなの?」

「え~、イケメンがオタクってショックかも」

 

 ALOを知らない人間が好き勝手言ってくれる。内心歯軋りしながら表には出さず、渋々と一夏が席に座ると、自己紹介が続いた。

 そして、出席番号の都合上、和人の番が来る。

 

「えと、桐ヶ谷和人です。ナツ…っと、一夏と同じでALOが趣味で、ジャンクパーツから自作PCを作るのが得意です」

 

 女顔のイケメン和人に女子が騒ぎそうになったが、一夏と同じALOという言葉が出て来た時点で、和人もまたオタクなのかと、溜息が教室の所々から聞こえた。

 更に自己紹介が続き、続いてSAO帰還者組みで自己紹介するのは百合子だ。

 

「宍戸百合子です。趣味は園芸とALO、料理と裁縫が得意です」

 

 小柄ながらスタイルの整った容姿端麗クールビューティーな百合子、艶のある黒髪をストレートに伸ばした大和撫子な彼女に、見惚れそうになるクラスメート達だが、一夏、和人に続き3人目のALO趣味に空気が凍った。

 百合子の様な美人がオタク趣味なのかと、落胆している者が数名確認出来る。

 

「結城明日奈です。ちょっと事情があってリハビリ中なので、杖が無いと歩くのが辛いのですが、後数週間もすれば普通に歩ける様になると思いますので、気にしないでください。趣味は料理とALO、オリジナルレシピ開発が得意です」

 

 年齢離れした美貌を持つ明日奈だが、やはり現れたか、と4人目のALO趣味持ちに誰もが明日奈と、それから百合子に美人なのに勿体無いと言わんばかりの視線を向けていた。

 

「自己紹介が終わったな、ではこれでSHRを終える。1時限目は山田先生のIS基礎理論の授業だ、準備しておくように」

 

 HRを終えて千冬と真耶が教室から出て行くと、クラスメート達は思い思いの時間を過ごす。勿論、一夏達も4人集まって談笑中だ。

 

「キリト君ちゃんと自己紹介できたねー、偉い偉い」

「いや、物凄い緊張したけどな…」

「キリトさん、まだコミュ症改善されないんですね。シリカやリズさんとは普通に会話できるのに」

「いや、シリカは妹分みたいなものだし、リズは……女って気がしない」

「キリト君失礼だよー、リズに怒られても知らないんだから」

 

 リズには内緒にしてくれ! と明日奈に頼み込む和人を眺めながら一夏と百合子は苦笑していた。

 もし今の会話をリズが聞いていれば間違いなく和人は血祭りだっただろうと予想しながら。

 

「お義兄さん、必死だね」

「そりゃ、リズさん怒ると怖いし」

「優しいと思うけど…」

「そりゃユリコはリズさんに可愛がられてるんだし当然だろ、俺とキリトさんなんて何度リズさんに追い掛け回された事か…」

 

 最も、一夏が追いかけられた理由はSAO時代、剣の打ち直しに持っていった際、毎回耐久値ギリギリまで持ってこない事にお説教され、その度に軽口叩いていたのが原因だったりする。

 

「ちょっと、良いか?」

 

 そうやって、SAO時代の思い出を交えつつ和気藹々としていた所に割り込む者が居た。

 ユリコと同じ艶のある黒髪をポニーテールにした何処か気の強そうな少女、一夏にはその少女に見覚えがある。

 

「…箒?」

「ああ、ちょっと来てくれ」

「って言ってもな…」

「ナツ君、行って来て良いよ」

「ユリコ、良いのか?」

「うん」

 

 百合子にGOサインを出されては仕方が無いと、一夏は箒と呼んだ少女と共に教室を出て行き、彼女に先導されるまま屋上に向かった。

 ただ、一つ気になったのは百合子が一夏をナツと呼び、一夏もユリコと呼んだ時、箒が百合子を殺気混じりの目で一瞬だが睨んだ事だが、気付いている筈の百合子が何も言わなかったのであれば特に問題無いと思い、これ以上は気にし無い事にする。

 

「久しぶりだな、一夏」

 

 屋上に着き、箒はそう切り出した。

 そう、一夏は箒と初対面なのではない。彼女…篠ノ之箒とは幼馴染なのだ。

 ただし、箒は6年前に引っ越してしまい、それ以降は連絡も取っていなかったので、今日が6年ぶりの再会ということになる。

 

「ああ、久しぶり。元気そうだな」

「…お前もな」

 

 先ほどまでは強気な目をしていた箒が一夏と二人っきりになった途端に何処かうろたえているような印象を受ける。

 それに、彼女表面には出していないつもりなのかもしれないが、頬が少し赤くなっている点を見るに、一夏を前にして緊張しているらしい。

 

「ところで、先ほどの女は何者だ? 随分と親しそうだったが」

「ユリコの事か? まぁ…俺の彼女だから親しくて当然だな」

「か、彼女だと!? い、いい、一夏! どういうことだ!!?」

「どういう事って、そのままの意味。ユリコは俺の恋人って事だ」

「こ、こい、びと……だと?」

 

 まるで絶望でもしたかの様に箒の顔が真っ青になった。

 だが、百合子という恋人を得ても根本的に百合子が苦労する程の超絶鈍感朴念仁の一夏はその理由に気付かない。この場に第三者(和人を除く)が居れば間違いなく理由に気付いていたであろうが。

 

「箒? 随分と顔色が悪いけど、風邪か?」

「い、いや、私はいたって健康だ……そ、そうか…恋人、か…嘘だ」

 

 後半ぶつぶつと何かを呟いているようだが、生憎一夏には聞き取れなかった。

 

「おーいナツ!」

「あれ、キリトさん?」

「そろそろ戻らないとチャイム鳴るぜ!」

「あ、判りました! 今行きます! 箒、教室戻ろうぜ? 授業に遅れちまう」

「あ、ああ……」

 

 迎えに来た和人に付いて屋上を出て行く一夏の後ろを、箒が俯きながらフラフラと歩いていく。まるで心此処にあらずと言った具合で、朴念仁兄弟は「本当に風邪じゃないのかなぁ?」などと見当違いの心配をしているが、大きなお世話だった。

 

「そういえばキリトさん、何で迎えに?」

「……あの教室に男一人残されるのは、辛い」

「……ごめんなさい」

 

 平謝りするしか無かった。

 唯でさえコミュ障に加え、仲の良い女性と言えば明日奈、百合子、リズベット、シリカ、ユリエール、ヨルコくらいしか居ない和人には、あの空間は厳しいものがあっただろう。

 そんな空間に和人を残してしまった事を、一夏は心の底から深く反省するのだった。




次回は英国お嬢様登場、一悶着あります。

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