SAO帰還者のIS
第二十六話
「閃光の戦い」
シャルロットとラウラの一件が片付き、ついにタッグマッチトーナメント当日になった。
今回の大会において、本来参加予定だった専用機持ちの数が減ったのは既に全校生徒に告知済みだ。
セシリアと鈴音は先の怪我と専用機のダメージレベルがCだったという事でドクターストップ、シャルロットは女として転入し直す為にこの日はレクト社へと赴いており、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンがドイツへ返却され、更にはISへの搭乗が禁じられている為に参加不可、簪はそもそもまだ専用機が完成していないので訓練機での参加となっている。
よって、この大会で専用機を持って参加するのは一夏と和人、明日奈、百合子、楯無、ダリル・ケイシー、フォルテ・サファイアだけだった。
勿論、この大会は学年別トーナメントなので、1年の専用機持ちは一夏たちのみ、事実上決勝がこの4人による対決であるのは火を見るより明らかなのは言うまでもないだろう。
「あ、キリトさん」
「キリト君お疲れ様ー」
一回戦を勝利で終えた一夏と明日奈の二人は丁度休憩中なのか、アリーナの休憩室でスポーツドリンクを飲んでいる和人を見つけて近寄った。
百合子の姿が無いのは、彼女がトイレに行っているからだというのは和人の言だ。
「ようアスナ、ナツ。二人も順調みたいだな」
「勿論だよ、キリト君と戦うまで負けるつもりは無いから」
「俺もですよ」
因みに、順調に勝ち進めば一夏と明日奈のペアが和人と百合子のペアと戦うことになるのは決勝戦だ。
参加ブロックが違うので、決勝戦まで激突することは無い。
「因みに俺達の次の相手が更識なんだけど、そっちは?」
「俺達の相手は箒ですね」
2回戦で和人と百合子は簪と本音のペアと戦うことになっており、一夏と明日奈は箒と鷹月静寐ペアとの試合になっている。
「んじゃ、決勝で会おうぜ」
「勿論です」
「キリト君たちも、負けないでね」
和人と別れて一夏と明日奈は整備室に向かった。
次の試合に向けて整備をして、どの試合でも万全の戦いが出来るようにしなければならない。そのため、IS操縦者にとって自分でも簡単に整備出来るようにするのは必須だ。
「ナツ君、ISのプログラム調整上手になったよねー」
「まぁ、俺は電子系専門ですし。キリトさんには劣りますけど」
和人は機械工学が得意だが、電子工学が出来ないという訳ではない。寧ろ、電子工学ですら和人は一夏よりも上なのだ。
「わたしはどうにも苦手かなぁ」
「……アスナさんのも、やっておきますね」
「うん、お願いね」
明日奈は元々、こういった専門分野の人間ではないので、仕方がないのかもしれない。
結局、一夏が白式と瞬光の調整をして、二人は2回戦を迎えるのだった。
2回戦、第3試合。この対戦カードは一夏・明日奈ペアVS箒・静寐ペアという、ある意味注目されるものだった。
方や世界最初の男性IS操縦者、方やIS開発者の妹。世界中から集まった政府関係者が注目するのも無理は無いだろう。
「一夏」
「ん?」
既にアリーナに出て対峙する4人、カウントを待っている間に箒が一夏に話しかけてきた。
「この試合、私が勝ったら……何でも私の言う事を、一つ聞いてもらう」
「聞いてもらうって……いや、別に良いけどさ」
そもそも負けるつもりは無いので、一夏としては別にこんな約束をしても構わないと思っている。
専用機を使う一夏と明日奈に対し、箒も静音も使うのは訓練機である打鉄とラファール・リヴァイヴであり、更には実戦経験の差が圧倒的過ぎるのだ。
正直、箒と静寐に勝ち目は無いというのが一夏たちだけではない、モニター越しに試合を見ているセシリア達の見解だった。
【試合、開始】
「はぁあああああああっ!!」
試合が始まり、先手必勝とばかりに箒が飛び出した。
打鉄の標準装備となっている近接戦闘用ブレード“葵”を振り上げ、上段の構えで一夏へと迫り、一気に振り下ろそうとしたところで、一夏がトワイライトフィニッシャーを素早く振り上げる事で弾き返す。
「スイッチ!」
すぐさま一夏と入れ替わるように明日奈が前に出て、一夏は静寐の方へ向かい、明日奈が既にライトエフェクトを輝かせたランベントライトの切っ先を箒へと突き出す。
放たれるソードスキルはアインクラッドにて明日奈の代名詞とも呼ばれた彼女の愛用するスキル、同じ細剣使いでも彼女に並び立つ者は居ないとまで言われた彼女が最も信頼し、最も多用してきたリニアーだ。
正に閃光の名に相応しき剣速は、ハイパーセンサーを以ってしても捉える事は適わず、一直線にランベントライトの刃が箒の心臓部分のシールドを穿ち、絶対防御を発動させた。
「グゥッ!?」
「箒ちゃんなら真っ直ぐにナツ君を狙うって思ってたよー。でも、それが仇となったね」
箒が葵を横薙ぎに振るうも、紙一重で避けた明日奈は
体制を戻しながら葵を取りに行くのに打鉄の標準装備の一つであるアサルトライフル“焔備”を乱射しながら牽制しようとする箒へ向かってもう一度
「くっ、なんという速さだっ! 動きが、捉えられない!?」
「それがわたしの持ち味、閃光の名の所以だよ」
初動の速さ、瞬発力という点で言えば恐らく瞬光は第3世代型ISの中でもトップクラスと言えるだろう。
そして、それを操るのが明日奈だという時点で、瞬光の敏捷力は世界トップクラスまで引き上げられるのだ。
「油断した……明日奈さんは、凄く穏やかというか、ふんわりとした雰囲気があるから、正直言って此処まで強いなんて、思わなかったです」
「う~ん、昔は寧ろ鬼呼ばわりされてたんだけどねー」
そう言いながら、変わらずほわんとした笑顔を浮かべる明日奈。
結城家という名家のお嬢様であり、物腰穏やかで、いつもクラスメートを少し離れた所から見守っている1組のお姉さん的存在である明日奈が、まさかここまで強いとは、箒も予想外だった。
一夏達と同じゲームをしていて、SAO生還者だという彼女だが、どうにも彼女がゲーマーだとは思えない。
箒はずっと疑問に思っていたことを、思わず口にしてしまったのも、明日奈の雰囲気が故、なのだろうか。
「どうして、明日奈さんはその……ゲームなんかに手を出したんですか? 正直、あなたはゲームをするような人には見えないし、そもそも……戦いとか、そういう事をする人には見えないです」
「わたしがゲームをする理由かぁ……そうだね、元々ゲームは興味が無かったんだけど、お兄ちゃんがね」
軽くだが明日奈がSAOへと巻き込まれることになった理由を話した。
それで納得したのか、箒も腑に落ちないという表情が無くなり、改めて目の前に立つ細剣使いと対峙する。
「正直、私は今でもあなた達の使うゲームの技を認められないです。所詮はゲーム、現実で技を磨こうとしない軟弱者のするお遊びだという認識を、改めるつもりはありません」
「……うん、それは仕方が無いのかもしれないね。わたしは無理に認めて、なんて言うつもりは無いし、それを強要しようなんてしない。ただ、わたし達の技を、わたし達が絶対の自信を持って使えばそれで良いんだから」
何とか葵を拾い上げた箒は既に戦闘不能になっていた静寐の姿を確認し、こちらの勝負に手出しするつもりが無いのか、離れた所で見ている一夏へチラリと視線を向け、再び明日奈へと戻す。
「行きます」
「うん」
葵を正眼に構え、一気に明日奈へと距離を詰めようと生き残っているブースターを吹かす箒。
そして、それに対して明日奈は右手に持つランベントライトをダラリと刃を下に下げたまま、その刀身を輝かせる。
「うぉおおおあああああ!!」
「っ!」
一瞬だった。
明日奈へと肉薄し、振り上げた葵の刃を叩き付けようとした箒は、気がつけばアリーナの地面に倒れており、シールドエネルギーが0になっている。
明日奈はといえば、いつの間にか箒の背後上空に居て、ランベントライトを腰の鞘へと収めていた。
「さっすが、アスナさんのフラッシング・ペネトレイターの速さは人外染みてるなぁ」
最後に明日奈が使ったのは細剣最上位ソードスキル、フラッシング・ペネトレイターだった。
リニアーが閃光の如き剣速のスキルであるのに対し、フラッシング・ペネトレイターは明日奈自身が文字通り閃光となり、最速の一撃を叩き込む奥義なのだ。
【篠ノ乃箒、シールドエネルギーエンプティー。勝者、織斑一夏・結城明日奈ペア】
こうして、一夏と明日奈は2回戦を突破した。
この後、二人は順調に勝ち進み、決勝戦へと挑むことになるのだった。
次回はキリトとユリコのペアVS簪・本音ペアです。
んで、その次が決勝戦で、それが終われば水着を買いにいく話を挟んでようやく臨海学校編へ突入できますねぇ。